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第55回 有限会社中村海産

HACCPの認証を取得して
みりん干しを世界へ、宇宙へ

魚嫌いな子どもたちも「これは食べることができる」
と人気の同社のみりん干しを手にする中村康紀社長
(写真上)と同社のみりん干しの盛り付け例(写真下)。

 「私の最終的な目標は、当社のみりん干しを宇宙食にすることです。今はその前段階として、商品開発や販路開拓に勤しんでいます」
 (有)中村海産の中村康紀社長は、冒頭から意欲満々に語り出した。
 その発言に編集子が驚き、宇宙船内の七輪でみりん干しを炙(あぶ)っている宇宙飛行士の姿を想像していると、中村社長は編集子の頭の中を見透かしたように、「今のみりん干しの形で宇宙へ持って行くのではなく、例えばペースト状にして栄養補助食品のゼリーのようなものに混ぜる、あるいはごはんと混ぜてフリーズドライにし、宇宙では若干のお湯をかけるかスチームに当てて、リゾットやおむすびとして食べるのです」と編集子の思い込みを正してきた。
 では中村社長はいかにして、“みりん干しを宇宙へ”という壮大な計画を持つようになったのか?

みりん干しの「ハズレ」を商品化

みりん干しの製造工程で出る規格外品(身が欠
けたもの)を活用して商品化した「みりふり」(写
真上)とペースト状にしたみりん干しを練り込んだ
チーズケーキの「UOGASHI」(写真下)。
「UOGASHI」は魚の生臭さが全くせず、イタリア
産のチーズに合っている。

 中村海産はみりん干しの専門店だ。ししゃものみりん干しがメインで、まいわし、しまあじ、ままかりなどのみりん干しも人気の商品。一番人気のししゃものみりん干しは、毎日600〜800kgのししゃもを原料として用いているが、仕上がりまでの工程で身が欠けたりするもの(中村海産の現場では「ハズレ」と呼ぶ)が日量5〜10kg出てくるという。
 そのハズレ。かつては廃棄していた(それも有料で)が、「もったいない」の精神から商品化して活かせないかと考案されたのが「みりふり」(みりん干しのふりかけ)であった。
 「中小企業支援センターに相談したところ、『専門家派遣事業』を活用してフードコーディネータを招いて指導を受け、商品開発に取り組んだらよい、とアドバイスを受けました。そこで招いたのが東京で活躍する方で、試行錯誤の末に食品添加物を一切使わない『みりふり』ができたのです」(中村社長)
 「みりふり」の製法が完成したのは平成30年2月のことだ。そして、その年の4月に入って同社では「地域資源活用事業」(現「とやま中小企業チャレンジファンド事業 地域資源活用事業」)の採択を受けて「みりふり」のパッケージデザインの開発に着手。デザイナーの協力を得ながら進め、翌年度からの本格販売を計画したのであった。
 ハズレの商品化を考え始めたころ、中村社長の頭にはもう1つのアイデアが浮かんだ。「日本では魚や水産加工品の消費が、年々落ち込んでいる。事業の継続を図るには、海外の市場を狙わなければいけない」と。ハズレの商品化を進めながら、みりん干しの海外展開を模索していた時、食品の輸出のためのHACCP(ハサップ:Hazard Analysis Critical Control Pointの頭文字をとった言葉。食品の安全を確保するための衛生管理の手法)の認証取得の必要性を認識し、生産ラインの改善も計画したのだった。
 中村社長が振り返る。
 「『みりふり』の量産化のためには専用の設備が必要ですし、本業のみりん干しの生産ラインのHACCP対応にも大掛かりな投資が求められます。『ここはHACCPの認証取得を優先して』と準備を進めていた矢先にコロナ禍が起き、整備や実地指導を中断せざるを得なくなったのです」
 令和5年に入って、新型コロナウイルス感染症の蔓延は収まりつつあり、人や物の流れも徐々に従前に戻ってきた。中村海産ではHACCP対応の準備を再開し、令和6年10月にその認証を取得したのだった。

海外バイヤーが関心を持ち始めた

令和6年8月に行われた「海外販路開拓商談会」
(写真上)と令和7年1月の「とやま食材レストラン
コラボフェアinジャカルタ」の現地バイヤーとの商
談の様子(写真下)。ジャカルタの商談はオンライ
ンで行われたが、現地では実際にみりん干しを炙
ってバイヤーに試食していただいた。

 先述のように、「みりふり」の量産化は先送りしたため、大がかりな販促には取り組めなくなった。結果、未利用のハズレは余ることとなり、中村社長の“もったいない虫”が再び蠢(うごめ)くことに。何かよい方策はないかと模索し、シチリア料理をつくる料理人に商品開発の協力を仰いだところ「スイーツにしたらおもしろいのではないか」と提案を受け、令和5年6月より試作を開始。ししゃものみりん干しをペーストにし、イタリア産マスカルポーネチーズなどを用いて、チーズケーキ「UOGASHI」(ウオガシ)を商品化し、令和6年10月からの販売にこぎつけた。
 また令和6年に入り、同社のHACCPの認証取得が視野に入ってきたことで、中村社長はみりん干しの海外展開を本格的に模索。海外市場を意識し始めた理由は先述の通りだが、もう1つ訳があった。
 「私の父、先代社長の代からですが、生協様を中心に取り扱いの小売店の開拓のために、2人で全国を歩いてきました。その結果、中国・四国地方、九州などの一部を除き、当社のみりん干しは販売されるようになりました。未開拓の地域には今後も営業は続けますが、全国への流通が視野に入ったら、次は海外に...という新たな目標が浮上してきたのです」(中村社長)
 そこで同氏が注目したのが、当機構の「海外販路開拓商談会」(令和6年7月)と「とやま食材レストランコラボフェア in ジャカルタ」(令和7年1月)であった。ホームページでその開催予告を見た中村社長は迷わずに申し込んだのだ。
 「海外販路開拓商談会」では5社のバイヤーと商談。うち1社とは商談を継続し、この取材までに2度の発注を受けたという。また「とやま食材レストランコラボフェア in ジャカルタ」では、現地レストランの協力の下、店内で「ジャパン・トヤマの食材フェア」と銘打って、約1カ月みりん干しのメニュー(テーブルで炙って食べる)を提供。来店客の反応を踏まえた上で、1月下旬に現地バイヤーとの商談に臨んだのであった。
 一方、同社では、JETROが海外7カ国(アメリカ、コロンビア、フランス、スペイン、インド、マレーシア、アラブ首長国連邦)のバイヤーを招聘(しょうへい)して開催した商談会(令和6年8月)にも参加。マレーシアとコロンビアのバイヤーが同社のみりん干しに興味を示し、商談継続になったそうだ。
 「コラボフェアのインドネシアのバイヤーとは、オンラインでの商談でしたが、商談しながら七輪でみりん干しを炙って試食していただきました。今後のフォローの商談にかかっていると思います。マレーシアとコロンビアのバイヤーには、工場も見学していただきHACCPの認証取得後にもう一度話をしましょうと回答をいただき、今はその準備を進めているところです」
 中村社長はそう言って、「海外市場の開拓は緒に就いたばかりですが、その次は宇宙の市場を狙うしかありません」と続け、さらに言葉を継いで取材を締めくくった。
 「HACCPはもともと、アメリカのNASA(航空宇宙局)が、宇宙飛行士の食の安全性を確保するために考案した手法です。せっかくその認証をとったのですから、宇宙飛行士にはぜひ、当社のみりん干し加工品を食べていただきたい。NASAへの販促の支援も新世紀産業機構にはお願いしたいところです」

連絡先/有限会社 中村海産
〒935-0015 氷見市伊勢大町2-13-5
TEL 0766-72-0596
FAX 0766-74-5723
URL  https://www.himi-ynk.co.jp

作成日  2025/2/26

 

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