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第49回 日の出屋製菓産業株式会社

5年前に始まった米菓輸出計画
手法は? どの国へ? 成果は?

日の出屋製菓産業の人気商品のひとつ
「しろえび紀行」(写真上)と「歌づくし」(写真下)。

 「ウチのせんべいを海外へ輸出しよう」
 日の出屋製菓産業(株)の川合声一社長(会長兼務)が、海外への販路開拓に具体的に動き出したのは今から5年前のこと。国内市場のみを対象にした経営では、いずれ行き詰まると想定してのことだった。
 その先兵として白羽の矢が立てられたのは、当時、同社東京営業所で販促を担当していた田島博之氏。「ルートセールスよりは新規開拓が得意」という根っからの営業マンだった。当時を振り返って田島マネージャーが語る。
 「その少し前から、当社で輸出業務を始める、といううわさが出始め、『ひょっとして私に辞令が出るのではないか』と思いました。そこでお取引先の高級品を扱うスーパーグループの仕入れ担当者に『御社はシンガポールにもお店をお持ちですが、当社の米菓を扱っていただくことはできないでしょうか』と打診してみました。すると、現地の店長を紹介していただき、販売していただくことが決まったのです。その知らせが届いたのは、私に富山への異動と、輸出の業務に携わる辞令が出る数日前のことでした」
 田島マネージャーが本部営業グループに着任したのは平成30年2月のこと。“シンガポールでの販売開始”は、本社への異動の手土産になったが、二の手、三の手を繰り出すのは、なかなか難しかった。

現地の商談会・展示会に多数参加

田島博之マネージャーは着任1年目から、国やJETROが
開催した海外での商談会等には積極的に参加。写真は
香港(上)、台湾(下) での商談の様子。両国の他、
ベトナムでの販促活動については当機構が支援した。

 「そこで私はJETRO富山の事務所を訪ね、米菓の海外展開についてどういう手法があるかをうかがいました。その担当者は、国やJETROが海外で展開している商談会・展示会に参加すること。富山県や新世紀産業機構、また金融機関なども同様のイベントを催しているので、それらに参加してバイヤーとコネクションを持ち、信頼関係を築くところから始めたらよいのではないかとアドバイスしてくれました」(田島マネージャー)
 ただ当時は年度末が迫り、公的な機関による商談会・展示会の開催までにはしばらく間があった。そこで田島マネージャーはJETROのホームページをくまなく閲覧したのだ。その際、各種製品を海外向けに輸出しているベンダー(商社・販社)の一覧表(農林水産物・食品 輸出協力企業リスト)を発見。その中から富山から通える範囲で、かつ米菓を扱う可能性のある企業をリストアップし、「お力添えいただけませんか」と試供品を持って訪ねたのだった。
 そして平成30年度に入って、台湾、韓国、シンガポール、ベトナム、中国、香港などで開催される商談会・展示会に積極的に参加。費用が相当かさむところから同社では当機構の「販路開拓挑戦応援事業(海外)」による支援を求め、香港、台湾、ベトナムでの販促費の一部に当てることに。同事業は2カ年に渡って販路開拓を支援したが、同社では1年目は商談会・展示会に出展しての情報収集に努め、2年目は候補企業を訪ねての商品の売り込みをしたのだった。

台北の大型商業施設アトレに設けられた
日の出屋製菓産業のポップアップストア。

 結果は・・・。
 香港、ベトナムでは販売に前向きなバイヤーの知遇を得、また後に、日の出屋製菓産業のポップアップストアを出店することになる台湾の大型商業施設の担当者とも会い、引き続き商談することを合意したのだった。
 このポップアップストアの出店は、翌令和元年8月〜9月に実現することに。台北の大型商業施設「アトレ」の催事場で、2カ月間の期間限定販売が行われることになった。
 「当社のお取引先が台湾に支社を持っており、輸出入の業務もされていました。その支社経由でアトレの催事担当者を紹介していただき、台湾での商談会の折に訪問しました。すると『2カ月間催事場を貸すから、おたくの商品を販売してみないか』と打診されたのです。販売員はスーパーのスタッフですが、お店は当社直営の販売店『ささら屋』仕様に装飾し、幾度かこきりこを舞うなどの客集めのイベントも行いました。大勢のお客様にご来店いただき、私たちが想像した何倍もの売上げを達成することができました」(田島マネージャー)
 おまけもあったようだ。ポップアップストアが期限を迎えるころになると、台北市内の小売店が、同社の米菓を販売したいと名乗りを上げてきたという。

国内でも海外のバイヤーと商談会

同社では、当機構が海外のバイヤーを招いて行っている商談会
にも積極的に参加し、高い確率で成約に至っている。(写真上/
令和元年の「海外バイヤー招へい商談会、写真下/令和4年の
「海外販路開拓商談会」)

 同社ではまた、当機構が富山県と共同で開催している海外のバイヤーを招いての商談会にも積極的に参加(「海外バイヤー招へい商談会」(令和元年、令和3年)、「海外販路開拓商談会」(令和4年))。それぞれの商談会で、アジア各国に拠点を構えるバイヤー数社に商品を紹介し、輸出の可能性を探った。
 商談会の様子を語るのは、石森くるみさん。海外展開を図る同社の若手ホープであり、田島マネージャーの相棒となりつつある女性だ。
 「令和元年の商談会では4社に当社製品を紹介し、香港のバイヤーと商談が成立しました。また令和3年には2社と商談し、シンガポールの商社と話がまとまりました。いずれの社にも1年数カ月当社商品を出荷し、今は途切れています。この間、コロナの影響で私たちも現地を訪問して販売の様子を確認することができないのですが、両社とはコンタクトは取り続けています。ただ1年あまり、スーパー等の店頭に並べて商品をPRする機会を得たことは大きく、今は再開の機会をうかがっているところです」
 ちなみに令和4年11月の商談会では、日の出屋製菓産業はタイ、マレーシア、シンガポールに販路を持つ2社に、人気商品「しろえび小判」などを紹介。いずれも商談は前向きに続けられ、現地に商品サンプルを送るなどして準備は着々と進められているという。
 ここでシンガポールでの販路開拓について付言しよう。同社では当機構が令和3年7月に実施した「シンガポールにおけるテストマーケティング及びオンライン商談会」にも参加。

令和3年7月に実施されたシンガポール
でのテストマーケティングの様子。

これはシンガポールのオフィス街にある「JAPAN RAIL CAFE」での富山の物産や観光を1カ月に渡ってPRするイベントで、同カフェはシンガポールでは日本ファンが集う場として知られたところだ。
 「このテストマーケテングの魅力は、販路開拓のほかに、現地の消費者の方々に当社で用意したアンケートにお答えいただき、率直な意見をうかがうことができたことです」と石森さんは語り、「当社の場合は、価格や、パッケージのサイズ感、テイストなどについていろいろお尋ねしました。コロナ禍で消費者に近づくことができませんので、こうした機会は本当にありがたい」と続けた。

1つの「穴」が輸出拡大に貢献

同社の人気商品「しろえび小判」の小袋。パッケージ上部の
パンチングによる穴は、富山県中小企業リバイバル補助金の
支援を受け、包装マシンの改良によって開けることができた。

 市場規模が大きいところから、日の出屋製菓産業では中国への輸出に強い関心を持ち、あるバイヤーの助言を受けて、パッケージに一工夫を凝らした。それは小袋上部の糊代部分に直径7〜8mmの穴を開けること。スーパーなど店舗面積に余裕がある商業施設では、大袋や小袋が幾つも入れられたパッケージを並べることも可能であるが、コンビニなど売り場スペースに限りがあるお店では小袋化が求められ、さらには『その小袋を吊り下げることができたらよい』、という声が中国のバイヤー経由で寄せられたのだった。
 その要望に応えるためには、パッケージのラインにパンチングの工程を追加することが必要で、同社では「富山県中小企業リバイバル補助金」(令和3年度)の採択を受けて、ラインの改良に着手。機械メーカーの協力も得て、包装マシンの性能向上を図ったのだった。
  「小さな穴を1つ開けただけですが、大きな効果がありました。穴開け以前は、複数の商品を混載して出荷していましたが、『しろえび小判』の小袋にホールパンチを施すと、中国のあるコンビニで採用され、20フィートコンテナ1本に『しろえび小判』のみを満載して出荷するようになりました。日本のコンビニやスーパーのレジの近くでも、吊り下げて商品を掲示するケースが増えていますが、孤食の文化がある国や地域では需要があるかもしれません」
 と田島マネージャーはえびす顔だ。

昨年11月11日、12日の2日間にわたって 行われた「中国向け
ライブコマースを活用した富山県産品PR事業」の様子。
1日10社、合計20社の富山県企業が参加した。日の出屋製菓
産業ではしろえび小判としろえび小判あらびき黒コショウ味を
ライブ配信して紹介した。

 また昨年11月に参加した「中国向けライブコマースを活用した富山県産品PR事業」での成果についても満足している様子。このビジネスモデルについては、このコーナーの「第46回中国向けライブコマース『富山県工芸品首播』実施」で触れているのでその記事を参照していただきたいが、簡単にいうとライブコマースとは、日本でおなじみのテレビショッピングをインターネット上で行うもの。テレビショッピングは一方通行であるが、ライブコマースではチャットの機能を活用して視聴者の商品に対する質問を随時受け付け、販売者やメーカーがそれにリアルタイムで答えて、配信中に注文を受けていくというスタイルの販売手法だ。
   ライブコマースの印象について、石森さんが語る。
 「ライブコマースについては、1年ほど前から関心を持っていました。ある商社の紹介で、台湾向けのライブコマースに参加したことがあり、その時は用意した商品を完売しました。今回は市場規模が大きい中国向けです。その案内をいただいた際には、迷うことなく参加を決めました。そして当日、当社の米菓紹介が配信されると次々ご注文をいただき、期待通りの売上を達成することができました。その後も、2度目、3度目のリピートのご注文もいただき、商品のファンづくりに役立たせていただいた次第です」

いずれはアメリカへも本格的に

同社で海外向け販路開拓の業務に、初期から携わって
きた田島博之マネージャー(写真上)と、
2年前に加わった石森くるみさん(写真下)。

 記事参照の写真などからお気づきのことと思うが、今までのところ、同社では各国の言語に対応したパッケージを用意しているわけではない。日本で流通しているパッケージをそのまま使い、成分表示や注意書き等は裏面にシールを張って対応してきた。
 こうなると不安なのは、海外での商標の問題。商談会や展示会への参加の頻度が増え、消費者から徐々に認知されるようになると、商標の模倣や登録先願の不安がよぎるようになったのだ。
 「売上げが少しずつ増えてくる中で、いくつかのお取引先から、『輸出先の国々での商標登録をした方がよい』とアドバイスをいただきました。そのたびに過去のトラブルの例などもうかがいましたので、問題が起きる前にと思っていた矢先に、海外での特許出願登録や商標出願登録を支援する制度があることの案内をいただいたのです」
 田島マネージャーがいう「支援する制度」は、当機構の「中小企業等外国出願支援事業(外国出願補助金)」のこと。その採択を令和元年度に受けた同社では、香港、台湾等において社名ロゴ等の商標登録を実施し、その保護に先手を打ったのだ。
 こうしてお二人に話をうかがってきて、気づいた。同社の輸出先の開拓ではアジアの国名が挙がるばかりで、アメリカやヨーロッパの国々は出てこない。そこで「アメリカなどへの輸出は試みないのか」と尋ねると、田島マネージャーからは以下のような答えが返ってきた。
 「アメリカにはすでに輸出していますが、その流通の開拓はお取引先の商社が行われました。当社商品が販売されているのは日本人やアジアの人々が多く暮らしている地域で、お客様のほとんどはそれらの人びとと推測されます。いずれ私たちも欧米での市場開拓に乗り出すと思いますが、欧米の方々には今のテイストでは難しいかもしれず、商品設計そのものを見直す必要があるかもしれません。欧米には大きな市場があり魅力的ですから、いずれそういうチャレンジをしてみたいと思っています」
 日の出屋製菓産業が海外の市場開拓に乗り出して、この2月で5年になる。売上に占める輸出分の比率は「1%に満たない」(田島マネージャー)というが、次期の中長期輸出計画では一桁大きい億単位の目標が設定された様子。経営陣からの期待の大きさがうかがえるところだ。

 

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[(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター]
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321  FAX 076-432-1326
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作成日  2023/01/25

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