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第37回 ファインネクス株式会社

視察から始まったベトナムでの展開
実習生受入れ、工場建設、そして…

ファイネクスベトナム有限責任会社の全景。ベトナムの工業団地
VSIP1(ブイシップ・ワン)にあり、2012年11月に創業を開始した。

 ノートパソコンやスマートフォンなどに使用される集積回路(CPU)のPGAピンや精密機器のコネクター用端子で、ファインネクス(株)の世界シェアは高い。それも精密度が高くなればなるほど、シェアも高くなる。
 それほどまでに業界での地歩を確立してきた同社であるが、「以前にも増してアジアの市場が重要になっている」(同社松田竜彦社長)という。
 本稿では緒に就いたファインネクスのベトナム工場についてレポートするとともに、同社のアジアの市場についての展望なども紹介する。

目を見張ったベトナム人の勤勉さ

松田竜彦社長と同社の主力商品のひとつの各種の
端子ピン。

 同社がアジアで初めての拠点を持ったのは1994年のこと。シンガポールで販売会社を立ち上げた。得意先企業が東南アジアに生産拠点を移転し始めたためで、シンガポールからマレーシアやインドネシアへ足を伸ばす可能性も考えていたようだ。もちろん中国での展開も考え、松田社長自ら当機構が主宰する中国での販路拡大の可能性を探る貿易投資商談ミッションに4回(2007年、2009年、2010年、2011年)参加するなどし、ビジネスチャンスの獲得に努めてきた。
 ベトナムに関心を持ったのは2007年であった。その前年、松田登同社会長はベトナム、カンボジアへ視察に出かけ、ベトナムの人々の勤勉さを目の当たりにした。そしてその時の感想を社内で話すうちに、「ベトナムから技能実習生を迎え入れたらよいのではないか」という考えが浮かび、同社経営陣や管理職員10名が現地に飛んだ。
 「会長が話されていたとおりで、視察に行った10名全員がベトナム人の優秀さを実感し、じっくり育てれば、日本のスタッフ同様に精密な仕事もこなせるようになるのではないかと感じたようです」
 松田社長は当時のことを思い出しながら語るが、翌年からの実習生受け入れに向けての準備を進めていた段階では、まだ現地工場設立の構想はなかった。
 2008年5月、ベトナムからの技能実習生(第1期、6名)が同社にやってきた。知識や技術の習得に熱心な彼らは、たちまち日本人スタッフにとけ込み、研修が進むにつれて「将来、ベトナムに工場をつくることができるのではないか」と同社経営陣に思わせるほどに優秀な技能者に育った。
 こうしたことを背景に、2010年、工場設立の可能性と建設候補地を調べるために同社経営陣は再びベトナムへ。いくつもの工業団地を訪ねながら、日本をはじめとする外資系企業の投資の状況について確認した。
 「ご存じのようにベトナムでは、国や省が中心になって広大な工業団地の開発が進められ、多くの外資系企業が現地法人を設立しています。中でもVSIP(ブイシップ)と呼ばれる工業団地は評判がよく、われわれが気に入ったVSIP1の区画はすべて完売しているということでした」(松田社長)

赴任前に海外販路開拓サポートデスクの指導を受ける

海外販路開拓サポートデスクの鹿野マネージャーが、今年3月
15日にファインネクスベトナムを表敬訪問した際の1コマ。
左から戸田晴雄社長、鹿野マネージャー、西谷善弘工場長。

 VSIPは正式には、Vietnam Singapore Industrial Parkという。シンガポールで成功した工業団地運営のノウハウをベトナムでも展開しようというもので、両国政府の合意のもとで1994年から開発が始まった。VSIP1は、このシリーズでは最初に開発された工業団地で、ベトナム第一の商業都市であるホーチミン市に隣接するトゥアン・アン市に立地。ホーチミン市の中心部から車で約45分と、港や空港も近くにあることからアクセスや物流に便利な工業団地である。
 そのVSIP1(約500ha)は1996年に設立されたが、240社あまりがすでに進出を決めており、完売していたが、同社ではVSIP1で何とか土地の入手ができないかと模索した。
 同社の熱意が功を奏したのか、4回目の訪問の際に「休眠会社が所有している土地がある」と教えてもらい、1年近くかけてねばり強く交渉しVSIP1に工場用地を取得することに成功した。
 その間、2011年3月にファインネクスベトナム(有)を設立し、同年末には工場建設の起工式が行われた。
 こうして、ベトナムでの工場建設が実際に動き出すと、現地駐在員が必要になる。同社では、現地法人設立の準備要員として佐伯光一氏(当時、製品技術部課長)を充て、11月に赴任させたが、同氏は赴任前に当機構を訪問。東南アジアで複数の工場を設立している海外販路開拓サポートデスクの鹿野健マネージャー(商社OB、東南アジアのビジネスに詳しい)を訪ね、ベトナムの文化やベトナム人との接し方、ベトナム人の雇用の仕方、創業当初に気をつけなければならないことなど、微に入り細をうがったレクチャーを受けた。

従業員数はスタート時の約3倍に

ベトナム工場の内部(研削グループ)と製品サン
プル。この後徐々に精密度を増した部品や金型
もつくるように。

 ベトナム工場が完成したのは2012年8月。同年11月からの創業に向けて、その数カ月前から人材の募集も始めた。その際、役に立ったのは海外販路開拓サポートデスクのアドバイスだ。まずは日本の企業文化などを理解していて、かつ信頼できるベトナム人スタッフを見いだし、その人物を副社長として遇しながら新聞や雑誌に求人広告を出した。さらに、日本で実習を終えた、あるいは実習中で、工作機械をうまく扱うことができるベトナム人に声をかけ、チームリーダーとして同社のベトナム工場で働くことを打診すると、皆二つ返事で快諾してくれた。
 現役の技能実習生や実習生OBがベトナム工場創業時のスタッフに加わったことの意義は大きく、日本語を話せる彼らが現地日本人スタッフとベナム人スタッフとの意思疎通の架け橋となり、よくあるコミュニケーションギャップによるトラブルなどは起きなかった。
 「ですからベトナム工場の生産は順調でした。ベトナム工場は、当社のグループ会社・ファインネクスマシーン(株)の依頼を受けて、機械部品のパーツなどを製造していますが、依頼数量を上回る生産ができたので、ベトナムでの販売も試みるようなったのです」
 松田社長は、順調に船出したベトナム工場を振り返る。その結果、現地の経営陣は「どこに売るか」という宿題をもらったような形になったわけだが、ここでもベトナム人の副社長や実習生OBが活躍することとなった。

今度はエンジニアの育成を

「MTAベトナム」での同社のブース。展示会への出展をとおして、
事業者別に自転車の色分けがされている。地元企業だけでなく
欧米からベトナムに進出している企業からも注目を集めるように
なった。

 当時、ベトナムには機械加工の日系企業がすでに複数社進出しており、新規参入の同社には厳しい現実があった。
 そこで目をつけたのが、ベトナムで開催される工業見本市だ。それらに出展し、ベトナム資本の地場企業に同社製品を売り込もうとしたのである。ここで副社長や実習生OBらが大活躍したのである。彼らの提案で、ベトナム最大級の工業見本市「MTA VIETNAM」や工作機械などの国際展示会「METALEX VIETNAM」に出展し、販促活動を展開したところ、地場企業からの引き合いが相次いだのだ。売上げは、2014年は前年比240%、2015年も前年比150%と好調で、従業員数も創業時の23名から61名に増え、交代制による24時間のフル稼働が可能になった。
 「当初は、比較的簡単な機械部品だけをつくっていたのですが、徐々に精度の高いミクロン単位の部品や金型までつくることができるようになりました。日本の本社工場のような超精密部品まではまだつくれませんが、それでも充分に他社との差別化を図ることができるようになりました」(松田社長)

ベトナムの大学で、ファインネクスのエンジニア
養成プロジェクトを発表した際の様子と、審査に
合格した5名。このうち2名は2017年末の来日を
目指している。

 ベトナムでは多くの欧米の企業が、精密部品や精密金型を自国からベトナムに輸出していたが、ファインネクスベトナムが精度の高い部品や金型を供給するようになると、同社からの調達に切り替えるようになった。それだけでなく、隣国のタイに進出している電子部品メーカーが、部材の調達先として同社に注目するようになったのだ。
 ご承知のようにASEAN各国では2015年までに加盟各国間の関税を撤廃した。3本の経済回廊(南北回廊(中国・南寧&ベトナム・ハイフォン→ベトナム・ハノイ→中国・昆明→タイ・バンコクの約3,250km))、東西回廊(ベトナム・ダナン→ラオス・コンケン→ミャンマー・モーラミャインの約1,450km))、(南部回廊(タイ・バンコク→カンボジア・プノンペン→ベトナム・ブンタオの約950km))と、それらの回廊から主要都市にのびる高速道路網の整備も進められており、大メコン圏ともいえる巨大な自由市場ができつつある。ファインネクスベトナムの順風満帆な滑り出しには、こうした背景もあるのだが、大メコン圏が現実味を帯びてくると、ベトナムでの第2工場の可能性も出てくるのではないか。この点について松田社長は、「可能性がまったくないわけではありませんが、当社としてはその前に、ワーカーだけではなくエンジニアを育てたいと思っているところで、そのあたりは会長が中心になって進めています」と答え、大要、次のように構想を語った。
 ファインネクス本社社屋の一角に事務局を置く「新アジア友好協同組合」では、組合加盟企業とともに外国人技能実習生の共同受入れや実習生の職業紹介などを、自社はじめ富山県内、石川県内の各企業様向けに行ってきた。
 昨年からは、従来のワーカーレベルの技能実習生の受入れと紹介派遣のみならず、優秀な大学生をスカウトし、エンジニアとして育てることも視野に入れ始めた。その手始めとして、ベトナム工科大学やベトナム師範大学でその構想を発表したところ、多数の学生が会場に訪れ、エントリーの受付も行った。
 審査では学業の優秀さとともに、機械部品の組立や簡単な修理などの実技をとおして、機械に対する基礎知識の有無や手先の器用さなどの確認も行われた。その結果、5名のベトナム人学生が「合格」となり、うち2名は2017年末の来日を目指して日本語会話を目下特訓中だという。
 松田社長が取材を締めくくるように語った。
 「例えば日本でパソコンが壊れたら、大学生はどうするでしょう。工学部の学生でも修理店に持ち込むか、壊れていると思われるブロックを丸ごと交換するケースが多いようです。ところが、ベトナムの工学部の学生の多くは、まず自分で直せないかと試みます。それも、部品一つひとつをチェックし、本当に壊れている箇所の部品だけを交換しようとします。中には、工作機械で必要な部品をつくる学生もいるようです。これができるのは、パソコンの設計そのものを理解しているからですが、彼らをエンジニアとして育てるとどうなるでしょう。
 日本は労働人口の減少が今後も続いていく環境です。彼らベトナム人エンジニアは、きっと頼もしい存在として、私たち日本人と一緒になって業務と使命に貢献してくれることでしょう」
 視察から始まったファインネクスのベトナムへのアプローチは、技能実習生の受入れに発展し、現地工場の建設、エンジニアの育成と裾野を広げてきている。その行く末でどのような花を咲かせるのか楽しみだ。

○問合せ先
(公財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321  FAX 076-432-1326
URL http://www.near21.jp/

作成日  2017/09/21

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