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夢・情熱・志が集う「とやま起業未来塾」

29年度は21名が修了し新分野にチャレンジ

平成29年度とやま起業未来塾のビジネスプラン発表会で、石井
名誉会長(富山県知事)から最優秀賞を表彰され松田悠さん。

 「私が『とやま起業未来塾』のことを知ったのは、平成29年4月17日でした。私の夫は富山出身で、ある企業に勤める転勤族でしたが、その日に富山へのUターンの決意を私に伝えてきました。そこで私は、かねてからやってみたかった社会貢献の仕事を生まれ故郷の『富山』で、そして自分の手で始めようと思い、それを支援してくれる機関はないものかとネットで探し始めたのです」
 こう振り返るのは、平成29年度とやま起業未来塾(第13期)のビジネスプラン発表会で最優秀賞を受賞した松田悠(まつだ・はるか)さん。松田さんは国際協力や環境教育など社会貢献分野の仕事を経てフリーに。そして仕事が増えてきたある時に取材を受け、それを縁に転勤族のママとたくさん知り合って悩みを聞くうちに、転勤族ママを支える仕組みづくりが必要ではないかと思うようになり、それを富山で実行に移すことを考えたわけだ。


6カ月かけてビジネスプランを磨き上げた

とやま起業未来塾のホームページ。平成29年度で13年目を迎え、
のべ346名の塾生が巣立った。修了した塾生は富山県内各所で
起業や新分野への進出などで活躍している。

 そしてネット検索で探し当てたのが、富山県からの委託のもと当機構が実施している「とやま起業未来塾」。塾の目的を追っていくと、「起業や新分野進出を目指す意欲ある人を支援」して、ビジネスプランのブラッシュアップや起業のためのアドバイスを「実務的・実践的で、きめ細やかにする」と謳っている。松田さんがそのWebページを見つけたのが4月17日。平成29年度塾生募集の締切日であった。さっそく未来塾事務局に電話を入れ、「まだ間に合いますか。これから申込書を記入してメール添付でお送りします」と伝えた。
 書類審査、面接試験を通して松田さんの合格が伝えられたのは5月の初旬。その頃には富山への引っ越の準備も進み、5月20日の開講式の出席を待つばかりになっていた。そして未来塾が開講してからの6カ月間は、原則として毎週土曜日の午後1時から5時30分まで、座学やゼミ形式の講義を受けながらビジネスプランのブラッシュアップを図った。

平成29年度とやま起業未来塾のビジネスプラン発表会での
表彰者とテーマ。

 松田さんのテーマは“転勤族のママたちを手助けしたい”だ。ママたちから聞いていた「転勤族は夢が持てない」「転勤族の奥さんは働き方が選べない」という悩みに、正面から取り組もうとしたのだ(ビジネスプランの概要は後述)。 とやま起業未来塾には、「ものづくり・新伝統産業」「グローバル・全国展開」「商業・サービス業」「コミュニティビジネス」の4コースがある。松田さんは、「私はコミュニティビジネスのコースでしたが、いずれは全国展開も可能だと思っていましたのでその視点からのアドバイスもいただきました。またネットビジネスにも関わっていましたので、この点については新世紀産業機構の『富山県よろず支援拠点』に詳しい方がおいでになり、そちらでも指導していただきました。塾の講師や機構のマネージャーに専門家がたくさんおられて、1カ所で事業運営にまつわるすべてのことについて相談ができ、便利でありがたかったです」と6カ月の講習期間を締めくくるのであった。
 ではここで松田さんが、6カ月間の未来塾を通してブラッシュアップしたビジネスプランを紹介しよう。題して「未来塾から生まれた 富山発・新ビジネス〜転勤族からはじめる“イキイキ働き方改革”。平成29年11月25日の発表会でのプレゼンテーションを元に要約して再現する。


松田さんのビジネスプラン
「転勤族からはじめる“イキイキ働き方改革”」

最優秀賞を受賞した松田悠さんの発表風景。

 私は子どもが生まれた時に、主人が転勤になった時に、働き方を変えてきました。どのタイミングでも自分たちの生活と仕事のバランスを考えてきました。今の日本が抱える課題のひとつに、この働き方の改革があると思われます。企業においても、人を大切にする経営は課題ではないでしょうか。私は皆がイキイキ働き、イキイキ暮らせる……、そんなビジネスを考えています。こうした考えを持つに至ったのは、転勤族のママたちから「転勤族は夢が持てない」「転勤族の奥さんは働き方が選べない」と聞いたからです。私は富山にUターンするまでの14年間は転勤族でしたが、どこの任地でもこういった言葉が聞かれました。転勤族の妻は専業主婦が多く、孤立しがちです。コミュニティにもなかなか入れないケースが多い。私はこれを富山から解決し、暮らしやすい富山、女性が働きやすい富山を実現し、富山県への移住者を増やすことができたらと考えました。
 従業員1,000人以上の企業では、89.8%の方に転居をともなう転勤があります。この人たちは転勤を終え、いつかどこかに定住するので、そのフォローが必要だと考えられます。転勤族には悩みが多く、負担が大きいと答える人は85.8%もいます。中でも30代・40代に悩みが多く、この時期に働き方を変えてしまうケースが多いようです。企業の方でも、30代・40代の中堅社員が仕事を辞めるのは痛手だと思われますから、ここで対策が求められると思います。
 厚生労働省でも転勤族に関する研究会が行われていますが、そこでのフォローアップは転勤する当人がメインでした。私の場合の転勤族の支援は家族も含めた内容にしたいと思っています。
 転勤族がインターネットで調べている検索ワードを調べてみました。「転勤族 将来 不安」「転勤族 妻」「転勤族 妻 寂しい」「転勤族 妻 疲れた」「転勤族 離婚したい」「転勤族 マイホーム」「転勤族 家具買わない」等々です。また転勤族が抱える悩みを調査すると、「将来の悩み」「奥さんの仕事」「自治体の情報が知りたい」というのが主なものでした。
 こうしたところから、情報産業をつくり、人と人とのつながりをつくって、これを会社の福利厚生の一環として導入してもらうのがいいと考えました。転勤族を手助けする仕組みを作り、富山での定住を見据えたネットワークもつくっていくことを考えています。
 現状、どのようにこのビジネスプランが動き始めているのかを説明します。私は現在、ライターやコーディネータの仕事をしている関係からその方面にネットワークがあり、そこから仕事をいただいています。それを、東京都・愛知県・富山県でチームをつくり、転勤族のママ約45人に、分担して仕事をこなしていただいています。ママたちの中からリーダーを選び、チームで仕事をしています。ですから急に子どもに熱が出て……という事態にも対処できます。そこではママたちのコミュニティもできます。現在お仕事をいただいている取引先には、出版社や地域メディア、食品メーカー、行政関係などがあります。


転勤族ママの支援を水平展開することも

転勤族ママを支援するビジネスプランで、松田さんが示した資料
の一部。

 ではここからは転勤族支援のサービスイメージについて申し上げます。まずは情報サイトをつくって、人を集めたいと思います。サイトには、転勤族の様々な情報記事を掲載します。「子供の様子がおかしい! 引っ越しシンドローム?」の記事は、私が出版社の仕事で書かせていただいた記事で、このような記事をベースにし、情報量を増やしていきます。こうした転勤族に特化し、情報を伝えるサイトは現在のところありません。転勤にまつわるこうした情報を載せ、閲覧して気に入っていただいた方を会員として登録するようにし、求人や地域の情報も閲覧できるようにします。求人には先ほどのチーム仕事の他に、派遣会社や人材紹介会社との連携も図り、そこからの情報も掲載するようにしていきます。また企業向けの情報としては、転勤族のママや子供をフォローするために、勤務地周辺の情報はもちろんのこと、小学校や小児科医院などの詳細な地域情報提供も考えています。
 この転勤族を支援するシステムのステイクホルダーとしては、転勤を求める当該企業の他に、転勤やママの働き方を支える団体、ママへの求人企業、広告企業、行政、スポンサー企業などです。転勤企業にシステムを導入していただき、引っ越業者などに広告企業として支援していただくことを考えています。
 このシステムをつくるにあたって、現在3人のスタッフが関わり、平成32年までにはシステム導入企業の拡大を図るとともにスポンサー企業、広告提供企業なども増やし、売上5,500万円と3名の雇用を目標としています。そして平成39年には売上高1億円を目指したいと思っています。
 ママたちへの仕事の提供については、農家とのマッチングという例も実証しています。保育士を引退した地域のおばあちゃんが、転勤族のママの子供を預かって、ママが果物や野菜の収穫のみお手伝いにいくという仕組みができ上がったところがあります。中にはそのまま就農されたママもいます。農家のニーズともマッチングし、喜ばれました。
 転勤族以外にも困っているママたちはたくさんいます。例えば海外駐在員のママや障がいを持つ子を抱えるママ、病気の子を持つママ等々です。転勤族のママを支援するシステムを充実していくと、その他の困っているママを支援するシステムへと広がりを見せることも可能だと思っています。ママだけでなく、多くの家族を支えていきたい、というのが最終的な思いとしてはあります。
 最後に、今や私の転勤族ママとのネットワークは、日本国内のみならず世界にも広がってきました。このネットワークを生かして、転勤族ママを支援するシステムを充実させるとともに、その他への発展も図っていきたいと考えているところです。

塾長、塾頭から激励が……

卒塾生に祝意を伝え、贈る言葉を述べる稲垣塾長
(北陸コカ・コーラボトリング(株)社長)。

 昨年11月末に行われたビジネスプラン発表会では、松田さんも含め未来塾の各コースから2人ずつがエントリーし、続く修了式では未来塾の石井名誉会長(富山県知事)が祝意を表した後で修了証の授与と優秀者の表彰が行われた。
 その後、稲垣晴彦塾長(北陸コカ・コーラボトリング(株)社長)は塾生への贈る言葉として孫子の「五事七計」の「五事(道、天、地、将、法)」を引き合いに出し、こう締めくくった。いわく……。
 「皆さんは未来塾の中で、世の中の状況である『天』の捉え方を学び、そして『地』である自分の強み・弱みを理解し、強みを生かすための仕組み、すなわち『法』について学んできました。残りは『道』と『将』です。『道』というのは、これから戦いにのぞむにあたって、皆がこの戦いは絶対に必要なものだと思わないと勝てないものです。そこで『道』をどうとらえるかですが、これは私たちが人間である以上、欲ではないかと思います。ただ欲にも、例えば“おいしいものを食べたい”“金持ちになりたい”というものと、“皆に幸せになってもらいたい”“社員にもっといい仕事をしてもらいたい”というような欲がある。前者は自分だけの欲ですが、後者は人と分かち合える欲、すなわち配分可能な欲です。私は、配分可能な欲だけを大きくしたらよいとは思いません。配分不可能な個人的な欲、“おいしいものを食べたい”も大切だと思います。問題はそのバランスです。配分可能な欲の方に比重を置き、個人的な自分の欲も原動力として、皆さんには大きく成長していただきたいと願っています。
 そして『将』はリーダーシップです。皆さんのビジネスプランをうかがいましたが、正直なところ厳しいと思います。事業計画はそう簡単に実現されるものではなく、必ずといっていいほど壁にぶつかります。その時の心構えとして大切なのは、「随所(ずいしょ)に主となれば立処(りっしょ)皆真なり」です。これは禅の言葉で、どんな時も自分が主体性を持ち、責任を持つ気持ちでのぞむならば、そこに見えてくるのが真実だというような意味です。リーダーには大切な心構えです」

ベンチャー企業の取材などでキャスターも務める一柳塾頭
((株)一柳アソシエイツ社長)は、「修羅場を経験することも必要」
と激励した。

 一柳良雄塾頭((株)一柳アソシエイツ社長)の激励も、ベンチャー企業をたくさん見てきた経験を踏まえた上ので言葉ゆえに、厳しいながらも優しさに満ちたものだった。
 「皆さんの事業に対する思い、気持ちを聞いていると非常によい。ただ事業は気持ちだけでうまくいくものではありません。失敗を経験し、修羅場も通過しないといけない。大切なのは失敗から学んで、それを生かし続けることです。アメリカのシリコンバレーでは、「失敗してもいいから試してみよう。試し損ねてはいけない」とよくいわれます。先が読めない時代になればなるほど、試して、失敗から学んで、知恵をつけていくことが大事だと思います。……
 塾生の皆さんは若い。若いうちに思いっきり失敗して学んでください。そしてそこから立ち直ってほしい。これは私の口癖ですが「過去と他人は変えられないが、自分と未来は変えられる」。これを念頭において夢・情熱・志を持って、ともに学んだ仲間と連携しながら進んでいくと、新しい世界が開けてくると思います」

動きはじめた転勤族のママ支援

平成29年度とやま起業未来塾の塾生や講師の方々。
13期の今期は21名が修了した。

 修了式が終わると、最優秀賞に輝いた松田さんは地元のマスコミに囲まれて、次々に取材を受けることになったため、後日改めてお話をうかがった。
 松田さんの「最優秀賞受賞」は、地元のマスコミはもちろんのこと、転勤族ママたちのネットワークやSNSを通じて瞬く間に知れ渡り、祝意を伝えてきた友人ばかりでなく、「転勤族ママを支援するシステムづくりに協力したい」と申し出てきた人がいて、その数は10名を超えるという。また富山県のUターン、Iターン、Jターンなどを担当する部署(地域振興課)から連絡を受け、「富山県への移住や転勤族の富山県での定住などで協力していきましょう、と誘いを受けたことは何よりもうれしかった」そうだ。
 こうした賛同者からエネルギーを受けて、10年後の売上高1億円企業を目指して松田さんが取り組んでいることは……。
 「今までお世話になった企業やいろんな団体の方々にご連絡さし上げ、今後さらに協力し合えることがないかとご相談に回っています。『ぜひ一緒にやりたい』と申し出てくれる企業もあり、こうした企業や団体を新たに増やすことが急務だと思っています。また転勤族のママを支援する情報サイトを立ち上げ、内容の充実とアクセス数の増大を図り、転勤族ママとのネットワークを広げていきたいと思います。転勤族ママのチームメンバーからは『松田さん、1歩ずつ進んでいる。すごいね。頑張ろう!』と連絡をいただきました。今の私に必要なのはこの1歩ずつです。大股でぽーん・ぽーんと飛んでいくのではなく、片足は必ず地に着けて、狭い歩幅でも着実に1歩ずつ前に進んでいくことが大事だと思っています」
 さてこの「とやま起業未来塾」は29年度(13期)の21名を含めて、346名が塾を巣立った。独立して新しい会社を興したり、従来の会社で新分野に乗り出す際のリーダーを務めたりと、富山の各界で活躍するようになっている。
 14期生(平成30年度)の募集は、3月末頃に開始予定だ。起業や新分野進出の夢を持っておられる方は是非どうぞ。友人・知人にそうした志を持っておられる方がおいでになられたらお薦めください。

作成日  2018/03/01

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