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第22回 「有限会社ほくりく技創」  
第22回 有限会社ほくりく技創
技術を継承するために起業
かつての仲間の雇用も生んだ

 「お宅の会社(ほくりく技創)で、この油漏れが止められるかね…」
 ある大きな工場の変圧器から油漏れが続き、従来出入りしていたメンテナンス業者が、水下譲二社長に放った言葉だ。そこには暗に“お手並み拝見”という思いが込められており、社長としても引くに引けない立場に追い込まれたようなものだ。会社に帰ってさっそく相談すると、「止めてみせよう」と話がまとまった。ベンチャー企業にも五分の魂。いや、「黒部の太陽」のDNAが騒いだ、といった方がいいのかもしれない。


定年2年前に創業を決意

「後悔したくない一念」から、定年を前に創業した水下社長(上)とエンジニアの皆さん。今年からは美術系大学の通信教育課程に入り、絵の勉強も始めた。
 ほくりく技創が産声を上げたのは、平成17年10月のこと。電力会社の社員として、水力発電設備のメンテナンスを長年にわたって担当してきた水下さんが、定年を2年残して立ち上げた。主な業務内容は、水力発電設備・機器のメンテナンスと変電所に設置されている高圧電気設備(変圧器・遮断器等)の油漏れなどの補修工事。一般にはあまりなじみのない分野だが、発電機が正常に稼働しないと発電そのものが止まって市民生活に影響を及ぼし、また変圧器からの油漏れは火災や周辺環境悪化の危険性を高める。なくてはならない業務ではあるものの、なかなか陽が当たらないのが実情だ。
 水下社長が創業前を振り返る。
 「合理化が進み、例えば黒部川水系に10カ所ある水力発電の管理を、1カ所に集約するようになりました。他の水系でも同じです。また採用人数も激減し、若い技術者が育ちにくい、あるいは技術者を目指す若者が少なくなってきました。退職前の私は、水力発電設備のメンテナンス技術を教えるためのチーム(特別補修チーム)に属していて、全社から集めた若い技術者を2年かけて育てていたのですが、研修対象者が極端に減り、現在はそのチームもなくなりました」
 おまけに電力本社ならびに関連会社の間で事業の再編が行われ、発電設備のメンテナンス部門の行方がなかなか定まらない。「創業」が頭をよぎったのはそんな時。エンジニア・水下譲二氏の57歳の春であった。


他の電力会社からも受注

発電機、水車の点検・保守作業の様子。オーバーホールの際、クレーンで釣り上げる時には振幅20mm以内に重心をとるようなワイヤー掛け方、クレーンの動かし方が要求され、大きなネジの締め方には1/100mm以内の誤差が求められるという。
   「ビジネスチャンス到来!」と思ったわけでは、決してない。発電設備のメンテナンスには、特殊な技術を要するため誰でも参入できることではないものの、故障や不具合がそんなに頻繁に起こるわけでもない。事業計画は極めて立てにくく、「リスクを背負わず、定年と年金生活を静かに待ったら…」とアドバイスする人が何人もいたほどだ。
 しかし、技術の継承のために決めた。また「後悔したくない一念」(水下社長)で、創業の旗を掲げた。俗説と一蹴されるかもしれないが、“B型のイノシシ”は決めるとすぐに動き出す。“魚津に経営相談に応じる公的機関があるらしい”とうわさで聞いて、うおづ地域中小企業支援センターを訪問。創業にまつわる手続き等の指導を受けた。また同センターより、当機構の中小企業支援センターを紹介され、創業時の資金助成をする「創業・ベンチャー挑戦応援事業」(平成17年度)に応募したところ、10月の創業とほぼ時を同じく認められたのであった。
 事業計画には、水力発電設備のメンテナンスの他に、日本海側では例を見ない特殊技術を用いた漏油補修工事も加えて、夫人ともに二人三脚でスタート。本社のある朝日町を中心に半径約250kmの水力発・変電所に的を絞って営業展開したところ、かつて在職していたK電力の他に、H・T・Cなどの電力会社からも受注するようになり、既に退職していた仲間(エンジニア)がアルバイトで手伝うようになった。


小さな歯車が“タービン”をも回した

 2年目には息子さんが加わり、アルバイト契約7名を含め10人体制となった。息子さんは電気工事関係の資格を取りながら、高圧電気設備の油漏れ補修工事の受注に力を注いだ。その中で、他のメンテナンス業者では対処しきれなかった油漏れも補修してきたため、冒頭に紹介したような言葉も耳にするようになったのである。もちろん例の油漏れも止め、従来の業者も工場の施設管理者も驚かせた。
 事業は初年度から軌道に乗った。厳しい金融環境にもかかわらず、同社には銀行等が資金提供を申し出てくるほどだ。「人との出会い、技術との出会いが、うまくかみ合った3年間だった」と水下社長は分析するが、それらの小さな歯車が、ほくりく技創の“経営のタービン”をも回し始め、会社の元気の源を“発電”しているようだ。

変圧器の油漏れを補修した同社のシームコート工法の例(左)。以前の補修(右)は粘土のようなもので漏油箇所をふさぎ、その上に塗装していた。「シームコート」はミダスセフティ社が開発した技術。詳しいことのお問合せは、ほくりく技創まで。

作成日2008.11.07


[企業の概要]
所在地/富山県下新川郡朝日町桜町257-6
代表者/水下 譲二
資本金/300万円
従業員/10名(アルバイト含)
TEL/0765-83-0133  FAX/0765-83-0153
事 業/水力発電設備の保守・点検・修繕工事、高圧電気設備の漏油工事など


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