TOP > 世界をリードするアジア経済交流 > 第39回 タイ経済ミッション派遣
EEC地域への積極投資を行うタイ
ミッション参加者は何を見たか
タイ経済ミッションの主な日程
「せんべいをつくっている当社が、タイにどんな関心をと思われるかもしれませんが、タイは『チャイナプラスワン』としても注目を集め、日本企業がたくさん進出しているようですので、まずは自分の目で確認したいと思い、ミッションへの参加を決意しました」
当機構主催の「タイ経済ミッション」(2018年2月25日〜3月2日)に参加した日の出屋製菓産業(株)の吉村誠常務は、こう振り返る。
タイは今、中進国の罠を回避する方策を模索している。重工業化指向が強かったこれまでの産業ビジョン「タイランド3.0」から、産業の高度化、高付加価値化を図ることにより持続可能な経済成長の実現を目指す「タイランド4.0」への転換に向けて取り組むこととしている。タイ湾東部の3県(チョンブリ県、チャチュンサオ県、ラヨーン県)を東部経済回廊(EEC:Eastern Economic Corridor)地域に指定し、集中的にインフラ投資を行うことは、「タイランド4.0」を加速させるための施策の一環だ。
今回のミッション派遣は、首都バンコクに加え、EEC地域の3県のうち、チョンブリ県及びラヨーン県の工業団地やインフラ拠点などを視察し、ビジネスチャンスを探ることを目的として実施された。
バンコク・スワンナプーム国際空港に降り立ったミッション団一行は、現地合流組も合わせると総勢17名。環日本海経済交流センター長の藤野文晤が団長を務め、製造業や金融機関、会計事務所、人材開発や経営コンサルティング業など、多様な業種から参加。タイ駐在経験を有する商社OBである環日本海経済交流センターシニアアドバイザーの福井孝敏も同行してミッションをサポートした。
ミッションの活動は、北陸銀行バンコク駐在員事務所を皮切りに、タイ投資委員会(BOI)やジェトロ・バンコク事務所を訪問し、投資環境に関する情報収集を実施するところから始まった。タイは今や経済的にも発展して中進国となり、1人あたりの名目GDPは6,000ドルほどになっている。バンコクに限ればその倍程度の規模ともいわれており、中心部の街並みは東京と見間違うほどの大都会だ。
タイへの進出日系企業数は、中国、アメリカに次いで第3位。ジェトロ・バンコク事務所が実施した「タイ日系企業進出動向調査2017」によると、日系企業のタイ進出企業数は5,444社。その内訳は、製造業2,346社、非製造業2,890社、農林水産等17社、建設業150社、分類不能41社となっている。
福井孝敏シニアアドバイザーは、「タイには多くの外資系企業が進出しているばかりでなく、タイ資本の企業が育って厚い産業の層を形成しています。ですから、工業製品の原料や部品・部材のほとんどを現地調達することができ、本国から持ち込む費用や時間を節約することができます。また、陸のASEANの真ん中に位置する、タイを拠点に陸路で隣国への展開を図るにも便利な地理的条件です」とタイ投資のメリットをまとめた。
一方で、人件費の高騰により、製造業ではかつてのようなコストダウンが見込めなくなっている。また、少子高齢化の急速な進展に伴い、高度人材不足も顕在化し、今まさに「中進国の罠」に直面している。
工業団地の視察では、アマタナコーン工業団地及びヘマラート・イースタン・シーボード工業団地を訪問した。両工業団地は、30年ほど前から自動車関連の企業が多数進出していることから「東洋のデトロイト」とも称される地域に立地している。
アマタナコーン工業団地は、タイ湾東部のチョンブリ県に位置するタイトップクラスの大規模工業団地。入居企業数は600社を超え、その7割近くを日系企業が占めている。
同団地は、交通アクセスがよい。1時間圏内のバンコクから通う人も多い。タイ最大の港であるレムチャバン港にも近く、物流の面でも利便性の高い立地である。ヘマラート・イースタン・シーボード工業団地(ラヨーン県)にも近く、併せて大きな工業地帯を形成している。
ヘマラート・イースタン・シーボード工業団地はチョンブリ県に隣接するラヨーン県に位置している。アマタナコーン工業団地と同様に自動車関連の工場が多いが、一般消費財や軽工業用工場にも理想的な地理環境であるため、幅広く注目を集めている。また、輸出向け製造業者を対象に、輸入関税等の各種税制面での優遇が受けられるフリーゾーン(保税地区)を完備している。
工業団地やそこに入居する富山県企業の現地法人を視察しての感想を、ミッション参加者の(株)MONIの長井弘仁社長に聞いた。同社は留学生の支援を通じた看護師や介護福祉士などの人材開発を主な業務としている。
「今回訪問したバンコクやEEC地域の工業団地周辺では、人件費が上がり、所得の底上げも着実に進んでおり、国民が豊かさを徐々に享受できるようになってきているように思う。タイは周辺の貧しい国からの低賃金労働者の流入も多く、外国に働きに出ることにそこまで積極的ではないので、タイから留学生を受け入れ、看護や介護人材の育成を図ろうとしてもなかなかうまくいくものではないだろう」と長井社長は自らの本業の立場から評し、「しかしながらものづくりという点では、教育の充実や熟練した技術の蓄積により、先進国入りへの切符を手にしているといえるのではないか」と付言した。
レムチャバン港(上)はタイ最大の国際貨物港で主に一般貨物を
扱う。マプタプット港(下)は石油をはじめ液状貨物を主に扱う
(写真は港へのゲート)。
インフラ拠点の視察としてまず訪れたのは、タイ最大の国際貨物港のレムチャバン港である。バンコク港の混雑を緩和するために1991年に開かれた港で、コンテナ船をはじめ在来船が接岸するほか、自動車専用のターミナルも併設され、バンコクから東30kmにある内陸コンテナデポ・ラッカバンと鉄道で直接結ばれている。港からの高速道路網も整備され、各地の工業団地や貨物ターミナルとの間では、トレーラーによる陸送が頻繁に行われている。
翌日視察したマプタプット港もタイ有数の工業港で、大型貨物船が接岸できる国際港だ。レムチャバン港では一般貨物が多く取り扱われるのに対して、マプタプット港では石油や化学系の溶剤など、液状の貨物がメイン。それゆえ港の近くに立地するマプタプット工業団地などでは、化学系の工場が多いのが特徴だ。
ウタパオ国際空港は、タイ軍やアメリカ軍の基地としての利用と同時に、一部貨物便や国際チャーター便などで利用される官民両用空港だ。バンコク郊外にあるスワンナプーム国際空港(国際線ハブ)及びドンムアン国際空港(国内線ハブ)に次ぐ第三の空港として、3つの空港を結ぶ高速鉄道の敷設や空港周辺地域の開発を通じて産業の育成への寄与を目指す。
官民両用空港として拡張計画が進むウタパオ国際空港。
「タイランド4.0」の実現には、EEC地域への投資は特に重要な役割を担っており、5年間で総額430億ドルの投資が計画されている。ウタパオ国際空港の拡張には57億ドル、レムチャバン港及びマプタプット港の増強に28億ドル、高速道路の整備や鉄道の複線化などに28億ドルを投資する計画だ。
こうしたタイの現状を視察して、日の出屋製菓の吉村常務はひとつの方向性を見いだしたという。
「当社では4年前からアジアでの展開を模索しており、シンガポールや台湾での展示会に参加してせんべい等の販売促進を試みてきました。その中で、JR東日本がシンガポールに設けている情報発信拠点「JAPAN RAIL CAFE」(ジャパン・レイル・カフェ)に出品したところ、シロエビ関連商品が好評だったところから、常設のコーナーを持つに至りました。タイでも同様に、現地のお店に販売を委託するような形で、まずは足がかりをつくることができたら、と考えています」 工場の建設や直営の小売店の設置を計画するのではなく、商社や代理店等を介しての輸出から始め、取扱量を増やす工夫をしていこうというのである。
当センターでは来年度もアジア地域への経済ミッション団の派遣を予定している。現地を実際に見て肌で感じることは、ビジネスチャンス拡大の糸口をつかむ絶好の機会といえる。
○問合せ先
(公財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321 FAX 076-432-1326
URL http://www.near21.jp/
作成日 2018/03/30