第51回 株式会社山口久乗 海外バイヤー招へい商談会 中国向けライブコマースを活用した県産品PR事業(令和4年度) 越境ECサイト「ワンドウ」内特設店舗「とやま館」出店(令和5年度)  TONIO Web情報マガジン 富山

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第51回 株式会社山口久乗

仏具のおりんが、インテリア用品に
そして世界の市場へ

山口康多郎社長(写真上)と音楽家・坂本龍一氏が
愛用したと雑誌で紹介された同社の「おともりん」
(写真下)。

 「教授」の愛称で親しまれた音楽家の坂本龍一氏。令和5年3月、不帰の客となってしまった。氏はその1カ月前に刊行された雑誌(『婦人画報』2023年3月号)に、「好きな音は手元に置いて、いつでも聴けるようにしておきたい」と、陶器の笛と音階を持つおりんを挙げておられた。教授はそれを「小さな木箱に入れていつも手の届く場所に置いて」おられたそうだが、そのおりんは今回取材でお話をうかがった(株)山口久乗の「おともりん」だった。
 同社は仏具の製造販売を行う高岡の伝統産業に名を連ねる1社であるが、平成10年頃から、おりんを仏間に閉じ込めるのではなく、生活雑貨あるいはインテリアとして、日常的に楽しむことはできないかと模索。商品開発や販路開拓に勤しんできた。そのうちのひとつが教授の目(耳)にとまり、いつもそばに置かれるようになったものと推測される。
 では同社のおりんは、どのように生活雑貨として親しまれるように変わってきたのか。山口康多郎社長が当時を回想した。
 「おりんを出荷する際、弊社ではすべてのおりんを検音しています。現会長が社長だった25年くらい前でしょうか。検音していて、おりんの音がたいへん心地良く、この素晴らしい音をもっと日常で聞いてはもらえないかと思ったようです。また同じ素材、同じ形でおりんをつくっていても音の高さに違いが生まれることに疑問を持ち、それを解明して、おりんの音で音階ができそうだと着想したところから始まっています。音を調律したおりんで楽器をつくり、演奏会を開いたり、学校のチャイムや、列車の発車音として、日常でおりんの音色を耳にすることになるよう活動しました。さらに日常で音色を楽しんでいただくために、仏具の枠から離れたところでの商品開発を行い、『てのりん』『どありん』『まわりん』などの商品をつくりました。ところが弊社には、仏具の流通経路、仏具の販売ノウハウしかなく、せっかくつくったのに、それらを売る術がなかったのです」

海外バイヤー招へい商談会を機に・・・

海外バイヤー招へい商談会の様子(写真上:令和4年、
写真下:平成30年)。平成30年の手前の商談テーブル
では、山口社長が、タイのデパートの担当者におりん
のPRをしている。

 そこで同社では地元・高岡市や中小企業基盤整備機構の支援を受けて、国内での販路開拓にチャレンジ。観光地の和雑貨店やデパートの催事などで展示販売する機会に恵まれ、おりんが予想外に売れ出したのだ。
 山口社長が続けた。
 「どんな方が弊社のおりんを買われるのか観察すると、意外と外国人観光客が多かったのです。国内の見本市などに出展しても、外国の方から名刺を求められることが増え、後日、片言の日本語で電話をいただくようになりました。海外のバイヤーからのオーダーのほとんどは大きなロットでしたので、『これは海外の市場も考えた方がいいのでは・・・』と思えるようになったのです」
 同社では、当機構が富山県の協力を得て行っている「海外バイヤー招へい商談会」に参加。平成29年、30年、令和4年の商談会ではアジアの国々に拠点を持つバイヤー数社と面談を重ね、一方では高岡市やJETROの支援を受けて、欧米での販路開拓に臨んだのだ。いずれの商談会、見本市でも、通訳が同席するため、そこでのコミュニケーションは十分に取れるのだが、後日のフォロー営業や実際のオーダー対応は「翻訳ソフトを使って英文のメールを訳し、返信は日本語の通信文を英訳して送り、意思の疎通を図った」(山口社長)のだそうだ。
 その成果は・・・。平成29年にはマレーシアのあるデパートとの商談がまとまり、少しずつ出荷が始まったが、コロナ禍の3年を経るうちに、リピートのオーダーが途絶えた様子。翌30年にはタイのあるデパートと商談するもまとまらず、令和4年には繊維や雑貨の輸出入に定評のある商社と面談するも、見送られることとなった。
 ただ、令和4年の商談会には後日談がある。同社は商談会当日、もう1社のバイヤーとの面談を希望していたのだが、希望する社が多く選から漏れてしまった。ところが後日、そのバイヤーから連絡が入って、今では上海に向けて輸出するまでになったという。

中国向けECサイトでは絶好調

中国向けECサイト「ワンドウ」のトップページ(写真上)。
ここで同社の「どありん」(素)、「くまりん」(13)、
「リンセンス」(パラジウム)、「おともりん」(雨晴)は
「とやま館」商品の中の年間売り上げベスト10に入った。
写真下は、中国向けライブコマースで同社商品を
紹介している様子。

ECサイトでの販促でも海外向けでは実績が出つつあるようだ。
 「実はコロナ前まで、弊社ではネット経由での販売については消極的でした。おりんは、音を気に入っていただいて、お買い求めいただくのですが、ネット経由ではマイク、スピーカーを介しますから、音質は落ちてしまいます。それゆえ弊社では、おりんのコンサートやデパートの展示即売会などの日程を事前にホームページでお知らせし、『当日、実際に音を聞いてお買い求めください』とPRしてきました。ところが新型コロナウイルスが蔓延すると、そうも言ってはいられなくなりました。ネット販売でもできるだけ良い音色を伝えられるように、音源や動画など、よりクオリティの高いものを準備しました。ちょうどその頃、伝統的工芸品産業振興協会が、ハンドメイドのアクセサリーやインテリア用品をネット上で販売するCreema(クリーマ)というサイトで、全国の伝統的工芸品を販売することを企画し、弊社も出品してみたのです。するとこれが期間中、全国の伝統的工芸品の中でトップの売上げとなり、“生の音を体感していただかなくても売れる!”と認識を新たにしたのです」
 山口社長は目を輝かせて当時の様子を語ったが、時を合わせたかのように、令和3年から富山県が企画した中国向けECサイト「ワンドウ」の「とやま館」に、商品の出店を募集する案内が届いたのだ(令和5年からは当機構が事務局を担当)。もちろん山口社長は、迷うことなく申し込んだのであった。
 結果は・・・。これまた極めて好調で、この3年間、同社商品は「とやま館」ではトップクラスの売れ行きを確保。「弊社の中堅どころのバイヤーさんと同じくらいの売れ行きがあり、貴重な卸し先に育ちつつあります」と山口社長は語り、「仮に県や新世紀産業機構がこの出店支援を終了したとしても、弊社単独でワンドウ内での販売を続けるつもりです」と続けた。
 同社ではまた、令和4年に当機構が企画した「中国向けライブコマース」にも参加。これは日本のテレビショッピングの販売スタイルをネットを通じて行うもの。双方向の利点を生かして視聴者から商品に関する質問などをチャット等でリアルタイムで受け付け、ライブ中継中に答えながら販促を試みるものだ。令和4年秋に実施したライブコマースでは、先述のECサイトほどには販売は伸びなかったようだが、「今回のライブコマースの視聴者は健康食品やコスメに関心の高い方が多かったらしく、次はインテリア用品に関心のある視聴者が多いライブコマースに参加してみたい」と意欲を示された。

いずれは従業員も海外のバイヤーに対応

道の駅雨晴に設置されている同社の「りん鐘」(写真上、
フレームは含まず)。テネシー州の雑貨店は、
ホームページ上のこの画像を見てオーダーしてきたと
推測される。写真下は人気商品の「どありん」。ドアに
取り付けると開閉のたびに澄んだおりんの音がする。

 こうして海外のバイヤーや消費者に向けて商品情報を発信していると、思わぬオーダーを受けることがあるという。ある時、アメリカ・テネシー州の雑貨店から連絡が入った。「おたくの会社が道の駅雨晴に設置した『りん鐘』(りんしょう)が欲しい」と。その雑貨店は、同社がホームページ上で紹介している「りん鐘」をオーダーしてきたのだ。
 「ご注文いただいたお客様は、YouTube上で紹介している音は聞かれているかもしれませんが、おそらく生の音は聞かれていないと思います。『りん鐘』は無地のもので1つ90万円(税別)。生の音を聞かずに注文してくださるのは私どもには本当に驚きで、情報化がビジネスのあり方を変えつつあるのを実感しています」
 と山口社長はホームページやSNSを活用してのPRの効用を総括した。
 ちなみに海外バイヤー等からの問い合わせメールには、現在は山口社長が一人で翻訳ソフトなどを用いて対応している。
 「翻訳ソフトを使いながら、外国からの問い合わせに応えてきた中で、先方が確認したいことのポイントがわかってきました。商品の素材や製法、決済の方法や手数料はどちらが負担するか、梱包や運送に関すること等々。この勘どころを押さえて、『こういう問い合わせにはこう答える』とパターン化できそうです」と山口社長は語り、次のように続けた。
 「現在、国内のネットショップの顧客対応については、女性の事務員たちが引き継いでくれています。200件ほど顧客対応する中で、ひな形ができたので、それを基に特に専門知識がなくても、普通にネットショッピングやSNSを楽しんでいる職員たちが対応しています。次は、海外からの問い合わせについてもある程度パターンに基づいて引き継ぎしていこうと思っていて、新たに英語力やITスキルのある人材を雇用しなくても、できると考えています」
 DX化が進むと、中小企業が直面している海外とのビジネスのハードルはもっと低くなるのではないか、と期待させられる。

 

○問合せ先
[(公財)富山県新世紀産業機構 アジア経済交流センター]
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321  FAX 076-432-1326
URL https://www.near21.jp

作成日  2024/02/16

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