TOP > 中小企業ルネッサンス > 第62回 株式会社リバン・イシカワ
一度立ち止まって会社の実情を見る。
強いところ、弱いところを把握して・・・
「この補助金を活用すると当社の事業はこういうふう
に発展する・・・」とシナリオを描いて申請書類を作成
するという同社の石川幹人社長。
「それにしてもリーマンショックのインパクトは大きかったですね。航空機業界へのルートができて、ある企業に治工具を納入することができるようになり、生産効率を上げるために5軸の大型マシニングセンターを予約した矢先の激震でした。マシニングセンターの予約はキャンセルし、建てたばかりの第2工場では閑古鳥が鳴いていました」
リーマンショックとはご承知のように、平成20(2008)年9月、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻を機に、世界的な金融危機と不況に発展した経済現象のこと。「うちでは月の売上げが9割減になった時もあり、この先どうすると、当時、社長であった私の父と話し合ったものです」と(株)リバン・イシカワの現社長・石川幹人氏は続けた。激震時、専務であった石川社長は世界同時不況をこう振り返るが、同社ではその数年前から全国の市場をうかがい始めるなど少しずつ営業エリアを広げつつあった時だけに、リーマン不況で萎縮しないよう努めたという。
同社の工場で働く社員の様子。近年は「工作機械を
扱いたい」という女性も増えつつあるという。
リバン・イシカワは、石川社長の祖父が興した(有)石川鉄工所(創業昭和45年)の流れを汲む。電気通信機器のプレス部品の製作やプレス加工を主な業務とし、時には町内会に頼まれてブランコなどの遊具もつくったという。
転機は平成3年頃に訪れた。プレス部品の生産は順調であったが、「競合が多くなり、いずれ受注にも陰りが見えてくる。同じ金属加工でもより高度なノウハウが必要な金型製作にシフトし、経営の安定を図るべきでは…」と2代目社長(現会長、石川社長の父親)が方向転換を模索。当時、富山県内では珍しい高性能なワイヤーカット放電加工機を導入したのであった。
「放電加工機を設置すると、噂を聞きつけて賃加工を依頼してくる企業が増え、金型製作のオーダーも入るようになりました。機械に仕事がついてきたのです。当時はまだ町工場程度の事業所でしたが、社長を引き継いだ私の父が、マシニングセンターやフライス盤も導入し、事業を拡大することを試みたのです」(石川社長)
それを機に同社では工場を新築して移転。また「リバン・イシカワ」と社名を変えて、株式会社に改組したのだ。「リバン」は造語で、続く「イシカワ」に弾みをもたらすような語感があるところから、事業にも勢いをもたらせたいと願って命名され、プラスチック金型の製作を事業の柱にするように経営の舵を切ったようだ。
後に再び転機が訪れた。同社が受注したプラスチック金型の多くは家電製品用であったが、家電メーカーは生産拠点を海外に移すようになり、それに合わせて金型も海外でつくられるように。その穴を埋めようと同社では、東海地域の一大工業地帯を視野に入れ、平成18年より販路拡大の営業を始めたのだ。
昭和47年に始まった東海北陸自動車道の建設は、平成17年には東海環状自動車道と接続し、平成20年の全線開通を目指して最後の工事(飛騨清見-白川郷間)に拍車がかかっていた。福光IC近くに本社工場を構える同社にとっては、車で3時間先に巨大なマーケットができることになり、それを見越しての販路開拓だったわけだ。
「東海地域での営業活動を視野に入れて5軸のマシニングセンターを導入し、ダイカスト金型製作のノウハウを蓄積していきました。ちょうどその頃、航空機産業参入の足がかりを得、大型のマシニングセンターの導入を図っていたところにリーマンショックが起きたのです」
石川社長は無念さをにじませながら当時を回想したが、転んでもただ起き上がるだけではなかった。続けて、「リーマンショックからの回復を図って、国や県の産業支援が充実したように思います。それでこの際だから支援を受けて、従来にも増して製造ラインの充実と販路開拓を図るとともに、人材育成や商品開発などにも積極的に取り組むことにしたのです」と語った。
同社の金型製品の一例。自動車関係のダイカスト
金型部品(写真上)とシリンダーヘッド用金型部品
(写真下)
手始めに、「もの補助」(経済産業省)の略称で親しまれる補助金(正式名「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)を活用して、各種工作機械の上位機・新型機を導入。加工精度の向上や加工時間の短縮を図った。申請の際には、「あの工作機械を入れて、この分野のものづくりのスキルを上げ、社業をこういうふうに発展させる」と明確なビジョンを描いたところ、平成24・26・27・29年度と令和元年度に採択となり、従業員からは「うちの社長、最近いろいろ機械を入れるなあ」と驚きの目で見られるようになったという。
また令和2年度の「中小企業等事業再構築補助金」(経済産業省)を活用して、仕上げ工程の全自動化に着手。工作機械の工具の自動交換はもちろんのこと、加工が終了するとロボットが動いてそれを外し、次の材料をセットして再び工作機械が加工を始めるというワークチェンジャーの導入を図り、夜間や休日も機械を稼働させることを目指したのだ。
高性能・高効率な工作機械の導入を進めると、それに見合った仕事の確保が必要になる。そこで同社では新規顧客を開拓するために、当機構が東京・大阪・名古屋等で開催している「広域商談会」に、平成24年よりほぼ毎年参加。その他、「機械要素技術展」や「インターモールド展」などの一般的なビジネスショーにも独自に出展し、顧客開拓に勤しんだのであった。
写真上は「地域資源ファンド事業」の支援を受けて
つくった微細加工品のサンプル(城端曳山)。
写真下は「ものづくり研究開発事業」により進めた
リバースエンジニアリングによる図面復元例の1つ。
手前の金の龍を3Dスキャナーで読み取り設計図を
つくり、その設計図をもとに後ろの銀の龍を製作
した。これを金型の復元で実行している。
石川社長が2つの商談会を比較して語る。 「機械要素技術展などは、全国から不特定多数のものづくり関連の企業の方がお見えになり、広範囲に出会いの場を得ることができます。一方の広域商談会は、『今度、富山からこういう技術を持つ企業の方が来ます。一度その技術を見てみませんか』と機構の担当者が、大都市圏のものづくり企業に声をかけて参加企業を募集しているのですが、来場者の目的意識がはっきりしているため、一般のビジネスショーに比べて成約に至る確率は高いようで、当社ではその機会に恵まれてきました」
ホームページのリニューアルにも取り組んだ。従来のその制作は、地元の企業に依頼したものであったが、令和2年度の「サービス等生産性向上IT導入支援事業補助金」(経済産業省)の採択を受けた際には、製造業の業界に詳しいホームページ制作会社に依頼したところ、閲覧数が格段に増えて社のイメージアップに寄与できたほか、将来的には受注に結びつくのではないかと期待を寄せていた。
同社ではまた、当機構の「地域資源ファンド事業」(平成27年度)、「ものづくり研究開発事業」(平成29年度)の採択を受けて、微細加工による工芸品の開発や図面がない金型の設計図をリバースエンジニアリングにより復元することにチャレンジ。リバースエンジニアリングには、県の産業技術研究開発センターの3Dスキャナーを借りて事業化の可否を探ったのだが、研究開発を通してその事業化に手応えを感じたため、後に3Dスキャナーを導入したのだった。
人材開発にも積極的に取り組んだ。最新鋭の工作機械を導入しても、それを使いこなすエンジニアがいないことには話にならない。同社では「ものづくり人材育成事業」(平成27〜28年度)、「ものづくり人材等正社員育成支援事業」(平成29〜30年度)、「高度ものづくり人材正社員確保支援事業」(平成29〜30年度)を活用し、初期の人件費の助成を受けながら、高度な技術を持つ人材確保に乗り出した。すると、各事業で1名ずつのエンジニアの採用に至り、うち1名は現在、課長職を務めて若手を指導するようになったという。
同社の工場の様子。写真下の大型ディスプレーは
「富山県中小企業リバイバル補助金」の支援を受け
て作成した各工作機械の稼働状況を見える化した
もの。事務所でも見ることができる。
コロナ禍も同社に大きなダメージをもたらした。「リーマンショックほどではなかった」と石川社長は振り返るが、売上げは2/3程度までに減少。それに対応するために、当機構がコロナ対策で実施した助成事業を活用したのだった。
その第1弾では「富山県地域企業再起支援事業」(令和2年度)の採択を受けて、IoTに対応したワイヤーカット放電加工機を導入した。上位機を導入したことにより加工精度が上がったことはもちろんのこと、稼働状況が工場の外からでも把握することが可能に。加工中に何か問題が発生した場合は、メールで連絡がくるシステムになっているため、生産性も極めて向上したという。
翌年度は「富山県中小企業リバイバル補助金」を活用して、マシニングセンター等の稼働状況の見える化に着手。事務所や社外からも機械の状況を把握することができるため、こちらも生産性向上をもたらしたようだ。続く令和4年度は「富山県中小企業ビヨンドコロナ補助金」の支援を受けて、先述のワークチェンジャーに対応するCAD、CAMの導入を推進。無人加工をより安定的に行えるようにしたのだ。
そして令和5年度には同じくビヨンドコロナ補助金の採択を受けて、第二工場の屋根に太陽光発電装置を設置。精密加工の工程では、工作機械を24時間空調管理(温度、湿度)された環境に置き、熱等により加工精度が影響を受けないようにしているのだが、その電源にグリーン電力を用い、時代が求めるカーボンニュートラル推進に応えようとしたのだ。
* * *
補助金、助成事業の申請の際には、進めようとする事業や期待される成果などの書類を整え、事業完了時には報告書の作成が求められる。石川社長は、これら書類作成の一部を外部のコンサルタントの協力を仰いでいるが、基本的には自身でまとめているという。
「面倒ではないですか」と尋ねると、以下のような答えが返ってきた。
「補助金や助成事業を活用する時、私は一度立ち止まって会社の実情を見るようにしています。その過程で頭の中を整理し、会社の中の強いところ、弱いところを把握します。強いところはより強く、弱いところは補強する・・・そういう視点で事業を見つめ直すと、今後のシナリオが見えてくるので、書類作成は“頭の体操”でもあるのです」
金型製作は、新製品が次々と市場に送り込まれる時には盛んに行われる。その意味では金型業界は今、“冬の時代”のただ中に。そこをいかに生き延びるかを、頭の体操を通して石川社長は模索しているようだ。
連絡先/株式会社リバン・イシカワ
〒939-1846南砺市国広62
TEL 0763-62-1783
FAX 0763-62-2502
URL https://www.riban.co.jp
作成日 2024/06/28