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医療法人ホスピィー  

第8回 医療法人ホスピィー
寝たきりにならずに、最期まで元気に!
一医療法人の壮大なテーマを公的に後押し

県内でははじめての、クリニックと疾病予防運動施設を併設した“総合かかりつけセンター”の運営を試みている浦田哲郎理事長。
 「2010年の、とやま産学官金交流会セッションCで、私どもスコールの試みを紹介したところ、多方面から関心を寄せていただきました。ただ一方で『健康増進、疾病予防の理想はわかるが、公立病院ならともかく、民間の一医療法人がそれに取り組むのは壮大すぎないか。特に経営の面で。理想は素晴らしくても、赤字になったら事業の継続が困難になるのでは…』というご意見もいただきました。確かにその通りで、健全経営を目指しているところです」
 こう語るのは、医療法人ホスピィーの浦田哲郎理事長だ。氏が紹介した試みとは、ホスピィーが魚津市に構えるアンチエイジングメディカルスパ・S-QOL(スコール)の取り組みのこと。スコールでは、クリニックの他に医療法第42条で認められている疾病予防運動施設を併設し、スパ(水による健康療法)、フィットネス、マシンによる運動を医師や健康運動指導士など専門家のアドバイスの下で行う。そしてその効果を医学的に判定し、次の運動メニューの作成に生かしている。
 また併設のクリニックでは、スコール開設以前の、主に高齢者を対象にした診療科(内科、整形外科、リハビリ科)に、人間ドック、アンチエイジング外来、伝統医学による診療などを追加。疾病予防の運動療法と合わせて、寝たきりにならず、最晩年の時まで元気に暮らすことを目指している。平たくいうとスコールは、いわゆる「ピンピンコロリの長寿」を理想としているわけだ。

運動+休養+栄養…そして医療もプラス

 では浦田理事長はなぜ、そんな理想をもつに至ったのか…。
 氏が先代から病院の経営を引き継いだのは、平成5(1993)年のこと。かつては外科・産婦人科をもつ病院であったが、引き継ぎを機に療養型医療施設(いわゆる老人病院)へと変容を遂げ、老健施設なども合わせて運営するようになった。そのうちにクリニックが手狭になり、また建物が老朽化してきたため、建て替えが必要に。その時、新装スタートするクリニックの差別化を図るために、先に述べたような診療科目の充実と疾病予防運動施設を併設した、総合型健康増進施設の開設を目指した。
 スコールの開設は平成19(2007)年3月。施設での実際の提供メニューをまとめると以下のようになる。
  • 運動部門
     ジム、サーキットトレーニング、スタジオでのアロマストレッチ、ヨガ、ボール体操、エアロビクス、プールでの水中エアロなど
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  • 休養(癒し)部門
     水中リラクゼーション、プールジャグジー、人工炭酸泉、アロマジャグジー、ミストサウナ、フィンランドサウナ、オイルマッサージ、瞑想など
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  • 栄養・食事部門
     栄養・食事指導、料理教室、スパ・カフェによるアンチエイジンメニュー提供など
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  • 医療部門
     内科、整形外科、リハビリテーション科、アンチエイジング外来、伝統医学による診療、健診、人間ドックなど。ちなみにアンチエイジング外来では、『100歳までボケない101の方法』(文春新書)でおなじみの、白澤卓二医師(順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授)が月に1度診察し、伝統医学による診療では、インド・中国など東洋医学を専門とする上馬塲和夫医師(帝京平成大学ヒューマンケア学部教授・前富山大学和漢医薬学総合研究所客員教授)も患者を診る(ともに要予約)。
 健康増進には運動・休養(癒し)・栄養が大切といわれ、厚生労働省ではこれを健康増進の3本柱と称しているが、スコールではそこに医学(医療)のサポートを加え、メディカルチェックに基づいた運動・休養・栄養の指導を行おうというのだ。

スコール外観とクリニックの正面玄関。


携帯を使っての健康増進プログラム

 「ただ、メディカルチェックに基づいた運動・休養・栄養の指導といっても、地域住民の健康増進のニーズや課題などを把握しないと、具体的なプログラムの開発もおぼつきません。これもまた大きなテーマですが、富山大学の教授にアドバイスいただいたのです」(浦田理事長)
 その教授は、長寿社会における地域の健康・福祉の増進が専門で、「産学官の連携を組み、『知的クラスター地域プロジェクト事業』(富山県所管)の支援を受けて、指導プログラムの開発に臨んだらいいのでは…」と提案。それを受け、ホスピィーを中心に、富山大学和漢医薬学総合研究所未病解析応用部門、富山大学地域連携推進機構、魚津市福祉課、県内IT企業、そして本県での知的クラスター事業推進役の当機構が連携を組み、富山型アンチエイジングシステムの開発に乗り出した(採択期間:平成21~22年度)。
 まずは未病予防システムの確立に向けた研究会を重ね、21年度は「遠隔予防医療による富山型アンチエイジングシステム」をテーマとし、翌22年度は「ITネットワーキングによる未病予防と養生指導システムの確立に向けた調査研究」を課題に掲げ、プログラムの開発に乗り出した。その概要を紹介しよう。
 この調査研究では、スコール利用者30名の協力を得て、うち20名には在宅時にも携帯電話による指導・アドバイスを実施(指導群)。ほか10名はスコールでの指導のみとし、在宅時は協力者の自由とし(放置群)、両者を比較した。
 指導群の詳細は、歩数、心拍数、体重、起床時の爽快感、および携帯で撮影した食事の内容をメールで報告し、それを受けて医師、管理栄養士がアドバイスを行う。また管理栄養士は、スコールの養生法に基づいた料理を紹介し、さらには就寝前に「おやすみ」メールを送って就寝を促す。指導群の20名は、送られてきたアドバイスや料理、おやすみメールを生活習慣の改善に役立てるというものだ。
 調査結果の分析を行った、上馬塲教授(当時富山大学)の考察は以下の通り(概要)。
  • IT-群(放置群)とIT+群(指導群)とでは、体脂肪率、体脂肪量の変化が、有意な交互作用を示した。体重、BMI、HbA1c、TG などの変化は2群間で差はなく、同じ群内ではIT+群のみで有意な減少を示した。
  • 心拍数、血漿AGEsの変化については、2群間の差は認められなかったが、平均値ではそれぞれ異なる値を示し、同じ群内では、p=0.1~0.3程度の差を示した。例数を多くすれば、有意差が得られると思われる。
  • 指導を受ける側が、高齢あるいは単身の場合、また健康増進への意欲が十分でない場合は、ITによるモニタリングも、長期に継続し効果を出すことは困難であろう。新たなIT活用術を考える必要がある。
運動メニューの一例。左から、水中エアロ、マシントレーニング、フィットネス。


将来は総合かかりつけセンターに

料理指導の様子。長寿のためのレシピも紹介。ちなみに健康・長寿のためには腹7分目がいいそうで。
 浦田理事長らは、21年度の調査結果に手応えを感じた。そして、この試みを健康管理・健康増進のプログラムとして充実・完成させる必要性を感じ、プログラム化ができた暁には、大手企業の健康管理部門や健保組合、スポーツクラブなどに販売できるのではないかと期待した次第だ。
 そこで22年度は、「ITネットワーキングによる…指導システム確立に向けた調査研究」と銘打ち、先進的な取り組みをしている健保組合や他県の医療法人が運営しているメディカルフィットネスを視察。また地域住民(魚津市民)の健康に対するニーズを掘り起こし、合わせて健康関連のサービス業が抱える課題も調べた。
 「私たちが開発しているアンチエイジングプログラムには、くすりの富山が培ってきたノウハウや富山大学和漢医薬学総合研究所の知見なども生かしています。商品化ができれば、くすりの富山のブランド力を生かすことができるでしょう。ただ、医療・健康増進といえどもサービス業です。この視点なくして地域の人々には受け入れてもらえません。そこで最終年では、サービス業としての健康増進施設のあり方を調査することにしたのです」(浦田理事長)
 プログラムの開発と並行して、地域住民の総合かかりつけセンター(かかりつけの医師・運動指導員・栄養相談員が常駐する地域の拠点)をつくるための準備をしようというのだ。そして一方では、知的クラスター地域プロジェクト事業による支援が最終年であることを考慮し、翌年度(23年度)以降のプログラム開発の公的支援を受ける途(みち)はないかと、経済産業省の「医療・介護周辺サービス創出における調査」などにも目を向け始めた(23年度は自主研究となった。しかしメンバーは月に1回は研究会を持ち情報交換を続けている)。


“金の卵”を手にするのは、みんな

 この取材のために、スコールに数回足を運んだ。館内に1歩足を踏み入れると、普通の病院と違うことをまず実感する。いわゆる病院の匂いがまったくせず、トレーナーなどを着た疾病予防運動施設利用者が目をひく。
 一般的なフィットネスとも様子が異なる。フィットネスクラブ会員の平均年齢(全国)は45歳程度だが、スコールの運動施設利用者の平均年齢は55歳。お隣さん、同じ町内同士の方も多く、「中には1日3回来所する方、昼食をとるために一時帰宅するだけの方もいらっしゃいます」と浦田理事長はいい、「かつての銭湯のようなコミュニティとしての役割を果たしているのではないか」と続けた。
 ただ、医療法人全体としてのコストパフォーマンスをみると、運動部門の効率が若干悪く、従来の本業の診療部門や健診部門が補っているようだ。
 「日本ではまだ、予防にお金をかける習慣が根づいていませんが、長寿の仕組み、ボケ予防の方法などが明らかになるにつれ、日ごろの生活スタイルが重要だとわかってきました。この地域のニーズに合ったアンチエイジングプログラムが開発されれば、また新たな動きが出てくるのでは…」と浦田理事長は期待を寄せている。
 さて今回紹介した、医療+疾病予防運動施設の新しい取り組みの、“金の卵”は誰が手にするのか。entrepreneur(アントルプルヌール/起業家)として、ホスピィーの名前が挙がるのは当然だ。しかし“ピンピンコロリの長寿”という宝物を得るのは利用者で、もっと大きな視点では医療費抑制という巨大な金の卵を得るのは国であり、保健制度を支える労働者や市民、各事業所も恩恵にあずかる。富山型アンチエイジングプログラムは、みんなの“金の卵”になる可能性をもっている。
水中リラグゼーション(左)とオイルマッサージの様子。医師の指導の下、アーユルヴェーダ(オイルを使ったインドの伝統医療)も受けることができる。

 ほくりく健康創造クラスター
 http://www.hiac.or.jp/cluster/

[医療法人ホスピィー] 
  ○所在地 本部 富山県魚津市本江1-26 TEL 0765-23-6366 FAX 0765-23-6367
   URL http://www.hospy.jp

作成日2011.12.26
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