第33回 山元醸造株式会社  TONIO Web情報マガジン 富山

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第33回 山元醸造株式会社

海外への販路開拓支援が功を奏して
みそ・しょうゆ関連商品の輸出が好調

「3~4年ほど前から、海外、特にアジアでの市場開拓の支援を受
けるようになって、急速に輸出量が増えてきた」と語る山本衛社長。

 「富山県では私は 、みそ・しょうゆをつくる企業の一経営者ですが、香港では結構知られ、『しょうゆ博士』と呼ばれるようになりました。それもこれも、当社商品の海外展開を図る中で知り合った香港の代理店とのご縁がきっかけで、そこからお付き合いの輪が広がって、香港のテレビ局の料理番組に、年に数回、出演するようになったのです」
 香港の料理番組については後ほど少し触れるとして、この一経営者とは、高岡市に本社を構える山元(やまげん)醸造の山本衛社長。安永元年(1772年)から240年余りにわたってみそ・しょうゆをつくり続けてきた老舗の8代目当主だ。
 その老舗の当主が、自社商品の海外展開を図るとは……? 平たくいうと、みそ・しょうゆを海外で販売しようというのである。
 そのきっかけは、35年ほど前に、みそ・しょうゆの販路拡大を図って、大阪へ営業に出向いたのが始まりであった。当時、輸送インフラは今日ほど整っておらず、みそ・しょうゆは地産地消に近かったのだが、「地元だけでは限界がある」と判断した同社では、東京や名古屋より足を伸ばしやすい大阪に目を向けることに。そして食品問屋を回って靴の底をすり減らしていた時、ある問屋との取引きが決まったのだ。
 「この問屋さんとの取引きが始まってしばらくして、神戸の貿易商を紹介していただきました。お話をうかがうとシンガポールに当社のみそ・しょうゆを輸出しないか、というのです。あまり大きな量ではありませんでしたが、これも何かのご縁と思って、その貿易商経由で輸出することにしました」

減り続ける国内市場、海外市場に活路を

同社商品みその一例。

 山本社長は当時の記憶を解きほぐすように語るのだが、後に分ったところではシンガポールで日本料理店を開くオーナーが、定期的にみそ・しょうゆを輸出してくれる業者を探していた様子。日本料理店が海外に出始めた頃で、みそ・しょうゆの需要といっても限られていたため、大手メーカーは小さいロットの輸出を敬遠したのではないかと推測されたという。
 こうして始まった小さな海外取引であった。小ロットのオーダーにも柔軟に対応してくれるという同社の姿勢は、後に知り合うさまざまな代理店・貿易商に好意を持って見られるようになるのだが、そこに至るにはさらに十数年の歳月を要した。山本社長が続ける。
 「シンガポールに輸出するようになりましたが、特に出荷量が増えることもなく、細々と取引きを続けてきました。そして15年ほど過ぎた頃になると、『日本食は健康によい』と注目され、日本食レストランが海外で増え始めるとともに、個人の方もみそ・しょうゆに関心を持たれるようになりました。特に、麹の食文化に興味を持たれたようです」
 この頃になると、JETROや日本の商社に誘われて海外のバイヤーと商談する機会も増え、輸出先は中国、韓国、台湾、タイなどのアジアの国々のほかにアメリカやヨーロッパにも広がり始めたそうだ。
 山本社長が、みそ・しょうゆの海外展開に力を入れ始めたのには訳がある。ご多分に漏れず、その消費量の低迷だ。インスタントみそ汁やしょうゆベースの調味料が次々開発されているとはいえ、全体としての消費量は減るばかり。しょうゆ情報センターがまとめた「しょうゆ出荷量の推移」(http://www.soysauce.or.jp)をみると、しょうゆの出荷量は1970年代にピークを迎え、80年代は若干下がって120万kl程度を維持。90年代から今日に至るまでは毎年少しずつ減り、ピーク時に比べて30%ほど減という感じだ。総務省統計局がまとめた「調味料への支出—家計調査(二人以上の世帯)結果より—」(http://www.stat.go.jp/data/kakei/tsushin/pdf/23_9.pdf)からも、みその消費減が同様にうかがわれる。
 「われわれの肌感覚では、もっと減っているように思います。かつて富山県内には100を超えるみそ・しょうゆのメーカーがありましたが、今日では40社近くまで減っていますし、“当代限りで店じまい”を予定されているところもあるようです。和食がユネスコの無形文化遺産に登録され(平成25年)、海外では注目されたものの、日本のみそ・しょうゆの消費増には結びつかなかったようです」
 こうした背景もあって山本社長はみそ・しょうゆの海外展開を積極的に図ってきたわけであるが、独力では限界があることと、従来のルートとは違ったチャネルからアジアの国々での展開にテコ入れしたいと思ったことが相まって、当機構の海外への販路開拓支援の制度を利用するようになった次第だ。

口コミ・紹介で取引先が増えた

海外バイヤー招へい商談会の様子。

 まず試みたのは、海外バイヤー招へい商談会への参加。同社の参加年度と招へいしたバイヤーの国(地域)を列挙すると以下のようになる。
・平成25年度……中国(上海、大連)、シンガポール
・平成26年度……タイ、中国(南京)
・平成27年度……タイ、シンガポール、台湾、中国(上海、武漢、香港)
 山本社長が、これらバイヤー招へい商談会や過去に参加した商社経由の商談会の経験も踏まえて語る。
 「こういう商談会に参加した場合、すぐに結果を求めがちです。こちらとしては“売る気満々”ですが、彼らには売れずに在庫を抱えたらどうしようという不安がある。彼らもリスクを負っていることを理解してあげないといけない。ですから私がこういう商談会に臨む時には、“売る気満々”の気持ちを抑えて、信頼関係を築くことを優先するようにしています。特に中国の方、あるいは華僑といわれる方々は、人脈を大事にします。極端な話、その人脈の中に加えてもらうくらいの信頼関係を結ぶことが大切なのです」 
 といって、ひとつのエピソードを紹介してくれた。それは25年度の当機構主催の商談会に参加した時のことだ。
 その時、来日していたバイヤーの中に、偶然、取引実績のある上海のバイヤーがいた。その取引きは継続中で、バイヤーとは何度も会って旧知の仲になっていて、商談会場で顔を合わせて挨拶を交わしていたところ、「友人のバイヤーを紹介してあげる」といって、一緒に来ていた中国の他のバイヤーを紹介してくれたという。そして「ウチは山元醸造と既に取引きしていて、ここのみそ・しょうゆは旨い」と勧めてくれたそうだ。
 会場ではお互いに詳しく会社のことを紹介し、取扱品目や仕切値、扱う最小ロット、支払い条件などの確認をし、その時は、それ以上の進展はなかったらしい。ところが、それから数カ月して「富山の商談会で会った○○です。御社の商品を仕入れたい……」と連絡があったという。またこのバイヤーや先述の旧知のバイヤーなどが“富山の山元醸造というみそ・しょうゆ屋から仕入れている。あそこの社長はいろいろ相談にのってくれる”というような主旨で、仲間内のバイヤーに紹介しているらしく、「○○から話を聞いたのだが……」という問い合せが頻繁に入るようになったのだ。それも1件や2件ではなく、数十件。その中から取引きが始まった例がいくつもあるという。

展示会ではみそ・しょうゆの前に富山を売る

富山県の事業として香港国際食品見本市FoodExpo2014に参加した際の、
同社展示コーナーの様子。

 同社では、販路開拓挑戦応援事業(国外)の採択を受けて、海外での展示会出展についても力を入れてきた。先と同様に出展した国(地域)を列挙すると以下のようになる。
・平成25年度……ロンドン、シンガポール
・平成26年度……シンガポール
・平成27年度……中国(上海、寧波、大連)
 海外での展示会出展に当たって同社が留意しているのは、自社の商品を売り出すことより先に、富山県の紹介をすることだという。山本社長が続けた。
 「県の観光連盟から立山連峰や雪の大谷などのポスターをいただき、それをブースに貼っています。そして“富山県にはこの3000m級の立山連峰があって、平野部にも雪が降るし、春から秋は雨で潤う。だから空気は清浄で、湿度もある。そういう環境の中で麹の力を借りて、みそやしょうゆをつくっています”という感じで話を進めていくのですが、皆さん最初のところで感動される。『富山にも雪が降るのか』と」
 山本社長の弁を借りると、中国や台湾、東南アジアの人々にとって、日本で雪の降る地域のイメージは北海道が一番で、それ以外はないに等しいという。そこで富山の雪景色の素晴らしさを紹介し、その自然の中で山元醸造のみそ・しょうゆは生まれているとPRすると、いわゆる食いつきがよいというのだ。
 ここで冒頭に触れた、山本社長が出演する香港の料理番組について紹介しよう。これは元はといえば展示会で知り合ったバイヤーとの縁で、香港の貿易商との取引きが始まったことがきっかけだ。その貿易商は、山本社長にOEMでみそ・しょうゆを提供して欲しいと提案。そして実際に取引きが始まってしばらくして「香港のテレビ局に知人がいるので、料理番組に出て、みそ・しょうゆのおいしい使い方を紹介して欲しい」と依頼してきたのだった。
 「当社商品を一生懸命に販売していただいている貿易商の顔をつぶしてはいけませんので、しぶしぶ料理番組に出るようになりました。私が調理するといっても、焦がしたり茹ですぎたりして、失敗の連続。日本でいうバラエティーみたいなもので『またちょっと失敗しました』というとテレビの前で笑いが巻き起こっているそうです。ただその後で、みそやしょうゆの使い方や健康によいウンチク等をひとつ披露します。番組本来の目的はそこにあって、香港の貿易商ブランドのみそ・しょうゆの宣伝もさりげなくするのです」(山本社長)
 テレビ局の女性アシスタントとの掛け合いがおもしろいらしく、番組はYouTubeにアップされて再生回数も多いそうだ。

最近は「わさびしょうゆ」と「蒲焼きのたれ」が人気

海外で最近人気の「わさびしょうゆ」と「蒲焼きのたれ」。
いずれも現地の食文化にアレンジして用いられているという。

 こうした地道な努力が功を奏して、かつてシンガポールにみそ・しょうゆを輸出していた時の海外の売上げ比率は、1%に遠く及ばなかったものが、日本食が注目され始めた15年ほど前から少しずつ増加。特にここ数年前からの伸びには勢いがもたらされ、今では8%を超えるほど。そのうちの8割程度がアジア向けの輸出で、残りをヨーロッパとアメリカが分けている様子。「ここ数年のアジアでの積極的な販促によって、海外の売上げ比率も、そのうちのアジアでの売上げ比率もさらに伸びる」と山本社長は見ているのだった。
 好調の陰には、先述のような信頼関係を築くための地道な努力とともに、「100ケース単位の小ロットの輸出も受け入れたのがよかったのではないか」と山本社長は振り返る。しかもその小ロットには、味のアレンジも含んでいる。例えばある商品をバイヤーに試食していただき、「辛味成分を3倍にして欲しい」とリクエストされた場合は、100ケース単位でその味に調整したものをつくるというのだ。しかも相手先が望む場合は、OEMでの出荷もいとわない。 
 「中小企業の最大のメリットは、小回りが利くということです。こちらの努力で、現地の販売店のリスクが少しでも減るのなら、協力すべきでしょう」(山本社長)
 大手メーカーでは、こうした場合は最低でも1万ケースからの対応となるのが一般的であるが、同社ではその1/100でも受け入れている。これが「山元醸造の社長はいろいろ相談にのってくれる」という評判につながり、紹介の輪が広がる大きな要因でもあったようだ。
 ちなみに海外向けの販促で、最近の人気商品を挙げて欲しいと依頼すると、「わさびしょうゆ」と「蒲焼きのたれ」と返ってきた。「わさびしょうゆ」は、ある大手しょうゆメーカーの海外担当役員が「当社でも扱いたい」というほどの逸品で、風味もさることながら、わさびの殺菌効果が注目されているのではないかと山本社長は見ている。そして「蒲焼きのたれ」の方は、文字通りに使うのではなく、例えばアメリカではバーベキュー用のソース、香港ではチキンを焼く際の調味料に使っている様子。しょうゆ風味の甘辛い味とともに、たれが持つ粘性が受け入れられているのではないか、ということだ。
 山本社長の話をうかがっていると、同社の海外の売上げ比率が10%になるのも、そう遠い将来ではないように思えてきた。

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作成日  2016/02/18

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