伝統工芸と食を核とした 北陸地域資源活用ネットワーク構築事業  TONIO Web情報マガジン 富山

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伝統工芸と食を核とした 北陸地域資源活用ネットワーク構築事業

キックオフセミナー

伝統工芸や食などの地域資源が豊富な北陸。多種多様な伝統工芸は地域の誇りであり、新鮮な食材と豊かな食文化は、和食の世界無形文化遺産の登録により、国内外から注目されている地域の土台といっていいだろう。これらを有機的に結びつけ、地域経済をさらに活性化するためのプロジェクトがスタートするが、県や国を越えた地域資源の活用や連携事例を紹介することで、今後のさらなる連携の芽を探るためのセミナーが開催された。プロジェクトのキックオフに位置づけられたセミナーの基調講演を、要約してお届けする。

Discover ホクリクのものづくり、食づくり

高橋 俊宏 氏( 株式会社枻出版社「Discover Japan」統括編集長 )

 私は、Discover Japan(ディスカバー・ジャパン)という雑誌の統括編集長を務めています。今月発売のもの(11月号)はKinKi Kidsの堂本剛君を表紙にし、47都道府県ローカル自慢を特集にしています。今日の講演テーマと若干かぶるところもあるようです。雑誌の取材で、北陸にはかなりの頻度で来ています。
 もともと私は、デザイン系の書籍や雑誌の編集をし、建築関係の出版物にも時々携わってきました。ディスカバー・ジャパン創刊のきっかけは、デザインの取材で北欧へ行ったことです。10年ほど前、北欧のデザインがブームになり、シンプルで機能的な北欧のイスなどが人気を博しました。その時、世界的に著名な家具デザイナーのハンス・J・ヴェグナーさんを取材する企画を立て、ヨーロッパへと旅立ちました。当時、ヴェグナーさんは九十数歳。入院されていたので、実際の取材は叶わなかったのですが、奥様にはお会いすることができました。
 お宅を訪ねると奥様は「こんなに遠くまで何をしにきたのか」と尋ねてきました。私は、「デザインの本を編集しており、北欧の素晴らしいデザインを日本に紹介するために来ました」と答えたのですが、奥様は「こちらへいらっしゃい」と招き、お二人の部屋を見せてくれました。部屋には、蓑やぼんぼり、コケシの他に日本の民具がインテリアとして飾られ「あなたの国には素晴らしいものがたくさんあるでしょう」というのです。北欧の国々は第二次大戦後の復興期に非常に苦労をし、物資が不足する中でも豊かなデザインのものをつくろうと参考にしたのが日本のデザインだったというのです。ヴェグナーさんの書棚には、桂離宮の他に日本の民家や文物を紹介した本がたくさん並んでいました。こうした経験をとおして私は、他国のデザインを紹介する前に、日本の素晴らしいデザインを見直したいと思うようになり、これがディスカバー・ジャパンの創刊につながってゆくのです。

いいもの、本物を若い人の視点で

 岡山生まれの私は、小さい頃は父に連れられて美術館等によく行きました。岡山には備前焼があり、また刀剣の産地のため、国宝級の刀もたくさんあります。友達に備前焼のことを語っても、誰も理解してくれず、なぜこのよさがわからないのだろうと子ども心に思った記憶があります。ディスカバー・ジャパンの創刊を企画していた時、そういう幼い時の記憶もよみがえりましたが、若い人たちにも気になるような視点で日本のいいものを紹介したらいいのではないかと思いました。正に、日本再発見です。
 ただ、事業として雑誌をつくるからには、売らなくてはなりません。世の中に雑誌はたくさんあり、ディスカバー・ジャパンの競合誌も多くあります。その中で勝ち残るにはどうしたらいいか。本当にいいもの、本物、上質なものしか扱わないようにしました。そういう専門誌にし、本物をじっくり紹介していくことにしました。
 創刊号は、一番大事な号です。雑誌のコンセプトを表現し、その先の方向性を決めます。私たち編集部は、日本の名旅館を特集することにしました。なぜ名旅館の特集にしたのか……。日本の魅力には工芸や食などさまざまなものがありますが、それが名旅館に凝集されていると思ったからです。部屋のしつらえ、家具の選び方、掛け軸、お花、その土地に根ざした食事。そして、単にサービスという言葉では表現できない、日本独特のおもてなし。これらが体感できるのは名旅館しかないと思ったのです。
 特集は、皆さんもご存じの俵屋旅館をメインにしました。俵屋は、老舗の有名旅館で、当時、もう20年以上、旅行などの雑誌には出ていませんでした。そこを館主の古くからの友人の協力を得て、やっと取材に応じていただきました。創刊号が出た時、「なぜ俵屋が……」と旅行や出版の業界で話題になったものです。
 一般的な雑誌で老舗旅館の特集を組むといっても、ある旅館を1~2ページずつ記事にして、それをいくつかまとめていきますが、私たちは俵屋の紹介だけで12ページを割き、間取り、各部屋のしつらえ、家具・調度品、献立などを事細かに紹介しました。布団のサイズや素材も。またお客様への心づかいのあり方なども取材し、記事にしていきました。
 雑誌づくりには、ものづくりに通じることがあります。私1人で雑誌ができるわけではなく、ライターやカメラマン、あることに詳しい監修者など、多くの人々の協力を得ています。名旅館を特集した創刊号が話題になったのは、いろんな人の協力によって、他誌には組めない特集内容になっていたからだと思っています。

ポテンシャルが高い北陸の食、ものづくり

 ディスカバー・ジャパンでは、北陸の記事も数多く掲載しています。例えばちょうど今発売している号(11月号)では、金沢を取り上げました。実は先月、金沢市が食に関するイベントを東京で実施されたので、それと連動する形で、美食と工芸の切り口で記事を組みました。石川県には九谷焼や輪島塗があり、クオリティの高い器が美食に華を添えています。食材だけでなく、器も地産地消なのです。こうしたところは全国的に見ても珍しく、金沢を美食で旅しようというテーマで12ページにわたって紹介させていただきました。
 富山については今年3月、北陸新幹線開業を控えての富山の食材紹介を行い、福井については昨年の冬に、皇室献上のカニについて取り上げるなどの特集も組んできました。
 先ほど話しに出た九谷焼や輪島塗など、北陸は伝統工芸も豊富です。中でも私が注目しているのは高岡市のクラフトコンペティションです。伝統産業の青年会などが中心になって積極的に取り組み、若手の作家が次々と輩出されています。青年会の意気込みがひしひしと伝わってきます。他の地方の取材に行っていて、高岡クラフトコンペのようなイベントを当市でも企画したいのだが……と相談を受けたこともあります。
 また昨年の6月号では、若手の有望シェフ・高澤義明さんに、富山の食のポテンシャルをプロの目で評価していただこうという企画を組み、ホタルイカ漁の船に乗っていただいた他、南砺市のほうにも足を伸ばしていただきました。その後で、富山の印象を一皿で表現して欲しいとお願いすると、能作さんのスズの器・カゴにホタルイカを入れ、オリイさんの真っ青な銅のプレートの上に置いておられました。富山湾のホタルイカ漁を表現されたそうで、クリエイティブなシェフは器や料理をお出しする空間にもこだわるという一面を拝見しました。高澤シェフは能作さんのカゴは前から知っていたようですが、オリイさんのプレートにはその時初めて出会ったそうで、気に入っておられました。そして早速、ご自身のお店のテーブルの天板を変えるための相談をされ、実際に発注もされていました。
 能作さんは、珍しい方とのコラボレーションもしています。フランスの有名なパティシエ、フレデリック・カッセルさんと共同で、テーブルアクセサリーのセットを開発されました。「カプリス」と名づけられたそれは、スズの曲がる性質を生かしたもので、コーヒーカップなどの飲み口部分にカプリスをかけ、その上にチョコレートなどのスイーツを置くものです。チョコレートには和歌山産の山椒も使われるなど、思いもよらない連携の中から新商品が誕生しています。
 日本のものづくりは海外では高く評価され、その姿勢や素材は非常にリスペクトされています。先ほどのパティシエの例はほんの一例ですが、「何かしたい」と思っているプロは数多くいます。そこをどうやってつないでいくか……。実は私どもはフランス・パリに小さなセレクトショップを持っています。お店の名前は「ディスカバー・ジャパン」。「メゾン・エ・オブジェ」などの展示会がフランスで開かれ、例えば高岡からはKANAYAの方々が出展されて高い評価を得ていますが、日ごろ日本の製品に触れる機会や場所はほとんどありません。そこで、日本の旬のものづくりを普段から見ていただき、触れて、買うことができるようにとセレクトショップをつくった次第です。
 その店長は、パリに19年ほど住んでいる塩川君といいます。塩川君に、この講演会で話すことを伝え、北陸の工芸品の反応を聞きました。そうすると、フランスでは食洗機を使うので食の分野で漆器を伸ばすのは厳しいのではないか、と。ただ漆器に対する関心は非常に高いので、アクセサリーなど他の用途やプロダクトを開発したらいいのでは……と言っていました。能作さんのスズ製品は人気だそうです。金属や陶器など、キラキラ、ツルツルするものはフランスにも昔からあるのですが、マットな質感のものはあまりなく、そういうところで能作さんのスズの器などは人気が高いようです。
 和食の人気もすごいようです。ラーメン店には行列ができ、雨の日でもお客さんは並んで待っているそうです。パリでは寿司とてんぷらから和食が広まったため、和食イコール高級というイメージがあり、また健康的、安全というイメージもあるようです。ラーメンはどちらかというと、健康にいいというイメージで食べられているようです。

シンケンにものづくり

 さて3番目の話題は真剣なコラボレーションです。雑誌がいろんな方の協力でできていることは前述のとおりで、一般的なものづくりでも同じです。今までの経験を生かして、私は仲間と一緒に「シンケン」というものづくりのユニットをつくりました。メンバーは、300年以上続く老舗商店・中川政七商店の中川淳さん、カリスマバイヤーの山田遊さん、ものづくりのプロデューサーの丸若裕俊さん、そして私の4人。このままでは衰退の一途をたどる地場産業を、なんとか元気にしようという意気込みで、コンサルなどを始めました。
 最初の案件は、新潟県の五泉(ごせん)にあるニット製品をつくる会社からの相談。同社はOEMでニット製品を生産し、最盛期には25億円を超える売上げがあったそうですが、近年は5分の1くらいに下がったそうです。このままでは先行きが危ういというので相談がありました。
 まず方向性が決まったのは、自社ブランドの商品をつくろうということ。下請けでは経営は安定しません。しかし独自にニット製品をつくっても、従来の市場では勝ち目はありません。そこで今までにないものをつくろうと話しがまとまり、ニットの技術が生かせる隙間を探しました。そこでひらめいたのがポンチョです。日本には独自のポンチョブランドはなく、アパレルとしてもセレクトシップ向けにも展開できるだろうと考えました。
 ブランド名はmino(ミノ)です。雪国の新潟生まれを紹介しやすいブランド名でしょう。モデルを使って撮影し、ロゴもつくってパンフレットやホームページでのPRも展開しています。商品づくりだけでなく、売り方までデザインしました。
 今の世の中、ものづくりの点では地方も東京も変わりありません。地方の特色を活かした、いいものがたくさん現われることを期待しています。そこでは、北陸の企業の皆さんの間での連携もあれば、東京や海外の企業との連携もあるでしょう。あるいはまた、われわれシンケンがお手伝いさせていただくケースもあります。本物を目指して、クオリティーの高いものを目指して連携していくと、皆さんの活躍の場も広がってくるはずです。
 地方の特色を生かしたいいものができた時、私どもでは雑誌で取り上げて応援したいと思っています。ご静聴ありがとうございました。

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 基調講演のあとステージでは、ソーシャルプロジェクトプロデューサーの林口砂里さんを進行役にして、(株)能作の能作克治社長(富山県)、(株)ヤマト醤油味噌の山本晴一社長(石川県)、(有)龍泉刃物の増谷浩司社長(福井県)、そして基調講演の講師・高橋氏を交えてのパネルディスカッションを開催。3社とも伝統的なものづくりの歴史を持ちながらも、他社との連携の中で地域資源を活かし、世界への挑戦とその実績を紹介していた。
 念のため各社の概要を紹介しておく。

  • (株)能作……富山県高岡市で400年前から伝わる鋳造技術を用いて仏具などを製造。十数年前に、食器の常識を覆すスズ製の「曲がる食器」を生み出し、メゾン・エ・オブジェなどの世界的な生活雑貨の見本市で注目を集め、数々の世界的な企業とのコラボレーションを実現してきた。
  • (株)ヤマト醤油味噌……藩政時代から醸造が盛んな金沢・大野において、1911(明治44)年に創業。以来、しょう油や味噌(国産大豆を用いて杉桶・天然醸造で)を製造してきた。醸造用の蔵には、「キッチンスタジオ」や「発酵食美人食堂」などを併設して事業を拡大しているばかりでなく、海外展開にも力を入れ、アメリカ、フランス、シンガポールなどへも進出。輸出は売上げの2割ほどを占めるまでになった。
  • (有)龍泉刃物……700年前から越前に伝わる鍛造の技術を用いて、1953(昭和28)年に創業。独自の熱処理・刃研ぎ・プレス・溶接の加工技術を取り入れて、ステーキナイフなどのカトラリーのジャンルにも進出。フランスの国際料理コンクールに出場した日本代表のシェフが採用したところ、審査員の1人が切れ味にほれ込んで持ち帰ったため話題をさらった。海外からの注文が一挙に増えている。

 いずれの会社も地域に伝わる伝統の技術に、今日的なニーズを折り込んで商品開発やサービスの拡充に努めた結果、世界に顧客を得るようになった次第。ただ、日の目を見るまでには多くの紆余曲折があり、その克服には数々のコラボレーションがあったと各社のエピソードを紹介しながら、出会いや連携こそが問題解決・発展のカギになると強調していた。

作成日  2014/11/18

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