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平成19年度産業支援機関連携促進会議  

地域資源を活用して、地域の再生を図ることが注目されています。今回の会議では、地域ブランドづくりの成功事例に学ぶとともに、地元支援機関の取り組み事例、新たな施策などが紹介されました。その概要をお知らせします。

講演 地域ブランドづくりのチャンス到来! 概要はこちら

支援機関発表 中小企業地域資源活用プログラム関連施策 概要はこちら

支援機関発表 食のとやまブランドの推進について 概要はこちら

支援機関発表 富山市新産業支援センターの開設について 概要はこちら

 ■講演 地域ブランドづくりのチャンス到来!
地域資源を活用したビジネス事例と成功のポイント(株)クリエイティブ・ワイズ 代表取締役社長 三宅 曜子

 地産地消といって、“地元のいいものは地元で消費していこう”という運動が盛んです。それだけではなく、地元のいいものを育てて外でも売ろう、という動きがここ4~5年前から多くなってきました。国もそれをサポートして、地域資源を上手に活用して、地域を活性化させていこうと積極的です。
 その際まず意識していただきたいのは、地元では当たり前だと思われているものでも、外ではものすごく珍重される、あるいは素晴らしいものとして高く評価されるものがある、ということ。生産者は毎日目にしていますから気づかないのですが、実はそれが地域資源で、これをブランド化していくと非常に高く売れるのです。


無名の筆が世界のトップブランドに

 実例を挙げながら申し上げましょう。この化粧筆は今でこそ世界のトップブランドとして認められていますが、以前は全く無名でした。広島県の熊野町でつくられています。ここは筆の産地。習字の筆など、全国の80%が熊野で生産されています。しかし小学校では習字の時間がなくなり、また先生方は毛筆で字を書くことを教えることができません。そのため、熊野の筆業界は衰退しました。これでは生き残りができません。伝統工芸品をつくっている地域は、どこでも同じでしょう。でもここで紹介する竹田ブラシは新たな着眼点で、世界のトップブランドにまで上りました。
 竹田ブラシ、資本金は300万円。設立は1947年。従業員12名。家内工業をすこし大きくした会社です。60年前から歌舞伎用の化粧筆をつくってきました。ところが歌舞伎の化粧筆といっても、歌舞伎以外では日本舞踊しか需要がありません。そこで戦後しばらくして、シャネルやクリスチャンディオールなどの、パレットの中に入っている小さい化粧筆をつくり始めました。1本何十円です。メーカーとしての利益は1本何円の世界。これを山のようにつくっても、事業としては成り立っていきません。そこで「きちんとビジネスができるようになりたい」と素晴らしい化粧筆をつくりました。
 この筆には毛先に全くハサミを入れていません。ハサミを入れるとカーブはきれいになりますが、肌に刺激があり、デリケートな女性の肌を傷めてしまうのです。これは、まるでそよ風のような軟らかい感触です。もともと毛筆の伝統工芸の技術ですが、伝統工芸の枠内にいると、規制が厳しく新たなものが生まれにくい。このメーカーは公的な保護は受けられない伝統工芸の枠から離れてでも、化粧筆をつくろうと決断しました。
 これを何とか売りたいと私のところに相談に来られました。1本数千円から1万円以上もする化粧筆の良さを知ってもらうため、欧米のプロのメイクアップアーティストに使ってもらおうと考えました。メイクアップアーティストに無料でセットを配ったのです。プロは道具の素晴らしさ、付加価値の明確な違いはよく理解してます。プロが使うブラシの感触、美しい仕上がりに世界のトップ女優やモデルが大絶賛。「メイクの時の感触が素晴らしい。どこのブラシを使っているのか」と話題になり、モデルや女優さんが口コミでPRしたのです。竹田ブラシは世界に広がり始めました。


カタログをハウツー本的に

 同時に、付加価値の高いものを訴求するために戦略を構築しました。カタログを一人歩きさせるための機能を持たせました。
 小規模事業者には営業担当者がいませんから、カタログが一人歩きすることは大切な要素になってきます。このカタログは、筆ごとの毛の性質、使い方、メイクのテクニック、手入れの仕方など、たぶんお客様はこういうことが知りたいのではないかということを、1本ずつ説明、それを全てカタログに盛り込み、日本語版、英語版を用意しました。従来の化粧品のカタログは、イメージ戦略が中心で、きれいなモデルさんを起用してどれだけ素晴らしいメイクができるかを訴えていましたが、私たちはハウツー本的なカタログに徹しました。それは期待したとおりカタログが一人歩きし、竹田ブラシの化粧筆がこだわりを持つ女性達の間にどんどん広がっていったのです。日本では、海外から話題が逆輸入する形で広まり、老舗の百貨店やコンセプトショップが扱うようになりました。あるデパートでは、ルイヴィトンの横に竹田ブラシのコーナーがあります。
 私はこのメーカーを15年前からサポートしています。1年や2年で世界のトップブランドになったわけではなく、日々よりいいものを作るために努力を重ね、リニューアルしてきました。どういう太さの筆が持ちやすいのか、汚れはどうやったら落ちやすいか、毛質が劣化しないようにするにはどうしたらいいか、できるだけ簡単につくれる方法はないかなどをずっと考え続けています。こんなに小さな工場でも、努力と工夫次第で世界のトップのブランドになれるのです。


1房1万円のぶどうが売れた

 次の事例、これは漂流岡山というITのベンチャー企業の事例です。岡山県は果物の産地として有名です。白桃、ぶどう、マスカット。これらの果物を農家は今までは全部JA に出すしかありませんでした。JAに出荷するとランクが限られてしまい、高くは売れません。でも農家は高く売りたい。全国に売っていきたい。そこで漂流岡山という若い企業が、「ホームページで売っていくことを事業化したい」と、創業当初、地元の支援センターに相談に来られました。
 その時は、生産者を前面に出すやり方にすることを決めました。通常でしたら、商品を前面に出して、価格で勝負する。しかし漂流岡山では農家の人たちをクローズアップすることにこだわりました。
 岡山には、「桃太郎ぶどう」というこだわりのぶどうがあります。皮まで食べることができ、1房数千円から1万円もします。1房1万円のぶどうはJAには出せないし、商品だけではお客さまはぶどう1房に1万円は払ってくれません。そこで生産者がどれだけ思い入れをして、「桃太郎ぶどう」を育てているかをストーリーにして、ホームページに載せました。「岡山果物カタログ」というタイトルのホームページです。 (http://www.hyouryuu.co.jp/
 このホームページで「桃太郎ぶどう」を紹介すると、一般のお客さんから注文が入るばかりか、東京の果物専門店が「当社でも扱わせて欲しい」と申込んできました。ホームページの写真は、漂流岡山の社長が足しげく農家に通って撮っています。農家のおじさん、おばさん、そして若手たちの表情が生きている。果物の生育や生産状況を知り、それをホームページに反映しています。これは昨日、今日でできることではありません。社長が自分で動いて、農家の人たちと一緒になって、作り上げていくやり方が実を結んだのです。

 広島県福山市に、岡本亀太郎本店という安政2年(1855年)創業の会社があります。ここは保命酒といって、養命酒の原点の酒をつくっているメーカー。秘伝の薬草をつけ込んだ薬酒をつくっています。しかし飲みにくく、そのままでは売りにくい。そこで、果物をつけ込んだフルーツ酒にして、女性などに受ける新たな商品づくりを始めました。この保命酒をベースにして、福山の特産の梅やあんずを生かしたフルーツ酒でボトルはしゃれた形の350ミリリットル、女性を対象に的を絞った商品が生まれました。保命酒をベースにしたあんず酒、梅酒にしてから製造が追い付かないほど売れるようになりました。柔軟な頭でテーマを絞った発想の転換が功を奏したのです。
 昔ながらの商品が今の市場に合わないこともあります。それを今の市場に合うようにリニューアルしたのがこの事例です。
 この事例にはまだ続きがあります。店舗は、重要文化財にもなっている醸造元です。あたりには古い街並があり、また近くにはブームになっている大和ミュージアムがあります。観光で来られたお客さんをこの街並に呼んで、散策しながら買い物を楽しんでもらおうと取り組み始めました。これは自分の店1軒だけでは無理です。そこで考えたのが、保命酒を素材にしたケーキ、味噌、羊羹、たい焼きなど、それぞれの店の技術を活かして保命酒を使った商品をつくること。例えるならば、保命酒通りをつくろうということです。そうしたら観光のポイントとしてクローズアップされて、関西からのお客さんが多くなりました。1軒だけの取り組みではマスコミも動いてくれませんが、町全体で取り組んだらマスコミが取り上げてくれて、町の活性化にもつながりました。

  
ブランドづくりに必要な4人衆

 いくつか成功事例をお話しました。この他にも、地元の人が当たり前だと思って注目していなかった資源を生かして、ブランドに育て、会社や地域を活性化した事例はたくさんあります。そこで共通していることは、マーケットインの発想でやっていることです。マーケットインの発想というのは、消費者はどう思っているか、消費者は使いこなしができるか、消費者にこれ面白いね、これ食べたいね、これいいねと思ってもらえるか、これが第一優先です。生産者は往々にして、いいものをつくっているという自負からプロダクトアウトの発想になっていますが、発想を変えないと商品を販売していくことは難しい時代になっています。
 また、地域を活性化させる、ブランドをつくるということは、当事者だけでは無理です。毎日接していますから当たり前になって、違う見方がなかなかできません。活性化、ブランドづくりに必要なのは「4人衆」です。まず1人目は、ばか者です。ばか者というのは、リーダーシップを発揮して、皆を引き連れていくカリスマ性のある人物です。2人目はおせっかい者。おせっかい者というのは細かい部分まできちんとフォローしてくれる人。いってみれば参謀格です。そして次に必要なのは若者、女性です。先ほどの紹介した事例でも、若者や女性が活躍しています。例えば筆の産地の熊野には、筆に関わる100社ほどの小さな会社があります。筆づくりは、全て分業です。軸をつくっている会社は毎日軸をつくっている、また「穂首」といって筆の首をつくっている工場は毎日それを生産しています。毎日、同じことをしていたら仕事に魅力がなく、なかなか若い人が仕事に就いてくれませんし、後継者も育ちにくい環境です。でも、後継者がいなければ、よそから連れてきたらいい。工業系の仕事では、面白いことがきちんと意識できれば、よそから人は来ます。熊野では、例えば1カ月に1日でも2日でも、筆づくりの全工程を1人にさせて、1本の筆をつくらせることも意識しています。また、若い人には商品の宣伝部隊として活動してもらう場面も必要です。そうすると、いわゆる2代目、3代目がいなくても、後継者をよそから入れることができるのです。
 そして最後に必要なのはよそ者です。よそ者が「もの」の良さを認識します。私は広島に会社をつくり、地方で活動していますが、実家は横浜です。広島のあるメーカーがリニューアルする時に、そのコンセプトづくりを依頼されたのがきっかけで広島に拠点を設けました。その時の御縁で、外からの見方でアドバイスして欲しいという企業が次々と現れました。今回は富山県で講演させていただく機会をいただきましたが、富山にもある企業の依頼で毎月のように来ています。どんな企業に行っても、その会社の当たり前、その地域の当たり前にとらわれず冷静な目でみて、いいものを発見できるのがないのが、よそ者のいいところです。
 波のない静かな湖では、何も動きません。そこに小石を投げるだけで波紋がどんどん広がっていきます。地域の資源を活用してビジネスを盛んにするには、新しい目、すこし外れた目で、まずは自分たちのエリアにどんなものがあるかを見つけることから始まります。 (要約・文責編集部)
三宅曜子
(株)クリエイティブ・ワイズ (株)マーケティング・ナビ 代表取締役
マーケティングコンサルタントとして、中小企業支援、商業活性化事業、まちづくり事業等、顧客のニーズを的確に捉えた市場開発と戦略構築等、マーケティング全般のアドバイスを全国各地で実施。一方、消費者心理をベースとした衣・食・住全般の提案を行うライフコーディネーターとして、企業の販売促進企画プデュースをはじめ、新商品開発、広告企画制作、店舗設計、ディスプレイ等、具体的戦略を提供。広島県熊野町の化粧筆を世界的ブランドにプロデュースするなど、地域資源のブランド化を全国各地で手がける。
●中小企業庁地域中小企業政策審議会委員 ●中小企業基盤整備機構アドバイザー ●伝統的産業工芸品産地プロデューサー ●経済産業省地域中小企業サポーター●内閣官房地域活性化伝道師 ●中小企業基盤整備機構地域ブランドアドバイザー 他


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