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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第45回 株式会社 石金精機

工作機械等の精密部品作りから
航空機、医薬品機器にも視野を広げて


本業の精密機械部品製造の他に、
航空産業や医薬機器産業などの分野で
展開を試みる石金精機の清水克洋社長。

「三菱重工 国産ジェット旅客機事業から撤退」
 この大文字の見出しが新聞各紙に載ったのは令和5年2月のこと。中には「日の丸ジェットの夢破れ…」という情緒的な記事もあった。そうした中、富山県内にはガックリと膝を折る経営者がいた。その人の名は、清水克洋氏。(株)石金精機の社長だ。
 同社では平成23年、京都のA社から「航空機用アクチュエーターのある部品の、製作工程の一部をお願いしたい」と依頼を受けたことを足がかりに、航空機事業への参入を企画。のちには日本の航空機事業の一翼を担うB社から、アメリカのC社向け航空機部品の製造を依頼されるようになり、さらには三菱のジェット旅客機(MRJ)開発に、主翼部品の供給という形で携わるようになったのだ。
 それが道半ばで…。
 石金精機の主な業務は、工作機械や半導体製造装置等の精密機械部品の設計・製作だ。この業界の好・不況のブレ幅はどの業界よりも大きいようで、清水社長は経営の柱を他にも育てようと、航空機事業に取り組んでいた。柱の確立が見えていただけに、開発段階とはいえ撤退のショックは大きかったようだ。

産業集積をねらって医薬機器の開発を

平成24年度、同社が最初に開発した打錠機。
「薬のとやま」の産業集積を図った第一歩となった。

  一方で同社では、医薬機器の開発にもチャレンジし、事業化を図ってきた。その元々のスタートは、「薬都とやま」「くすりの富山」と称しながらも、製薬のための設備メーカーがほとんどないことを、県の成長戦略会議等の場で、清水社長が発言したところから始まった。清水社長が振り返る。
 「弊社では医療機関の求めに応じて、人工関節をつくってきた経験から、医薬品の世界に関心を持ちました。そこで富山の製薬に関する周辺業界に目を向けると、容器やパッケージ印刷などの産業は整っているのに、医薬品を製造する機器メーカーがほとんどないのです。このジャンルの充実を図ることは、『薬のとやま』の産業集積に寄与できるのではないかと考えました」
 同社では、粉状の原薬を錠剤に成型するマシン(打錠機)の開発に着手。当機構の「新商品・新事業創出公募事業」(平成24年度)の採択を受けてそれを加速させるとともに、ある健康食品メーカーの依頼でドイツ製打錠機6台のオーバーホールを行い、その仕組みなどを学ぶ機会を持ったのだ。
 清水社長が続けた。
 「健康食品メーカーでは6台の打錠機を持っておられましたが、うち1台は消耗部品などを取り外してしまって稼働できていない状態でした。その1台の打錠機を稼働できる状態とするオーバーホールに要した期間は約1年。マシンの隅々を観察させていただき、改善したらよいと思われることのヒントも得て、打錠機のオーバーホールに成功しました。当社にはドイツ製の工作機械もありますが、ドイツ製の機械は日本のような高温多湿の環境には弱いところがあるため、その改善も施して打錠機を完成させました」
 「富山県内には、同様の打錠機は100台以上はある」と健康食品メーカーの経営者から聞いた清水社長。
 「オーバーホールだけでもビジネスになるし、タイミングよく打錠機買い替えの時期が来ていた場合は、自社のマシンを勧めよう」と富山県内ばかりでなく、全国の製薬メーカーに営業に出向いたのだが、触手を動かした企業は1社もなかったそうだ。
 相手先担当者いわく。
 「薬をつくった実績がありますか」
 小説『下町ロケット』では、佃製作所の“ロケット品質”を評価し、人工弁実用化に向けての臨床試験を後押しする一幕があったが、現実は小説のようにはいかなかった様子。今後のさらなるPR活動が期待されるところだ。


国内向け小児用打錠機開発の試み

「産学官連携推進事業」の支援を受けて開発された
ミニタブレット打錠用杵臼(写真上)。
富山の高度な精密金属加工技術が開発を後押しした。
写真下は、そのミニタブレット打錠用杵臼をPRする
ために出展した「第31回インターフェックス
ジャパン」(平成30年6月27〜29日、東京ビッグサイト)
の同社のブースの様子。

 高い参入障壁に立ちはだかられたにも関わらず、同社では今度はミニタブレット打錠用杵臼の開発に取り組むように。当機構では「産学官連携推進事業」(平成29年度)による支援を通してミニタブレット打錠用杵臼の開発を後押ししたのだった。
 「ミニタブレット打錠用杵臼メーカーは日本には数社ありますが、いずれも海外の市場を狙っています。今のところ、日本にはそのニーズはないといっても過言ではありません。それはなぜかというと、日本の医師は小児用に薬を処方する際、大人用の顆粒のものを、小児の体重に合わせて調整しているからです。錠剤は子どもには飲みにくいから、という理由があるようですが…」と清水社長は語るが、小児用錠剤(ミニタブレット)の普及が進まないのは、他にも理由があるようだ。
 業界に詳しい知人によると、薬価が決まっているのに小児用の打錠機の開発に取り組むと利益率が下がる。顆粒では薬の量(重さ)はすぐに計れるが、小粒の錠剤にすると一々数えなければいけない…等々の理由がある様子。欧米では小児用の錠剤開発は、大人用の錠剤の開発と同時に進めることが法律上義務化されているが、日本ではその規定もないのだそうだ。
 「小粒の錠剤は、子どものみならず高齢者にも利用しやすいのです。粉や顆粒では舌の上に残りやすく、嚥下機能が低下しつつある方には小粒の錠剤の方が飲みやすい。また携行しやすいというメリットもあります」(清水社長)
 開発にあたっては、富山県が取り組んでいる産学官連携プロジェクト「くすりのシリコンバレーTOYAMA創造コンソーシアム(富山くすりコンソ)」のサポートを得ながら、既存品での課題、打錠障害が起こりやすい、錠剤の重量のバラツキが発生しやすい、等々の解決をテーマに掲げた。県の薬事総合研究開発センターに打錠評価をいただき、理化学機器開発のノウハウを持つ県内のD社の協力を得て、繰り返し打錠での重量バラツキの少ない製品製作に注力。海外のミニタブレット打錠用杵臼での課題を研究し、富山の高い精密金属加工技術がそれを解消した。また打錠機の錠剤排出時に摩擦抵抗が原因で発生する打錠不良を、ある素材で杵・臼をコーティングすることによって防いだのだった。
 「実地試験では、漢方エキス処方の打錠も試みてもらいました。生薬を配合する漢方エキス処方は西洋薬を成型するより難しいのですが、薬総研からは漢方エキス処方の打錠にも安定性があると評価をいただきました」
 清水社長はこうして開発の経緯を締めくくるが、製品化への微調整を経て令和4年8月より販売を開始。国内ではどの企業も着手していない市場の開拓に向けて歩み出し、「くすりの富山」の産業の裾野を広げようと新たなチャレンジを始めたのだった。


自動挿し木づくりロボットを開発

ロボットアームとカメラ、センサ、AIなどを組み合わ
せて製作した自動挿し木用ポットづくりロボット(写真
上)。挿し木用の葉片の、葉先・茎側などを正しく認識し
て、培養土の入ったビニールポットに正確に挿し木して
いく。写真下はそれを紹介した「第2回名古屋ロボデッ
クス ロボット開発・活用展」(令和元年9月18〜20
日、ポートメッセ名古屋)の同社ブースの様子。

 もう1つ、同社の技術開発を紹介しよう。それは「とやま中小企業チャレンジファンド事業 ものづくり研究開発支援事業」(令和元年度)の採択を受けて進められた、「汎用ロボットビジョン検査システム」の開発だ。この開発にあたって同社では、ホームセンター等でビニール製のポットで販売されている植物苗の製造省人化を試みたのだ。
 植物苗の中には、挿し木によって株を増やしているものがある。培養土を入れたポットに、挿し木用に切られた葉を1枚ずつ取り出して、茎側の数ミリを培養土に挿し込む。園芸業者はこれを人海戦術で行い、数千、数万に及ぶ苗木ポットを用意してホームセンター等に卸しているのだが、人手不足の折からこれをロボットに代行させることはできないかと、園芸大手のE社が石金精機に打診してきたという。
 「開発に当たっては既存のロボットアームを利用し、カメラや変位センサを搭載して、ポットや挿し木用の葉辺の認識やロボットの動作を制御するようにしました。葉辺を培養土に挿し込む際は、茎側を正しく認識してそこを差し込まなければいけないのですが、AIによってその作業が間違いなく行われるようにしました」
 清水社長は開発の成果を以上のようにまとめ、「コロナの影響で開発が少し遅れましたが、一昨年の夏に技術開発を依頼してきた客先に納品させていただき、またその年の秋にあった展示会に出展してPRさせていただきました」と続けた。
 展示会では、農業機械や資材を製造販売するメーカー数社が興味を示した他、FA(Factory Automation)に取り組む企業などがアプローチしてきたという。“自動挿し木用ポットづくりロボット”は、打錠機に先駆けて金の卵を産むようになるのか。その成果が期待されるところだ。

 株式会社 石金精機
 本社/富山市流杉255
 TEL 076-423-8317
 FAX 076-425-0242
 URL https://www.h-techno.com

作成日  2024/03/12

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