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株式会社小矢部精機
 

第5回 株式会社小矢部精機
ロボットに命を吹き込む“ものづくり”
Made in 小矢部を、世界へ発信!

自動車のエプロンフェンダー用のテーラードブランク材。3枚の鋼板が溶接によって1枚になっている(溶接されているのは2本の直線の筋)。
 「テーラードブランク(Tailor Welded Blank)材」(以下略してTWB材と表記)をご存じだろうか。関連する業界の方ならご承知だろうが、本コーナーの読者にはそれ以外の方も多い。念のためその概略を紹介しよう。
 簡単にいうとTWB材とは、複数の鋼板(ブランク材)を溶接によってつなぎ合わせたプレス素材のこと。つなぎ合わせた鋼板を一体的に成形するため、成形品の精度及び強度が高まるとともに、部品点数が減って生産性の向上やコストダウンを図ることができる。自動車部品には、衝突したときに人員を守る『安全性』と燃費改善のための『軽量化』の両立が求められており、国際的なプロジェクトにおいても種々の提案が行われている。TWBはこれを実現する技術のひとつである。
 TWB材は、考え方そのものは1961年に考案され(当時の特許)、6年後には自動車のサイドパネルとして実用化の第一歩が記された。そして、その技術開発が盛んに進んだのは1980年代半ばからのこと。日本や欧州の自動車メーカーが、コストダウンの一環として先を争うようになったのである。
 当初は、同一種(同じ材質・厚み)の鋼板しか溶接することができなかったが、1990年代に入ってからは、材質や厚みに違いのある異種鋼板でも溶接できるよう技術開発が加速化した。自動車ボディーにおいて、強度の必要な部分だけ板厚を増すことができ、補強材の省略による車体の軽量化、歩留まり向上を可能とすることから、TWB材の需要はますます高くなってきたのである。

温めておいたテーマが国の支援案件に

産業用機械の開発・製造を行っている同社工場の俯瞰。主に自動車メーカー向けに大型プレス周辺装置や加工機械をつくっている。
 「ところが近年、従来のTWB材の溶接の仕方では、コストダウンにも限界が見えてきたため、新しい溶接方法が模索されてきたわけです。」
 これは小矢部精機テクニカルセンター長砂博信さんの言葉だ。砂センター長のいう従来の溶接の仕方とは、ガントリー型(剛構造の門型)の溶接装置のこと。ガントリー型では、作業の専用化が進むため精度は高くなるものの、加工内容が異なると別の装置を用意しなければならない、という難点がある。また直線の溶接には合理化の威力を発揮するものの、曲線の溶接には装置の駆動軸を増やす必要があり、装置の大型化とコスト高が避けられない状況にある。
 砂センター長が語る。
 「溶接装置を納めている自動車メーカーから、“何かいい方法はないだろうか”と数年前から相談を受けており、これを解決するために、汎用性のある多関節ロボットの採用を思い立ちました。自動車メーカーの製造ラインでは、溶接以外の目的でも汎用多関節ロボットが稼動しており、抵抗なく導入して頂けるのではと考えましたが、多関節ロボットは先端がぶれて、溶接ポイントの位置決めが極めて難しく、取り扱う溶接作業者には相当の技術力が要求されるのです」
 小矢部精機は産業用機械の開発・製造を主に行ってきた会社で、TWB材の溶接装置の開発・製造も手がけて、国内のシェアはトップ、世界的に見てもNo2を誇る。自動車メーカーやTWB材の鋼板をつくるスチールセンターに多数のガントリー型溶接装置を納めてきた実績を持っている。
 ただ、汎用性のある多関節ロボットを用いた溶接装置の開発には相当の技術力及び開発コストが必要となり半ばあきらめていた。ロボット、レーザ発振機、センサ、各種計測装置といずれも高額な機器であり、また他の研究機関との連携なども必要になるだろう。そのあたりの問題解決のビジョンが解決できないまま、テーマを温めていた。
 そして平成21年夏。富山県工業技術センターの研究員との打ち合わせの折に、たまたま多関節ロボットを用いた溶接装置の開発の件を持ち出すと、「国の支援を受けて技術開発に取り組んでみたら…」と提案され、当機構ならびに富山県工業技術センターとともに「戦略的基盤技術高度化支援事業(平成21年度補正予算事業)」に提案したところ、同年8月に採択を受けたわけである。
 採択されたテーマは「汎用多関節ロボットを用いたレーザ溶接による高精度、高品質かつ低コストなテーラードブランク製造装置の開発」。ハード(ロボットメーカ)にこだわることなく、ソフト(小矢部精機のノウハウ)の追加により、高精度機能を発揮できるTWB製造装置の開発を目標とした。TWB材のレーザ溶接には「多関節ロボットは不向き」といわれてきたが、砂さんら4人の開発スタッフは、果敢にこの問題点に挑戦していったのであった。 


わずか6ヶ月間で成果を!

開発に当たって中心的な役割を果たした砂博信さん(同社テクニカルセンター長)。「短期間に成果を出せたことは、人材の育成にもつながった」と初年度を振り返る。
 開発のポイントは、(1)溶接するラインを正確に読み込んで、その軌跡通りにロボットを動かす(制御する)こと、(2)溶接のためのレーザを効率的・効果的に照射することにある。
 開発チームはまず、ぶれが少なく、安定しやすいロボットの設置方法について、多様な組み合わせパターンから模索を行い、最適な配置を導き出した。また溶接するラインをカメラで読み取り、そのデータを基にロボットの動きを補正するシステムを開発。またTWB材の溶接には、100分の1mm単位の正確さが求められるため、ロボットの制御だけでは困難と判断し、ロボット本体のアクチュエーターとは別系統で動作軌跡を制御し、100分の5mm以内の精度を確保した。
 一方、レーザを効率的・効果的に照射するために、ツインスポット法を採用した。この方法は文字通り、レーザ照射のポイントを2つにするもので、プリズムにより一定量のレーザを屈折させて2焦点にし、溶接ポイントに隙間が生じないようにしている。
 「従来のシングルスポットのままで、レーザの径を大きくしたら済むと思われるかもしれませんが、径を大きくするとパワー密度が低下し溶接できなくなります。そこでツインスポットなのですが、われわれはレーザの照射ポイントを楕円にし、2つに分けてもパワー密度が低下しないようにしました」(砂さん)
 特許の関係もあって詳細を明かすことはできないが、楕円の長径・短径それぞれの長さ、レーザ光の配分比や2焦点のピッチ、そして焦点距離など、いくつもあるパラメーターの中で、ある特定の組み合わせの時、最も効率的かつ効果的な溶接が可能となる。その結果、鋼板同士の隙間の許容範囲が、従来の0.1mmから0.3mmに拡大し、今まで以上に多様な素材の溶接が可能となった。プロジェクトの共同体である、富山県工業技術センターで溶接断面の検査などをして溶接の良・否の判定をしても、従来通りの強度・精度が確認されている。
 研究開発期間はわずか6ヶ月、使用する機械装置の中には納期が4ヶ月かかるものもあった。非常にタイトなスケジュールの中、開発スタッフ達はプレッシャーに怯むことなく、研究成果を勝ち得ることができた。そして、研究成果はチームワークの成果であることを改めて認識したのであった。


2年目からは曲線を視野に

ロボットそのものは既製品であるが、溶接の位置決めのソフトやツインスポットの技術を搭載した、新しい溶接装置。今後は曲線の溶接も目指す。また、応用技術とし、ロボットを使ったレーザ切断装置開発による立体物の切断も視野に入った。短いスパンでの事業化展開を戦略とし、他社との差別化をはかる。
 一方で同社では、当機構のロボットモデル開発事業の採択を受け、自社技術のロボット応用可能性調査を実施(平成21年度)。通常、自動車のスポット溶接では、一種のタッチセンサを利用して溶接ポイントの把握をしている。ところが重ねた鋼板の厚みの差が小さくなり、位置決めしにくくなってきたので、別な方法はないかと調査したわけだ。その結果、レーザで段差をセンシングする方法では高コストになるが、安価な静電容量型のセンサをタッチ式に用いると、小さな厚みの差も把握できることがわかった。
 「正しい溶接の位置をセンシングしようという意味では、先ほどのTWB材の溶接装置の開発と狙いは同じです。こちらの方は費用はあまりかかりませんから、自動車メーカーの製造ラインに導入されつつあるところです」(砂さん)というから、これも“金の卵”だったようだ。
 本題の、“TWB材の溶接装置の開発”に話を戻そう。汎用多関節ロボットを用いて、従来通りの強度・精度のTWB材の溶接が可能になったことは先述の通りで、システムの一部事業化はこの秋から試みられている。ただ、そこでの溶接はまだ直線だけだ。2年目の本年度からは補完研究として曲線の溶接も可能とすることを目標に、自動車メーカーとのタイアップにより研究開発は続けられている。
 そして計画通りに開発が進めば、従来のガントリー型溶接装置より、コストが3割ほどダウンできるというから、TWB材を扱っている企業にとっては朗報といえるだろう。この装置は、小矢部精機にとっても、同社のユーザーにとっても“金の卵”を産むマシンなのである。

[株式会社小矢部精機] 
  ○所在地 本社 小矢部市渋江2020 TEL0766-69-8131 FAX0766-69-8955
   URL http://www.oyabe-seiki.co.jp/

作成日2010.12.06
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