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平成24年度とやま医薬工連携ネットワークシンポジウム  

平成24年度とやま医薬工連携ネットワークシンポジウム
5月29日(火)、平成24年度とやま医薬工連携ネットワークシンポジウムが開催された(主催/富山県、富山県新世紀産業機構)。シンポジウムでは、福祉用具産業の動向、医療機器産業の動向、そして製薬工場の動向などが、それぞれの専門家を招いて講演され、質疑応答も活発に行われた。このTONIO News では、医療機器産業の動向についてその要約を紹介し、他の講演については写真構成でお知らせする。


医療機器産業の動向と中小企業に期待したいこと
講師:三澤 裕氏
日本医療機器産業連合会 産業戦略委員会 副委員長
日本医療器材工業会 産業戦略委員長
テルモ株式会社 薬事部部長代理・研究開発本部主席研究員

 本日は、日本医療機器産業連合会(医機連)と日本医療器材工業会(医器工)の立場でお話し、テルモの例も少し挙げたいと思います。まず医機連について。医療機器はおよそ30万種類あるといわれています。それを分野ごとにまとめると19になり、その19団体より医機連が構成されています。この中で比較的規模が大きな団体は、医器工、放射線の業界団体・日本画像医療システム工業会、そして心電図などの電子情報技術産業協会です。この他にホームヘルス、眼鏡、歯科、在宅医療関係、衛生医療関係の団体などがあり、医機連には約4900社の企業が加盟しています。  医器工は医療機器関連の中では最大の団体で、正会員240社、準会員37社。加盟企業で日本の医療機器市場のおよそ半分を占めています。
 ではまず「医療に貢献する医療機器」から話を始めましょう。冒頭に申し上げたとおり、約30万種類もの医療機器がありますが、その用途は予防から治療まで広く、また使用場所は家庭から高機能病院までさまざまです。身近なところでは体温計、血圧計。最近は血糖計も出ています。先端的な機器では、在宅用途の酸素濃縮器、ペースメーカー、補助人工心臓などがある。補助人工心臓は体中にポンプを埋め込むものです。
 医療機器の最近のトレンドは「低侵襲」。つまり、いかに傷を小さくして患者さんの生活の質を上げるか、入院期間も短くするか、に向いています。傷が小さく、副作用も少なく、痛みも少ない。そしてお財布に優しいということ。例えば狭心症や心筋梗塞の治療では、以前はバイパス手術が一般的でした。ところが昨今は、手首の動脈から直径1mmくらいのカテーテルを入れて心臓まで送り、治療できるようになっています。場合によっては、日帰りで心臓手術ができるのです。
 脳動脈瘤の治療法も進んできました。脳の中心部に動脈瘤はできやすく、血管がお餅みたいに膨れて、5~10mmくらいの瘤(こぶ)になります。それが破裂して動脈瘤破裂になり、死を招くのです。
 これも従来は、手術で頭を開いて動脈瘤を治療していました。ところが最近は、足のつけ根から1mmくらいの細いカテーテルを入れて動脈瘤のところまで持っていき、動脈瘤が破裂しないよう固める治療が行われるようになりました。この場合の患者さんの身体的な負担は、足に少々太い注射針を刺す程度だけです。


異業種から続々と医療機器産業に参入

 続いて医療機器の市場規模の動向ですが、国内は約2.3兆円、年間の伸びは2.2%で停滞状況です。一方、世界の市場は約24兆円。年間の伸びは4%~6%で、この先もこの伸び率を維持するだろうといわれています。国別の市場規模では、日本(9%)はアメリカ(40%)に次いで2位で、以下、ドイツ(8%)、フランス、イタリア(ともに4%)、イギリス、中国(ともに3%)と続きます。伸びの著しいのは中国で、あと5年くらいで日本の市場を抜くのではないかと見られています。また日本では、医療機器の輸入が進み、輸入比率が50%に近づいているのが現状です。
 先ほど、医療機器は約30万種類あるといいました。どういう機器が伸びているかというと、血管のカテーテル、ペースメーカー、人工関節、等々。これらの伸びが非常に大きい。ただ残念ながら、輸入品の比率が高く、今後もこの傾向が続くと見られています。
 世界にはさまざまな医療機器をつくっている企業があります。2011年、医療機器メーカーで最も売上げの多い企業は、アメリカのJohnson & Johnsonでした。バンドエイドの会社というとピンとくる方が多いと思いますが、Johnson & Johnsonはカテーテルなどの医療機器も販売しています。2番目がGE Healthcare、3番目がSiemens Healthcare、ともに放射線関係の機器をつくっています。そして4番目は、Medrtonic。世界最大のペースメーカーの企業です。日本企業の最高位は、CTやMRIで健闘している15位の東芝メディカルで、オリンパスメディカル(22位)、弊社テルモ(25位)がベスト30に入っています。世界のベスト30の中に、日本企業は3社しか入っていないのが現状です。
 医療機器の市場は、今後も伸びます。日本はすでに高齢社会に入っていますが、先進国の国々も徐々に高齢社会になります。あと20年ほどすると、中国も高齢社会を迎えます。今後新興国が経済的には豊かになってきますので、それらの国では生活の質の向上が求められ、そこで医療がキーワードのひとつに入ってきます。これらの国でも高齢化が進みます。高齢になると当然、病気になる可能性も増えてきて、医療に対するニーズも高まるわけです。
 そのあたりのことは従来の医療機器メーカー以外も着目しています。日本ではソニー、日立電線、帝人、キヤノン、富士フイルムなどの企業が新規参入してきました。インテルやマイクロソフトといったIT企業も本格参入しています。いわゆる医療ITのジャンルで、すでに9兆円の市場があるようです。
 気になるのは、中国、韓国、台湾などの動きです。これらの国では医療機器産業の振興に、国を挙げて取り組んでいます。国主導の下でクラスターをつくり、すごい勢いで医療機器を出しています。イスラエルやオリンパスしか持っていないはずのカプセル内視鏡を、中国も商品化しているのです。そういう高度なものづくりの技術を持っていることは直視しなければいけません。


医療機器産業には中小企業が多い

 ではこれから、医療機器産業に参入するには、どのようなことに気をつけていけばいいのかについてお話しましょう。医療機器は基本的に、多品種少量生産です。少量といえども、精密につくらなければいけません。例えば、整形外科で使われるネジは、一見、ホームセンターで売られているネジと変わりませんが、その機能、材質、精密さから、値段は2桁、3桁違います。ただし開発に非常に時間がかかり、投資回収に長い時間を要します。参入の形態も、部品・部材供給企業、製造のみで販売は外部に委託する、製造から販売まで一貫して行うなど、様々な形態があります。
 医療機器の分野では、アメリカでも日本でも、中小企業が健闘しています。日本の場合、1500社ほどある医療機器関連企業のうち、従業員数1~49人の企業は1000社弱と、2/3近くを占めています。そこで活躍する技術は、機械・金属、電気・電子、微細加工・センサー・コーティングなどの技術、高分子化学や細胞工学、生理学、生化学、薬学など、極めて多岐にわたっています。また医療機器の生産工程には、自動生産ラインがある一方で、最終的な仕上げは手作業のラインに回さなければいけない部分もあります。
 薬事法との関連で参入形態のことを補足しますと、医療機器メーカーや機器の研究開発に取り組む大学に、部品・部材や試作品を供給する場合は、薬事法の適用を受けませんが、最終製品を製造するには、医療機器製造業や医療機器製造販売業の許可を取得する必要があり、専門的な知識やノウハウを持った人材を雇用しなければいけません。また機器の分類上、機器に不具合が生じても人体へのリスクが極めて低い一般医療機器(ハサミや救急絆創膏)では届出のみで、治験・承認は必要としませんが、人体へのリスクが低い管理医療機器(画像診断装置、血圧計、家庭用電気マッサージ器など)では、認証または承認が、リスクが比較的高い・あるいは生命の危険に結びつく恐れのある高度管理医療機器(リスクが比較的高い機器/放射線治療装置、透析器、人工骨など。生命の危険に結びつく可能性ある機器/埋込型心臓ペースメーカー、心臓弁、冠状動脈テストンなど)では、承認が必要で、承認申請にあたり治験が必要になることもあります。
 最終製品をつくる場合は、事業許可や専門家の雇用、治験・承認が必要になり、かつ投資の回収には時間がかかるケースが多いため、医療機器産業への参入には高い壁があるといっていいでしょう。私どもテルモの医療機器の中には、開発から承認を得るまでに15年かかったという製品もあります。
 この壁を理解した上で、医療機器産業への参入を検討される際は、その製品に関連する業界団体に入られることをお勧めします。新しい法令やその変更、または通達については、厚生労働省などの所管官庁から業界団体を通じて周知されることが多く、そこでそういう情報を確認しておかないと、規則が変わったのも知らないで製品をつくり続け、薬事法違反で事業停止に追い込まれるということにもなりかねません。


主に海外での展開も可能

 医療機器の製造にあたって難しいのは、そのニーズをいかに把握するかです。医療機器を、メーカーが患者さんに使用することはありません。患者に使用するのは医師です。医師に使いやすいと感じていただかないといけない。逆にいうと、医師は日ごろの治療や手術の中で、「この医療機器はこうだったらもっと使いやすいのに…」「こうだったら、もっと多くの患者を救えるのに…」と思っているでしょう。そのニーズをいかに拾い上げるかが極めて重要なのです。
 テルモでは、アイデアや試作の段階で、またすでに製品になっているものの改良のために、国内外で専門医との開発検討会を行っています。この開発検討会から新しい技術が誕生しています。
 先ほども申し上げましたように、部品・部材を提供するだけでしたら、医薬品製造業の許可などは必要ありませんので、ここで得意の技術力を発揮することも可能です。昨今はカテーテルでの治療が普及しつつありますが、血管内を通す細い管やワイヤーには様々な日本の技術が生きています。例えば、表面改質技術、コーティング技術、接合技術、精密成型技術、精密研磨技術、微細加工技術や特殊合金を扱うさまざまな技術。いずれも日本の中小企業の得意な分野です。
 みなさんご存じの痛みの少ない注射針ですが、これは岡野工業さんとテルモが開発しました。この針は、先端は細く、根元は少し太い。50ミクロンの厚さの平板を丸めてパイプ状にしています。通常この製法では、丸めた後でエッジ部分を面落としするのですが、岡野工業さんは丸めただけでぴったりするようにしたのです。こういう微細加工は日本企業の得意とするところですから、部品・部材の提供企業として活躍することも可能です。
 中小企業が持っているこうした技術を、日本国内で生かすのか、あるいは海外の医療機器メーカーと提携して、海外で生かすのか。展開の仕方は様々です。例えば、国内で極細ステンレスワイヤー技術を持つ医療機器メーカーが、アメリカの大手企業と提携してガイドワイヤーで業績を伸ばしたことはよく知られています。医療機器ではありませんが、iPodの鏡面仕上げに、新潟県の企業の技術が採用されて話題になったのは、つい先年のことです。日本の経済情勢は元気のない状況が続いていますが、日本の技術に対する海外の評価は極めて高いですから、ジェトロなどの支援を受けて海外展開を試みるのもひとつの選択肢でしょう。


責任は完成品メーカーにあり

 昨今は、グリーン・イノベーションとライフ・イノベーションに追い風が吹いています。医療機器産業については、自民党政権の時からポジショニングができつつあり、民主党政権はそれを引き継いで新成長戦略を打ち出し、その中でライフ・イノベーション戦略を掲げました。そこでは需要創造50兆円、雇用創造284万人が目標とされています。
 では経済産業省の例で、具体的に、どんなことに取り組んでいるのか紹介しましょう。経産省では、医療機器の開発支援、特に中小企業の支援に熱心で、新規参入の際の補助金制度も持っています。また、「課題解決型医療器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携推進事業」といって、医師が持っているニーズを抽出して医療機器にするプロジェクトを進めています。この際の医工連携では、大企業ではなく中小企業が中心となり、開発、臨床評価、実用化まで一貫して支援していきます。
 医療ITによる医療の質の向上、医療の経済性の向上についても、注目を浴びるようになってきました。例えば医療機関がデータを共有しあって、無駄な検査をしないようにすること。大震災後、東北地区でメディカルデータバンクをつくってデータの共有化が行われようとしていますが、今後これが全国に広がるのではないでしょうか。
 新規参入企業のために、PL保険の整備も行なわれています。これは、万一事故があった場合、本業に影響を及ぼしかねないため、なかなか新規参入できない、という声を反映してのものです。最近は少なくなったものの、かつては医療機器への部品・部材の提供を拒否する企業もありました。
 医療機器産業研究所では、PL法施行後の医療機器PL裁判について調べてみました。日本での、医療機器にまつわるPL裁判は4件。同じくアメリカの医療機器PL裁判は、1945年から2009年3月までに877件が確認され、日本とはまったく異なる傾向を示しています。その877件の裁判の中でも、部品・部材供給メーカーが訴えられたのは、わずか20件。そのうち賠償金を払うことになったのは、1件もありませんでした。
 ちなみに医療機器産業界の一般的な考え方は、外部の企業から部品・部材の提供を受けていたとしても、一義的には、医療機器メーカーが全責任を負うというものです。部品・部材選択の責任はあくまでもメーカー側にあります。
 ただ、部品・部材供給企業がまったく責任を負わないかというと、そうでもありません。医療機器のメーカー側は、一定の仕様、性能、品質保証については、カタログ表記や取り交わした仕様書を厳守していただくことを信じており、それを逸脱する際は部品・部材供給企業も、責任を問われる可能性があります。
 医療機器は商品寿命が長く、ものによっては10年以上同じものを使い続けることがあります。テルモでも、同じデザインで20年間販売されている商品があります。そこでお願いしたいのは、部品・部材供給企業として医療機器産業に参入した場合、部品・部材を廃止または品切れ状態にしないことをお願いしたい。部品・部材が変わると、薬事法上の申請手続きを全部やり直さないといけないのです。仮に、部品供給企業がこっそりと部品の仕様を変更した場合、医療機器メーカーは知らないうちに薬事法違反を犯すことになりかねないのです。


医療機器と医薬品の連携も…

 会場の企業の方で、部品・部材から医療機器産業に参入したいと考えられ、まずは医器工の会員企業とのマッチングを望まれる場合、医器工に加入していなくてもマッチングは可能です。それは医器工のホームページにアクセスいただいて、御社の企業情報を登録していただくところから始まります。医器工の会員企業は、新しい製品の開発・製造にあたっては、ノウハウや技術を持っている企業を探すところから始め、医器工のホームページの登録企業も検索対象にしています。そこでこの企業とマッチングしてみたいと思った場合は、担当者がダイレクトに企業に連絡を入れるシステムになっています。このマッチングのシステムは、今年3月から始まりました。医療機器メーカーに部品・部材を供給してみたい、マッチングしてみたいと思われる企業の方はぜひ、このシステムを活用していただければと思います。
 最後に、今、全国に各種の医療機器クラスター会議があります。これらの拠点を活用する一方で、海外に視点を向けることも必要でしょう。国内に閉じこもる必要はまったくありません。また本日のお話の主題ではないため触れていませんが、医療機器と医薬品のコンビネーションは新しいキーワードとして注目されています。地元富山は、医薬品産業が強いと聞いていますので、こういう異分野連携もこれからは必要になるでしょう。皆さんのチャレンジを期待して、私の話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

質疑応答

A氏  お話の中に、手づくりの医療機器が結構あるとありましたが、具体的にどのようなものでしょうか。

三澤  最近のすごく難しい技術のひとつに、血管内超音波検査があります。超音波プローブを、カテーテルを使って血管の中に入れて、超音波を画像化して血管の様子を診断するものですが、直径0.2mm程度の先端に超音波素子を正確につけるのは、ベテランの職人さんの手作業です。1本1本手づくりですが、使い捨てです。

A氏  コストは高いのか?

三澤  公定価格は1本十数万円です。ただこの検査は、バルーンカテーテルとかステントとかの治療有用です。よく血管が詰まるといいますが、コレステロールがグジュグジュな状態で詰まる人もいれば、それが進んで石灰化している人もいる。石灰化しているのにバルーンを使うと血管が裂ける危険性が高いので、超音波で先に診断して、その場合は他の治療法をとります。ちなみにこの超音波プローブは健康保険の対象になります。

B氏  最初、福祉機器だと考えてつくった製品が、ある時、急に医療機器だと判断されて、回収命令が出たことがあると聞いたことがあります。それを決めるのはどこで、いつ決まるのでしょうか。

三澤  これは非常に難しい質問です。例えば、運動を補助する福祉機器としてつくった器具も、「これを使うと痛みがなくなります」といった途端に、医療機器として認定されます。これは薬事法上のことです。単に筋力が上がるとか、動かしやすくなる、でとどまればいいのですが…。

B氏  そうすると宣伝しなければいいのですか。あるいは決してそういわなければ、福祉機器で通るのでしょうか。

三澤  福祉機器の場合、痛みがなくなるという宣伝はできません。ただ表向きはいわないけれど、口コミで広めた場合は、薬事法違反になります。その境目が非常に難しいところです。製品の効能効果を謳おうと思った時は、薬事法上の申請をされるといいでしょう。医療機器かどうかを決めるのは医薬品医療機器総合機構(PMDA)、あるいは厚生労働省です。マッサージチェア、これを健康器具だと思っている方がいるかも知れませんが、医療機器です。同じくマッサージ効果がいわれる低周波治療器も、医療機器です。単に宣伝しないというのではなく、県の薬務課など専門家と相談して間違いがないようにされた方がいいと思います。

   

 「福祉用具産業の動向」について講演される清水壮一氏
 (日本福祉用具産業・生活支援用具協会 専務理事・事務局長)

 「製薬工場の現状と今後求められる製薬・製剤機器」について講演される浅尾敏隆氏
 (大成建設株式会社エンジニアリング本部 ライフサイエンス統括グループ 医療・研究施設グループリーダー、医薬品施設-2グループリーダー)


作成日2012.06.18
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