TOP > 世界をリードするアジア経済交流 > 第41回 かね七株式会社
だしの素でアジアの市場を、
そして欧米も視野に。
同社の代表的なだしパックと本社工場。
富山県内では各種だしの素や昆布巻き等でおなじみのかね七株式会社。味づくり一筋に100年の歴史を刻み、県内では歴史のある企業だ。
そのかね七が、だしの素で海外に挑戦している。商社経由での海外展開は従来から行われ、アメリカやロシア、ブラジルなどのほか、中国をはじめとするアジア・東南アジアでも販売していたが、最近はかね七自らも直接、現地の代理店に接触し、販路の開拓にあたっている。
その背景には、日本での消費の縮小傾向にある。そこに人口減少が追い打ちをかけると、消費量はさらなる低迷が懸念される。こうした危機感を抱いたことがきっかけとなり海外展開へと乗り出したと同社総務部で海外展開を担当する石黒文敏氏は語る。
大連日本商品展覧会でのかね七ブースの様子。
かね七の海外展開事業は、およそ20年前の昆布巻きの海外生産から始まった。中国の企業に昆布巻きの生産を委託し、また技能実習生の受け入れも始めた。製造のノウハウを身につけた実習生の中には、帰国後、リーダーとして多くの社員を指導する立場に立った者もいるという。同企業へは、中国国内でのかね七商品の販売も委託するようになり、取引は今日まで続いている。
「この企業とは20年にわたる付き合いになりますが、1社ではあの広い中国全土をカバーすることができません。そこで新たな取引先の開拓ができないかと思っていたところに、『海外バイヤー招へい商談会』の案内をいただき、さっそく参加させていただきました。」
石黒氏がいう「海外バイヤー招へい商談会」とは、富山県が県内企業の販路開拓支援を行うため、長野県及び岐阜県と連携して行っている商談会である。中国や台湾など主にアジアからバイヤーを招き、富山県企業との商談会を開催している。かね七はその商談会に平成25年より毎年参加し、毎回複数社のバイヤーとの商談に臨んできた。
「おかげさまで平成27年、29年にマッチングいただいた中国、アメリカのバイヤーとの商談がまとまり、海外展開への足がかりをつくることができました。また富山市に本社を置き、日本と中国との間で輸出入を行っている企業の協力を得て、2017年から2年連続で大連日本商品展覧会に出展させていただいています。この展覧会は一般消費者に商品を直接PRするもので、販売もでき、よい宣伝の機会をいただいたと思います。」(石黒氏)
大連日本商品展覧会は、昨年行われたもので10回目を数え、中国国際貿易促進委員会と大連市人民政府が主催。富山県内企業の出展にはアジア経済交流センターがサポートしている。
ミャンマーへの輸出は、ソーさん夫妻との出会いがきっかけ。
昨今では大型の40フィートコンテナに満載して輸出するほどになった。
同社はまた、とやま中小企業チャレンジファンド事業(販路開拓挑戦応援事業(国外))を活用して、海外での展示会出展等を活発に実施している。この5年間で、台湾では3回、ミャンマーでは2回の展示会出展などの販促活動を行ってきた。
台湾ではFOOD TAPEI2014・同2015に出展したほか、日系デパートの台湾店での試食会に参加。サンプル出荷などにこぎ着けたものの、大きな成果には至らなかったが、ミャンマーでは確実に販路が広がり、「首都ヤンゴンの高級食材を扱うスーパーでは同社商品の棚を占めるスペースは年々増えている」(石黒氏)という。
同社のミャンマーでの展開の概要については、平成21年に、日本の大学で教員をしていたミャンマー人・ソーさんの夫人が日本のだしをとる食文化を高く評価し、日本からミャンマーへのだしの素の輸出について日本企業に協力を求めたことがきっかけとなりミャンマーでの販路開拓が始まった。
当初は文字通り暗中模索であった。海外への営業展開を上司や先輩から引継いでいる石黒氏が語る。
「もともと魚介系のだしをとる食文化のないミャンマーでしたので、ソー夫人は最初、自費で当社の顆粒だしを購入し、ミャンマーの友人や親しいお坊さんに配って、だしを使って調理することを勧めたのです。すると、料理がおいしくなると評判になり、口コミで広まり始めたのです。」
こうしてミャンマーでの販売は、草の根的に始まった。そしてのちに大学教員を辞したソーさんは、母国に帰ってかね七商品を扱う代理店を設立することを決意。首都ヤンゴンに事務所を構え、取扱店・販売店の開拓に乗り出した。
Japan Expo 2018 YANGONでのかね七ブースの様子。
ソーさんのお店のスタッフが、かね七のTシャツを着てPRする。
ミャンマーの流通網は発展途上で、また日本とは大きく事情が異なるようだ。石黒氏によると、ヤンゴンの都市部では代理店の下に取扱店や販売店のネットワークができ、スーパーなどで販売されている。しかし郊外に行くと店舗での販売はほとんどなく、売り子のような人が一軒一軒訪ね、売り歩くのだという。
「販促活動を支援するために、代理店にかね七のロゴ入りTシャツやロゴ入り宣伝カーを寄贈しました。またテレビや新聞で当社商品のCMを展開し、取扱店としてソーさん夫妻の代理店も紹介しました。それに加えてとやま中小企業チャレンジファンド事業の採択を受けて、2016年には小売店拡大のためのセールスプロモーションをヤンゴンで行い、また2018年にはJapan Expo 2018 YANGONに出展して一般消費者向けにPRを展開しました。」
その結果、個人輸入から始めたビジネスは、2016年には40フィートコンテナ(内寸約H2.3m×W2.2m×L11.6m)を使うまでに成長し、今ではそれを毎年1本送るまでになった。地場スーパー大手の「シティーマート」(24店舗)や「オレンジ」(12店舗)でも扱われるようになり、2019年には取扱店は延べ約60店まで増えたのである。
ちなみに2016年のTVCM等を含めたセールスプロモーションにより取扱店、エージェント(営業人員34人とレストラン3店)は大きく増加。今後のさらなる売上げ拡大が見込まれるところだ。 また、Japan Expo 2018 YANGON 出展の際には、ミャンマー向け新商品の嗜好調査を実施。この取り組みは、日本のあるテレビ局とミャンマーのテレビ局の共同制作である日本の魅力をミャンマーに紹介するテレビ番組の中でも紹介され、ミャンマー全土にかね七のことをPRするよい機会になったそうだ。
HACCPの取得を目指して設置された新工場に導入された粉体
殺菌装置・ソニックテラ(上)と加圧装置。
熱と物理的な力を併用する最新型の殺菌システムで、短時間に
殺菌するためだし本来の風味が増す。
同社では今後、ベトナムやシンガポール、マレーシア、タイなどの市場への進出も検討しており、さらに将来は欧米の市場への本格参入も視野に入れているという。
「欧米への輸出を本格的に行うには、食品衛生の国際基準であるHACCPに対応した生産ラインを整える必要があります。そこで工場全体のHACCP対応や合理化を早急に実現したいと考えています。また冷え込む国内市場を横目で眺めているばかりでなく、新商品を開発してお客様の掘り起こしにも努めていきます。」
このうちベトナムについては、中小企業基盤整備機構の支援を受けて2年前からテスト販売を実施。市場の反応を見ながら、ベトナムの人々にだしをとる(だしの素を使う)ことが受け入れられるかどうか試しているところだ。
また新商品の開発については、従来のリーズナブル路線から一転して、高級ブランド商品も市場に投入する予定である。その第一弾は焼魚関連の商品だ。この取材の時点ではレシピの最終調整やパッケージデザインの詰めが行われていたようで、夏前の販売開始が待たれるところだ。
○問合せ先
[(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター]
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321 FAX 076-432-1326
URL https://www.near21.jp/
作成日 2019/03/28