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第65回  株式会社富山ねるものコーポレーション

商品企画や工程管理、出荷方法も練り上げ
大手のかまぼこメーカーに伍して行く

県外の大手かまぼこメーカーとの競争を意識して、
品質重視の商品展開を試みる富山ねるもの
コーポレーションの麻生大輔社長。

 富山県の「明日のとやまブランド」育成対象に選ばれている細工かまぼこ。コロナ禍の3年間、冠婚葬祭が自粛気味であったため、県内のかまぼこメーカーは打撃を受けたのではないかと推測される。そのあたりの事情を(株)富山ねるものコーポレーションの麻生大輔社長にうかがうと、「魚肉練り製品の中でも、細工かまぼこを主力にしていたかまぼこ屋は、大打撃を受けました」と返し、「ウチは、細工かまぼこは主力ではなかったのでそこまでの影響は受けていませんが、消費が全体的に冷え込んだため、販売量は伸び悩みました。ただ弊社では、コロナを契機に生産工程や品ぞろえを見直し、会社の体質を変えることができたのです。ですからコロナ禍は弊社にとっては不幸中の幸いのような一面もありました」と続けた。
 その“不幸中の幸い”の中身に入る前に、富山県のかまぼこ業界と同社の概要をお伝えしよう。

選択と集中を実行

富山ねるものコーポレーションでは、地元産の魚(主に
トビウオ)を原料にしてすり身をつくり、昆布ダシ、
本みりんで味つけして昔ながらの製法でかまぼこ等を
つくっている。ちなみに同社では全国蒲鉾品評会に
商品を出品して、平成27年は「富山ブラック蒲鉾」、
同28年は「富山昆布〆ひらめ蒲鉾」、令和2年は
「こふく鯛わらべ・ねんね」で水産庁長官賞を受賞し、
平成31年には「ちびたい」で細工蒲鉾金賞を受賞した。

 麻生社長によると、「富山県のかまぼこ業界は、中小のかまぼこ屋さんが比較的品ぞろえよく、所在地の市や町を中心に市場を固めて営業している」という。例えるならば、戦国時代の群雄割拠に近い状態。ただ戦国の世ほど“領地拡張”(=隣町のスーパーでも売ろうという市場拡張)の意欲は薄く、「守りの経営を志向するところがある」(麻生社長)という。
 「それではいずれ、地場のかまぼこ屋は県外の大手に駆逐される」と危機感を抱いたのが、麻生社長だ。氏はもともとは麻善蒲鉾(有)の経営者。「中小のかまぼこ屋が経営資源を持ち寄り、大手に対抗できる商品力を持とう」とかまぼこ業界の若手の経営者に呼び掛けたところ、(有)今村蒲鉾が手を挙げた。その2社が共同出資し、平成26年3月に設立したのが富山ねるものコーポレーションだ。同社は前身の2社から魚肉練製品づくりの得意・強みを引継ぎ、逆に不得意な点はこれを機会に合理化するなどの選択と集中を実行。販売も従来のように内向きで守りの営業ではなく、“町の外”を志向するように。その際は、値段で勝負的な売り込みはせず、商品の差別化を図り「品質や商品特性で選ばれるようにした」のだった。
 麻生社長が語る。
 「最近のかまぼこ屋の多くは、冷凍もののすり身を原料にしています。そのすり身の原料の魚も、地元以外で水揚げされたものが多い。当社の魚肉練り製品の特長の第1は、トビウオを中心とした地元産の魚を、自社ですり身にして原料にしていることです。ですからまず、すり身の風味がいい。そのすり身を原料にして、昆布ダシや本みりんで味つけして昔ながらの製法でかまぼこをつくっています。化学調味料や添加物は一切用いていません。こうして手間をかけて商品の差別化を図った上で、スーパーマーケットトレードショーを中心とした展示会に出展し、新規に扱っていただける小売店を探してきたのです」
 このように販路開拓に取り組んでくると、商品の特徴によって選ばれるように。県内の隣接市の食品スーパーのほか県外のバイヤーからもオーダーされるようになり、本物志向の消費者の支持を取り付けたのだ。その結果、新会社設立からコロナ禍前(令和元年)までは、ほぼ順調に売り上げをのばしてきたのだが、未曽有のパンデミックが消費を一気に冷してしまった。

かまぼこをネットで売ろう

「スーパーマーケットトレードショー2023」に出展した
際の同社ブースの様子。この時は、食品問屋の五味
商店のコーナーの一角を借りて出展。「スーパー
マーケットトレードショーは新規開拓の確率の高い
見本市だから、ほぼ毎回出展する」と麻生社長は
語った。

 「令和2年早々に新型コロナが蔓延し、弊社では主力商品ではなかったとはいえ、細工かまぼこはほぼゼロになり、他の商品も動きが鈍くなりました。そうした中で、ある時これを機会に事業を見直そうと思ったのです。細工かまぼこは、冠婚葬祭の簡素化が進んでかつてほどの需要はなくなり、いずれなくなるのがコロナによって何年か前倒しになったと思うと、プラス思考で考えることができるようになりました。新会社設立の際、選択と集中をしてきたつもりでしたが、自分に少し甘いところがあって、多少採算が悪くても品ぞろえのために、と残してきた商品があったのですが、コロナ禍が目を覚まさせてくれました」
 麻生社長はこう言って、製造中止にした商品を指折り数えた。そしてコロナ対策の公的支援について調べていたところ、知人が営む銅器関係の企業が当機構の販促支援の制度を活用して売上増に繫がったことを聞き出し、さっそく当機構を訪問。以前から試みていたネット販売の強化を、「富山県小規模企業者緊急支援補助金」(令和3年度)の採択を受けて進めることにしたのだ。
 麻生社長が振り返った。
 「実は、ネット販売については数年前から取り組んでいたのですが、運用がうまく行っていない面がありました。受注から発注までの流れがスムーズでなく、またパソコンの扱いに不慣れなこともあって、従業員間の連携もよくないところがありました。そこで受発注の業務がスムーズに運ぶよう、この補助金を活用して専門家の指導を仰ぐとともに必要な機器の導入を図ったのです」
 結果は上々だった。自社サイトでの販売と複数の通販サイトでの販売を一元的に管理できるようにし、受注から出荷、入金まで、そして在庫管理も一目瞭然に。事務職員の誰もがそのシステムを運用できるようになり、また自宅や出張先からのリモート操作ができるようにしたため、出荷が滞ることはなくなったのだ。
 また同社では「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」(令和4年度)の採択を受けて、業務の効率化と新商品開発に着手。業務の効率化では、かまぼこ製造の工程をすべて見直し、どこに課題があるかを分析したところ、すり身をかまぼこの形に成形する工程で“目詰まり”が起きていることが判明した。同社では機械と人海戦術により、すり身をかまぼこの形に成形してきたが、人手不足の折から成形の経験の浅い従業員が多くなり、成形できる本数が少なくなっていたのだ。
 麻生社長は、「機械に任せた方がよいことは、機械に任そう」と判断し、新型の成形機を導入。生産効率は「ぐーんと上がって」、空いた手は出荷などの人手が必要な工程に回した。
 そして新商品開発では、鶏むね肉を使ったサラダチキンバーのかまぼこバージョンを模索。「サラダチキンバーは、高タンパク、低カロリー、低糖質で健康志向が高まる中で人気の商品となりましたが、それをかまぼこでできないかと思ったのです」と麻生社長は発想の原点を明かし、「その際、魚肉のタンパク質が少し多目になるようにしました」と続けた。
 その結果でき上がったのが「越中高岡伝承蒲鉾はべん・プロテインバー」だ。そのプロテインバーを、「小さな元気企業応援事業」(令和4年度)の支援を受けて出展した「スーパーマーケットトレードショー2023」で展示したのだが、麻生社長によると「バイヤーの反応はイマイチ」だったという。同社ではそれを踏まえて商品の改良を進め、令和6年の夏ごろから新たな動きを展開したいと意欲的だ。
 ちなみに同社では「スーパーマーケットトレードショー」にはほぼ毎年出展。毎回、200社近いバイヤーと名刺交換し、その中の数社と新たに取引きを開始してきたが、今回の「2023」でも数社と商談が成立し、販路拡大に結びつけた。

業務全般のデジタル化に関心

同社の製造現場の様子。明るく衛生的な工場で
かまぼこがつくられている。

 麻生社長のお話をうかがううちに、目下の関心事は業務の効率化・デジタル化と販路拡大の3つに集約されることがわかってきた。中でもデジタル化については、単に一部の業務をデジタル化するのではなく、工程全般や販売、財務など経営にまつわるすべてのデジタル化を模索し、大手のかまぼこメーカーとの競争に伍していこうという気概が感じられた。その覚悟のほどを麻生社長が語る。
 「商品の差別化を図るのはもちろん大事で、その上で、製造の効率化や品質管理、衛生管理なども従来に増して求められるようになります。今までの町のかまぼこ屋の意識を脱し、『お客様は全国にいる』というふうに視野を広げなければなりません」
 同社では高岡市の「産業スマート化事業支援補助金」(令和4年度)の採択を受けて業務のデジタル化に取り組んでいるが、その補助事業の要件の1つに「公的機関等が実施するデジタル化に関する専門家派遣事業」を活用していることがあり、それを満たすために当機構の「専門家派遣事業」(令和4年度)を活用。ITの専門家を招き、業務全体の模式化と各工程のデジタル化の達成度の評価、デジタル化未着手あるいは達成度の低い工程がある場合は、その改善策の指導を仰ぐなど、業務全般の見直しに取り組んだのだ。
 その見直しは非常に徹底したものであった。例えば、出荷後の商品の品質維持を図るために、小口宅配の事業者から冷蔵物流のシステムやより良い梱包法のレクチャーを受けるなど、「極めて有意義なものだった」(麻生社長)という。
 「大手メーカーの工場はほぼ全自動で、数人が管理する中で製造をしています。われわれ地方のメーカーは、大手と同じことはできませんが、衛生管理や品質管理を徹底し、おいしさでは大手を上回る魚肉練り製品をつくっていきたいと思っています」
 麻生社長はこう抱負を語り、取材を締めくくった。

 

 

所在地 / 高岡市二塚199-16
代表者 / 麻生 大輔
資本金 / -
従業員 / 12名
事  業 /魚肉練り製品の製造販売
T E L / 0766-63-4848
U R L / https://nerumono.co.jp

作成日  2024/2/19

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