第39回 有限会社西川鉄筋 とやま中小企業チャレンジファンド事業 TONIO Web情報マガジン 富山

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第39回 有限会社西川鉄筋

揺らしてきれいにする風ホウキ
これで経営は揺るぎないものに

まさに“コロンブスの卵”の風ホウキ(幅1.5cm、長さ60cm。布を固定する
プラの部分は3×3cm)。左は扇風機の風(微風)を当てた状態。風圧に
よって布の部分が揺れ、接着表面をこすり、それによって汚れを落とす。

 「トンネルの壁面パネルを自動的にきれいにする用具を開発したのですが、試していただけませんか」
 おそるおそる切り出した西川正勝社長に、国土交通省黒部国道維持出張所の事務官は、こめかみをピクリと動かした。事務官が“1セット何千万円もする機械を買わされる……”と構えたと察した西川社長。「実は、『風ホウキ』と名づけた、こういう布なんです」と幅1.5cm、長さ60cmの布きれを取り出した。
 事務官の目が点になった。その表情の変化から“この布きれでどうして、トンネルの壁面パネルが自動的にきれいになるのだ。おれをからかっているのか”と事務官が考えていると思った西川社長。今度は、「これは個人的に行ったものですが」と前置きして、国道8号線の城山トンネル(富山県朝日町)で、風ホウキ1個をつけて実験した記録映像を見てもらった。
 すると事務官の表情は驚きに変わった。風ホウキをつけたところだけ、半径60cmの円を描いて、白くきれいになっていたからだ。
 国や県、高速道路各社等にとって、トンネル内の明るさを一定に保つために壁面パネルを清掃することは、交通安全上、重要な業務だ。ただ、費用が嵩むため頻繁に行うことができず、簡便な方法が求められつつも、解決策が見いだせない状況が続いていたのだ。そのため西川社長の案件はすぐに所長に取り次がれた次第。さっそくトンネル内10カ所ほどで試すことで話しがまとまり、正式な手続きを経て実験を開始。今から8年ほど前のことだが、「風ホウキ」誕生のきっかけは、さらにさかのぼるという。

困り果てて生活工学研究所へ

「請負だけでは仕事が不安定だから、メーカーとして
アイデア商品を持ちたかった」と開発当初を振り返る
西川正勝社長。

 もともと西川社長は、20年ほど前からトンネルの壁面パネルをきれいにする方法はないかと模索していたのだが、風ホウキの原形を思いついたのは、十数年前のことだ。赤信号で止まった交差点で、隣車線のトラックを見ると、タイヤハウスに付けられたゴムひもがタイヤの側面を掃除して、泥汚れをつけていなかったのである。
 その日から実験が始まった。トンネル内の風ではゴムは重過ぎると判断して、Tシャツ、ストッキング、タオル、ジーンズなどで試してみたのだ。ジーンズは一見、丈夫そうに見えるが、他の繊維同様2カ月もしないうちにほつれ、途中で切れてしまったという。
 「自宅にある繊維製品すべてを使ってみましたが、ダメでした。困り果てて、南砺市にある県の生活工学研究所に相談してみたのです。すると、『自動車の座席に使われているトリコットは丈夫で、ほつれたり切れたりしない』と即答され、地元でそれを織っている企業も紹介していただきました」
 西川社長はさっそく1畳ほど買い求めて、実験を再開。丈夫で軽いトリコットは、車の風圧を受けてパネル壁面を360度たなびき、結果として壁面の汚れを落としてしまったのだ。
 冒頭の、黒部国道維持出張所でのやり取りはその数カ月後のことだが、城山トンネルでの実験は1年続き、トリコット製風ホウキは丈夫なことがわかった。その結果を踏まえて西川社長は特許を出願。承認にはおよそ5年を要したが、この間は本業に追われて、風ホウキは西川社長の頭の片隅に追われてしまった。

事業化の相談は中小企業支援センターで

国道8号線横尾トンネル(朝日町)に取り付けられた風ホウキ。トラックが過ぎた後は特に風圧が強く、真上まで揺れることもある。

 風ホウキが再び社長に強く意識されたのは平成24年11月のこと。5年前に出願した特許が認められたのだ。そして翌5月には黒部国道維持出張所から紹介を受けたトンネルのメンテナンス会社が、「城山トンネルと横尾トンネルに取り付けたい」と約4800本の風ホウキを注文してきたのである。
 こうなると、事業の体制を整えなければならない。生活工学研究所から当中小企業支援センターを紹介された西川社長。さっそくマネージャーに紹介されたK社を訪ね、レーザーによる生地の裁断・穴開け加工を委託したのだった。

同社社屋の壁面に風ホウキを装着した例。布が揺れる部分だ
けアルミパネルはきれいになっている。ソーラーパネルに装着
すれば、表面を除塵することによって発電効率がアップするの
ではないかと期待されている。

 生地を取り付けるためのプラスチックも量産しなければならない。そのためにはまず金型が必要になるが、同社ではとやま中小企業チャレンジファンド事業の助成を受けて、平成25年夏に金型開発に着手。また将来的には、加工機の導入などの設備投資も予想されるところから、ミラサポ(中小企業・小規模事業者の未来をサポートする中小企業庁の委託事業)の採択を受けて専門家の派遣を要請し、経営革新の承認を受けるための準備も進めたのだった(26年3月承認)。
 「おかげで生産のメドは立ちました。一方の販売は、本業がご縁で、建築資材の問屋さんが風ホウキの総代理店になってくださり、また他に3社が代理店として販売したいと手を挙げてくださいました」
 西川社長は、満面の笑みを浮かべて事業化を語るが、当センターでは販売に勢いをつけるために、風ホウキの除塵効果、耐久試験などのデータを取り、国土交通省のNETIS(ネティス/公共事業等における新しい技術を活用するシステム)や富山県のトライアル発注制度に申請するよう勧めているところだ。
 風ホウキは、コロンブスの卵のような用具だ。一目見ると皆うなずき、26年度には、代理店の努力によって全国20のトンネルで実地試験が行われるように。日本中のトンネルで風ホウキが揺れる……、そういう日がくるのが楽しみなところだ。

所在地/富山県下新川郡入善町青木888-3
代表者/西川 正勝
資本金/300万円
従業員/8人
事 業/鉄筋工事請負業
TEL/0765-74-0982 FAX/0765-74-0651
URL/http://kazehouki.co.jp/

作成日  2014/09/22

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