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とやま産学官交流会2007  

「中国企業のグローバル化と日本の産学官の対応」
今回の「とやま産学官交流会」では、中国の政府機関(国務院発展研究中心)で中国企業の国際化のあり方等を研究、国有企業、外資企業等の行政指導をしている馬淑萍氏を招き、中国企業のグローバル化の様相を紹介していただくとともに、中国政府に「日本企業から学ぶべき」と提言し、中国企業の行政指導に協力してきた清家彰敏氏(富山大学教授)に日中における産学官連携の可能性について講演いただきました。その概要を紹介します。


馬 淑萍
中国国務院発展研究中心企業研究所研究官
富山大学客員教授

 私の講演は二部構成となっています。第一部は中国企業の国際化について、第二部は産官学連携のイノベーションについてです。

中国企業の国際化

 中国企業の海外直接投資額は年々増加しています。2003年は28.5億ドル、2006年は176.3億ドル。しかし、先進国に比べてまだ低い数字です。第11次5カ年計画(2006~2010年)では年間300~500億ドルの海外直接投資が行われると予測されていますが、それを上回る可能性が大きくなってきました。
 売上げ上位500社の約60%は、以前から海外で事業活動を進めていました。国際化率の高い産業においては、海外の売上高が国内を上回っている企業もあります。海外直接投資は、採鉱業、ビジネスサービス業、金融業、交通運輸および倉庫業、卸売・小売業、製造業の6つの産業に集中しています。
 採鉱業の海外直接投資の目的は、主に国内のエネルギーや資源の内需を満たすためです。金融業、交通運輸・倉庫業、卸売・小売業の海外直接投資は、製造業などの海外貿易の支援サービス拠点網づくりを目的としています。前者は内需、後者は貿易のためで、企業の競争力が高くなった結果として外資企業を凌駕し、海外へ進出したわけではありません。中国企業の国際化は、国内の経済活動の必要性から行われているものが多いのです。
 確かに中国企業の海外直接投資は、非常に速いスピードで増加しています。しかし必ずしも国際競争力が高くなっているわけではありません。製造業の対外直接投資の比率はまだ低く、今の段階では6.5%です。
 政府は企業の海外直接投資を奨励し、最近、外国為替投資会社も設立されました。企業においては中国独自技術と独自ブランドの開発が課題です。以下、具体的な企業を紹介します。


IT電子、機械電子産業はグローバル経営へ

 中国家電の王者といわれる海爾社は、海外の売上高がすでに国内を上回りました。研究開発の拠点も海外に7つ(欧州4、米国2、イスラエル1)あり、日本と韓国にも研究開発拠点を設立する予定で、中央政府の許可が最近おりました。
 胡錦濤国家主席は第17回共産党大会において、「中国企業国際化」の戦略方針を決定しました。それは“海外投資と合作方式を革新し、企業が研究開発、生産、販売などの面において国際化経営を行うことを支援し、中国発のグローバル企業と世界的な有名ブランドを育成することを加速する”というものです。この戦略方針の決定により、中国企業の国際化はますます進展すると思われます。
 中国企業の海外経営のレベルは、産業によって差があります。企業の海外経営の発展段階を、海外売上高や世界における経営資源の配置、企業理念などの指標によって、国際経営、多国籍経営、グローバル経営の3段階に分けてみましょう。
 海外経営の第1段階を国際経営段階と呼びますが、この段階にある企業が最も多いといえます。第2段階の多国籍経営段階にある企業は、海外に対して比較優位で、競争力が強い産業に属しています。
 中国の IT電子、機械電子産業の大手企業は、海外売上比率、拠点数、活動水準の高さから判断して、すでに第3段階のグローバル経営段階に入りました。しかし組織、制度の水準、世界的な資源の運用能力などの面から判断して、これらの企業はグローバル経営としてはまだ初期段階といってもいいでしょう。


なぜ中国企業は世界を目指すか

 ではなぜ、中国企業は国際化するのか。その理由は中国経済がグローバル経済にいやおうなく組み込まれていく現状にあります。中国の対外開放によって、大量の物質、資金、人材、情報の交流が起こり、国境を超えた巨大な需要が発生し、中国企業の海外投資、施設・サービスネットワークづくりが促進されました。
 2001年末にWTOに加盟したことも国際化を進める大きな要因となりました。中国政府は海外投資を奨励し、WTOに加盟してからは法制度も漸進的に規制緩和の方向に転換しました。この結果、投資の審査許可の簡略化、政策の透明度の向上、審査過程の定型化、政府関係部門による対外直接投資の支援政策および措置の実施などが行われ、国際化が促進されました。


自動車関連で 5件のM&A

  中国企業の国際化は海外で上場し、M&Aを展開する形態が主なモデルとなっています。2006年、中国企業はM&Aの方式で82.5億ドルの海外直接投資を行いました。これは当時の海外直接投資額の39%を占めています。M&Aは主にエネルギー・資源、電気通信、家電、石油化学工業、紡織、自動車関連に集中しています。1999年から2005年に、自動車関連で5件のM&Aがありました。代表的なものは、万向集団がUAI(米国のブレーキメーカー)を買収し(2001年)、上海汽車(汽車=自動車)が韓国の大手自動車メーカー・双龍自動車を買収しました(2004年)。
 中国企業は先進国だけでM&Aを展開しているわけではありません。中進国や途上国も重視しており、マレーシア、イラン、韓国など多数の国・地域でも実施しています。M&Aを通じて、海外企業の技術・資源を自社のコア技術とし、グローバルブランドを育成することを目標にしています。
 しかし、海外でのM&Aの目的は産業によって異なります。グローバル化が進んだIT電子、家電産業に属する企業のM&Aは、市場競争、効率向上、戦略資源獲得を目的とするモデルです。
 石油化学工業と鉄鋼業においては、国内市場に大きな成長の余地があり、リーダー企業(宝山鉄鋼や中国石化)と国際先進企業との技術的な開きはあるものの、中核技術が世界的に成熟しているので、企業の総合的な実力の開きはそれほど大きくはないため、海外よりは国内市場を志向しています。機械・電力事業では、技術、ブランド、販売チャネルの獲得を目指してM&Aを行い、内外の市場の両方をターゲットとしています。


問題点と提案

 ここまで中国企業の国際化について述べてきましたが、問題点もあり、私たちシンクタンクは中国政府に対し、次のような提案をしてきました。
 まずひとつは、政策により海外投資を行いやすくする環境づくりを進めることです。例えば、海外投資の管理システムの整備、海外投資計画の作成、海外投資産業へのガイドライン作成などがあります。
 また、金融政策の整備を進めることも重要です。外国為替市場の整備、外貨規制の緩和、中国金融機関の海外拠点の設立を促進する施策の実施などがあります。
 もうひとつは、企業の体制の強化です。まず、国際化戦略を明確に打ち出す必要があります。国際経営のモデルは企業の実態と結びつかなくてはならないので、企業の発展段階に応じた国際化モデルの選択が大事です。
 また、事前準備も重要です。中国の大手企業のTCLなど、成功した企業では、最初は人材育成を重視し、相手国の法律・文化・国の事情などを良く理解した上で国際化を進めていきました。


中国産官学連携によるイノベーション

 次に、中国の産官学連携によるイノベーションについて、中関村産業連盟を例にお話します。中国政府は第10次5カ年計画(2001~2005年)で、イノベーション型国家の建設を戦略目標として打ち出しました。いわゆるハイテクパークの発展を通じて、自主的なイノベーションを奨励・支持し、イノベーション型国家建設を重要課題としてきたのです。
 中関村地域の企業数は、すでに18,000社になりました。その大部分は中小企業、民間企業、ハイテク企業です。またこの地域には中国の代表的な大学、北京大学や清華大学などが68校あり、中国科学院などの国家レベルの科学研究機関が270カ所、国家レベルの技術センターが13カ所、その他グローバル企業、多国籍企業の研究センターが65カ所あります。これらのイノベーションの構成主体は、相互のネットワークもつくっています。2006年末の統計によりますと、すでに20以上の産業連盟(=業界団体)ができました。
 産業連盟ができた背景にはいくつかの要因があります。まず業界内のトップ企業が、技術標準、知的所有権の圧力に直面した、ということがあります。また、大企業といってもまだ規模は小さく、巨大化・高度化する技術開発の挑戦に1社のみの技術資源では対応できず、共同でイノベーションを行う必要性があること、研究成果の商品化率が10%に達していないことなど、企業の直面している問題の解決のために産業連盟が形成されました。


「官」がつくり「産」が実行する

 中関村の産業連盟は、製品の市場化を推進する、産業チェーンを構築する、技術標準を制定・普及する、技術を共同開発する、業界のルールを確立・普及させる、などの目的を持っています。連盟の参加者は全国あるいは北京のトップ企業と研究機関です。連盟への参加の動機には3つあり、連盟を通じて政府の支持を獲得したい、共同研究で交流して自身のレベルを上げたい、そして新しい産業分野に入るチャンスを得たい、などがあります。
 連盟の経費は、4つの出所があり、政府の出資、会費、リーダー企業あるいは会員企業の提供、そして商業収入によって賄われています。
 産業連盟の形成段階では政府が主導的な役割を果たしますが、実行段階に入ると企業がリーダーシップを発揮し、政府は直接、関与しません。また産業連盟は大部分がNPOですが、一部は株式会社の形をとっています。これら産業連盟は、テーマによって地域レベル、全国レベルで結成され、一部は海外の企業とも連携しています。
 最後に成功した産業連盟の事例を申し上げます。それはIGRS(閃聯連盟)です。IGRSは中国標準の3G移動通信システムの情報共有化、設備の共有化、共同開発を主な目的に設立されました。
 IGRSは業界の技術標準をつくり、数千の知的所有権を保有しています。加盟している企業は20種以上の製品を開発し、ノートパソコンやテレビが世界市場に輸出されています。
 IGRSに関連して、技術プロジェクトセンターもできました。8社が加盟して、共通技術の開発、技術の標準化の促進、知的所有権の利用、製品の設計・テスト・検証などを行っています。2006年8月末までに、204件の特許を取得しました。
 以上、私が所属する研究所の調査・研究の一端を紹介しました。日中の産学官連携の比較やあり方については、清家先生にお願いします。



清家 彰敏
富山大学経済学部教授
中国社会科学院特別高級研究員
財務省財務総合政策研究所特別研究官

 続いて、日中の産学官連携の比較や、日本側の立場をお話ししたい。お互いに参考になる点もあると思います。

日中の産官学連携クラスター比較

 まずは「官」の役割です。馬先生のお話にもありましたように、中国・中関村の産学官連携クラスターである「産業連盟」において「官」が口を出すのは、最初だけです。プランをつくる段階で関与し、資金援助もします。ただし、実行段階に入ると「産」に任せっきりです。それに対して日本の場合は、「官」は最後までフォローの役割を果たします。

 次は産学官連携クラスター形成の目標です。クラスターはレベルごとに3つの目標があり、(1)技術習得、(2)新事業創造、(3)標準獲得です。日本ではかつて、(1)技術習得を目標にしていました。ところが1980年代技術で欧米に追い付いて、(2)新事業創造に取り組もうとしたら、欧米はその先を行き、(3)標準獲得(世界標準をつくり市場支配を行う)を狙っていました。
 (3)標準獲得を目標としたクラスターにおいて、アメリカはデファクトスタンダードを世界へどんどん発信し、現在の繁栄を実現させました。「官」に頼らず、産学連携クラスターで民間ベンチャーがどんどんやっていく。シリコンバレーの産学クラスターから始まったマイクロソフト社が好例です。「我こそが人類の未来を拓く」という強固な信念に満ち、自身の技術、構想を世界標準化して市場を独占、利益を総取りし、より高い次のステージへ投資するという大きな目標があり、そのためにクラスターが形成され、参加者が集まる。大航海時代、西部開拓の21世紀版といえます。
 それに対してヨーロッパは、デジュールスタンダード(公的標準、ISOなど)で米国のベンチャーに対抗する。1対1ではアメリカにかなわないから、ヨーロッパの国々が集まって「投票権」を使い、数の論理で標準を決めようとしています。
 ヨーロッパもアメリカもクラスター形成の目標は(3)標準獲得、世界標準を作り、優位に立とうとしている点で一致しています。
 日本の産学官連携クラスターは、そこまで意識が高まっているとはいいきれません。中国の場合は、目標は(1)技術習得、(2)新事業創造、(3)標準獲得まで混在しています。技術の習得を目指す一方で、中国標準つまりドラゴンスタンダードを世界標準にしたい、と欲張っています。積極的な中国企業の国内外でのM&Aもその手段のひとつです。

 次はクラスター形成への「産」の参加の条件の日中比較です。これもかなり違います。日本では推薦が多い。所管する官庁や業界団体、リーダー格の企業が推薦し、メンバーが決まっていきます。これに対して中国の場合は、参加は自由です。しかし馬先生によると、これには良い面、悪い面があるようで、大きなプロジェクトになると参加者(社)が数百にのぼって収拾がつかなくなるケースもあるようです。ちなみにアメリカは、能力のある企業の参加は自由といったシステムです。ヨーロッパはメンバーの能力を考慮したうえで、参加者を限定する形になっています。

 政府の狙いも全く違います。日本では、政府で「新事業創造がテーマ」になると、どこの地方も団体も同じような狙い・テーマで産学官クラスターが結成されます。これはともすると、パワーや資源が分散し、それぞれのクラスターが孤立する危険性があります。反対に中国は、焦点を決めて資源を集中投資します。中関村等の国家レベルの産業連盟を国家のリーダープロジェクトとして、中国全体を引っ張っていき、周りを巻き込んでいくという考えです。

 次は知財権についてです。中関村には知財取引所があり、知財の公開取引が行われています。「産」が知財権を持っているので取引が可能です。取引によって、特定の企業にライセンスを渡すケースは1/3程度です。これで新事業が創造されています。一方、日本のクラスターの場合は、「産」が単独で知財権を持っていない場合が多いため、知財取引が行われるケースは限定的です。日本でも徐々に変わってきているようですが、知財権の流動性を高めることを検討すべきでしょう。

 イノベーションについても全く違います。日本はものづくりが得意で、ものづくり中心のクラスターになりがちです。その結果、プロセスイノベーションは盛んですが、従来にない新しい技術の開発、市場創造まで含んだビジネスモデルの更新、創造からプロダクトイノベーションに繋がるイノベーションはなかなかできません。それに対して中国はプロダクトイノベーションが強い半面、プロセスイノベーションが弱い状況にあります。日中の産学官クラスターで相互補完関係が作れるかもしれません。

 次は「学」の相違です。大学設置のあり方や人口の規模が違いますから一概にはいえませんが、中国には1,000校ほどの国立大学があり、中関村には北京大学、清華大学などトップの68校が集中しています。そして各大学は異なった専門領域で得意な分野を持ち、互いに連携しますので、総合すると高い技術が連峰を形成するようになっています。欧米でもこの連峰型が多く、中国はこれをロシアから学びました。一方、日本では、国立大学を全部合わせても80数校。大学それぞれが独立峰型で存在し、大学間の連携や補完は十分とはいえないようです。
 以上、クラスター形成に関して日中の違いを概略申し上げました。制度や産業の成熟度などに違いがありますから、一方的にどちらがいいといえないものの、日本が中国から学ぶべき点もあるように思われます。


中国国内で国際化経営、 外資導入の意味

 先ほど、馬先生は中国企業が急速に国際化を進め、政府はそれを奨励していると報告されました。なぜ中国はここまで国際化を急ぐのか、その理由は経営者の魂にあると思います。それは経営者が、世界一になりたい、中国標準を世界標準にしたい、中国ブランドを世界ブランドとして認めてもらいたい、という意識を強く持って、ビジネス展開しているからです。
 そのための国際化戦略は2つあります。第1の国際化戦略は、海外で事業展開をし、世界と競争する戦略で、これは先ほど馬先生が、国際経営からグローバル経営まで説明されました。私は中国には実は第2の国際化戦略があり、それが興味深いということを述べたいと思います。それは国内事業を国際化し、世界標準にするモデルです。国内にいるときに世界標準で育ち中国トップになりやがて世界に飛躍します。
 このモデルの会社は将来の世界No.1を目指し、欧米の最新鋭の設備を導入し、世界のトップブランドとだけしか提携しません。人材育成や技術開発のために欧米の大学と積極的に連携しています。
 例えば、蒙牛乳業という会社があります。この会社の牛根生会長は立志伝中の人で、大衆に大変人気があります。中国の「松下幸之助」です。牛会長は子どものとき牛飼いの養父に50元(800円)で売られました。そして養父の家の牛の世話をしながら育ちました。次に乳業会社で牛乳ビンを洗う仕事に従事し、単純労働から始めて副総裁までのぼり詰めました。この間、ヒット商品をいくつも生み出し、会社発展の一翼を担ったのです。その後独立して蒙牛乳業を設立しました。かつての会社を追うようにして蒙牛乳業を成長させ、今では中国ではトップ、アジアでも第3位の従業員3万人の大会社に育てました。
 私は蒙牛乳業も行政指導しましたので彼をよく知っていますが、大変魅力のある人物です。彼は、10代は養父のため、20代は職場の仲間のため、30代は会社のため、40代は自分が起業した蒙牛乳業のため一心に働いた。そして49歳の今、彼の目は中国国民のため、世界のためといった考えに立っています。その先に世界No.1企業としての蒙牛乳業があるわけです。
 第2の例はこれも私が行政指導したのですが、首創という会社があります。首創は中国を代表する国有都市開発会社で、北京の優良不動産の95%を所有するといわれる企業です。事業は、首都を中心とした都市開発なので国内事業ですが、事業モデルと経営モデルは国際化し世界標準を目指しています。地下鉄の整備にカナダやドイツの企業が資本参加し、北京の代表はカナダ国籍を持っています。
 社会インフラのひとつの水道整備企業には、フランスが連携、大規模投資し、経営は国際化しつつあります。中国の国有企業に外国企業が資本参加、業務提携し国際化が進むモデルです。
 日本では国内企業が海外へ出て国際経営を学んで現在のトヨタ自動車ができた。これは第1の国際化戦略ですが、蒙牛乳業や首創のような企業は国内にある間から既に国際化されつつあります。


中国企業と倒産

 成長を急ぐあまり、倒産しやすい側面が中国企業にはあります。例えば07年、中国製玩具は危険だとアメリカで指摘されました。広東省は世界の玩具の2/3を生産し、年率二桁成長を続けていたのですが、この一件で成長率は0.8%と停滞し、30%ほどの企業が倒産しました。一方、倒産した企業を買収したり、設備を買いたいと申し出る企業家がたくさんいるので、立て直しが早いという側面もあります。


1960年代、70年代の日本に似ている

 中国は今、都市部には本社や研究開発部門を残し、工場は地方に移転しつつあります。また外国資本の企業に代替できる中国企業が育ちつつあります。貿易構造もどんどん変わって、先進国一辺倒から途上国へも目を向け始めました。
 現在の中国は1960~70年代の日本に似ています。当時、日本の政治家、経営者は、「日本は国土が狭いから海岸を埋め立て、全国を新幹線で結んだらいい」と話していました。日本列島改造論です。東京オリンピック(1964年)、大阪万博(1970年)もこの時期です。中国は著しい経済発展の中で、2008年オリンピック、2年後の2010年に上海万博を控え、高速鉄道の整備(中国全土を時速300kmの超特急で結ぶ)を急いでいます。私は見れば見るほど現在の中国と当時の日本は似ていると思います。
 しかし、スピードは違っています。中国はドッグイヤーとか言われて、日本が40年で成し遂げたことをその半分以下の期間で達成しそうです。1964年の東京オリンピックの6年後が1970年大阪万博、2008年北京オリンピックの2年後が上海万博なら、中国は3倍日本より歴史の速度が速いのかもしれません。さて、日本は、日本列島改造論、大阪万博の後でオイルショックの波をかぶって、初めてのバブル崩壊を経験しました。オイルショックは1973年です。3倍歴史が速いのなら、2011年に中国でオイルショックがあるのかもしれません。
 日本は、1973年オイルショック後、省エネ技術を開発して石油の輸入を抑え、技術開発で日本製品に付加価値をつけ安定成長へと変わってきました。1970年代80年代は「輸出牽引による高度成長経済」から「海外進出、自主技術・ブランド開発による持続的成長経済」への転換期であったのではないかと思います。これは中国政府が現在目指している方向です。この時日本は、研究開発費を急激に増やし、海外からの技術導入等(研究援助)を減らし、安定成長への基礎を作りました。
 中国のGDPは輸出入額合計のほぼ2倍で、この比率は1990年代から現在まで変化していません。GDPを伸ばすには輸出が鍵という輸出依存経済です。中国はこのまま「輸出牽引による高度成長経済」のまま貿易拡大で走るのか、それとも路線転換して安定成長(持続的成長経済)に向かうのかが問われています。
 中国でも、バブルの崩壊がくるのかもしれません。それが「海外進出、自主技術・ブランド開発による持続的成長経済」モデルです。中国政府と企業の行動の目的はここにあります。路線転換を模索するためには、自主技術の研究開発にあります。そこから海外進出の成功、自主ブランド創出も可能になります。その際、日本の経験から学ぶべきものがたくさんあります。そのひとつが研究開発資金への低利融資による研究開発の奨励です。低利融資が研究開発力向上に大きな意味を持つことは国際的な常識となっており、1970年代80年代日本が欧米に技術で追いつき凌駕した際の原動力となりました。
 中国にも低利で研究費を融資するようなシステムが必要ですが、今のところそのような制度は中国にはありません。中国には研究開発への投資ファンドは多く存在しますが、それはおそらく中国の「海外進出、自主技術・ブランド開発による持続的成長経済モデル」達成の鍵とはならないと思います。



産学官連携の4層構造

 そこで、日本と中国が共同で起こせる事業はないかと考えてみました。振り返ってみると、量産化や技術革新によって、ものの価格は大幅に下がってきました。ところがサービスの価格は大きく上昇しています。そこで私はサービスロボット・サービス人工知能ビジネスの創造(産業創出)を日中が共同で行って、サービスの価格を劇的に下げることができると思います。この産業創出には未開拓な部分も多く、産学官の強力な連携も必要です。
 ここで気をつけなければいけないのは、産学官連携には4層構造があることです。ロボット・人工知能ビジネスを例に申し上げると、まず第1層はロボット・人工知能研究開発の中心である大学(工学部)、企業の研究所・試作・実験工場等の研究開発機関です。第2層は、実際にロボット・人工知能をつくるにはさまざまな部品・ソフトが必要ですから、部品産業・ソフト産業も育成しないといけません。第1、2層の産学官連携はこれまでもロボットに関して盛んに行われ、国境を超えての日中連携も可能でしょう。第1層でロボット企業、第2層でロボット部品企業が創業できます。しかし、この第1、2層では産業は拡がりません。
 ところがこの後で申し上げる第3、4層が創業させる企業については、産学官連携クラスターでは今まであまり重要視されませんでした。
 第3層は、ロボット・人工知能ビジネス産業です。健康、医療、福祉、美容、流通、接客サービス業など、ロボット・人工知能が利用できるビジネスは多くあり、ここでの産学官連携はいままでほとんど行われていません。第1層、第2層は技術者、大学の工学部が主役なのに対して、第3層は営業企画、大学は経営学部・商学部が主役です。ロボット・人工知能については仕様書さえ書ければよいのです。
 さらに重要なのは第4層です。第4層は、ロボット・人工知能ビジネスに素材を提供(販売)する産業です。これは全産業が対象になります。主役はもちろん営業です。また金融や保険も入ります。金融・保険の役割は全産業の巻き込みです。ここでも産学官の連携が必要になってきます。
 産学官連携には、この4層構造があることは非常に重要です。今までは第3層、4層はほとんど考慮されていなかったと思います。自動車を例に取ると、第1層ではトヨタ自動車が、第2層ではデンソーが創業できます。第3層は自動車に関していうとバス・タクシー会社、宅配業者、運送業、などです。第4層は全産業です。バス・タクシー会社へ売る込む企業は無数にあります。
 この4層構造で考えるならクラスターの枠内にいままで参加していなかったいろいろな企業、大学が入ってきます。このポイントを押さえて、日中がロボット・人工知能産業で連携するならば、世界ブランドをつくることができるのではないかと期待しています。
 馬先生と私は、日中の産学官連携で中国民航網(航空チケット販売で中国シェアの半分を占める)、日本のイナゴ社(人工知能=アニメ技術)の合弁事業によるロボットビジネス創出計画を進めています。北京オリンピック、上海万博でのビジネス成功が目標です。
 実際に行動に移し、前進していくことが大事なのです。


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