第42回 富美菊酒造株式会社 農商工連携 TONIO Web情報マガジン 富山

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企業にあわせて行ったTONIOの支援をレポート。“敷居”のないことがわかって、毎日相談に行きたくなる!

第42回 富美菊酒造株式会社

品切れになるほど人気が高まったお酒「煌火」
公的支援の効き目もキラキラしているようで

品切れになるほど人気が高くなってきた「羽根
屋 煌火」。取材の時には「まだあります」とい
うことで1本買い求めたが、しばらくすると「欠
品のお詫び」が同社HPに載っていた。

 今回のレポートは飲兵衛の方……、もといアルコール飲料に造詣の深い方には朗報だ。特に日本酒をこよなく愛し、馥郁(ふくいく)たるその香り、味を嗜(たしな)まれる方には、うれしいお知らせとなること請け合いだ。というのも当機構で支援したお酒が、全国の日本酒愛好家の方々に支持されるようになったばかりか、生産が追いつかないほどに。「まぼろしのお酒」というと少し大げさかもしれないが、時々品切れに近い状態になりつつある逸品なのだ。
 そのお酒の名は「羽根屋 煌火」(はねや きらび)。地元の富美菊酒造が、冷え込む日本酒市場にあって失地回復を図って放った渾身の吟醸酒(正確には純米吟醸生原酒)だ。

うまいお酒ができた!

杜氏が二の足を踏んだ下準備を「私がやるから…」と説得して
新酒開発に乗り出した羽根敬喜常務。

 「富美菊」ブランドのお酒を持つ同社が、屋号の「羽根屋」を冠した新ブランドを立ち上げ、高級路線に舵を切ったのにはわけがある。それは昭和49年頃に始まった日本酒離れに起因する売上げの低迷に対して、楔(くさび)を打つためのものだった。
 常務取締役の羽根敬喜さんが振り返る。
 「一時、地酒ブームがあり、回復するかに見えた日本酒の市場も年々小さくなり、従来の大衆酒では差別化を図ることが難しくなりました。そこで遅まきながら当社でも、平成14年頃から本物志向のお酒づくりを試みました。大吟醸と同じ手間を『羽根屋』ブランドのお酒にかけることにしたのです」

酒米の準備の様子。手間のかかる手作業の連続で、
ストップウォッチで吸水時間を計り、目視で微調整し
ていく。

 古参の杜氏(とうじ)は、「手間がかかりすぎる」と初期には首を縦に振らなかったという。その製法とは……。例えば原料となる酒米は、半分近くまで削った後で手作業で限定吸水させる。この時、酒米をザルに小分けしてストップウオッチで計り、秒刻みで吸水具合を調整していく。品評会用のお酒ではこうした手間は珍しいことではないが、「羽根屋」ブランドの市販酒すべてでこれを行おうというのだ。年配の杜氏は「体がもたない」とやんわりと断ってきたそうだ。そこを、「下処理の一番手間のかかるところは私がやりますから、その後の仕込みは最高級品をつくる気持ちで取り組んでほしい」と常務は頭を下げたのだった。
 同社が、新しいお酒の開発に乗り出して数年した時のこと。富山県では地元の風土にあった酒米の開発に以前より取り組み、平成18年にはそのメドがつきつつあった。そこで富山県農業技術センター(当時)や富山県食品研究所(当時)などが、県内の蔵元に富の香と命名された新しい酒米を使ってのお酒の開発を呼びかけたところ、富美菊酒造も含めて5つの蔵元が手を挙げたのだ。
 「新しいお酒づくりには手応えを感じ、古参の職人も納得するものができつつあるところでしたので、さっそく富の香を使って新酒開発に臨みました。うまくいったのは、5社中当社だけでした。その年、台湾への県の物産紹介のイベントに参加したのをご縁に、県の商工労働部や新世紀産業機構の方々の知遇を得、産業育成の支援事業がいくつもあることをうかがいました。そこで、支援を受けて新酒開発と販路拡大に努めたいと思ったのです」

酒米の入手が困難なほど人気に

富美菊酒造の仕込みの様子。
高品質志向の「羽根屋」ブランドの同社のお酒は、
おしみない手間ひまがかけられている。

 羽根常務が関心を持ったのは、当機構の「農商工連携ファンド」だ。平成20年末にその採択を受け、新酒の製法を確立するとともに、全国の酒販店や料亭などに新しいお酒「富の香」のPRに飛び回ることに。その際、常務が留意したのは、新酒のイメージづくり、ブランドづくりであった。
 「展示会にも出展しましたが、力を入れたのは地域のオピニオンリーダーのような酒販店を訪ねることです。料亭も格式のあるお店に的を絞り、「30秒だけ時間をください」と板長にお願いして、試飲していただきました。消費者、つまりお客様に一番近い方々、それも舌の肥えた方々に『富の香』のファンになっていただきたかったのです」(羽根常務)
 大手メーカーならば華々しい広告宣伝を展開するところだが、「富の香」のスタートは地味だった。ところが30秒だけ時間をくれた板長のお店(実は三ツ星の料亭)からオーダーが入るなど、全国の酒販店、料亭などから注目されるように。初年度は1本のタンクで新酒の仕込みを始めたのだが、文字通り倍々ゲームで生産が増え、4年目には8本のタンクが「富の香」の醸造に励むようになったのだ。

オピニオンリーダー的な酒販店や料亭との出会いを
求めて、補助事業を活用して展示会にも出展。

 さてこうして新酒開発が順調に進むと、その噂は同業の蔵元の耳にも入り、俄然注目を集めたのは新しい酒米・富の香。いくつもの蔵元が新酒開発を試み、先を争うように酒米を買い付けるようになったのだ。その結果、富の香の確保が難しくなり、同社では別な酒米(雄山錦)を用い、蓄積した新酒づくりのノウハウを投入した次第。そこで生まれたのが、冒頭に紹介した「煌火」(きらび)だ。
 「酒米が変わると、お酒の味が変わるのではないかと思われるかもしれません。まったく変わらないとはいいませんが、酒づくりには『蔵ぐせ』という言葉があるように、蔵にすむ微生物や使用する水の影響が大きいのです。『煌火』も『富の香』同様に舌の肥えた方々にご愛顧いただいています」(羽根常務)
 同社では平成27年度に入って、展示会出展などを支援する「販路開拓挑戦応援事業」、商社OB等が販路開拓を支援する「中小企業首都圏販路開拓支援事業」の採択を受けて、販売チャネルの拡充に乗り出したところ。「格式の高いお店に、1店でも2店でも多く納めさせていただきたい」と、商社OBと靴の底を減らして営業に回っているところだ。

所在地/富山市百塚134-3
代表者/羽根 昭
資本金/2000万円
従業員/10人
事 業/日本酒の製造・販売
TEL/076-441-5949 FAX/076-442-6048
URL/http://www.fumigiku.co.jp/

作成日  2015/12/25

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