TOP > オーダーメイドの企業支援 > 第67回 株式会社 秀正堂
一時は「廃業も頭をよぎった」が、
補助事業を活用して復活。今では…
ペットの供養などのために用いる「ボーン・シェーカー」
写真上)。これで砕いたペットの骨は「高岡こけし」(写
真下/高さ約50mm、直径約20mm)に入れて、仏壇の
近くに置くなどして供養する。
「これ、何かわかりますか?」
と言って、(株)秀正堂の中島のりみ社長が金属製の筒状のものを取り出した。高さ約135mm、直径約90mm、重さ約400g。両端は丸く成形され、素材は真鍮だという。考えあぐねている編集子に「中は空洞で、真鍮の球状のものが入れてあり、振って使います」とヒントを出してくれた。しかしながら、さっぱりわからない。
答えが出そうにないのを察して、中島社長がつぶやいた。
「ボーン・シェーカーです」
「ボーンって骨の…」と問いかけると、「そう、骨。この中にペットの骨とかを入れてシェイクして砕き、例えば当社で販売している『高岡こけし』に入れて身近に置き、供養する。親しい身内の方の骨を分骨して、近代的な小さな仏壇のそばに置いて偲んでもいいわけです」と返ってきた。
この「ボーン・シェーカー」(特許出願中)、当機構が商品化を支援した「シェーカーミル」(コーヒー豆を挽く新しい器具)から派生してできたものであるが、苦境が伝えられる高岡の銅器業界にあって、中島社長ならではのアイデア商品は“時にはホームラン”“時にはヒット”と刺激をもたらし、カンフル剤の役割を果たしているようだ。
販売専業からオリジナル商品の開発にも取り組み始めた
秀正堂3代目社長の中島のりみさん(写真上)。写真下は
中島社長が企画した「すずないきもの」。錫の板をカエル
やヤモリなどの小動物の形に切っただけのものだが、高
岡のお土産として人気の商品に。
中島社長は、秀正堂の3代目社長だ。2代目は同氏の夫で、その父親が創業者である。ご主人(2代目社長)が急逝した際(平成23年11月)には「廃業も頭をよぎった」(中島社長)というが、「会社を続けて欲しい」と従業員たちに熱望されて事業を承継。その彼らも4〜5年のうちに定年を迎えて会社を去り、ここ10年近くは中島社長が1人で会社を回してきたそうだ。
「高岡の銅器業界では、問屋が商品を企画し、分業している各工程の職人に制作の指示を出し、仕上がった商品を受け取って全国への販売に当たってきました。そうしたビジネスモデルが一般的でしたが、当社では創業者の方針で自社での商品企画はほとんど行わず、商社的に商品を仕入れて販売することをメインにしてきました」
中島社長はそういって同社の社歴の2/3ほどを総括した。
オリジナル商品を持たないことは、不良在庫を抱えなくて済むメリットがある半面、仕入れて売るだけでは利幅が薄く、営業力に陰りが見えた際はマイナス面が雪だるま式に大きくなるというデメリットもある。2代目社長の晩年には、「オリジナル商品があったらいいな」と会社の業務を手伝っていたのりみさんを商品開発の勉強会に通わせ、「いずれ時が来たら…」と新商品の上市(じょうし)に備えていたという。
「高岡銅器組合のお土産研究会に参加したりして、金属工芸品のお土産などの開発に取り組みました。その過程で、錫を加工する金属工芸作家と出会ったことに触発されて、後に『すずないきもの』と名づけた錫の板をヤモリやカエルの形に切ったものを開発したのですが、これが意外と売れるようになったのです」(中島社長)
中島社長が「すずないきもの」の開発に取り組み始めたのは、平成27年頃からだ。「板状に薄くのばした錫を、小動物の形に切っただけのもの」(中島社長)だが、「かわいい」「面白い」「珍しい」と店頭で手に取られることが多く、県内の土産物店や雑貨店で多数扱われる他、JR金沢駅のショップや全国の伝統工芸品が販売されている「青山スクエア」(東京・港区)でも扱われ、人気の商品に育ったのだった。
「富山県地域企業再起支援事業費補助金」の助成を
受けて出展した令和2年の「エンディング産業展」
(写真上)とハンドメイド商品の通販サイト「Creema」
に設けた同社のコーナー(写真中)。いずれも販促の
効果は上々だった様子。写真下は鉄器技術の継承を
目指して取り組まれたブックスタンド の開発で、秀正
堂がつくった「鉄猫2000」。1個2kgの重さがあり、ダン
ベルとしても利用できる。
こうしてオリジナル商品の開発に努めてきたのだが、令和2年からのコロナ禍により市場が冷え込み、同社でも売り上げの減少に直面。取引先の担当者より、当機構のコロナ対策補助事業の「富山県地域企業再起支援事業費補助金」(令和2年度)のことを聞き出し、その助成を受けて販路開拓に乗り出したのだ。
「再起支援事業の補助を受けて、葬儀・供養関係の機器・サービスを紹介する『エンディング産業展』に参加し、また従来のネット販売は自社のホームページ経由のみでしたが、ハンドメイドの通販サイト『Creema』(クリーマ)に出店することにしました」(中島社長)
結果は上々だった。ある寺社からは数カ月に1度のペースで前出の「高岡こけし」のオーダーをいただくようになり、別な仏具商からは小さなおりんの注文が毎年800〜1000個舞い込むように。「エンディング産業展」にはその後も、極力出展するようにしているという。また、
「Creema」への出展も時宜を得たものだった。コロナ禍により「巣ごもり需要」(在宅時間が増加する中、家で快適に過ごすことを重視して消費活動をすること)という言葉が散見されるようになったが、ネット検索を通じて同社商品のオーダーが増えるようになったのだ。
さらに秀正堂では、令和4年度には同じくコロナ対策補助事業の「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」の採択を受けて、高岡市内8社の銅器問屋と共同(秀正堂が代表企業に)で鉄製のブックスタンドを開発。8社それぞれが企画・デザインを工夫し、ブックスタンドの商品化に取り組んだ。そしてそのブックスタンドを、NY NOW(ニューヨーク・ナウ/年2回開催される、ライフスタイル・ギフト商品関連の北米最大級の展示会)にて紹介したところ、「ライオン」と「ハウス」がアメリカの図書館で採用された。
この取り組みは、高岡の鉄器技術の継承を目指して行われたものだが、ブックスタンドの企画を機に「OMOSI」(オモシ)とブランド化し、ペーパーウエイトやドアストッパーなどの重みを生かした商品開発へと水平展開するように。鉄鋳物の技法も受け継がれるようになった。
写真上は、試作中の「シェーカーミル」。素材は左から、
真鍮、鉄、アルミニウム。食品衛生や匂い、錆などの点
から最終的にはステンレス製となり、写真下のようなデ
ザインとなって販売されるようになった。
冒頭に紹介した“ボーンシェーカー事始め”は、あるお客様からの問い合わせがきっかけだった。コロナ禍中の令和4年のこと。コーヒー好きのお客様が、「特製のコーヒーミルを作ることは可能か」と秀正堂に問い合わせてきたのだ。手紙には、後の「シェーカーミル」の原案ともいえる、手描きの図面が添えられていた。その図面を見た中島社長。鋳造ではなく、金属の削り出しなら数万円程度でできるだろうと判断して、お客様の了解を得て試作品を制作(素材は真鍮)。それを依頼者に送るとたいへん喜ばれ、特製コーヒーミルの制作そのものは終了したのだが、その削り出しを行った高岡市の(株)小泉製作所の小泉俊博社長が、特製コーヒーミルのアイデアをブラッシュアップし、意匠も凝らして共同で商品化することを提案してきたのだ。
その提案を受け入れた中島社長。原案者のお客様の了解の下、当機構の令和5年度の「専門家派遣事業」を活用して、プロダクトデザインの開発に詳しいA氏を招聘(しょうへい)。素材の検討も含めて、商品としてブラッシュアップするための指導を受け、令和6年4月に最終的なデザインも決め、「シェーカーミル」と命名したのだ。
そして以降の製造販売は、小泉製作所と共同出資した(株)秀泉が行うこととし、この10月初めより販売もスタート。同月にはアジア最大級のコーヒー専門の展示会「ワールド スペシャルティー コーヒーカンファレンス アンド エキシビジョン2024」(会場:東京ビッグサイト)に出展し、本格的な宣伝活動にも乗り出した。
この過程で、「特製コーヒーミル」を「ボーン・シェーカー」に進化させることをひらめいた中島社長。その商品化は秀正堂が単独で進め、いち早く販売に乗り出したわけだ。
中島社長をキャラクター化してつくられた「のりばー」の
ロゴマーク。同社のパンフレットなどにも用いられている。
「シェーカーミル」の今後の展開について中島社長が語った。
「コーヒー豆の代わりに粒コショウと岩塩を入れて粉砕し、オリーブオイルに混ぜると、香り高いマイルドなドレッシングになりますし、ナッツ類を粗く砕いてソフトクリームやトーストにかけると、これまたおいしい。素材はステンレスですから、匂いや衛生上の問題はありませんし、錆びることもありません。他にもいろいろ使えるでしょう。『お土産研究会』に通ったおかげで、アイデアが次々に浮かんできて助かっています」
のりみさんが秀正堂の社長を引き継いで、十数年が過ぎた。同氏は、銅器業界や親しい取引先からは「のりばー」の愛称で呼ばれるように。のりばーの奮闘によって秀正堂は社勢を取り戻し、廃業の危機からも脱した。3代目・中島社長の目下(もっか)の関心事は、「シェーカーミル」の本格販売と、同社をものづくりの拠点として活用すること。会社に付属する工房では、美術系・工芸系の大学の学生やOB、また若手作家が創作活動(金属工芸に限らず)に利用するようになっているが、「もっと裾野を広げて、ものづくりに関心のある一般の方々や子どもたち、障がいのある方にも利用していただき、皆さんの交流の中で新しいものづくりのきっかけが生まれたらいいと思っています」と抱負を語り、「海外の同好の士からもNORI Barと呼ばれるようになりたい」と取材を締めくくった。
所在地/高岡市本郷1-4-1
代表者/中島 のりみ
資本金/5000万円
従業員/−
事 業/銅器・鉄器、美術品、神仏具などの販売、オリジナルな銅器・鉄器の企画・製造・販売
TEL/0766-21-8681
FAX/0766-21-8680
URL/ https://www.shuseidou.co.jp
作成日 2024/10/04