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とやま産学官金交流会2016

ものづくり富山の未来に向けて

IoT、ビッグデータ、人工知能などの第4次産業革命の進展は、ものづくりのあり方に大きな変革を与えようとしています。これは生産性向上などにつながる重要な仕組みであり、富山のものづくりも、この時代の潮流に乗り遅れてはいけないでしょう。一方で、一億総活躍社会の実現に向けた取り組みが国を挙げて進められており、特に、女性の輝く社会づくりが重要とされています。富山のものづくりにおいても、女性のさらなる活躍が不可欠です。本年度の産学官金交流会はこうした社会情勢に富山の産学官金がしっかりと連携して対応し、富山のものづくりがさらに発展を遂げることを目的に開催されました。基調講演では、コマツ(小松製作所)の野路國夫会長をお迎えし、いち早く構造改革に取り組まれた「コマツのモノづくり」についてお話いただきました。その概要を紹介します。

「コマツのモノづくり」

株式会社小松製作所 取締役会長 野路 國夫 氏

 皆様こんにちは。コマツの野路でございます。われわれコマツは富山県とはご縁がありまして、3代目社長の河合良成は富山県出身で、コマツ中興の祖と言われております。私の社長時代に、石井知事から河合が北アルプスに登った時の写真をいただきました。南砺市には、工作機械のコマツNTCがあり、また氷見市には鋳造工場のKCX(コマツキャステックス)があり、従業員のほとんどは地元の人です。コマツNTCの技術者のほとんどは富山大学などの富山県内の高等教育機関を卒業した方です。
 今日は「コマツのモノづくり」と題し、皆さんに少しでもお役に立てればと思ってお話します。経営方針やモノづくりの考え方、また近年よくいわれる第四次産業革命などについてもお話ししたいと思います。当社も、まだ始めたばかりですが、どんな改革や活動をしているかを紹介していきたいと思います。会場には大学関係の方もおられると伺っていますので、コマツのオープンイノベーションや大学との共同研究などについてもお話しします。そして最後に、コマツが石川県で取り組んでいる農業について、そのさわりをご紹介します。
 まずはコマツの歴史からです。1964年にキャタピラーが日本に進出してきました。この時、建設機械は自由化の波にさらされました。1980年には売上げの6割が海外でした。キャタピラーの日本進出は、いわゆる外圧です。ところがわれわれの先輩はいろんな外圧に対抗して、成長してきました。
 為替の観点から申し上げますと、1985年にプラザ合意があり、しばらくして急に円高になりました。その数年前にレーガンが大統領に就任し、さまざまな施策を実施し円高になったのです。今度アメリカで大統領が代わります。ここ数年は円安で、われわれにとってはフォローの風が吹いています。数年先にはどうなっているかわかりません。ここ20年ほどは、大体110円プラスマイナス10円です。ほとんど変わっていません。つまるところ日本は成長していないわけです。 
 コマツという会社は、品質一本槍でここまできたといっても過言ではありません。品質を非常に大事にしています。そこにはTQM(Total Quality Management/総合的品質管理)が大きく寄与していると思います。手前ミソですが、TQMを進めたおかげでコマツでは人材が育ったのだと思います。
 皆さんA3文化をご存じでしょうか。トヨタさんをはじめTQMに熱心な会社は皆やっています。企画書などの書類をつくる時は、物事を整理して起承転結でつくります。ところがこれは、大学や高校で教えてもらうわけではなく、勤め始めてからOn-the-Job Trainingで勉強します。内容を整理してA3一枚の中に起承転結のストーリーをつくり、人前でプレゼンテーションすることを繰り返す中で学んできました。これがA3文化です。しかしながら最近はA4が主流になって、いろんなデータをたくさん並べていて、話を聞いている時は「いいこといっているな」と思っても、後で聞き直すとデータを並べているだけで、結果として何を言いたかったのか全然わからないことがあります。今一度A3文化を見直したらいいのではと思います。

営業利益率が13%に

 次に、コマツの構造改革についてお話しします。売上げは今世紀初めに1兆円だったものが、今では2兆円に成長しました。新興国が経済発展したおかげです。この間の営業利益率は3%から13%前後に改善しました。どうしてそんなに上手くいったのかと言うと、売上げは倍増しても固定費は横ばいなのです。これには当社なりの仕掛けというか取り組みがありました。
 コマツではコスト低減を進めるためにSVMによる管理を徹底しています。SVMすなわちStandard Variable Margin、日本語でいうところの粗利に近い概念です。そこでまず、原価を固定費と変動費で分けて低減を図ります。固定費と変動費では、改善のためのアプローチがまったく違います。日本の多くの企業では利益率で判断しますが、欧米の企業は違います。
 例えば私が社長をしていた時、中国での利益率は4割くらいありました。こんなに利益率が良かったら、日本では普通「販売価格を上げろ」とは言わないでしょう。「儲かっているからどんどん売れ」です。しかし私は、世界の販売価格の動向から見て中国の売価は低いと判断し、上げさせました。日本では利益率が10%もあると、固定費を増やしてよいと判断しがちです。また売上げが増えたら固定費が増えるのは当然と考える企業が多いようです。ところが欧米の企業は売上げが増えても固定費を増やさない努力をしており、当社でもそれを徹底しました。
 改革のもう1点は、今も少し話がでましたが販売価格を上げたことです。日本のメーカーは、日本のマーケットで、いわゆるマザーマーケットで利益を出している企業が非常に少ないです。家電メーカーも自動車メーカーも日本国内ではほとんど儲かっていません。しかしながらアメリカのマーケットでは利益が出ていいます。こんな国に、外資系企業の誘致を図っても、なかなか進出してこないと思います。日本の自動車市場は、95%は日系企業で固めていますが、日本よりはアメリカで利益を上げています。アメリカの景気がよいと日本の自動車会社は非常に儲かりますが、アメリカの景気が悪くなると利益がどんと悪くなるというのが日本の自動車産業です。
 私は決して日本の自動車産業の悪口を言うつもりはありませんが、自動車メーカーが販売価格を上げないことが問題だと思っています。私はコマツの社長を務めた6年間で販売価格を12%上げました。売価を上げてもシェアはそんなに変わらないものです。しかし、営業は皆言いました。「社長、売価を上げたら、シェアが落ちるよ」と。でも私は、「儲からない商売の仕方をしてもしようがない。当社はトップメーカーだ。トップメーカーの責任で売価を上げないといけない」といって上げさせました。
 構造改革の3つ目はパッケージシステムの導入です。自前主義を捨てました。パッケージを入れようとすると、現場からは「こんなものやっておれない」「これを入れると、あれができない、これができない」と猛反対が起こります。でもその時に、「この既製服に合わせるのだ」と断固貫きました。要するに基幹システムは、正直に、速く、素直なデータが出ればよいのであり、そこは競争力の源泉でも何もないわけです。例えば経理のデータは、正直に、速く、素直なデータがトップに届けばいいのですから、パッケージを入れた方がよいのです。抵抗はたくさんありましたが、「この既製服に合わせろ」と、いろんなパッケージを導入しました。

建設機械の市場動向は景気の先行指標

 ただその時に、テクニック的には難しい問題があるわけです。特に生産管理を統一するのは難しく、生産BOM(Bill of Materials)を作るのは困難を極めました。ここが非常に時間がかかるわけです。しかしここを乗り越えたからこそ、われわれコマツは、世界のどの工場からでも、どの国に向けても製品を出せるわけです。以前でしたら大阪の工場から石川の工場に、あるモデルの生産を移管したいといったら、準備に1年半はかかりました。ところが今は1カ月もかからず、最近では20日ほどで移管できるようになっています。コマツの工場には、ものすごいフレキシブル性があるのです。ですからグローバル調達も簡単にできます。2011年のタイの洪水については皆さんまだ覚えておられると思いますが、あの時、コマツのタイのサプライヤーが被災しました。そこでどうしたかというと1週間後に中国のサプライヤーから部品を調達することにしたのです。会場の皆さんは、そんなことは簡単にできるだろうと思われるかもしれませんが、生産管理システムを統一し、グローバル設計しているからこそ、急に調達先を別の国のサプライヤーに変えることができるのです。
 少し横道にそれますが、日本のソフトウエア産業はたいへん苦労しています。一部のソフトウエア企業はブラック企業とまで言われています。それはパッケージを使わない企業が多いからです。お客さんごとにソフトを作っているのです。日本では、金融機関ごとにシステムが違いますね。自治体もそうです。こんな国あまりないです。パッケージでよいところはパッケージに任せ、差別化するところは独自のソフトを作る。そうでないからソフトウエア産業の人たちは疲弊し、クリエイティブな仕事、創造的な仕事ができないのです。また、売上げは立っても、なかなか利益が出ないのです。
 建設機械の市場動向は景気の先行指標と言われています。キャタピラーの売上げが悪くなると、アメリカの景気は1〜2年後に悪くなります。建機の市場は、1970年代、80年代、90年代は、日米欧が中心でした。ところが2002年頃からは、中国が一気に成長し始めました。このトレンドはまだ続くと思います。中国のインフラは、未整備なところがたくさんあります。中国では今、大体10万台の当社の建機が動いています。日本では20万台以上です。でも中国での稼働時間は倍以上で、インフラ整備に追われています。インドネシアやタイも活発にインフラ整備をしています。中国が少しカゼをひくと、アジアの国々の中に咳き込む国が出るという状況になってきました。先般、中国が石炭を減産しました。これは鉄をつくる時に必要な石炭でクッキングコールといいますが、今は3倍の高値をつけています。昨今の中国は世界の資源の6割くらいを使うと言われていますが、中国がちょっと動くだけで資源価格は大きく変化します。
 建設機械や鉱山機械には様々な機械がありますが、コマツが世界シェアNo.1をとっているものは51%あります。その他の産業機械では49%です。シェアNo.1、No.2を合わせると、建設機械・鉱山機械の分野では88%になり、その他産業機械では84%になります。2位でもいいではないかと思われるかもしれませんが、そうではありません。2位ではプライスリーダーになれません。全ての商品で1位になれなくてもよいのですが、万年2位では会社の体質そのものに覇気がなくなります。また1位になるということは、真似をする対象がないわけですから、技術革新は自分たちでしていかなければならず、1位になるということはその先も開拓し続けていくということになるのです。

日本企業は技術の擦り合せが得意

 次にグローバル経営方針についてお話しします。われわれがこれを作ったのは、ブレない経営をするためです。社長が替わっても、これだけは変えないで欲しいという経営の方針です。社長が替わるたびに方針が変わったら社員もたいへんでしょう。
 そこで、どんな方針を掲げているのかと言いますと、開発については「キーコンポーネントは国内中心で自社開発(擦り合せ技術)」「オープンイノベーション/パートナーシップ」「開発と生産同一場所」の3つです。
 キーコンポーネントというのはエンジンや油圧機器、モーターなどです。これは国内の工場から出さず、国内で開発を続けなさい、ということです。ただそこで開発部門には厳しい条件をつけてあります。例えばこの20年のエンジンのデータをとりますと、20年間で重量が半分になっています。でも馬力は同じです。ということは原価が半分だということです。そうしなさいと厳しく言ってあるのです。
 ではなぜ日本でこれをやるのか、アメリカはダメなのか、他の国ではダメなのかと言いますと、実は日本ほどわれわれに協力してくれる専門パートナーが豊富な国は無いのです。例えばエンジンをつくる際、ピストンリング、シールリングなどを作ります。ピストンは当社では鋳造でつくりますが、高い鋳造技術を持ったピストン屋がいるのです。エンジン1個つくるのに、50〜60のパートナーと手を組み、開発・生産しているわけです。これだけの擦り合せの技術を持っているのは日本やドイツくらいです。アメリカのものづくり企業はここが弱くてどんどん衰退してきている半面、ICTやAI産業が伸びているのです。
 日本はここに強みを持っているのは間違いないです。工作機械などもそうです。北陸には技術の光る工作機械メーカーがたくさんありますが、工作機械は技術を擦り合せて作る代表例で、こういうアナログ的な部分は日本は当分の間、強さを発揮すると思います。
 次に「オープンイノベーション/パートナーシップ」についてです。自社のコア技術ではない、あるいはパートナーと擦り合せる技術を持っていない部分、例えばICTやIoT、AIについては、コマツは何も技術を持っていません。日本にもほとんどないといってもいいでしょう。AIなどはほとんどアメリカ、イスラエル、ドイツです。
 われわれの身近な例でお話ししましょう。例えば未開の山に道路を作るとします。その際、ドローンを飛ばして地形のデータをとります。以前はレーザーを使っていましたが、それでは遅いというのでドローンになりました。当社では今、アメリカのシリコンバレーのベンチャー企業とタイアップして、ドローンにカメラを載せて自動的に山の写真を撮っています。その画像データを元に地形データを作ります。当初はこれを日本のベンチャー企業と一緒にやっていましたが、データの整理に1週間以上かかっていました。ところがアメリカのベンチャー企業は違いました。上空から写すと木や自動車があるのですが、それらを削除して欲しいというと、彼らはすぐに削除し地面のデータだけを出してくれるのです。なぜそんなに速いのかと聞くと、「まわりによいパートナーがたくさんいる」と答えてくれました。画像解析はいわゆる数学の世界です。大学の数学科を卒業した学生がシステムづくりの業界にすごく多く、20年ほど前に金融機関がシステムづくりのために数学科を出た学生を積極的に採用したことが始まりだと教えてくれました。
 そこである時、東大の総長とお話しする機会があり、なぜ日本では数学科の学生は少ないのかとお尋ねしたら、「野路さん、日本では数学科を出ても就職先が少ないのです」と答えが返ってきました。よくよく話を伺ってみると、民間企業は数学科卒の学生を採用しようという意欲が低いのだそうです。金融機関をはじめ、多くの企業でシステム開発の必要性が迫られた時も、日本では数学科卒の学生を積極的に採用するという動きにはならなかったのです。そういう背景があったため、日本のベンチャー企業といえども、数学を生かした画像解析の技術が発達しなかったのです。

無人ダンプになるとビジネスモデルが変わる

 3つ目は「開発と生産同一場所」です。皆さんこれは単純なことだと思われるでしょうが、当社でも一緒にやったり分離したりしてこの結論に至りました。開発と生産を離すと、ろくなことがありません。ですからコマツでは工場のあるところには設計者がいます。また先ほど例えで出したように、大阪の工場から石川の工場に生産を移した場合、開発の設計者は転勤になります。全社的にこれをやっていますから、コマツでは当たり前になっています。ところがアメリカでは、こんなことはあり得ません。アメリカでは開発の技術者は生産技術者より地位が上で、給料も高いのです。生産現場での問題を解決するために、開発上での設計図の変更を求めても、アメリカでは開発技術者は耳を貸さないのが通例です。
 例えば作業者の不注意で、配線に接続ミスがあったとします。作業者を教育するのはもちろんですが、そもそも接続ミスが起きないような設計にしたらよいわけです。アメリカでは、生産技術者から上がってきたこういう意見を開発技術者は無視してしまいます。でもわれわれはそれは間違っていると判断し、そもそもミスが起きない図面に変更していきます。そのために開発と生産を同一場所にしているのです。
 これが積み重なると、どの工場でつくった建設機械も品質は同じになります。自動車メーカーでも同じようになっています。当社では同じモデルの建機を、世界7つの工場で作っていますが、どれも品質は同じです。ミスを無くすために従業員教育を一生懸命にやるのもいいのですが、ミスが起きない設計にすることも大切です。トヨタさんなどはその代表例です。TQMを熱心に行っている企業は皆その傾向があり、これは日本の強みでもあるわけです。ですからそれは、社長が交代しても受け継いでいかなければならないということです。
 開発の中身については、「ダントツ商品」「ダントツサービス」「ダントツソリューション」の言葉に集約されています。他社の追随を許さない、ダントツなものを提供していく。KOMTRAX(コムトラックス)については、私の前任の坂根正弘社長が今まで何回も講演したりしているのでご承知の方も多いと思います。当社が販売した建設機械にはすべてGPSがついていて、稼働の状況や燃料をどれだけ使ったかなどが全てわかるようになっています。そこに最近、自動運転のソリューションを加えるようになりました。北陸本線小松駅の前にあるダンプトラック、自重が270〜280tで積載量が約300t、満載で570〜580tになります。これを鉱山の開発現場などで無人で運行するのです。その集中管理はコマツがやります。
 自動運転にするとビジネスモデルも変わってきます。同じところを走るため、外見はレールの上を走っているように見えます。しかしその結果、タイヤの使用期間が2倍に伸びました。これは実際に運行してわかったことです。このタイヤ1本いくらすると思いますか? 500万円です。1台に6本ついていますのでタイヤ代だけで3000万円です。車体本体は3〜4億円です。こうして新しい商品を世に送るとビジネスモデルも変わってきます。以前は建機を販売していましたが、最近は1tのものを移動するごとにいくら、あるいは1時間建機を動かしていくら、という契約も結ぶようになりました。こうなると、当社のマシンだけでなく現場全体の建機を制御するようになり、鉱山の開発の場合はアンテナを立て、その現場で働く50台くらいのマシンを一元的に制御するようにするのです。
 これは私の社長時代に始まりました。現場監督からは「コマツさん、それは怖い。300t、500tのダンプが走ってすれ違うのは非常に怖い。有人の方が良い」と何度も言われました。その時からは5〜6年経っていますが、今では現場監督は「無人の方が安全だ」と言います。無人ダンプは居眠りしませんし、よそ見運転もしないのです。ダンプには60くらいの安全装置がついています。制御さえしっかりしておけば、安全に運行します。ですから無事故です。もちろん崖の近くで車体が傾いた、というようなことはあります。しかし人は乗っていませんから、横転したところで物損事故で済んでしまうわけです。このように商品を変えていくと現場が変わり、ビジネスモデルも変わるのです。

誤差50mmの制御はどのように

 続いてオープンイノベーションについて、無人ダンプを例にお話しします。コマツでは大分前から無人ダンプを開発していましたが、コマツ独自ではシステムプラットフォームはつくれませんでした。そこでアリゾナ大学の教授が大学をスピンアウトしてつくった会社、MMS(Modular Mining Systems)を買収し、そこのプラットフォーム技術と当社のダンプトラック技術を融合させました。MMSは、GPSで制御する技術を持っているのですが、その精度がすごく、プラスマイナス50mmです。アメリカのGPS衛星やロシアの同様の衛星GLONASS(グロナス)、それぞれ30数基の衛星が飛んでいますが、それらの7つの衛星から信号を取りながら、プラスマイナス50mmの制御を実現しているのです。
 無人ダンプのICやソフトウエア、センサなどについては、ほとんど欧米の企業を買収して開発してきました。例えばアメリカの国防省にDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)という無人飛行機や無人偵察機を開発したプロジェクトがあります。そこをスピンアウトして起こしたベンチャー企業の技術者がつくったセンサが無人ダンプに生かされています。欧米にはそういう企業がたくさんあり、そういう企業と一緒に開発していかなければならないのです。
 グローバルに技術開発していく時に大事なのは、どれだけ失敗したかということです。チャレンジしているからこそ失敗し、失敗するからこそ人は育つのです。よく千三つといいますが、成功するのは本当に少ないです。若い人たちがこんなことをしたいといったら、「よしわかった。君にこれだけの予算を任せるから、どこかの大学と組んで1年間がんばってみろ」と、ぜひチャレンジさせて欲しいです。そうすると大体失敗します。だから千に三つというのです。アメリカのシリコンバレーでは成功するのは1〜2%と言われ、3回失敗して一人前です。

一度進出した国からは撤退しない

 今までは開発の部分で何をしてきたかをお話ししてきましたが、今度は生産の方でどんな取組みを展開してきたかを紹介します。まとめると次の4つです。すなわち「需要のあるところで現地組立生産」「キーコンポーネント、すり合わせ技術は国内で生産技術革新」「マザー工場制」「世界最適調達」。中でも大事なのは「需要のあるところで現地組立生産」です。なぜ需要のあるところで作るかというと、昔の貿易摩擦を思い出していただければわかるでしょう。アメリカで、テレビカメラの前で日本車がたたき壊されたことが何度もありました。それは日本だけが儲かってよいのか、ということです。マスコミはすぐに、円安になっているのだから日本から輸出すべきだと言いますが、経営者がそんなことをしてはいけません。アメリカ人が買ってくれる製品は、アメリカで作るべきです。キーコンポーネントなど、ある部分は日本から持って行っていってもいいのですが、アメリカで作るべきです。Win・Winの関係でないと長続きしません。ですから、需要がある程度大きくなってきたら、現地で作るのが大事なのです。
 次は「マザー工場制」です。世界には、日本ほど生産技術が強い国はありません。ですから工場を全て海外に持って行くのではなく、日本の工場すなわちマザー工場を死守するという信念が必要です。人件費が安いから海外で生産するといっても、安いのは最初だけです。上海のコマツ工場の社員の人件費は、最近では石川の中小企業の人件費より高いのです。人件費はどんどん変わります。一過性のものを求めてもダメです。ですから日本の強み、自社の強みは何かをしっかり認識し、マザー工場を守るという意識は持たなければなりません。
 続いて代理店網の構築についてお話しします。当社では全世界に代理店網をつくり、「一度進出した国からは撤退しない」「儲からなくても撤退しない」ということを守ってきました。なぜそうしているかというと、コマツブランドを根付かせるためです。海外に進出しても、一時的には悪いことはあるものです。例えばブラジルです。以前、ブラジル大使と話したことがありますが、ブラジルに進出した企業は業績が悪いと皆すぐに引き上げるそうです。でもそれだと、ブラジルの人たちはいつまでも外国製品を買いません。ですからわれわれは、我慢するところは我慢し、部品の補給やサービス体制を整えていくのです。逆にいうと、安易に海外には進出しないということです。当社にとっての代表例はペルーでした。ペルーは20年くらい赤字続きでしたが、代理店網だけは死守しました。私が社長の時にやっと花が開き、今ではペルーは良い市場になっています。「一度進出した国からは撤退しない」と明文化しておくと、海外営業本部長も社長も撤退を口にできないわけです。撤退したら一時的に、業績は良くなるものですが、しかしそれで、持続的な成長ができるかというと、そうではありません。

コマツのモノづくりの核心

 コマツでは、コマツのモノづくりの思想を明確にするために「コマツウェイ」を作成しました。コマツウェイとは、グローバルに、人が変わっても脈々と受け継いでいって欲しい、先輩が成功・失敗の経験の中から築き上げてきた「コマツの強さ」、「強さを支える信念」、「基本的な心構え」、それらを実行に移す「行動様式」をいいます。これは外国人の社員が多くなってきて、口伝えでは限界があるため、坂根社長の時代につくり、日本語も含めて15カ国の言語で表されています。コマツウェイは3編からなり、トップマネジメント編は坂根社長が、ブランドマネジメント編は駒村義範副社長が、そしてモノづくり編は私が担当しました。
 トップマネジメントで大事なのは、コミュニケーションです。社長の仕事の半分はコミュニケーションといってもいいでしょう。世界各国に出かけ、工場や代理店会議、協力企業でコミュニケーションする。そして会社の状況などを説明するのです。社員の前でも話して、質問にも答える。社長が直に話してコマツの文化を伝えるのです。そのために社長はあちこち出かけます。ですから社長はものすごく体力が要ります。
 私が担当したモノづくり編に話を移すと、「ダントツを狙おう」と同じくらいに大事にしているのは、ビジネスパートナーとの連携では、「Win・Winの関係」を作ることです。コマツだけが儲けてはいけないのです。協力企業も代理店も、われわれと一緒にやっているパートナー全員が儲からないといけません。よく下請け企業に、「今年は納品価格を一律1%下げろ」と迫る例があるようで、当社もかつては行っていましたが、15年前に止めました。コマツだけが儲かる関係は長続きするものではありません。
 コマツウェイ・モノづくり編で若い方にぜひお伝えしたいのは、「ナゼナゼを5回繰り返そう」です。本質を突き詰めるためには必要なことです。「それはナゼか」「それはナゼか」……と繰り返し尋ねることです。これは日本のTQMに見られる独特な活動ですが、それを徹底していくと若い人は成長するものです。
 次はブランドマネジメント、ブランディングです。これは大体、セーリング、マーケティング、ブランディングの3つのステップを踏みます。セーリングは、作ったものを売ることです。マーケティングはお客さんが欲しいと思うものを作って売ること。ブランディングはお客さんとの約束を守るということで、お客さんとの信頼関係を勝ち取ることです。
 これについて、私はこんな例で話します。自分に好きな彼女がいたとします。彼女と一緒にいたい、結婚したいと思ったが、たまたまライバルがいたとしましょう。その時に皆さんはどういう行動に出ますか。ライバルを蹴落としますか。ライバルを蹴落としても彼女が自分のところに来るとは限りません。この例えの「自分」は当社のセールスマン、「彼女」はお客さん、そして「ライバル」は他社です。こう考えるとよくわかります。営業がやるべきことはお客さんとの信頼関係を築くことなのです。「他社が安いから売れない」「当社の品質が悪いから売れない」と、他人のセイにする話ばかりしている営業会議でしたらやらない方がいいです。営業会議ではお客さんの名前を出さなければいけないし、あのお客さんと、今どこまでの信頼関係が築けているのかを確認し合うのが営業会議です。信頼関係を築くために、君は何をしたのか。なぜうまく行かないのか、と。その話の後で、「わかった。では部長の私がそろそろ挨拶に伺おうか」などとなるのが営業会議です。顧客志向とは、こういうことなのです。これについては、ともすると当社でも曖昧にしがちですが、安易に流されないようにしています。

建設機械の販売台数が半分になる!?

 次はIoT社会に向けた、コマツの戦略についてお話します。第四次産業革命を迎えている今、コマツをどうするかです。当社ではそこで狙う価値として、つながる工場とつながる建設現場を掲げています。つながる建設現場については、当社ではスマートコンストラクションとして商売を行っていると簡単に申し上げて、つながる工場のお話をしたいと思います。
 つながる工場というのは、当社では例えば生産性を2倍以上にして工作機械の数を半分にする、ということです。そして女性でも、年期の浅い人でも、素人でも加工できるようにしていく。こういうことを狙っています。これは難しいことですが、生産計画のサプライチェーンのところで、生産性向上、自動化、MES(Manufacturing Execution Ststem/生産実行システム)、生産準備など4つに分けて改善活動をしている最中です。
 なぜこういうことをやるかというと、10年後、建設機械の販売台数は半分になるのではないかと推測しているからです。そうすると、建設機械をつくる工作機械も半分でいい。これを今のうちに全工程で確認しているところです。そこでわかったのは、例えば溶接ロボットが本当に溶接している時間というのは、半分しかない。工作機械も3割しか動いていないのです。これだったら、機械の数を半分に減らせるはずです。もちろんわれわれは、なぜ溶接ロボットが止まっているのか、なぜ工作機械が動いていないのかも調べました。そこを調べていくと高いレベルの自動化技術が必要なのがわかりました。
 工作機械を例にあげると、あるモノを加工する時、サーボモーターの負荷を見ながら切削の加工条件を変えています。当社の工作機械にも、協力企業の工作機械にも1台ずつコンピュータがついていて、負荷を計測しながら加工条件を変化させています。コンピュータがついているので、稼働状況をネットワークでつないで、協力工場の300台くらいの工作機械も含めてすべての稼働状況を把握しています。協力工場の工作機械も大体3割くらいしか動いていませんでした。ということはサプライチェーンの中で効率のよいネットワークを作れば、もっと無駄を省けるということなのです。こういう解析を、今、一生懸命に取り組んでいるところです。

イノベーションを起こすために

 オープンイノベーションについて話題を移したいと思います。携帯電話の市場をiPhoneなどが席巻して日本のガラケーメーカーは大打撃を受けました。これがイノベーションです。イノベーションは誰かが痛みを感じるものです。先ほど、10年先には建設機械の販売数が半分になる予測について申し上げました。AIやIoTが建設機械の世界に入ってくると、劇的に変化します。当社では自ら破壊する道を選びました。今のビジネスモデルを変えないと、欧米の会社の下請け企業になる可能性も出てきます。下請けが悪いと一概には言いませんが、独自にやれないのは悲しいではないですか。
 そこでコマツでは、いち早くオープンイノベーションへと舵を切ったのです。キーになるのは大学との連携です。コア技術は、大学と一緒に研究してもっと磨きます。そして自社の弱点を補い、商品のラインナップを増やすために、どこかの企業をM&Aしていく。技術戦略はそれでいいのですが、ビジネスモデルのイノベーションをどう起こすかが課題です。イノベーションというのは新しい価値を創造することです。そのためにはまず営業などの別世界の人が将来のビジョンを考えないといけないのです。当社ではこのために、CTO(Chief Technology Officer)とCIO(Chief Information Officer)が上手く手をとり合い、イノベーションの将来ビジョンに関するビデオをつくり、社員に見てもらいました。コマツは将来についてこんなふうに考えているのだけど、何かアイデアがあったら聞かせて欲しい、と発信しました。社員のベクトルを合わせるためです。こうして出てきたのが、鉱山現場の無人施工オペレーションです。ダンプが無人なだけでなく、油圧ショベルなども無人遠隔操作を行い、人手不足解消と過酷な労働環境から解放をイメージしていました。
 大学との連携に関しては、大阪大学とうまくいっていますので、その例を紹介します。大阪大学との連携には長い歴史があり、最初は、溶接の効率化や鋳造技術の向上など「熱・燃焼・生産効率探求」をテーマに始め、効果が出ました。これが第1期、’06〜’08年です。これを受けて第2期(’09〜’11年)では「機械と土・岩との関係を探求」し、第3期(’12〜’14年)に入って共同研究の講座を開設。そして第4期、’15年からの協働研究所の立ち上げにつながりました。共同研究講座と協働研究所は何が違うかと言いますと、共同研究講座は、例えば機械工学の講座だとすると、その教授の枠の中だけでやるのです。しかしアメリカではそんなことはしません。教授の下にいろんな人が集まって研究を行います。「大阪大学もそうしないとダメだ」と当時の総長にお願いして、協働研究所に格上げしました。年間1億円を使って、大阪大学を挙げていろんな開発に取り組んでいます。そこではグローバルなネットワークも使おうと思っています。
 アメリカやドイツの大学の良いところは、学際的な研究が盛んなところです。例えばカーネギーメロン大学は自動運転の開発で有名ですが、そこには法律の専門家もいますし、社会科学の専門家もいます。新しく開発されるものの法律関係について調べますし、社会に悪いインパクトを与えないか、なども研究します。開発というのはそういうものなのです。ですから当社でもスタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校、カーネギーメロン大学などに人を送って研究しています。学際的に、いろんな人と研究するので幅広い知識を持った技術者に育っています。

農業や林業にもビジネスチャンスがいっぱい

 最後に「こまつの杜」、コマツの地方創生への取組みについてお話しします。私が社長の時に小松工場を金沢に移転することを決めましたが、その跡地をなんとかしようという企画です。移転発表時には「工場がなくなるのはさみしい」と新聞やテレビで、地元の声が紹介されたものです。ところが今は、小松の皆さんは「こまつの杜」を大変に喜んでいてくださいます。
 私どもは何のために「こまつの杜」に取り組んだのかというと、一つには子どもたちの教育のためです。情緒が定まる幼稚園や小学校低学年の時に、自然にたくさん触れることができて、自然好き・理科好きな子どもたちを育てたいと思ってこれを始めました。二つ目には、コマツのOBがたくさんいるので、「こまつの杜」を利用していただいて健康で長生きして欲しいと思いました。OB同士がふれあい、あるいは理科教室や生物教室などで子どもたちと交わっていただいています。OGの中には、子ども向けに紙芝居や習字教室も行っている方もいます。これが昔のコミュニティーです。私もそういう経験をしています。小さい時に、近所のおじいちゃんに将棋などいろいろ教えてもらったのを今でも鮮明に覚えています。そういうコミュニティーを復活させたかったのです。
 農業についても少し触れておきます。これから紹介することは、コマツが石川県や石川県森林組合、小松市、JA小松市などと連携して行っていることです。まずは農業用ICTブルを活用して、田んぼを平らにして米づくりを行っている案件です。プラスマイナス15mmの精度で田んぼを広範囲に平らにして、直播きで米づくりを行うと、コストを4割下げることができました。また、ピューレの加工も行っています。トマトやカボチャなど、形が悪くてスーパーで売れない野菜がたくさんあるのですが、それを細かく砕いてピューレにして、レトルト食品にしています。これをスープやパンに使うとたいへんおいしくなります。コマツはピューレの生産ラインの整備でお手伝いさせていただきましたが、JA小松市では関連商品で年7,000万円〜8,000万円の売上げを立てるまでになりました。
 林業では、山に放置されている間伐材が、大雨の際には二次災害を招くことが広島の土石流の災害で知られるようになりました。そこで間伐材の活用を加賀森林組合に依頼されました。そこでこの間伐材をどう使うか考え、コマツの石川の工場では、今まで重油を使ってボイラーを炊いていましたが、4億円ほど投資してバイオマスボイラーに切り替えました。熱効率は70%です。バイオマス発電の熱効率は25%くらいですから、3倍近く効率がいいです。石川県はこれを広めようとしています。
 間伐材といっても結構大きなものです。これをチップにするのですが、今までは約7,000万円するドイツの機械を使っていたようです。コマツでは協力工場にお願いし、より安価で十分に働く機械を開発しました。1台5,000万円です。協力工場は従業員100人程度の会社ですが、今まで3台売って結構なビジネスになったようです。
 このように農業や林業に、ものすごいビジネスチャンスがあり、中小企業にも参入の機会がたくさんあります。そこに焦点を当て、「うちの会社のブランドを作ろう」と立ち上がっていただきたいと思います。先ほどのチップの加工機をつくった会社は、従来そういうものを作ったことはなかったのですが、自社の技術を応用して新しく開発しました。
 富山のモノづくりに携わる皆さんにも果敢に挑戦して欲しいと思う次第です。

作成日  2017/02/28

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