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第20回 世界をリードする環日本海経済交流
環日本海経済交流への新たな望み
~中国東北地域貿易投資商談ミッションより~
 
  
国境の先(15キロ)に見えるのが日本海だが、中国領はここまで。
 「これからの中国では東北地域、それも国境を有している黒龍江省や吉林省を注目しなければいけない」
 当機構・環日本海経済交流センターの藤野文晤センター長がこういったのは、2010年秋のこと。当時、日本からの貿易商談ミッションの多くは、中国内陸部〜西部を目指し、いわば「草木もなびく」状況であった。にもかかわらず藤野センター長は、2011年度の当センター主催の貿易投資商談ミッションでは、ロシア(ロシア連邦)や北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と国境を接する黒龍江省・吉林省を訪れ、中でも3カ国の国境地帯で、いわばホットスポットの延辺(エンペン)朝鮮族自治州へ足を伸ばそうといったのだ。
 なぜか…。
 延辺は吉林省の最も東側の地域。ロシア、北朝鮮との国境に面し、右に掲げた写真のように手前の中国領(防川)に右から北朝鮮領、左からロシア領が行く手を阻むように突き出し、目と鼻の先(約15km)に広がる日本海への道を阻む格好になっている。
 吉林省は海に面しておらず、ロシアのザルビノ、北朝鮮の羅津(ラジン)からも輸出している。日本からこのルートを利用できれば、わざわざ距離の遠い大連まで日数をかけて荷物を運ぶ必要もなくなり、中国東北地域の内陸部やロシアへの物流ルートにも希望の光がさす。「だからこそ早いうちに交易の種まきをすべきではないか」(藤野センター長)というのであった。
 そんな熱い思いを秘めて、一行は新潟空港よりハルビンへ。別掲の日程に従って黒龍江省や吉林省の政府関係者、現地企業などを訪れたが、ミッション実施の翌月(11月11日)には、伏木富山港が日本海側の拠点港(総合的拠点港)の指定を受け、環日本海地域の経済交流に新たな動きを予感させるものとなった。今回のミッション紹介記事では、中国東北地域の物流の概観と3カ国国境地帯の可能性についてみてみよう。

中国東北地域貿易投資商談ミッションの主な日程
日時
日    程
1日目(10/16) 移動(新潟空港→ハルビン空港→ハルビン市内)
【企業訪問】遠大購物中心
日系企業との夕食懇談会
2日目(10/17) 黒龍江省商務庁訪問
【商談会】
【企業訪問】北大荒豆製品公司 
移動(ハルビン→長春)
日系企業との夕食懇談会
3日目(10/18) 吉林省経済技術合作局訪問
【企業訪問】一汽豊田発動機有限公司
【商談会】
【企業訪問】長春経済技術開発区管理委員会
       老昌食品
4日目(10/19) 【企業訪問】長春旭陽毯業有限公司(自動車内装)
       長春古河線束有限公司
移動(長春市内→長春空港→延吉空港→延吉市内)
延辺朝鮮族自治州商務局訪問
5日目(10/20) 【中国・ロシア・北朝鮮/3国国境視察】
移動(国境地帯→琿春)
琿春辺境経済合作区訪問
【企業訪問】小島衣料(琿春)服装有限公司
移動(琿春→延吉空港) 途中車窓より日本工業団地視察   
移動(延吉空港→北京空港)
6日目(10/21) 移動(北京空港→大連空港→富山空港)

荷物が滞留しやすい遼東半島の先

「海外の子会社で利益を上げ、日本の本社に配当を回す。本社はそれを原資に新しい事業を興していく。多くの企業がそうなっている。投資先候補で最も有力なのが中国だ」と強調する藤野文晤センター長。
 中国では道路整備がすすみ、トラックでの輸送量が急速に伸びている。2010年の道路輸送量は2004年比で約2倍に増加した(中国統計年鑑2011より)。ただ、省をまたぐ長距離輸送には、それぞれの省でライセンスをとる必要があり、1社でライセンスがつながっていない場合は、行政区の境で物流業者がバトンタッチして荷物を運ぶこともあるそうだ。
 中国では物流網は発展途上だが、明るい兆しも見え始めている。その一例が、都市部では冷凍冷蔵を要する食品などの輸送に必要なコールドチェーンができつつあること。また現地で合弁企業を展開している日本の自動車企業群が、ジャストインタイムで生産する方式であるカンバンシステムを導入していることだ。日本の協力工場(部品等の製造企業)も現地に赴いて、その実行に欠かせない生産管理、工程管理などを現地スタッフと一緒になって構築していったというが、そのシステム導入はなかなかできるものではなく、他の中国企業も注目しているという。
 ただ、そうした明るい兆しは見えつつも、荷物の増加に、物流のシステムやその基礎となる交通網の整備が追いついていないのが現実だ。また東北地域では地勢的な理由もあり、遼東半島からその先の大連にかけて、荷物が滞留しやすい事情がある。
 藤野センター長が例えていう。
 「遼東半島の先の大連を、逆さにしたビール瓶の口とすると、瓶の太いところは吉林省、黒龍江省に当たる。黒龍江省の貿易の半分程度はロシアとのものだから、荷物の半分はシベリア鉄道で陸路ロシアへ向かうが、残り半分と吉林省の海外向け荷物は出口を求めて大連に向かうことになる。遼東半島は先へ行けば行くほど細くなり、膨大な海外向けの荷物が集まるのだから、滞留気味になるのは仕方のない一面もある。そこで延辺から日本海に出るルートの確保が望まれていたが、図們江(トモンコウ)開発が2009年に国家級の事業に格上げされてから、道路・鉄道の整備が急に進み始めた」


羅津港かザルビノ港か

小島衣料の生産ラインと全成哲総経理。「今は大連経由で出荷している。日本海航路ができると大変便利で、このあたりの企業は皆、新航路に期待している」といっていた。
 そこで、整備されつつある日本海へのルートには2つある。そのひとつは図們江河口から南に少し下った北朝鮮の羅津港を利用するルート。中国は自国の資本によって羅津までの道路を整備しているところだ。またもう1本のルートは、琿春からロシアの港町・ザルビノを利用するルート。現在、ロシア税関を建設しており、そこまでの道路は舗装済みだ。
 港の規模に関しては、羅津港は10万トンクラスの貨物船が入港でき、ザルビノ港は5万トンクラスまで。「どちらの港を主に利用するようになったとしても、日本海をはさんで真向かい、大連よりも近くに中国側の拠点港ができることになり、総合的拠点港に指定された伏木富山港を擁する富山に大きなチャンスが巡ってくる」と藤野センター長は強調するところだ。
 ただ、留意しなければいけないのは、不安定な政治・経済の事情があることだ。現在のところ日本と北朝鮮との国交はなく、先般の金正日最高指導者の死去に伴い、今後の日本と北朝鮮との関係はどうなるか未知数である。また今回の訪問先・小島衣料(日本の高級婦人服メーカーにOEM提供する企業)が琿春に進出した際(2005年)、当時、京都舞鶴—北朝鮮元山間にあった航路を羅津港まで延長するという約束をしたが、政治レベルで日朝関係が悪化したため、それが実現に至っていない経緯もある。
 一方、ザルビノとの航路では、今のところまだ物流量は少なく、複数の港をまわる周回便が不定期に運行しているのみ(日本には新潟港に寄港)。そのため、延辺側では物流量を増やすための企業誘致に必死だ。韓国のPOSCO製鉄所は琿春への進出を決め、またSKグループも進出を検討しているという。日本からは小島衣料の他44社が延辺に進出しているが、ウォーターベッド・ウォータ枕のメーカーと太陽光発電のパネルメーカーが2012年春からの稼働を予定しているそうだ。
 「あまり知られていないが、延辺は朝鮮族の自治区で日本との馴染みが深い。年配の方の中には日本語のできる人が多いし、日本の文化も比較的受け入れられやすい。小島衣料の工場も、最初こそ日本人スタッフが数名いたが、今は社長も日本語が堪能な朝鮮族だ」と藤野センター長はいい、「これから延辺が重要な地域になっていく」と言葉を継いだ。
 以上、今まであまり触れられていない環日本海地域での新たな物流拠点誕生の可能性を紹介してきたが、ミッションでは多数の企業、政府関係機関も訪問してきたので、写真構成でそのいくつかの概要を紹介しておこう。


黒龍江省商務庁のレクチャー

 省内のこれまでの外資企業の投資は800件超、17億ドルあまりに達する。日本企業の投資分野は機械加工、紡績、食品加工、木材加工、飲食店などが多い。中国全体のGDPは7〜8%の成長を目標としているが、黒龍江省の2011年上半期の成長率は10.53%と全国を上回る。全貿易額は8月までの統計では260億ドルで、うち50%は対ロシア貿易。機械・電力設備、建築資材、農産品(野菜・果物)などをロシアに輸出している。中国南方のような干ばつや洪水の被害を受けることが少なく、農産物の生産は安定している。今年も9月に開催するNEAR(北東アジア経済交流EXPO)には過去2回参加し、来県時には富山のアルミ工場を見学したことがあることを紹介するとともに、富山の製薬ノウハウに強い関心があることを示した。アルミニウム合金やマグネシウム合金は、高性能な複合材料をつくる際に必要になり、それらの技術にも関心が高い。

賀方波副庁長らとの会談の様子。「製薬分野のほか機械・電子分野で富山の企業と合作できるのではないか…」と。


吉林省経済技術合作局のレクチャー

 2011年GDPの成長率は13.8%になる見込み(今年に入り14% と公式発表。初めてGDPが1兆円を突破)。2009年末に図們江開発が国家プロジェクトに格上げされてから開発に弾みがつき、将来のますますの成長が期待される。昨年8月、琿春からロシアまで荷物を運ぶ際に使う琿卡鉄道の国際貨物積み替え駅を設置。北朝鮮の羅津経済合作区のプロジェクトも動きだした。現在は羅津港を利用して、琿春から上海まで貨物を輸送しており、コストの削減につながっている。吉林省の主要産業は、自動車、農産品加工、電子、物流、石油化学などで、外資企業との合作も多数行ってきた。医薬品に関して日本は素晴らしい技術を持っているので、ぜひ合作したい。

楊安娣局長らとの会談の様子。「中国東北地域の窓口は今までは大連が中心であったが、日本海側に拠点港ができつつあるので、新たな展開が期待される」と強調していた。


一汽豊田発動機有限公司のレクチャー

 一汽:豊田=50:50の出資で、2004年に設立したエンジン製造会社。従業員800名。トヨタからの駐在8名、一汽からの出向11名。吉林省出身者が8割。技能職が全体の8割。日本と同様の仕組みで製造しているが、人件費が安いため自動化率は60%程度とまだ低く、運搬など一部の作業を人力で行っているところもある。部品の現地調達率は80%、20%は日本から輸入している。従業員の賃金は、一汽本社と比べると高くはないが、満足度調査をすると95%従業員が「満足」と回答。従業員からの要望は真摯に受け止め、改善できることは改善している。従業員の定着率は高い。現地の人材は学ぶことに貪欲で、作業の習熟度も高く、日本と比べても遜色なく高い品質をキープしている。

一汽豊田では、工場の内部も一部案内していただいた。震災の影響で一時減産したこともあった様子。

○問合せ先
[(財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター]
 所在地 富山市高田527 情報ビル2F
 TEL 076-432-1321  FAX 076-432-1326
 当センターURL http://www.near21.jp/
作成日2012.01.30

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