TOP > 未来を創るアントレプレナーたちの挑戦 > 第70回 FRUCRU(フルクル)
フルーツカッティング・フルーツギフトで新境地
「もう1店」を夢見るまでに成長
北陸では珍しいフルーツカッティングのスクール
とギフトを展開する椀澤静香さん(写真上)と
フルーツカッティングの一例(写真下)。
「学生時代もOLとして働いていた時も、自分で事業を起こすなんて夢にも思いませんでした。それがあることがきっかけで……」
そういってフルーツギフトのお店「FRUCRU」(フルクル)を営む椀澤静香さんは12年ほど前を振り返る。時は平成21年。テレビを点けると、メロン丸ごと1個にナイフで切れ目を入れて、ファンシーなフルーツギフトに加工していたという。子どもの頃から果物には目がなかった椀澤さん。そのフルーツカッティングに衝撃を受けてからは、「見せる果物の魅力」にとりつかれることに。そして「自分でも切れるようになりたい」と、東京で開催されていたフルーツカッティングスタイリストの資格を取るための講習会に参加したのだ(平成24年)。
この時点では、フルーツカッティングはあくまでも椀澤さんの趣味の範囲であった。家族や友人に披露して食卓を華やかにするツールのひとつであった。
初期の頃のフルーツカッティングのスクールの様子
(写真上)とフルーツギフトの一例の「フルーツ
おせち」(写真下)。
転機が訪れたのはその年の暮頃のこと。体調不良で勤めていた会社を退職し、自宅で療養するようになったのだ。
「結局、1年ほど療養生活を続けたのですが、『治ったら次はどんな仕事をしようか』といろいろ考えました。その中で、『フルーツカッティングスタイリストの資格を生かして仕事はできないか』と思うようになり、友人の勧めや支援を受けながらクリスマスや母の日などのフルーツギフトと、カッティングのノウハウを伝えるスクールを開催するようになったのです」(椀澤さん)
創業は平成26年1月だった。店舗は構えずに当時住んでいたアパートを拠点に、フェイスブックを使ってPR。ネット経由でオーダーを受け、体に負担がかからない程度で、お客様のニーズに答えるようにしたという。
すると、フルーツギフトの予約が徐々に入るように。スクールについては「ウチの店を会場にして開催してほしい」という依頼が富山県内全域から舞い込んだ。しばらくすると、もの珍しさもあってかスクールは週4回ほど開催されるようになり、会場によっては数十人を対象にするなど、順調な滑り出しを見せたのだった。
ところが……。
「OL時代は、パソコンを使って資料を作成するなどの事務職をしていて、学生時代も含めて人前で話すことはありませんでした。スクールの開催が順調に進んだのはいいのですが、ストレスから体調を崩し、しまいには自分で何をいっているのかわからなくなったのです」
そこで椀澤さんはスクールの開催頻度を絞るように。フルーツギフトの受注拡大に向けて大きく舵(かじ)を切り、体に負担がかからないよう“やわやわ”と仕事を続けたのだ。
FRUCRU定番のホールケーキ(ホワイト、写真上)と
季節のナチュラルスイーツ(鯉のぼり、写真下)。
いずれも小麦粉、卵、乳、白砂糖などを用いていない。
1年ほどして、また転機が訪れた。椀澤さんは、お店を構えることも視野に入れるように。北陸3県でフルーツカッティングスタイリストの資格を持つ者は数名いたようだが、スクールをビジネスにする人はいたものの、ギフトを扱うのは椀澤さんただ1人。“やわやわ”と続けたお店ではあったが、隣県からのギフト需要も舞い込むようになり、お店を構えての営業に可能性を見い出したのだ。
そうこうしているうちにタイミングよく、出店話が持ち上がった。あるトレーラーハウスのオーナーから「もうすぐ1店舗空くけど、入居しないか」と誘われたのだ。
入居するかどうか、迷っていた頃を振り返って椀澤さんが語った。
「私ひとりでお店を回すのだったら、必要経費もそんなに大きくなく、なんとかなるのではないかという見込みがありました。店頭ではフルーツギフトに加え、小麦粉などのアレルーギーの原因になる食材を用いないケーキなども提供するようになれば、お客様の掘り起こしにつながり、売り上げも増えるのではないかと思ったのです」
お店を構えたのは平成28年12月のことだ。期待どおりに店頭でのフルーツギフトやケーキの販売は徐々に増え始めた。ただ、椀澤さんに不安がないわけではなかった。そこで住まいの近くで開催されていた自治体主催の「プチ起業塾」に参加。経営のイロハについての指導を受けようと通うと、平成29年3月、「富山県よろず支援拠点」のコーディネーターと出会い、新年度から始まる「とやま起業未来塾」(第13期)の受講を勧められ、ビジネスプランを練り上げることにしたのだ。
平成29年度のとやま起業未来塾修了式当日の
椀澤さんのビジネスプラン発表の様子(写真上)と
表彰の様子(写真下)。
5月から始まった未来塾は、11月までの毎週土曜に開講。中小企業診断士等を講師に、事業計画の立て方、資金繰りの考え方、マーケティングの仕方、広報宣伝活動の手法などの指導を受け、時には企業経営者を招いての講話も拝聴。先輩経営者の成功談、失敗談に耳を傾け、自身のビジスプランのブラッシュアップに役立てていく。椀澤さんもその講義を7カ月間受講したのだが、その印象をうかがった。答えていわく……。
「事務職しか経験のなかった私には、事業計画や資金繰り、マーケティングなどは、少し難しかったのですが新鮮でした。もっとも私が役に立ったと思うのは、他の塾生や講師の前で自分の考えやビジネスプランを何度も発表したことです。これを繰り返すうちに、人前で話すことにあまりストレスを感じなくなり、スクールの開催が負担にならなくなったのです」
未来塾修了時のビジネスプラン発表会で、椀澤さんは「Fructas Res Novae (自然からの贈り物で革新する)〜フルーツカッティングビジネス〜」と題して自身のビジネスプランを発表。スクール、フルーツギフトやスイーツの販売の他に、ホテル等との提携やパティシエ養成なども事業のメニューに加え、並みいる審査員(名誉会長(知事)や未来塾塾長、未来塾を応援する県内企業経営者など)を前にフルーツカッティングの可能性をプレゼンテーションしたのだ。
結果は……。
「特別賞」の栄に浴し、石井隆一未来塾名誉会長(富山県知事/当時)より表彰され、FRUCRUの船出を祝されたのだった。
令和3年1月に移転オープンしたFRUCRU。
未来塾を修了して3年が経った。ホテル等との提携やパティシエ養成に関しては、ひとりでお店を切り盛りしているため緒についていないが、フルーツギフトやスイーツの販売は順調に伸び、今では売り上げの9割を占めるまでになってきた。
「人前で話すことはできるようになりましたが、スクール開催中はお客様対応やスイーツの作成ができません。そこで積極的に受講者の募集はしないようにしています」と椀澤さんは近況を語り、「小さなお店ですが、当店の小麦粉、砂糖、卵、乳製品を使わないケーキやスイーツを求めて、お客様は県内各所からお見えになり、口コミで徐々に増えています。アレルギーでお困りの方のニーズにはなるべくお応えしたいと思っています」と続けた。
コロナ禍により影響を受けているお店は多い。同店も例外ではなく、その始まりでは客足が遠のき国の支援(小規模事業者持続化補助金)などを受けたのだが、椀澤さんはアフターコロナを念頭において、少し広めのお店へと移転を決意。新年早々からは現在のお店での営業を開始し、厨房機器も充実させてアレルギーに悩む人向けの新たなスイーツを開発しようと、試作を繰り返しているところだ。
最後に今後の展望についてうかがうと、「時期についてはまだ未定ですが、高岡周辺でもお店を出したいという希望は持っています。スタッフの育成はこれからです……」と返ってきた。
起業の楽しみを存分に味わっておられるようだ。
連 絡 先 :FRUCRU
所 在 地 :〒935-0817 富山県富山市下奥井1-21-1
従 業 員 :-
資 本 金 :個人創業
事 業 :フルーツギフト・ナチュラルスーツの販売、フルーツカッティングスクール開催
T E L : 076-400-8141
U R L : https://frucru.net
作成日 2021/10/06