第36回 株式会社スケナリ ものづくり研究開発支援事業、地域資源ファンド事業 TONIO Web情報マガジン 富山

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企業活動には山あり谷あり。谷から脱却し、右肩上がりに導いた経営者のひと言には再起のヒントあり。

第36回 株式会社スケナリ

難加工の特殊鋼で新しい包丁を開発
市場を開く切れ味は、さて……

同社商品の一例「柳刃刺身庖丁」。
純日本鋼本焼・刃渡り360mmで75,000円(税別)。
本職の間では本焼の包丁一式を持つことはステイタスになっている。

 「スケナリ」という社名を聞いて、「包丁の……」とピンとくる方がおいでになれば、その方は本職(つまりはプロの板前さん)、あるいはコレクションなどを通じて刃物について造詣が深くなった方といっていいだろう。同社は、東京の老舗の包丁メーカーで修業した現社長の祖父が、先の大戦で故郷に疎開したのを機に富山で興した会社(当初の社名は「佑成庖丁製作所」)。日本の戦後経済復興の歩みと並行するような形で社歴を刻んできたのだが、「廃業の二文字が頭をよぎったこともあった」(花木信夫社長)という。
 今回はそのスケナリの、刃物産地ではない富山での奮戦記。当機構の支援で、国内のみならず海外のプロの調理人も注目し始めた包丁について紹介しよう。

国内有数の技術を持つ

製造工程を説明しながら、包丁の特徴や市場の変化を語る花木信夫社長。

 東京から移って、富山で店を構えたのは1945(昭和20)年11月。場所は婦中町の長沢だった。併設する工場では、まさしく鍛冶屋のごとく金属を叩く音が響き、後に周辺に住宅が建ち並ぶに及んで、騒音を気兼ねするように。それを理由にした引っ越しは2度に及び、企業団地にある今の本社・工場は3つ目の拠点だ。
 包丁づくりには、大きくわけて3つの工程があり、「鍛冶」「研ぎ」「柄つけ」がそれ。「鍛冶」の中にも鍛造、焼きならし、焼きなまし、生仕上、生砥ぎ、焼入れなどの細かい工程があり、刃物の産地ではそれらが単独、あるいはいくつか集まって工程毎の分業化が進んでいた。「研ぎ」や「柄つけ」も同様だという。
 ところが同社の場合は、創業者が修業した東京の老舗店もそうであったが、一貫生産で包丁を製造。本職用(プロ用)であるため大量生産の必要はなく、結果としてみると、これが同社の“強み”となったのである。
 その強みを少し紹介すると……。
 まずは「本焼」(ほんやき)と呼ばれる包丁をつくることができることだ。これは和包丁の技術の粋を集めたような包丁で、シロガミ1号と呼ばれる刃物鋼によってできる。この鋼(はがね)は極めて硬いため加工が難しく、いわば鍛冶屋泣かせの特殊鋼だ。従って、それを扱うことができる包丁メーカーは全国でも数えるほどしかなく、同社はその1社に指折りされる存在なのだという。
 そしてもう1つの強みは、ZDP189と通称されている新しい鋼を加工するノウハウを蓄積しつつあること。これはある金属会社が開発した特殊鋼で、シロガミ1号よりさらに硬い。その組成は金属メーカーから明らかにされていないため、加工ノウハウもまだ蓄積されておらず、スケナリら一部の本職用包丁メーカーが試行錯誤しながら、包丁への加工を試みているところだ。
 「本焼の包丁は、プロの調理人さんにとって、一種、ステイタスのようなものです。包丁によって料理の味が違うといわれますが、それが実感できる素晴らしい切れ味をしています。そのつくり方は、鋼のムク材を鍛造するところから始まり、鍛造によって硬度が増し、切れ味も格段に上がる。しかし途中の熱処理の温度が数度違うだけで包丁としての用をなさなくなるのです。つまりシロガミ1号は加工技術を習得していないとロスを多く出し、経営を圧迫するようになります。ましてやZDP189は、シロガミ1号より高価で、加工が難しい原料ですから……」
 同社は国内有数の技術を持っていたため、本職用という小さいマーケットながらも確実に市場を確保してきた次第。中京方面や地元北陸を中心に顧客を増やし、切れ味抜群の包丁は多くの本職の方々に支持されてきたのだ。

片言の英語でアメリカの市場開拓に

最近、海外の調理人の間で人気のある
「純日本鋼本焼ガラスキ」(シノギ付(片刃)60,480円(税別)。
シノギ無(両刃)54,000円(税別))。

 ところが、同社の経営を揺るがすような事態が起きた。2008(平成20)年に起きたリーマンショックだ。その前のバブル崩壊の時には「厳しくなってきたな」と思う余裕もあったというが、リーマンショックの際は「いきなり暴風雨のただ中に立たされたようだった」という。
 花木社長が当時を振り返る。
 「景気が悪くなると、旅館や料亭の利用率がすぐに落ちます。するとそのオーナーは合理化を図り、まず板前さんの数を減らす。景気のいい時は若手を育てるために少し多めの人数を抱えていますが、不景気になると最低限必要な人数まで絞ってしまうのです。その結果、本職用の包丁を使う人が激減してしまうのです。また一旦、板場を離れて他の仕事につくと、包丁だけでなく調理技術にもサビがつくらしく、したがって景気がよくなっても、なかなか戻ることができない現実があるのです」
 冒頭に紹介した、「廃業」の二文字うんぬんの花木社長のエピソードは、リーマンショックの後に起きたことだ。この大不況により「売上げの2/3が吹っ飛んだ」という。そこで藁にもすがる思いで取り組んだのは、従来のBtoC(ここでのCは本職の板前さん)の売り方に加え、BtoBすなわち本職用の包丁メーカーや包丁問屋からの要請に応じてのOEM生産に取り組むことと、ホームページを整備して海外のプロの調理人や刃物マニアに同社の商品を知ってもらうよう努めること。ホームページでの市場開拓で主に狙ったのは、アメリカだった。
 といっても、つくったのは日本語版のホームページで、和食が世界的に注目されつつあったため、その道具である包丁も海外のプロの調理人たちに知られ始めているのではないかという期待を込めてのホームページの開設であった。
 「期待したとおりで、アメリカなどからの問い合せが入るようになりました。えっ、英会話ですか?私にはできません。相手が話す『シロガミ……ヤバギバ……スリー』などのキーワードから“シロガミ1号を使った柳刃包丁が3本欲しい”のだろうと推測し、『ワン プライス ニマンエン』などと答えていました。それで通じたようです」(花木社長)
 英文でのメールの問い合せに、「毎度ありがとうございます。英語ができないので……」と返信すると、次回からは日本語での問い合せに変わったという。また初期には「アメリカへの送付方法がわからない」と答えると、「日本の○○運輸のアカウントNo××番まで送って欲しい。その後はアメリカに回るように手配しておくから……」と、同社の事情に合わせての発注や送付法がお客サイドから提案されたようだ。

失敗作の山を築いた後で……

試行錯誤の末に商品化に至ったZDP189和牛刀(ダマスカス)。
左:積層、刃渡り270mmで64,000円(税別)、
右:三層、刃渡り270mmで35,200円(税別)。

 お客側が気を使ってくれるのはありがたいことだが、これらのエピソードは日本の包丁への関心が高かったことを示す好例ともいえるだろう。
 「産地の刃物メーカーも海外市場の開拓には積極的で、組合などの業界団体や行政と連携して組織的に展開していました。それと同じ土俵で戦っても、勝負にならないことはいうまでもありません。そこで当社では産地では難しいこと、つまり量産には向かない高度な技術を用いた包丁に賭けることにしたのです」
 花木社長がいうその高度な技術とは、先にも少し触れたが、加工技術を確立したうえでつくるZDP189による包丁である。従来の開発では、材料費が高いところから二の足を踏むような一面もあったのだが、金融機関から当機構の産業支援のメニューを紹介されたことを縁に、花木社長は「本腰を入れてZDP189の加工技術を確立しよう」と踏み出したのだ。
 海外ニーズに合わせた新素材の包丁を開発するにあたり、まず支援を受けたのは「とやま中小企業チャレンジファンド事業 ものづくり研究開発支援事業」(平成25年度)である。この支援メニューは、新商品や新技術の開発により競争力アップに取り組む中小企業の背中を押そうというもの。この支援を受けて、職人の経験や勘に頼りがちな“鍛冶屋”の世界に、金属工学や冶金学などの技術や知識を導入して、鍛造過程の金属の変化を明らかにすることにしたのだ。特にポイントになる熱処理については、温度の状況を正確に把握しながら、鍛造の実験を繰り返したのであった。
 「まず私は、一つひとつの工程の意味を理解するところから始め、失敗した場合はなぜ失敗したのかの原因を探ることにしました。加工技術のポイントの一つは熱処理にあり、それにより金属に組織変化がもたらされていました。それも段階を経て、より硬い組織に。ただその熱処理も、金属の組成によって適正な温度帯があり、ある組成の場合は標準の温度帯(A度)に±5度、別の組成では標準の温度帯(B度)に±10度というふうに違っていました。加工の段階によっても違います。」(花木社長)
 ここに至るには失敗作の山を築いたそうだ。しかしその分、改良・改善のポイントを多数探し出し、その結果でき上がったのが「ZDP189切付型和牛刀」「ZDP189和牛刀」などの新しい包丁。価格は刃渡りにより若干異なるものの1本6万円前後。最近の為替レートでは1本500ドルくらいというところだ。

目指すはオンリーワンの包丁

ZDP189シリーズやこれから開発する新しい包丁に期待を寄せる
花木社長。

 この包丁の引き合いについては、結構あるそうだが、「1本6万円」と聞いて躊躇される方も多いとか。特に中国、台湾、東南アジアの国々の調理人は「それでは手が出ない」とオーダーにはなかなか進まないのだそうだ。
 そこで花木社長は、素材や製造工程を見直すことにより、特殊鋼でつくった包丁でも1本3万円前後でできないかと考え、当機構の「地域資源ファンド事業」(平成27年度)の採択を受けて特殊素材を使った新しい包丁づくりに再び乗り出したのである。
 「今回も、加工の難易度が高くて、他社が簡単に真似できないような包丁をつくりたい。ベースはあくまでも和包丁ですが、中国、台湾、東南アジアの国々で使っていただくことを想定して、アレンジしていく予定です」と花木社長は意気込みを語り、事業の進め方としては「本年度は開発を進めて商品化のメドをつけ、来年度は販売ルートの開拓に努めたい」と続けるのであった。
 花木社長がここまで他の追随を許さないような包丁づくりにこだわるのには、理由(わけ)がある。以前、加工の難易度が少し高い素材を用いて新しい包丁を開発したところ、量販の包丁メーカーが類似品を出してきたばかりか、低価格路線に走って値崩れを起こしたのだ。その結果、材料費や加工費が出なくなり、その包丁の生産を続けることも難しくなった次第。結局のところ、その包丁の生産は中止したのだった。
 「ですから、目指すべきはオンリーワンの商品づくりです。それも1つ2つだけでなく、新しいものを生み続けていかなければならない」と花木社長は意を決するように語り、「その技術さえ持っていれば、多少の波はあっても生き残れるはず……」と語るのだった。
 ちなみに売上げの方は、リーマンショック前の実績に近づきつつあるものの、まだ少し及ばない様子。売上げの構成比でいうと、以前はほぼ100%板前さんからの直接あるいは間接(つまり販売店経由)のオーダーであったが、昨今はそれが約80%で、その他は海外10%、ネット経由5%、OEM生産5%がおよその比率だという。
 「この比率を、従来の部分は金額的に落とさないよう努力しつつ、その他の新しい部門を伸ばして、その比率を高めてきた」というのが花木社長が当面の目標としていることろ。今後の、市場を切り開いていくに当たっての“支援施策の切れ味”が楽しみなところだ。

連絡先/ 株式会社スケナリ
〒939-2757 富山市婦中町道場536-1
TEL076-465-1122 FAX076-465-1188
URL http://www.sukenari.jp/

作成日  2016/01/06

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