第14回 株式会社ワコーテック 戦略的基盤技術高度化支援事業 産学官連携 TONIO Web情報マガジン 富山

TOP > イノベーションが産む金の卵 > 第14回 株式会社ワコーテック

研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第14回 株式会社ワコーテック

サポインの成果をもとに用途拡大
産業用機械から医療や福祉等にも

同社の力覚センサdyn-pickシリーズ。シンプルな構造により低価格化を実現し、
シェアを徐々にのばしている。利用状況に応じてのカスタマイズも可能という。

 ワコーテック(あるいはワコー)の岡田和廣代表と聞いてすぐに思い起こされるのは、多数の特許を取得して、それを生かしたユニークなビジネスを展開している人、ということだ。2013年末あたりで取得した特許の数は230件ほど。ある部分ではそれを特定の企業と活用する中で新しい機器やシステムを開発し、そこからロイヤリティ収入を得てきた。一方では、特許を自社のものづくりに生かし、その販売を生業(なりわい)とすることで企業活動を維持してきている。
 前者の代表例は、自動車のエアバッグやスマートフォンなどに搭載されているジャイロセンサ、加速度センサだ。エアバッグの場合は同社のセンサ技術が殆どの世界中の車に採用され、スマートフォンでも同様である。
 後者の自社のものづくりに生かす代表格としては、力覚センサが挙げられるだろう。「dyn-pick」と名付けられたシリーズの最初のモデルが市場投入されたのは2008(H20)年10月のこと。同社の力覚センサは静電容量式の検出方法を採用しているため、従来の歪ゲージ式の力覚センサに比べて、構造は至ってシンプルだ。また部品点数が少なく、組立から製造までのコストを下げることも可能だ。
 こうした利点を生かして、発売以来、ロボット動作の制御、工作機械の加工部の制御、操作用ジョイステック入力の分野などでの利用が進み、力覚センサのジャンルでは60%超えるシェア(出典:株式会社富士経済)を持つまでになった。
 ただ、課題もある。静電容量式の検出方法を採用した場合、検出対象部材に高い寸法精度が要求されるため、今までの製法では切削加工に頼らざるを得ない側面があった。それではコストダウンにも限度があったのだ。

切削加工ではなくプレスして積層させる

 「そこで、サポインを活用させていただいて、検出対象部材を切削ではなくプレスによってつくり、力覚センサとしての強度、精度は従来のスペックを維持しつつも、コストダウンできる道はないかと模索することにしました」
 岡田代表のいう「サポイン」とは、経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業」のことだ。略してサポイン、Supporting  Industryをもじった造語である。
 ワコーテックでは、高機能ロボットに用いる力覚センサの低価格化と組み込み性の向上を図るために2010(H22)年度のサポインに応募。プレスの技術、ソフト開発などのノウハウを持つ企業に加え、富山県立大学、富山県工業技術センターの協力も得て共同開発に乗り出した次第だ。
 念のため共同開発に乗り出した時点での、同社の力覚センサの現状を記しておくと、サイズ/直径80×H35mm、検出部(ダイアフラム)製作法/切削加工、ダイアフラム部の部品精度/±10μm、価格/19万円。これを今回の共同開発によって、サイズ/直径80×H25mm、ダイアフラム製作法/金属プレス加工、ダイアフラム部の部品精度/±10μm、価格/10万円を目標に。「さらなる改良によって、価格は最終的には半額程度にする希望を持っていました」と岡田代表は振り返るが、ポイントの1つは精密プレスの技術だった。
 検出部(ダイアフラム)の製作法を切削加工からプレス加工にするとは、平たくいうと以下のようになる。
 従来の切削加工では、例えば縦20mm×横30mm×厚さ10mmの金属を削って、設計上必要とされる形にしていた。プレス加工ではこの厚さ10mmを、例えば厚さ2.5mmの金属板4枚を積層させたものととらえ、その1枚ごとにプレスを施して必要な形に整え、それを重ねて検出部をつくろうというのだ。
 積層させても誤差がないようにするには、極めて高度なプレス技術が必要である。また先ほどの例の場合、金属板4枚の積層ではなく、3枚に、あるいは2枚に減ずることができれば、工程数は少なくなり、コストダウンを図ることが可能だ。さらには金属板1枚当たりの厚みを薄くすることができれば、センサの小型化にも結びつく。
 金型の開発には、初期的な投資は必要になってくる。しかしプレス加工ができるようになると、量産が可能になってコストダウンに結びつくのは自明といっていい。ワコーテックがプレス加工による検出部の製作を求めたのにはそういう背景があったのだ。

プレス・接合によって信号出力が改善

ワコーテックの岡田和廣代表。

 同社はまず、連携のパートナー探しから開始。当機構に「高度な精密プレスの基盤技術を持つ企業を紹介して欲しい」と相談があったのは、サポインへの申請前のことだった。機構では、自動車などに使われる軸受け部品をプレス加工で生産しているT社を推薦。大手自動車メーカーに継続的に部品を納めている県内企業で、自動車業界では定評ある部品メーカーだ。
 T社は、ワコーテックの求めに応じて共同研究に参画。精密プレスの技術を用いるといっても、既存の打ち抜き加工では不可能と判断したT社は、打ち抜きを可能にするための金型の開発から始めた。また金型の開発と並行して、金属板の接合についても検討したのである。
 試行錯誤の結果たどり着いたのは、金型は切刃部を面取加工することにより、総せん断に近い状態にすることができ、面取の形状によって総せん断も可能なことがわかった。寸法精度については、当初目的の±10μm以内をクリアすることができた。
 また接合については、(1)部品Aにプレスにより穴をあける、(2)部品Bに押出により突起物をつくる、(3)Aの穴にBの突起をはめ込む、(4)はめ込まれたBの先端をつぶし、Aの穴に展開させる、というプレス加工の特性を生かした接合方法を試したところ、充分な接合力を得ることができた。一方で、銀ロウによる接合からも興味深い結果がもたらされた。この方法では、接合時の高温処理のため部材の表面酸化は激しいものの、信号出力が大きく改善されていて、力覚センサの起歪体構造の組立に非常に有効なことが確認されたのである。

実装を前提としてのシステム開発も

 共同研究では、プレス加工を前提とした力検出部の設計やその回路基板の開発(これらはワコーテック、ワコーが中心)が行われる一方で、センサが産業用ロボットなどに搭載されるにあたっての制御システムの開発も実施。ここではシステム開発で定評のあるC社の協力を仰いだ。
 開発に当たっては、ロボットとパソコンをつなぐためのインターフェースとして、多くのメーカーのロボット制御装置に利用されているTCP/IPを使用することとした。ただしTCP/IPでのプロトコルについては各社で異なっている。そのため、すべてを汎用化することは不可能だった。
 「そこでC社には、個々のメーカーごとに専用のライブラリを開発し、ライブラリを切り替えるだけで対応可能なロボット制御用アプリケーションを開発することをお願いしました。われわれワコーサイドは、センサ用ライブラリを開発し、制御用としてパソコンとの同期性を高めたプロトコルを実装し、最小1msecサンプリングに対応する。あるいは伝送速度を高めたプロトコルも実装し、最小0.15msecサンプリングに対応する。ロボットに対しては100msec以内のデータ転送を行えることなどを目標としました」(岡田代表)
 少し専門的な話になってきたが、1msec(ミリセカンド)とは0.001秒(1,000分の1秒)のこと。この極めて短い時間内で〈センサ入力→制御処理→アクチュエータ出力〉のデータフローを完了させる必要がある。実験では、パソコンとの同期性が高く、制御プログラムでサンプリング周波数を決めることができるようにと、単データ方式が用いられた。
 また初期においては、専用ライブラリを開発することを考えていたが、受信機器、特にLinuxPC等においてはOSの種類が多数あり、主なものに限定したとしてもそれら一つひとつに対応することは費用対効果が小さいことがわかってきた。そこで専用ライブラリ等を使用しなくても済むよう、アプリケーション側での処理で対応できるようにしたのだった。

開発目標はクリア、新たな課題も

今回の開発で実際に製作されたプレス加工製6軸力覚センサの
外観。この内部に積層された検出部がある。

 センサの信頼性評価、実機評価は、富山県工業技術センターや富山県立大学の協力も得て行われた。実機評価はある2社の制御装置で実施。A社の装置では、センサ先端のツールを操作すると、追従してロボットの軸が移動して、センサ荷重の強弱にも反応した。この時の通信サンプリング周期は100msecであり、力覚センサによる荷重制御を利用したダイレクトティーチング動作が実現できたのだった。
 一方B社の制御装置では、同社提供のライブラリの反応が遅いため、制御アプリケーションはデータ送信のみでの検証とし、移動命令を発行するドライバを利用しての検証(通信サンプリング周期は400msec、1回の移動時間は0.5秒ほど)では、ロボットの反応に0.4秒ほどの遅れが出ることがわかった。B社の制御装置の場合は、TCP/IP通信による制御ではなく、ハードワイヤーによるI/0信号で送信する代替案が考えられた。そうすれば通信時間はほぼ0になり、アプリケーション側のデータ送出処理時間は1msecもかからないので、通信サンプリング周期を5msecまで短縮しても、動作可能であることが確認された。
 この共同研究では、初期に掲げた技術目標はクリアできたものの、いくつかの課題も浮かび上がってきた。ロウによる接合は、部材を酸化させるというマイナス面はあったものの、センサの性能と生産性向上に大きな可能性をうかがわせるものだ。OSへの依存を解消し、アプリケーション側での処理を可能にしたことも光明といえるだろう。さらには、ロボットの制御用アプリケーションが有効性を発揮できない場合は、ハードワイヤーによるI/0接続法をとることで、センサの適用範囲を広げることが可能になることがわかった点も収穫であった。
 「力覚センサは従来、産業用機械の分野で利用されてきましたが、小型高性能化、コストダウンが進んできたため、今後は医療や介護、福祉の分野でも応用が進むのではないかと期待されています。われわれの生活の中で、力の制御が必要とされるのは、工場の製造ラインだけでなく、生活の隅々にあります。力覚センサのコストダウンと小型化がさらに進めば、生活の中にロボットがもっと増えるはずです」
 岡田代表らワコーテックのスタッフは、サポインで得られた成果を次のステージに生かすために、プレスする素材の選択も含めて研究を続けているところだ。

[株式会社ワコーテック]
 本社 富山県高岡市二塚322-5 高岡テクノドーム203号
 TEL 0766-24-8011 FAX 0766-29-2371
 URL http://www.wacoh-tech.com/

作成日  2014/02/05

このページのトップに戻る

Copyright (C) 2005-2013 Toyama New Industry Organization.All Rights Reserved.