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中小製造業が集積する富山で
全日本製造業コマ大戦とやま特別場所を開催 ~金型メーカー・フジタの挑戦~
コマ大戦の一コマ。コマへの力のかかり方(回転力の移行の仕
方)も勝敗の大きな要因になるようで、回し方の研究も進みつつ
あるとか。
「全日本製造業コマ大戦」をご存じだろうか(以下、本稿では「コマ大戦」と省略)。
かつてのベーゴマでの勝負を、最新の旋盤やマシニングセンターでつくったコマでの対戦として復活したもの、というとわかりやすいだろうか。金属加工一筋に何十年という職人や精密機器をつくるエンジニアが熱狂し、全国大会をはじめとして各地で地方場所が開催されるほか、今年2月には世界大会が開催されるまでになった。
こうした新しいコマ人気を背景にしたのだろうか。日本のものづくりの真髄に迫るNHKの番組「超絶凄ワザ!」では、人工衛星の向きをコマの原理で変えるシステムをつくった大手企業の宇宙エンジニアチームと、手作業で1万分の1ミリの精度を削り出す平均年齢72歳の職人集団が、オリジナルなコマで対決。直径わずかΦ20.00mmの円柱上で回るその姿には、息をつぐのも忘れさせるほど真に迫るものがあった。
その模様は、You Tubeにアップされているため今でも再生されることが多い様子。ちなみに番組での対戦結果は、エンジニアチームのコマは17分55秒あまり回ったのに対し、職人集団のコマは18分56秒と、1分多く回ったのだ。
ものづくりにかかわるエンジニア・職人の中には、コマ大戦の晴れの舞台で自らの“腕”を試したいと思い、研鑽に励む人も増えつつあるようだが、その地方大会である「とやま特別場所」が、「富山県ものづくり総合見本市2015」(4月23日(木)~25日(土))の最終日に、見本市会場(富山産業展示館/富山市体育文化センター)において開催されることとなったのでお知らせしよう。
フジタの梶川貴子社長。同社で最初にコマ大戦
参加の手を挙げたのは29歳と72歳の職人だっ
た。「コマ大戦を通じて技術の伝承ができたの
が収穫」と社長はご満悦。
そもそもコマ大戦は、中小の製造業が元気になることを期待して行われるようになったイベント。横浜のある中小企業の社長が「単純なコマなら旋盤があればつくれる。全国の町工場でコマをつくって対戦したらおもしろい」と、ものづくり企業有志でつくる「心技隊」(技は心とともにありを合言葉に、製造業の経営者が集う会)の会合で漏らしたのが始まりだ。
その話は、まわりの中小製造業の経営者にも広まり、「テクニカルショウヨコハマ2012」で実現されることに。トーナメントの関係で16社の枠を設けたものの、心技隊では当初「10社も集まれば……」と控えめに見ていたそうだ。
ところが口コミで伝わった「第1回全日本製造業コマ大戦」には21社250人がエントリーし、予想外の人気に。その模様はマスコミ各社で報道されたため全国に知られ、特に中小の製造業関係者の間では注目の的になったようだ。
株式会社フジタの梶川貴子社長もコマ大戦に関心を持った1人である。「Yahoo!」のニュースヘッドラインでコマ大戦の記事を読んだ梶川社長は、「おもしろいことをする人もいたものだ」と記憶の片隅に残したのであった。ちなみに同社は、アルミホイールや自動車部品などのアルミ鋳造金型を中心に、プレス金型やブロー成形金型もつくる総合金型メーカー。旋盤やマシニングセンターを所有するため、コマ大戦の仕様に合うコマをつくることはお手のものだった。
こうしてコマ大戦のことが製造業者の間で知られるようになると、今度は「わが町でコマ大戦を!」の声が相次いで上がり、その年の暮までに全国10カ所で地方場所が開催されるまでになった。そのうちの1つが、2012年10月26日に行われた新潟場所であった。
梶川社長が振り返っていう。
「当時は、2008年のリーマンショックの影がまだ残っていました。かねがね、現場に活気をもたらす何かが欲しいと思っていたのですが、コマ大戦がそのきっかけになるかもしれない、と思ったのです。そこで『新潟でコマ大戦の地方場所が計画されているようだけど、参加してみる?』と社員に投げかけてみたのです」
社長のこの呼びかけに、2人の職人が手を挙げた。さっそく参加申込みの手続きをとったのだが、同社ではコマ大戦参加にあたり決めたことがある。まず業務時間内ではコマをつくらないこと。あくまでも通常の業務が優先ということだ。また、旋盤やマシニングセンターなどの機材、そしてコマの材料となる金属は調達も含めて自由に使ってよいこととした。
県内のテレビ局の取材を受ける、同社でコマをつくる職人。「こう
いう経験が社員としての自覚やものづくりの誇りに結びついてい
るのでは…」と梶川社長。今では他の職人もコマづくりに参加し
ているという。
そして迎えた“初土俵”の日。フジタのコマは第1投では競り勝ったものの、2・3投目は惜しくも負けて、対戦者にコマを没収されてしまった(コマ大戦では2連勝した方が勝ち進み、相手方のコマを総取りするルールになっている)。
一回戦敗退が決まった時、「2度目の参加はないだろう」と梶川社長は思ったそうだが、新潟場所への参加は、同社に一粒の種を落とした様子。ただその種は、しばらくは眠ったままだった。
9カ月後の2013年7月、種に刺激を与えるようなことが起こった。県内のあるテレビ局が「富山県内から、コマ大戦に初めて参加した企業」ということで同社の取材に訪れたのだ。それが報道されると、県内でもコマ大戦のことが広く知られるようになったという。
またその頃から、Facebookを通じてコマ大戦に関する情報が増え、人脈も広がり始めた。本業の金型を紹介するための展示会に出展した際、受付テーブルに新潟場所に参加した時のコマを置いておくと、「コマ大戦に参加したことあるのですか。ウチは○○場所に参加して……」と名刺交換の前に話が弾むこともあったようだ。
そしてしばらくして、梶川社長はふと思った。「コマ大戦の富山場所を開催するには、どうしたらいいのか」と。その疑問をFacebook上で投げかけると、信州コマ倶楽部のメンバーから「明日富山に行くので、フジタにも寄ります」とすぐに返事がきたのだ。テレビの取材、Facebookで得た情報や人脈がまさしく恵みの雨のようになり、およそ1年前にまかれた種がこの時、芽生えようとしたのである。
約束通り、信州コマ倶楽部のメンバーが訪ねてきた。そしてコマ大戦の地方開催について語った後で、「年明けの2014年2月に、テレビ信州特別場所を開催するので、お手伝いしてくれませんか。実際に体験した方がわかりやすい」と梶川社長を誘ったのだ。もちろん社長は二つ返事で答えた。
そして特別場所の当日。何十年ぶりの豪雪のため参加メンバーは予定どおり集まらなかったものの、会場は盛り上がった。梶川社長は運営側の裏方を務めていたのだが、「投げ手がいないので、(コマ)投げてください」と突然オファーがあって表舞台に。そこで参加メンバーとの新たな交流も始まり、芽吹いた種がふた葉へと生長を始めたのである。
こうしたことの積み重ねの中で、コマ大戦を縁にしたネットワークは、点から線、線から面へと拡大。同年9月の北名古屋場所に参加した際にはさらに多くの企業と出会い、将来の取引に期待が持てるようにもなったようだ。
これこそ、このイベントを始めたメンバーが目指したところである。コマ大戦では、コマの大きさは直径20.00mm(つまり1円玉の直径)以下。また土俵も、直径250.0mmの大きさしかない。戦いの世界は小さいながらも、大戦を通じてできるネットワークは大きく、それがビジネスに発展する可能性もあるのである。「当社の場合、これからその実績が生まれることを期待していますが、他の企業の間では受発注や新製品開発の関係も生まれているようです」と梶川社長は強調するのだった。
上はコマ大戦初参加時のフジタのコマ。下は同社のコマのバリ
エーション。下の真ん中のコマが、信用金庫の全国大会で3位
になった。
さて、今年4月に開催される「とやま特別場所」だ。
開催地となる富山は、アルミや機械・電機、金型など金属加工が得意な中小企業が集積する地域だけに、従来にもまして激戦が予想されるところだ。
従来のコマ大戦や冒頭の「凄ワザ!」から推測すると、重心が低く、比重が重く、軸が中心にピタリとあってコマが回転してもブレない、そして軸の先の土俵との接点は球面のコマが長く回るようだが、梶川社長は「コマの回し手の技術も影響する」と付言。「勝敗にはコマの回し方の善し悪し、すなわち回転力が半分くらい、あるいはもっと大きな要因になっているかもしれない」と続けた。実際、コマ大戦が全国的に熱気を帯びるにつれ、企業によっては回し手の育成に力を入れ始めているところもあるようだ。
自社でコマをつくり、富山県内からコマ大戦に参加した経験のある企業は、フジタのほかに北名古屋場所に参戦した高岡銅器団地の3社を数えるのみ。これらの参加は十分に予想されるところだが、「とやま特別場所」ではほとんどが初参加になる見通し。経験を生かしてフジタが順当に勝ち進むのか、それとも予想もしていなかった伏兵が現われて優勝の栄冠を手にするのか、全く見当がつかない。
ただ、どのような展開になるにせよ、金属加工が得意な企業が集積する富山で開催され、また国内外から多くの優れた製造業が集う「富山県ものづくり総合見本市2015」の会場内で対戦が繰り広げられるとあって、かつてない盛り上がりになるのではないかと期待されているところだ。
ちなみにコマ大戦には、製造業以外の企業や学生なども金属加工業者とチームを組んで参加することが可能だ。昨年11月のコマ大戦特別場所「信用金庫“イチオシコマ”全国大会in東京ドーム」では、地元の高岡信用金庫がフジタと組んで参戦し、見事3位の栄冠に輝いたという例もある。
今回の「とやま特別場所」は「富山県ものづくり総合見本市2015」の会場(富山産業展示館/富山市体育文化センター)で、会期最終日の4月25日(土)に開催されることは先述のとおりだ。見本市では、工作機械や産業機械、電子・電機、IT、プラスチック、アルミ、繊維、医薬品、化学などの国内外の製品が展示されるほか、各企業がものづくり技術をPRするプレゼンテーション等も予定されており、まさにものづくり企業の祭典となる。こちらの方も合わせてご覧いただきたいところだ。
○問合せ先
(公財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター
所在地 富山市高田527 情報ビル2F
TEL 076-432-1321 FAX 076-432-1326
URL http://www.near21.jp/
作成日 2015/01/28