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第73回 もてなし蔵 和on

念願のお店を持ち集客や利益率を考えるように

常連客を増やすためにした工夫は・・・

平成28年に念願のお店を出した
瀬川剛之さん・香里さん夫妻。

 「いずれは自分たちの店を持ちたい」
 そう思いつつ、のちに「もてなし蔵 和on」の大将となる瀬川剛之(たけし)さんが、富山市内の割烹料亭などで板前の修業を積み始めたのは二十七、八年前のこと。一方、のちに女将(おかみ)となる香里さんは、富山市内のカフェの店員とクッキングスタジオの講師という二足のわらじを履いて、ともに独立の夢をあたためていたのであった。
 それがにわかに現実味を帯びてきたのは、平成28年に入った頃のこと。香里さんが勤めていたカフェのオーナーが、お店を閉じることを検討し始めたことがきっかけだった。
 「いろいろな事情が重なって、お店の継続が難しかったようです。閉店することが表面化して、“近い将来ここを辞めなければいけない”と思うようになった時、これを契機に2人でお店を持とうと話し合いました。そしてお店の候補地を探すために、不動産屋を回るなどの準備を始めたのです」
 女将はそう言って6年前を振り返る。
 その中で出合ったのが今のお店。もともとは居酒屋が営まれていた建物だったが、その数年前に店を止め、当時は総曲輪再開発の工事関係者の事務所兼休憩所として利用されていた建物。それが、その任を終えて再び空き店舗になろうかという物件であった。

女将のアイデアと大将の腕の結晶

同店の料理の一例。「宴会コース和onセット」
(写真上)と「刺身盛合せ」(写真下)。

 さっそく8月に契約し、2カ月後の平成28年10月のオープンを目指して店舗の一部を改装。居抜き物件ではあったが、大将が料理の腕を振るうには火口が小さすぎたため厨房スペースを少し拡大することに。また女将はその数年前から、近い将来の独立を想定して学んでいたFacebookでの情報発信をより実践的なものにしようと、詳しい人のアドバイスも受けながら集客のノウハウについて学んだのだった。
 「今でいうSNSは、当時はFacebookが主流でした。集客の大切さは、カフェに勤めていた時に切実な課題として肌で感じていましたので、ノウハウの習得には力が入りました。またお客様との交流が、お店の繁盛にもつながることがわかりましたので、作り置きしておいても、おいしさや出来たて感のある総菜の開発を心がけました。すべての料理を注文を受けてから調理し始めると、お店は忙しいだけで、お客様をほったらかしにしてしまうことになりかねません。そうなるとお客様はリピーターにはなってくれませんし、お店の繁盛も遠いものになってしまいます」(女将)
 かつて女将がクッキングスタジオで教えていたのは、共働きの奥さんには強い味方となる「時短料理」の数々。昔ながらの調理法で時間がかかる料理を、調理器具の使い方や調理の手順、下処理の工夫で、より短時間で可能にしようとするもの。“手抜き料理”と間違われそうだが、出来上がりは通常の料理と変わらないところから、女将は「時短料理」と言い換えてスクールの生徒に紹介してきたのだという。
 もてなし蔵 和onの料理は、女将のアイデアと大将の板前の腕の結晶のようなものだった。
 創業にあたっては、富山県商工会連合会の相談員に紹介されて当機構を訪問。当機構では、「若者・女性・シニア創業チャレンジ支援事業」(平成28年度)による創業時の備品購入費などを助成し、その門出を支援したのであった。

ファンづくりのポイント

大将と女将が厳選したおいしい日本酒の数々。
この他に同店の人気イベントの
「日本酒会」では、全国の蔵元等の協力を得て、
各地のお酒を堪能。

 Facebookによるお店の情報発信の他に、周辺の住宅地へのチラシのポスティング、グルメサイトでのお店情報の発信(有料)などが功を奏して、オープン当初からの集客は上々。税理士からは「原価率が若干高いのが気になる」とアドバイスを受けていたが、常連客が増えるに従って有料の宣伝を少なくし、口コミよるファンづくりに勤しんだ。
 ファンづくりのポイントの1つは、常連客がいつも注文する「おまかせコース」の中身を、毎回アレンジしてお出しすること。「何度来ていただいても料理を楽しんでいただけるよう、旬の素材を活かし、また調理を工夫することで酒の肴の味わいを変えました。『おまかせ』だからといって先週と同じ料理にするのではなく、私としては足を運んでいただいたお客様に喜んでもらいたい一心でした。それは今も同じです。するとお客様は『おっ、今回はあれが入っている』と目を輝かせるのです。その表情を見るのが私は好きなのです」と大将はいうが、この“おもてなしの心がたくさん詰まった蔵のような居酒屋”がお店のネーミングの元になっているという。続けて「和on」の由来について記すと、音楽の「和音」と「スイッチon」を合わせたという。人と人との和、和食と人との和、人とお酒との和。他人同士が隣り合わせでテーブルについても、このお店でスイッチonして仲良くなり、人の輪が広がっていくことを願っているのだという。
 ファンづくりのポイントには、日本酒の充実を図っていることも挙げられる。常備のお酒で充実を図るといっても限度があるが、同店では蔵元や問屋の協力を得て、例えば「男女の恋のお酒を飲む会」「山形のお酒を飲む会」などの「日本酒会」を、月に1回以上は開催。「男女の恋の・・・」では「色男」「女なかせ」「夜の帝王」などのお酒を全国の蔵元の協力を得て仕入れ、県名を冠した「日本酒会」ではその地域の問屋の協力を仰ぐとともに、例示した「山形の・・・」では、山形県の郷土料理の芋煮を用意するなどして、産地の食文化を楽しむのだという。
 この「日本酒会」は、20人ほどの定員はほぼ毎回満席。事前予約制で材料にムダも出ず、人気のイベントに育っているという。

「コロナ前より繁盛しています」

「富山県地域企業再起支援事業」のサポートを
受けて制作した同店のホームページ(写真上)。
料理や営業情報の他に、お座敷(写真下)など
も紹介し、10名程度までの団体利用が可能な
ことをPRした。

 こうして客足を順調にのばしてきた同店であったが、「泣く子と地頭」と同様、コロナには勝てなかった。新型コロナウイルス感染症が蔓延した令和2年の売り上げは半分近くに。「うちはまだよかったかもしれない」と大将がいうように、“一人飲み”のお客様で、“ぱっと来て・飲んで・食事をして・さっと帰る”という方が結構多く、そういう人々に支えられたという。
 テイクアウトに早期に取り組んだのも功を奏した。初期にはメニューのほとんどをテイクアウトできるようにしたそうだが、それでは忙しいばかりで調理やパッケージが追いつかず、“おつまみ弁当”のような定食化と、週末3日間の1日20食限定の予約制にするなどして、売れ残りのムダが発生しない工夫も凝らしたのだ。
 またこれを機にお店を紹介するホームページを開設することに。Facebookでの情報発信だけでは断片的になるきらいがあったため、基本的、全体的な案内ツールを持とうとしたのだ。その制作にあたっては「富山県地域企業再起支援事業」によるサポートを受け、令和3年1月にサイトを公開。料理に合わせて店内の様子も紹介し、10名程度までの団体客受け入れも可能なことをPRしたのだった。
 そして翌令和3年度には「富山県中小企業リバイバル補助金」の採択を受けて、店内の換気をよくするための工事と空気清浄機の取り付けを実施。また「富山県小規模企業者緊急支援補助金」による助成を活用して、集客増とその効率化を図るためにスマホのLINEアプリを活用しての常連客への営業情報の一斉配信、スマホとネットの連動による予約状況の確認など、ITの技術を積極的に導入したのであった。
 「おかげ様で今の状況は、コロナ前より繁盛している感じです。飲食店の働き方改革についてもお客様にはご理解をいただいている様子で、週に1日とっていた休日も最近は2日にし、閉店も30分繰り上げて夜の10時30分にしました。それでも売上は変わらず、営業日・営業時間を短くしているにも関わらず、逆に売上が少し伸びているのですから、お客様には感謝の言葉しかありません。飲食店の経営にはたいへんなこともありますが、お客様からいただく笑顔と『おいしかった』『楽しかった』の言葉を元気に換えて、お店を続けさせていただいています」(注:取材は令和4年6月末に実施)
 女将はこういって創業以来の6年間を締めくくり、翌日の仕込みのための手を止めた大将は「創業2〜3年目の頃までは、お店を大きくしたいという希望を持っていましたが、コロナを経験し、また経営者として利益率を考えるようになったためか、ただ大きければよいということでもないことがわかってきました。私たちもお客様に“スイッチon”され、経営について考える機会をいただいたようです」と微笑んだ。

連 絡 先 :もてなし蔵 和on

所 在 地 :〒930-0067 富山市越前町5-8

従 業 員 :2名(アルバイト含)

資 本 金 :個人創業

事   業 :和風家庭料理を中心とした居酒屋の運営

 T E L  : 090-3290-6846

作成日  2022/07/27

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