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研究開発により誕生した新技術・新製品に秘められたイノベーションと、その原動力を探る!

第46回 株式会社 ユーピーディー

独自に超精密加工機、粗加工機開発
“金の卵”が産まれ、海外へも


技術やノウハウを蓄積してきた経緯を語る般若拓也
社長(写真上)と海外の展示会出展例(CIOE中国
国際光電博覧会:令和5年9月)(写真下)。
同社は韓国、台湾、タイ等での展開も図っている。

 今や高校生以上には、“1人1台”の感があるスマホ。そこには、かつての一眼レフに近いカメラ機能が搭載され、生活の様々なシーンを撮って記録に残すだけでなく、SNSに上げて楽しんでおられる方も多い。
 そのカメラに用いられるレンズが、どのようにつくられるのかご存じだろうか。答えは、溶かした樹脂を金型に流し込む射出成型法。直径わずか数mmのレンズ用の金型をつくるとなると、超精密加工が可能な機械が必要となるが、そのマシンの製造を中心に超精密加工機のメンテナンスや部品の製造等を行っているのが今回の取材先、(株)ユーピーディーだ(以下、UPDと表記)。
 カメラの小型化により、レンズも小さくなり、半面、要求される高性能化、高精細化に応えるために、レンズの歪みや微細な凹凸も許されなくなり、それはそのまま金型をつくる加工機にも求められるようになった。
 同社の般若拓也社長によると「加工に求められる精度はナノレベル」、すなわち1/100万mm単位の正確さだという。UPDの設立は平成27年9月。設立からまだ10年に満たない会社が、こうした高度な技術を擁して射水市の郊外に本拠地を構え、大手工作機械メーカーなどとの競合に耐えて、国内のみならずアジアを中心とした海外でも展開しているというから驚きだ。

自社ブランド製品の開発を目指す

「きさげ加工」の様子。機械研磨の模様から微細な
凹凸を判断し、手作業で調整していく(写真上)。
写真下は、超精密非球面金型加工機を調整する
様子。



 創業前、般若社長はある超精密加工機の製造、メンテナンス等を行う企業A社に勤めていた。そこはいわゆる町工場ながらも、大手工作機械メーカーB社の超精密加工部門の仕事を引き受けていた。A社では、B社発注の仕事が大半を占めていたそうだが、B社が超精密加工機の部門から撤退することを決めたのだった。
 般若社長が当時を思い起こす。
 「そうすると今までA社で超精密加工機の製造やメンテナンスに携わってきた人、B社から超精密加工機を購入して各種製品・部品をつくってきた企業は、宙に浮いてしまうわけです。そこで私を含めて4人が集まってUPDを興し、雇用の確保と客先のフォローが継続できるように図ったのです」
 工作機械のワーク部分は、工具の交換やメンテナンスをていねいに行っていくと機械を長期にわたって使うことが可能なため、UPDのような企業が存在することはユーザーにとっては心強いことだろう。ただ問題は、超精密加工機やその部品をつくる、ナノレベルの技術を設計から製作までの業務全般にわたって確保できるかにかかっていた。
 「初期の4人だけですべてをカバーすることはできませんでした。超精密加工といっても、最終的な調整は手作業で行うこともあります。例えば『きさげ加工』では、きさげという工具を使って金属表面のわずかな凹凸を、手作業で削っていきます。それがナノメートル単位の調整。設計や組立でも超精密加工機となると、極めて高度な技術が求められますので、そうした分野は大手工作機械メーカーで超精密加工を担当して定年になった方を招き、指導を仰ぎました」(般若社長)
 こうして若手社員のスキルアップを図りながら、自社製品の開発・販売の機会をうかがってきた同社。スピンドルと呼ばれる微細な研削を実現するための工具の開発に始まり、UPDブランドのマシンの開発を目指した。1号機の「超精密非球面金型加工機」ができたのは、4年前の令和2年のこと。この分野からのB社の撤退により、国内の超精密非球面金型加工機のメーカーは数社にまで減っていたのだが、同社の新機種投入は業界関係者からは注目を浴びることに。国内はもとよりアジアの国々で開催される展示 会に出展した際には、多数の引き合いを受けることになったのだ。


“金の卵”誕生

同社が開発したエアベアリングスピンドルの一例。
モーター駆動ワークスピンドルUPSP4R(写真上)と
エアタービンスピンドルTBSP-01(写真下)。

 そして令和2年度には、当機構の「とやま中小企業チャレンジファンド事業 ものづくり研究開発支援事業」の採択を受けて、「超精密金型加工機械の制御システムの開発」に取り組んだ。
 工作機械には、ワーク部分と制御部分がある。ワーク部分は先述のように工具の交換やメンテナンスをていねいに行っていくと長く使えるが、制御部分は消耗品の部品を多数使っており、7~8年も使うと正常に稼動しなくなるケースが多い。時にはその間に、部品が廃番になって修理できなくなることもあるため、制御システムは買い替えられることになる。同社はその買い替え需要を狙ったのだ。
 般若社長が振り返る。
 「イチから制御システムを開発していたのでは時間がかかりますから、ドイツのある企業の汎用性のある制御システムを購入し、ユーザー各社の実情に合わせてシステムのプログラムをカスタマイズするようにしました。マシン全体を買い替える必要がないので、多数の引き合いをいただきました」
 このコーナーの連載タイトルが「イノベーションが産む金の卵」であることを般若社長に伝えると、「弊社にとってこの開発案件はまさに『金の卵』で、売上増に貢献してくれました」と続けた。
 続く令和3年度には同じ事業の後押しを受けて、「超精密金型加工機用主軸エアベアリングスピンドル内製化開発事業」にチャレンジ。「内製化」をテーマにしているということは、外国製のエアベアリングスピンドルが使われている、ということだがそのあたりの事情を紹介しよう。
 超精密加工機では高精度の加工を維持するために空気による静圧軸受構造をとっている。しかしながら、極めて微細なゴミや加工中の研削液が誤って付着し、スピンドルを劣化させることもある。国内にはこのエアベアリングスピンドルをつくる企業が少なくなりつつあるところから、アメリカ製のものを使う企業が増えてきたのだ。平時であれば、外国製の部品を使うことに問題はないのだが、コロナ禍のように人や物の移動に制限が課せられたり、為替の変動によって修理費や部品代が高ブレしたりした場合などは、修理に要する日数が長くなり、またコストアップにはね返るなどのデメリットが生じる可能性がある。UPDのこの取り組みは、以上のような課題を解決し、国内での超精密加工機の製作やメンテナンスをスムーズに行おうというものだ。
 般若社長が語った。
 「一部、外部の設計業者の協力も得て、弊社製のエアベアリングスピンドルをつくり、単品での販売のほかに、超精密非球面金型加工機に搭載してのセット販売も行っています。性能に関しては、アメリカ製と比較して『同等以上』の評価をいただいていますから、今後、国内やアジアのユーザーに普及していくと期待しています」


「モチベーションが高まります」

開発中の非球面金型粗加工機のイメージ図。仕上げ
加工機より軸の剛性を高くしている。

 同社ではもう一つ、「とやま中小企業チャレンジファンド事業 ものづくり研究開発支援事業」(令和5~6年度)の支援を受けて、「非球面粗加工機向け転がり軸受回転テーブルの開発」に着手。ここでは超精密加工を行う前の粗加工専用機の開発を目指した。
 「仕上げ加工では数ナノメートル、粗加工では数十ナノメートルの研削を行います。しかも粗加工の加工速度は仕上げ加工の数倍。加工時間の短縮を図って生産効率を上げようというわけです。ただそこで留意しないといけないのは、加工速度を上げる、研削量を多くするということは、工具を支える軸にかかる負荷も大きくなるわけですから、この粗加工機の開発では軸の強度アップも図ったわけです」(般若社長)
 開発の進捗状況は・・・。この取材の時点(令和6年2月上旬)では設計が終わり、部品・部材の完成を待っているところ。試作機ができ上がるのは新年度に入って早々のころで、「実機による試験検証を繰り返して、早ければ夏から秋には市場に投入し、“金の卵”になることを期待している」(般若社長)ということだ。
 最後に、公的な産業支援の制度を活用しての技術開発、製品開発のメリットについて般若社長にうかがうと、次のような答えが返ってきた。
 「開発資金を支援していただけるのは、資金に余裕のない中小企業にとってはありがたいことですが、私が最もいいと思うのは、支援に期間があることです。『何年何月までにこの開発テーマを達成する』という明確な目標ができ、担当する社員のモチベーションも高まります。過去にご支援いただいた開発事例を振り返ってみると、それを実感します」
 それが“金の卵”だったらなおよし、ということだろうか。

     
  • 「ものづくり研究開発支援事業」について(令和5年度の募集は終了しました)

株式会社 ユーピーディー
 本社/射水市野手28
 TEL 0766-92-3281
 FAX 0766-92-3282
 URL https://updynasty.com

作成日 2024/03/18

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