TOP > 世界をリードするアジア経済交流 > 第44回 株式会社海津屋
氷見うどんをフランス、イタリアへ
8年越しに夢をかなえてさらに・・・
8年前から「氷見うどん」の海外展開を試みるように
なった(株)海津屋の海津憲太郎社長(写真上)。
氷見うどんの調理例(写真下、揚げうどん)。
「当社の『氷見うどん』をフレンチやイタリアンのシェフに使っていただきたい。それも本場のフランスやイタリアで。ドイツやイギリスの飲食店で使っていただくのも大歓迎です」
こういって氷見うどん拡販の意欲を見せるのは(株)海津屋の海津憲太郎社長。同社が海外の市場をうかがい始めたのは平成22年のことだ。
「取引先の銀行から、『シンガポールで日本製品の商談会を行うから、参加してみないか』と誘われたのです。ところが当社では、それまで海外で氷見うどんを販売することはツユほどにも考えたことがありませんでしたので、最初は戸惑いました。果たしてあのうどんが海外で受け入れられるのか、と。ところが現地に行ってびっくり。小さなカップにうどんと出汁を入れて試食用に配布すると、シンガポールの皆さんはおいしそうにお召し上がりになられるのです。『うどん』という日本食が自分が思っているよりも浸透していて、好まれていました。日本のうどんは徐々に知られるようになっていたのです」(海津社長)
初の海外での商談会では、取引きにつながる成果は上がらなかったのだが、「日本国外にも市場があることがわかったのが大きな成果」と海津社長が評するほど、同社にとっては大きな収穫となった。そしてその言葉を裏づけるように、同社はこの後、海外への販路開拓を目指した商談会や展示会に積極的に参加するように。まずはアジアの国々で経験を積んで、将来はヨーロッパの飲食店や食品スーパーなどでも扱われることを夢見るようになったのだ。
包装された氷見うどん(写真上)と
茹で上がったばかりの氷見うどん(写真下)。
以前、あるテレビ番組でうどんのコシを比較していたが、
氷見うどんが他の産地のうどんよりコシが強いと
評判になっていた。
翌年も金融機関の誘いを受けてシンガポールでの個人営業を行った。金融機関職員の協力も得て、食品を扱う代理店や飲食店などを訪問し、氷見うどんの特長などを社長自らPRしたのだった。
そして帰国のための飛行機まであと数時間となった時、「5つ星ホテルのレストランのシェフが会いたいといっている」と金融機関職員から携帯電話に連絡が・・・。急いで駆けつけるとシェフは「ハンドメイドの質のよいうどんを求めていた」と語り、商品説明が終わるや否や、さっそく注文を出してくれたそうだ。
ちなみに氷見うどんの製法を海津社長にうかがうと、「単に引っ張ったりする工程は機械による作業で代用するようにしているが、独特なコシを麺全体に均一に行き渡らせるためのポイントになる足踏み工程は職人の勘と経験による必要があるので人の力で行っています」とのこと。したがって氷見うどんは、いわゆる大量生産ができないのだという。5つ星ホテルのレストランのシェフは、こうしたところに氷見うどんの価値を見出したのではないだろうか。
こうして海外の市場をうかがい始めると、人手が足りなくなってきた。従来、同社では専属の営業マンを置いたことがなく、口コミと海津社長の兼務による営業に依存していたのだが、積極的に海外展開を試みるようになった平成24年には国内営業の担当者1名を新たに雇用。海津社長が海外展開に専念するようになった。そして当機構の、海外への販路開拓支援メニューを活用するようになった平成26年からは、年に数回の商談会や展示会に参加するようになった次第だ。
平成26年8月、富山県の支援を受けて出展した
「Food Expo2014香港」での同社のブースの
様子(2点とも)。海外での展示会出展の際は、
写真のように氷見うどんの試食を極力行う
ようにしている。
「販路開拓挑戦応援事業(国外)」(平成26年度)に採択された際には、タイのバンコクでの商談会と、台湾と香港にあるスーパーでの試食販売会に参加。バンコクの商談会では初参加にも関わらず、「大手スーパーの経営者の方々が氷見うどんのことを知っていて、取扱いについての話がスムーズに進みました。“これがあの氷見うどんか”という感じでした」と海津社長は振り返り、台湾・香港のスーパーでの試食販売会については「香港のスーパーでは購買意欲が感じられ、小売の棚に置かせていただけるようになり、それ以降は年に1回、試食販売のイベントを行わせていただき、氷見うどんのファン獲得に向けての営業は続けています」と付け加えた。
そして28年度には同じく「販路開拓挑戦応援事業(国外)」の採択を受けて、シンガポール、上海、香港で展示会・商談会に参加。タイでは、冷凍うどんの製造に向けての技術的な視察や製造方法の説明などを、現地の食品加工会社を訪ねて行った。
「上海での商談というのは、バスターミナルにうどん屋を出したいという相談を、知人の京都の経営者経由で持ちかけられ、お店を開く方向で準備を進めたのですが、予定していたところでは飲食店の営業許可がおりないことがわかって出店話は中断しました。またタイでの冷凍うどんの製造については、複数の現地企業の製造ラインを視察させていただき、試しにゆでたうどんを冷凍してみました。ところがいずれも、期待したように冷凍できなかったので、その話もそこで中断しました。この年の成果は、タイのバンコクのホテルで行ったメニュー提案で、シェフから当社の氷見うどんを評価していただいて、採用になったことです」と海津社長は語り、収穫があったことを安堵するように微笑んだ。
続いては令和元年度の成果だ。この年度も「販路開拓挑戦応援事業(国外)」に採択されて、台湾、香港、大連での商談会と、タイ・バンコクでのメニュー提案会に参加。香港の商談会では飲食店や高級品を扱うスーパーでの取扱いが決まった。またバンコクのメニュー提案では、現地で氷見うどんを取り扱うスーパーの協力を得て、飲食店への同行営業を実施。新規の取扱店を開拓したのであった。
令和元年に行われた海外バイヤー招へい商談会
(会場:ボルファートとやま、7月18日)。
同社は3回目の参加でフランスの企業との
取引きが始まった。
一方、同社では当機構が行っている「海外バイヤー招へい商談会」に平成29年度から連続して参加。毎年、複数の海外のバイヤーと商談を行ってきたところだ。
「海外のバイヤーとの商談で成果が出たのは、令和元年度に商談したフーデックス・グループという企業です。会場でお話して好感を得ましたので、サンプルをお送りしました。そして昨年11月に発注があり、今年の夏にも追加のご注文をいただきました。本当は今年の早々に同社をおうかがいし、どのような利用のされ方をしているのか確かめたかったのですが、このコロナの影響で・・・」
海津社長がお礼かたがたフーデックス・グルークを訪ねるのは来年以降へ持ち越されるかもしれないが、その本社所在地はフランスだという。「いずれ氷見うどんをヨーロッパに」という海津社長の夢は8年越しで実現されたのだ。海津社長は、これまでの海外向けの営業活動では様々な飲食店のシェフに会ってきた。日本と同じようにうどんとして提供しているお店がある一方で、ラーメンのスープにうどんを入れているお店、パスタのように利用されている飲食店もあるという。あるレストランのシェフからは「カルボナーラのようにして食べたら、モチモチ感があって最高」とお褒めの言葉をもらったこともあるようだ。
売上全体の中で、海外分の売上げが占める割合は「まだ微々たる量」(海津社長)のようだが、売上げの柱に育ち、「たかがうどん、されどうどん」と世界中の人に愛されるコシと味になる日は近いのかもしれない。当機構としてもそうなることを願うばかりだ。
○問合せ先
[(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター]
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321 FAX 076-432-1326
URL https://www.near21.jp
作成日 2020/11/05