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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第57回 株式会社グラスキューブ

農業の六次産業化にチャレンジ
まずは素麺の製造・販売から着手

三芝硝材の施工例の一例。JR東京駅地下街の
床に張られたノンスリンプガラス(画像上)
と硝酸カリウム溶液をガラスに浸透させた
化学強化ガラス(画像下)。
自然破損のないガラスとして注目される。

 “ガラス加工メーカーの三芝硝材が、素麺の製造・販売に乗り出した”
 地元の新聞やテレビのニュースヘッドラインに、この趣旨のタイトルが踊ったのは令和元年11月のこと。その報道に接し、「ビルや公共施設、北陸新幹線の窓などに、合わせガラスや曲げガラス等を提供している三芝硝材が、なにゆえ素麺の事業を?」と疑問符をいくつも浮かべた方も多いだろう。編集子もその1人だった。
 そこで取材は、「ガラス加工メーカーがなぜ、素麺の事業に携わるようになったのか」という素朴な疑問を尋ねることから始まった。
 「それは・・・」と答えてくれたのは、三芝硝材の関連会社、合わせガラス等の販売を主な業務とする(株)グラスキューブの稲村誠氏。同社の食品製造部門の責任者を務める取締役だ。その稲村氏が続けた。「・・・三芝硝材の西英夫社長は、かねてより農業の六次産業化に関心を持ち、いずれ何かの事業化に取り組みたいと機会をうかがっていました。そうしたところ、令和元年5月、南砺市利賀村で展開されていた清流素麺の事業が行き詰まり、入札によって売却されるという情報に接したのです。その時、三芝硝材では『応札しよう』と機運が高まり、素麺の製造・販売についてのシミュレーションも行いました」
 清流素麺の製造・販売は、もともとは、市町村合併前の利賀村と利賀森林組合が共同で、昭和58年に始めたもの。加賀藩御用素麺の源流、輪島の「白髪素麺」の技法を汲む手延べ製法で麺をつくり(砺波の大門素麺、氷見のうどんも同様)、数少ない自然乾燥により麺生地の熟成を進め、滑らかでコシの強い素麺を市場に送り出してきた。しかし、競合他社との価格競争をしたため収益が悪化して経営的に行き詰まったのであった。
 三芝硝材では「よい物は高くても売れる。他社との価格競争はしない」と考えて、その引き継ぎを図り、関連会社のグラスキューブで清流素麺の製造・販売を続けることを模索したのだ。

伝統の手延べ製法を受け継ぐ

同社めんめん館における製麺の様子。
手延べで、自然乾燥させているため生地の
熟成が進み、おいしくコシのある麺となっている。

 入札にあたっては、製麺工場の「めんめん館」と製造設備一式、また清流素麺の商標や製法のレシピなどが事業引き継ぎの対象となったものの、従業員の継続雇用については含まれなかった。つまり当初の条件では、素麺づくりの指導を実地で受けることはできなかったのである。
 「でも私たちには、素麺の製造について不安はありませんでした。ものづくりの基本はガラスも素麺も同じ。手順に従って粛々と行うものです。三芝硝材ではクリーンルームでガラスの加工を行い、髪の毛の何分の1のホコリや糸くずが1つでも入ったら不良品となるため、品質管理は徹底し、そのノウハウを持っています。そのエキスパートが清流素麺のレシピを読み込み、品質管理・衛生管理を徹底し、従来以上にクリーンで安全な素麺づくりを実現したのです」
 こう語るのは清流素麺の事業で営業統括を務める中川信長氏。入札は結局2回にわたって行われ、最終的には三芝硝材が落札したのだが、同社の落札が「めんめん館」で働いていたかつての従業員に伝わると、そのほとんどから「素麺づくりに協力したい」という申し出があったそうだ。
 こうして「白髮素麺」の手延べ製法は再び続けられることに。課題は販路開拓だった。特にネックになったのは販売価格。中川氏は「低温風乾燥で4日以上かけて自然乾燥させるという他の産地では行っていない手法を取り入れているため人手が多くかかり、清流素麺はグラム当たりにすると、日本で一番高い素麺かもしれません」というが、同素麺の標準小売価格は648円(税込、2人前、180g)。食品スーパーでは600円を切るくらいの値段をつけているところもあるようだ。
 「グラスキューブが事業を引き継ぎ、従来の販売先との卸価格等の取引条件は、一旦は“ご破算”になり、再交渉となりました。機械製麺、高温風乾燥で急速乾燥をしている他の素麺と比べたら、当社の素麺は2〜3倍の価格になりますが、だからといって原価を無視したディスカウントはせず、『少量でもいいから、おいしいものを食べたい』という中高年を主なターゲットにして販路開拓に努めました」(稲村取締役)

うどん、そばも商品化

素麺に次いで商品化した「清流うどん」(画像上)
と「清流茶そば」の調理例(画像下)。
茶そばには宇治の高級抹茶が使用されている。

  本格的に営業を始めたのは令和2年1月のこと。中川氏らが食品スーパーや道の駅などへの飛び込み営業を繰り返し、また冠婚葬祭の返礼品にと式場や関連の問屋回りも開始。販路は徐々に開けたものの、初期に思い描いたようには進まなかったようだ。
 中川氏が振り返る。
 「素麺の営業には、6月からの2カ月ほどと、11月からの2カ月ほどのピークがあります。それはお中元・お歳暮用に売り込むことで、夏には半年先のお歳暮のため、冬には翌年のお中元のための商戦が繰り広げられるのです。その間に、小売店を開拓していく。当初はそういうことも知らず、『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』みたいな感じで突っ走っていました」
 お歳暮商戦があることを知って、同社では手延べうどん類と、そば類の商品化にも着手。年間を通じて製造や営業の現場を動かそうと、令和2年11月より「清流うどん」「極細清流うどん」「清流利賀そば」「清流茶そば」を相次いで市場に送ったのだ。
 こうして商品のバリエーションがそろってくると、販路開拓がますます重要に。旧知の高岡市商工会の相談員に話を持ちかけると「新世紀産業機構の『首都圏販路開拓支援事業』を活用して販促を試みたらよいのでは」とアドバイスを受けたことを機に、当機構を訪問。その採択を令和3年度に受けて担当の販路開拓マネージャーに相談すると「大都市圏の高級品を扱う食品スーパー等に売り込んでみよう」と話はすぐにまとまったという。

大都市圏の食品スーパー等で販売

輪島の「白髮素麺」の伝統的な製法を引き継ぐ
同社の「清流素麺」。「日本の代表的な素麺の
最高級品と食べ比べていただいても、遜色ない」
と取材に対応してくれた二人は胸を張る。

 販路開拓マネージャーは大手商社OBで、現役時代は各種商品の販売に歩いた営業のプロ。候補に挙げたスーパー等の仕入れ担当の責任者や代表者に紹介状を送るとともに、電話を入れて面談のアポイントをとるなど商談の機会を着々とつくっていったのだ。
 「ビジネスレターの書き方、アポイントの取り方を横で見ていて、『さすが商社で鍛えられたノウハウをお持ちだ』と感心しました。そして実際、販促先の担当者にお会いし、サンプルとして清流素麺をお渡しすると、そのおいしさ・コシの強さを実感していただき、取り扱い品目に加えていただくことができたのです」(中川氏)
 商談が決まったのは、首都圏に拠点を持つ食品スーパーのグループと関西を中心に自然食志向のお店を展開するグループ。「販路開拓マネージャーの指導により、当社単独では極めて難しいと思われる新規開拓が、こうして実現できました」と中川氏は振り返るが、マネージャーの販促アイデアはそれにとどまるものではなかった。
 そのアイデアとは・・・。
 その1つは、ある大手企業の海外駐在員とその家族向けに、本社負担で日本のおいしい食材(清流素麺)を送って、日頃の労苦を慰労しようというもの。また別なアイデアでは、ある大手食品メーカー傘下の貿易商社に、清流素麺をはじめとする同社商品の取り扱いを打診し、「日本の高級麺」として売り出すことを提案。いずれの企画も前向きに検討されているそうで、利賀の素麺が世界で愛される日も近いのかもしれないと希望がふくらんできた。
 取材を振り返って、稲村取締役が付言する。
 「当社にとっては、『素麺やうどん、そばが売れてよかった』で終わりではありません。最初にお話ししたとおり、三芝硝材グループでは農業の六次産業化を目指しています。ですから、いずれは原料の小麦やそばの生産にもチャレンジし、生産・製造・販売の3つを一貫したモデルをつくりたいと思っています。農業の担い手不足が叫ばれて久しいですが、収入が安定しないというのが理由の1つでしょう。六次産業化モデルを完成させることでそれを解消し、地域の農業に希望の種を植えるのがわれわれの夢です」
 当機構には、農商工連携や地域資源活用を支援するメニューもあるが、将来、それらを通してグラスキューブの六次産業化の取組みを支援したいところだ。

連絡先/株式会社グラスキューブ
〒933-0974高岡市岩坪23-2
TEL 0766-75-4573
FAX 0766-28-6001

製麺工場/めんめん館(オンラインショップ)
〒939-2513南砺市利賀村上百瀬153
TEL 0763-77-4008
FAX 0763-77-4123
URL https://menmen-kan.com

作成日  2022/10/26

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