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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第47回 株式会社戸出O-Fit

新しい機能性プラスチックの開発を目指す。
大学・大手企業等との連携の中から・・・


戸出O-Fitの高畑敏夫社長(写真上)と同社の本社
(写真下)。高畑社長は戸出化成の会長も務める。

 「開発から製品化まで約4年、そして販売を始めて約7年。少しずつですが売れ始め、将来、当社の事業の柱のひとつに育つのではないかと期待できるようになりました」
 (株)戸出O -Fitの高畑敏夫社長はこういって、10cm角ほどのプラスチックのプレートを取り出した。それは溶かした再生プラスチックに、フライアッシュ(火力発電所で出る灰)や間伐材等の木粉、アルミスラッジ(アルミ工場の酸化皮膜槽で発生するアルミのカス)を混錬して板状にしたもの。同社の関連会社の戸出化成(株)から出るプラスチックの端材の有効活用と、フライアッシュなどの未利用資源の活用により、今までにない機能を持ったプラスチックができるのではないかと期待して、平成25年に開発が始まったものの成果のひとつだった。
 高畑社長が振り返る。
 「戸出化成から、毎月10トン程度のプラスチックの端材が出ていました。以前は、それを工業原料として売ることができましたが、十数年前からは買取る業者もなくなり、廃棄するにもお金がかかるようになりました。それで何か再利用する方法はないかと考えるようになったのですが、ある時、高速道路を走っていて山間に折れた木が放置されているのを見て、『もったいないな』と思いました。また当社の客先のアルミ建材工場で、アルミスラッジが出て困っているという話しも以前から聞いていて、この3つがある時に結びついて、『プラスチックの端材を溶かし、そこに木粉やアルミスラッジを混ぜたら、新しいプラスチックができるのでは・・・』と思いついたのです」

サポインを機に大学、大手企業が連携

令和2年9月、高岡ICパークに新築した戸出化成の
本社・工場。工場から出るプラスチック端材の再利用
の研究から、ヒット商品になりつつある「エフエー
ボード」の開発が始まった。



 とは言っても、こうした素材の開発は戸出化成では初めてのこと。建材や自動車のプラスチック部品をつくる中で、JIS規格に適合しているかの検査を受けるなどして面識のあった富山県工業技術センター(現・富山県産業技術研究開発センター)の研究員に相談すると、「国の戦略的基盤技術高度化支援事業のサポートを受けて、機能性のあるプラスチックをつくったらいいのでは」と持ちかけられたのだ。「戦略的基盤技術高度化支援事業」とは、「サポイン」の略称で親しまれてきた中小企業の技術開発等を支援する国の事業のこと。その開発のために戸出O-Fitを設立し、またその申請の際には、火力発電所で発生する灰の利活用もテーマに加え、新会社が設立された平成25年度のサポインに採択されたのであった。
 技術開発には、工業技術センターの他に京都工芸繊維大学、富山県農林水産総合技術センターが加わり、A 電力やアルミ建材メーカーのB社、文具メーカーのC社がアドバイザーに。C社は、富山県木材研究所と共同で改質したセルロース系バイオマスを活用した耐薬品性の高い射出成形用複合材料を開発しており、その経験やマーケティングの知見から助言を行い、また流木の提供者としてD電力も協力したのであった。
 「流木には、針葉樹と広葉樹が混ざっていて、針葉樹の木粉と溶かしたプラスチックを混ぜ合わせるのは上手くいくのですが、そこに広葉樹の木粉も加えようとすると、ガスが発生したりしてプラスチックが安定しなくなるのです」
 高畑社長は開発の過程をこのように回想するが、他の資源活用も同じであった。火力発電所の灰には、軽いフライアッシュと重金属が含まれて重いクリンカアッシュがある。今回の開発では、それらとプラスチックとの混錬が試されたが、クリンカアッシュは塊りとして存在しているため、粉砕の工程が別途必要になり、また軽量化に逆行することが分かり、途中で断念されることに。またアルミスラッジ混錬の実験からは、そのプラスチック材には難燃性のあることが確認されたが、灯油やガソリンなどの油に触れると、溶け出すという物性も明らかになったのだ。


未利用資源を再生プラスチックに混錬すると

サポイン の採択を受けて進めた再生プラスチック
材の開発事例(写真上)。上から、フライアッシュ、
間伐材、アルミスラッジ。写真下は独自に開発した、
「特殊スクリュー二軸押出機」の外観。

 各素材の配合量を変え、それぞれのプラスチック材の物性、強度、耐薬品性、耐候性などの試験が繰り返されたが、当初その行く手を阻んだのは、溶かしたプラスチックと再生資源を均一に混ぜ合わせるための機械だ。物性の異なるものを均一に混ぜることは難しく、同社ではその混錬装置の開発から始めなければならなかった。
 「混錬の温度、材料の水分、材料の投入量、混錬の速度などによって混錬状況は異なります。何よりも重要なのは材料を混ぜ合わせるための混錬パドルの形状と配置です。当社では試行錯誤を繰り返して独自に『特殊スクリュー二軸押出機』を開発したのですが、初期にこの開発を為し遂げることができ、後の用途開発等に結び付けることができたと思います」(高畑社長)
 当初の課題から変わったのは、木粉の混錬に半炭化されたものが加わったこと。コストや強度、軽量化などの観点からは、フライアッシュを混錬したプラスチックに可能性があるように思われたが、同社では新しく創生した機能性プラスチックの特許を申請。後の用途開発にかけることにしたのだ。そのひとつが当機構の「産学官連携推進事業」(平成27年度)の採択を受けて進めた「半炭化物とプラスチックを混錬した複合材料の製造技術に関する研究」。戸出化成の技術顧問から「生の木粉より半炭化させた方がプラスチックの安定化を図れるのではないか」とアドバイスされたことがきっかけだった。
 実際に試してみると、木粉の半炭化により針葉樹、広葉樹の違いがなくなり、プラスチック材は安定するようになった。ただひとつ問題が・・・。炭化装置の導入と個別の半炭化に想定外のコストがかかり、半炭化物を混錬したプラスチック材の市場は極めて少ないことも予想されたのだ。
 また「企業間連携による製品試作事業」(平成29年度)の採択を受けて進めた、ウッドデッキメーカーE社との製品開発では、フライアッシュ混錬プラスチック材を芯にし、外側に木粉を混錬したプラスチック材を合わせる2層構造のウッドデッキ材の開発にチャレンジ。既存の木粉を混錬したプラスチック製のウッドデッキは吸水によりそりが発生することが多く、フライアッシュ混錬プラスチック材との2層化によってそれを防ごうとしたのだが、木粉含有率の課題があって製品化は見送られることに。ただ戸出O-Fitの木粉混錬プラスチック材は、バージン材のプラスチックを用いた海外製より20%ほど安く、しかも安定供給されることから、こちらではビジネスがまとまったのだ。


国土交通省のNETISに認定される

「エフエーボード eco」の使用事例。写真上は土木・
建設現場、写真下は林業の材木集積現場。

 こうした用途開発が進められる一方で、同社では大手建設機械メーカーとの出会いの中で、フライアッシュを混錬したプラスチック材を工事現場で用いる敷板として応用できないかと模索。ロンドンオリンピック(平成24年)の工事現場でアメリカの工事関係者が始めて注目されつつあった製品であるが、それを再生プラスチックを用いて試みようというのだ。
 「この製品開発は、北海道のF社が中心になって進められ、当初はバージン材のプラスチックを用いる計画でしたが、地元のG電力のフライアッシュの利活用案が浮上し、プラスチックも再生材を素材とすることとなりました。そこでこのプロジェクトの推進役がF 社から戸出O-Fitに移り、サポイン 終了から1年後に製品化のメドがついたのです」
 高畑社長はこういって、「エフエーボード s」と名づけられた工事現場用の敷板が開発された経緯をまとめた。「エフエーボードs 」の販売が始まったのは平成29年4月のこと。その認知度は徐々に高まり、令和元年には富山県リサイクル認定製品に。翌年には国土交通省のNETISに認定された。NETISは土木工事等の新技術を登録し、その活用を推奨する制度。国土交通省直轄工事ではその活用が義務付けされる技術で、「エフエーボード s」の先進性と高度な技術が認められたのであった。
 従来の鉄板の敷板との比較で、「エフエーボード eco」(「エフエーボードs 」の改良品)の優位性を挙げると・・・。
 よく用いられる鉄板の敷板(厚さ22mm×約4尺×約8尺、通称「四八判」(しはちばん))の重さは1枚500kgを少し上回る程度。対して同サイズの「エフエーボードeco」(厚さ19mm)は、1枚40kg(±2kg)。仮に4トントラック1台に四八判を積む場合は7枚しか積めないのに対し、「エフエーボードeco」は1枚42kgと仮定しても95枚の積載が可能だ。また先行するバージン材のプラスチック製敷板より強度が20%ほど高く、ブルドーザー等キャラピラーを足回りとする重機がその上を走行した場合、プレートの角が欠けることがあるものの、ゴム製のタイヤを足回りとする重機が走行した場合はまったく問題がないという。「エフエーボード eco」は見かけとは異なり、極めて強い敷板であった。
 「エフエーボード eco」の性能は、工事関係者の間で少しずつ認知されるようになり、販売枚数は徐々に増加。その勢いを加速させるために、当機構の「中小企業大都市圏販路開拓支援事業」(令和5年度)を活用し、販路開拓マネージャーのアドバイスを受けながら営業活動を展開すると、地方の大手住宅会社との大口の商談がまとまり、この取材の前に完納したという。
 取材の最後に、連携による技術開発、製品開発について高畑社長がまとめた。
 「中小企業が大学や大手企業のご協力を得て、また国や県の支援を受けて、技術開発や製品開発に取り組むことは、以前は、夢のまた夢でした。しかし、こうして実際に取り組むことができ、よい経験を積ませていただきました。成功はもちろんのこと、数々の失敗も当社にとっては貴重な知見として蓄積され、次の開発に生かされています」
 フライアッシュ混錬プラスチック材については、サポイン でアドバイザーを務めたアルミ建材会社とは別の建材会社が注目し、素材として定期的に購入するようになり、その用途開発にはまだまだ可能性がある様子。同社が開発した機能性プラスチックは、“金の卵”から孵化し、売上げの柱に育ちつつあるようだ。

株式会社 戸出O-Fit
 本社/高岡市戸出西部金屋310-2
 TEL 0766-73-7527
 FAX 0766-73-7597
戸出化成株式会社
 本社/高岡市ICパーク12
 TEL 0766-63-5152
 FAX 0766-63-5099
 URL http://h-tkc.co.jp(戸出化成)
     http://h-tkc.co.jp/custom.html(エフエーボード )

作成日 2024/07/29

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