TOP > 世界をリードするアジア経済交流 > 第42回 株式会社やぶうち商会
塗料の販売会社が、化粧品事業に進出
国内のみならずアジア・世界も目指す
やぶうち商会専務の藪内朋子さん。本文で紹介する独自の化粧品
で、「いずれは欧米の市場にもチャレンジしてみたい」と抱負を語る
やぶうち商会というと、県内では老舗の塗料販売を行う会社。その塗料販社が、化粧品の製造販売を始め、しかも海外展開を試みている。いったいなぜ?第二次大戦後の一時期、資材不足から塗料販売店が石けんなどをつくって販売していた時もあったらしいが、同社はどのような事情で? といくつものクエスチョンマークを頭に浮かべながら、その推進役を担っている専務の藪内朋子さんに、まずは事の経緯からうかがった。
「実は私が敏感肌で、市販の化粧品を使うと肌が荒れ、湿疹が出たり、アレルギー症状が現れたりしました。キッチンで手作りの石けんをつくったところ症状が治まったため、家族や友人に分けるようになりました。すると、こんなにいいものなら事業として立ち上げたらよいと勧められるようになりました。それを受けて私の父が、『小さな製造設備を正式につくって、やってみたらどうだ』と背中を押してくれたのです」
藪内専務は化粧品事業に取り組むようになった平成23(2011)年頃を振り返るが、それが専務の友人などの間で噂として広まり始めると、事業化への歯車が回り出した。
ハチミツを利用してつくった「LALAHONEY」の石けん等。
パッケージは何度もリニューアルし、デザイナーの指導を受けて
近時はこのパッケージで展開している。
ある日のこと。養蜂家の友人が訪ねてきていった。「ハチミツは滋養強壮の食品として利用されているが、昔から薬の素としても使われている。それをリップクリームやハンドクリーム、石けんに使ったらいいのではないか」と。
友人とともに試行錯誤を繰り返し、翌年には商品化にたどり着いた。地元の新聞やフリーペーパーが大々的に取り上げてくれたものの、販売は思うように進まず、事業化初期の勢いに少しかげりが感じられるようになった。
藪内専務が続けた。
「そこで富山県よろず支援拠点を訪ねて、コーディネーターにアドバイスを求めました。すると、『パッケージを工夫したらよい。化粧品は、中身がよければ売れるものではなく、パッケージも重要だ。そして県内の小売店数店においてもらう程度の営業しかしないのなら、売れない。首都圏の展示会に出展して、勝負をかけたらよい』と助言してくれました。それを社に帰って会長(当時)の父に相談すると、『その通りだ』といって、展示会出展の費用などを負担してくれたのです」
効果は絶大であった。パッケージデザインを改良して東京ビッグサイトで開催された美容関係の展示会に出展すると、多くの企業から引き合いを受け、OEM、つまり相手先ブランドによる注文が多数舞い込み、今日に至るまで追加注文を受けるようになったのだ。
「2019大連日本商品展覧会」(写真上)と香港で行われた
「Cosmoprof Asia 2019」の同社のブースの様子。
コスモプロでは2件の商談がまとまった。
ただそこでの販売では、自社名や商品名が出るわけではない。自社ブランドでの販売を目指していた専務は改めて販路開拓に挑戦することに。まずは商品のイメージアップを図るためにロゴマークをつくるなどのブランド化を試み、「LALAHONEY」の名称で石けんやシャンプーなどをラインナップ。パッケージデザインも専門のデザイナーを交えて試行錯誤を重ね、大手ショッピングサイトでの販売にも乗り出した。
さらには塗料販売先のある企業が、中国の展示会に出展した際(平成30(2018)年3月)に、コーナーの一角に「LALAHONEY」の石けんなどを置いて、どのような反応があるかのリサーチを試みるなど、次の一手を模索し始めた。
そして平成30年度には「中小企業首都圏販路開拓支援事業」の採択を受け、商社OBのマネージャーから販路開拓の指導を細かく受けたことが功を奏して、東京のアイデア商品を販売する企業に商品を卸すようになったほか、マネージャーの紹介で某商社主催の商談会に参加するように。また県内の高級ホテルの客室と売店に採用されたのを機に、全国の中小規模の高級ホテルにも営業展開したところ、九州のホテルでも扱われるようになった。
令和元年度に入り今度は、販路開拓挑戦応援事業(国外分)の支援を受けて、「2019大連日本商品展覧会」(9月)と香港で開催された化粧品や美容用品の展示会「Cosmoprof Asia 2019」(11月)に出展。香港ではOEM1件と代理店への販売契約1件を成約させ、販売の勢いが徐々につき始めたところだ。
トウキ葉シリーズの石けんやシャンプーなど(試作品)。
展示会で紹介すると、漢方薬の素材が使われているためか
極めて関心が高かったという。
一方、同社では黒部市などで多く栽培されている漢方薬(当帰芍薬散/とうきしゃくやくさん)の原料となるトウキの葉を化粧品に応用できないかと相談を受けたのを機に、商品開発に着手。当機構の「チャレンジファンド事業ものづくり研究開発支援事業」の採択(平成29(2017)年度〜30年度)を受けて、商品化に乗り出した。
「トウキには、婦人科系の諸症状を改善する効能があり、主に根を乾燥して漢方薬に利用されています。ところが、同じような成分が含まれる葉の利用は進んでいません。当社では、トウキの葉からエキスを抽出して石けんなどに用い、展示会に出展して試作品の評価についてのリサーチを開始するとともに、『トウキ葉エキス』の名称で化粧品の成分の登録も行いました」(藪内専務)
同社ではこの試作品を、中国上海浦東国際展示場で行われた「華東交易会2018」(2018年3月)や「国際化粧品展」(幕張メッセ、2019年1月)に出展。「LALAHONEY」とともに紹介すると、トウキ葉エキスを用いた化粧品(試作品)の人気はすこぶる高く、「正式な商品化はいつだ?」と問い合わせが相次いだという。
化粧品の事業化を試みてもうすぐ10年。追い風を感じつつある藪内専務が抱負を語る。
「トウキ葉シリーズの化粧品については、『LALAHONEY』の販売がもう少し本格化したら商品化を急ぐ計画ですが、中小企業基盤整備機構のマネージャーから、『国の地域資源プログラムを活用して、商品開発と販路開拓を試みたらよい』とアドバイスをいただいていますので、その線での展開も検討しています。そしてアジアだけでなく欧米にも・・・」
令和に入って2年目を迎えた今、やぶうち商会では塗料のほかにもう1つ、経営の柱を育てる糸口をつかんだようだ。
○問合せ先
[(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター]
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URL https://www.near21.jp
作成日 2020/01/30