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東洋道路興業株式会社  

第1回 東洋道路興業株式会社
アスファルト専業の工事会社が
新商品・新工法の開発に挑んだ

小矢部川のそばに建つ東洋道路興業の本社。
  「チン」
 電子レンジの音が鳴った。湯気は出ていないが、ほかほかと温まった皿の上のアスファルト合材をみて、「これはいける!」と思ったのは東洋道路興業の長橋孝次常務だ。
 別にアスファルトを食べようというのではない。道路の改修で剥がしたアスファルト合材を、再利用する道はないかと模索しての「チン」であって、レシピの開発を目的とした実験ではなかった。
 ごはんの保温ジャーに、溶けて軟らかいアスファルト合材を入れて、何時間軟らかい状態が続くかも調べた。道路の小さなクラック(亀裂)の補修に、アスファルト専用の車両を繰り出すには効率が悪いため、保温ジャーで代用できないかというのだ。
 ジャーにアスファルト合材を入れると、1時間もしないうちに硬くなって使用できなくなった。現場に行って工事するには、4時間程度は軟らかい状態が保たれなければいけない。すぐに硬くなるのは、酸化が原因とわかった。そこで炭酸ガスを入れて保温すると、軟らかい状態のままだった。
 保温ジャーに補修用のアスファルト合材を入れ、弁当片手に工事現場に向かったことが何度もあった。

軟らかいけど、すぐに固まるアスファルトを求めて

「工業技術センターとの付合いは、廃棄物の利用研究会に入ったことがきっかけ」と振り返る長橋さん。アスファルト合材の再利用は、同氏にとってはライフワークになっている。
 発明・工夫が三度の飯と同じくらい好きな長橋さん。前記の件は「こんなことをしていても、ビジネスの足しにはならない」と判断して途中で止めてしまったが、アスファルトの再利用は頭から離れなかった。
 平成8年のこと。知人の紹介で、鉄道総研(財団法人鉄道総合技術研究所)にアスファルトの再利用についての共同研究を打診すると、「シャワシャワに軟らかくて、工事をすると短時間に固まるアスファルトはないか」と逆に投げかけられた。
 当時、鉄道総研では鉄道軌道のバラスト(砕石)の安定化・保守管理費の低減化を模索していた。バラストは、列車が通るたびに荷重が加わって擦れて、それが積み重なって沈下する。そこでバラストの補充やレールの高さの調整によって、走行の安全性を確保してきたが、保守管理の合理化も課題であった。それで、軌道全体を固めるには、軟らかくてすぐに固まるアスファルト系部材が求められたというのだ。また一方では、鉄道総研はセメント・コンクリートでの同様の方法も探っていた。
 「アスファルト業者は、東京にもたくさんあります。私に声がかかったのは、電子レンジの原理を応用してアスファルトを溶かし…、と変なことをいっていたので、『あいつなら、軟らかくてすぐに固まるアスファルトをつくるかもしれない』と思われたのかもしれません」と長橋さんは振り返るが、当時、そういう性質のアスファルトはなかった。
 富山に帰った長橋さんは、アスファルトに各種物質を溶かした注入材をつくり、流動性と固まる時間を調べた。その様子は、新しいカレーのルーでも開発しているようだった。
 偶然、ある配合で、シャワシャワに軟らかいにもかかわらず、施工すると数分で固まるアスファルト注入材ができた。さっそく鉄道総研に連絡して、荷重試験を実施すると見事にクリア。しかしながら、コンクリートより10倍ほどのコストがかかるため、結果的には採用には至らなかったのである。ただ、アスファルト注入材の製法と施工方法は、鉄道総研と共同で特許申請するに至った。


「遊び心」から生まれた新製品・新工法

補修用アスファルト施工時のプライマーの開発を担当した九曜さん。
 バラストを固める試験の時、長橋さんは余ったアスファルト注入材を、敷地内の舗装のクラックに流し込んだ。単なる「遊び心」であった。ところが構内を走るトラック運転手の間で「走りやすくなった」と評判になり、それが縁でJRのいくつもの駅から貨物ヤードのクラックを直してほしいと依頼が舞い込んだ。
 ただ、先述のように材料費はコンクリートより高い。そのため、どこの駅でも使うには限界がある。そこで目をつけたのが全国に延びる道路で、国道や県道を管理する部局を訪ね歩いた。
 普通のアスファルトは、施工してから固まるのに少なくとも30分はかかる。ところが同社のアスファルトは、5分もしないうちに固まり、交通遮断を短時間にすることが可能だ。試しにクラックを補修すると、どの道路管理部局も驚きの声を上げ、後の補修工事で使われることとなった。
 ところが…、である。補修箇所で、車が通るとアスファルトがパカッと外れることがたびたび起きた。困り果てた長橋さんは、その解決策を求めて富山県工業技術センターの生活工学研究所(南砺市)を訪ねたのである。
 同研究所で、対応にあたった九曜(くよう)英雄研究員(現在は県商工企画課主幹)が振り返った。
 「道路の表面は、夏は極めて熱く、その影響でアスファルトも少し軟らかくなって、補修した部分が剥がれやすくなります。反対に冬は寒さから硬くなり、車が通った時に衝撃を受けて、補修した部分に空洞があると割れることもある。アスファルトの中には石が入っていて、アスファルトの油と石は相性がいいのですが、亀裂の表面に石がむき出しになっていると、ほこりや水で補修用のアスファルトは密着しません。そこで、石やほこり、水分とも相性のいいプライマーを開発することにしたのです」
 プライマー…。例えていうと、鉄板をペンキで塗装する際に下地を塗るが、プライマーはその役割を果たす。下地を塗らずにダイレクトに塗装したのでは、ペンキは鉄板に密着せず、浮き上がって剥がれてしまう。下地を介して、鉄板とペンキは密着するようになる。アスファルトの補修にそれを応用しようというのだ。
 プライマーの開発には、1年近くを要した。ところがその性能を県内では評価する機関がない。そこで、ある石油化学メーカーの研究所に依頼し、密着強度の試験を実施。その性能が評価されて、アスファルト注入材の施工法とともに、プライマーも特許申請したのであった。


目からウロコが落ちた瞬間

バラストに立方体のコンクリートブロックを入れての、荷重実験の様子(初期)。ブロックの形状や大きななど継続して研究中である。
 バラストの保守管理の合理化については、コストの点からコンクリートに軍配が上がり、JRの一部の路線でコンクリートで固める方法がとられつつある。しかしこの方法とて万全のものではない。例えば地震等の災害により軌道の損壊が激しい場合、コンクリートよりバラストの方が復旧作業は容易だ。
 そこで他にも方法はないかと、細い糸で引っ張るように研究は続けられた。砕石の表面をコーティングすることも試した。コーティング材料には、もちろんアスファルトも含まれ、樹脂、ゴムなど様々な材料で実験が繰り返された。「思いついたことは何でも試した」(長橋さん)そうだが、加工を加えれば加えるほど、荷重試験の成績は悪くなっていく。支持力が3分の1になったこともある。実験意欲の糸が切れそうになることが何度もあった。
 最初に鉄道総研を訪ねてから11年が経った。この間、鉄道に詳しい金沢工業大学の教授に出会い、さまざまな指導も受けてきた。平成19年4月4日、季節外れの雪が舞う、寒い日だった。バラストの安定化と保守管理の簡便化を模索し続けてきた長橋さんは、「もうこれが最後だ」と、実験場の横にあった鉄筋を置くための台、約6cm四方のコンクリートブロックをバラストに十数個入れたのである。そして荷重試験の装置を動かすと、信じられないことが起こった。
 「そのまま舗装できる支持力を示したのです。装置が壊れているのではないか、計測ミスがあったのではないか、と思って測り直しました。でも何度計測しても、同様の支持力を示したのです」
 「目からウロコが落ちる」ことを実感した長橋さんは、その時間までハッキリと覚えていた。さっそく生活工学研究所に連絡をとり、再現して見せると九曜さんも唸った。そしてすかさず、「ブロックの形は立方体がいいのか、直方体がいいのか。大きさはどれくらいがいいか。ブロックを入れる場所は、バラストのどの位置が効果的か。どんな配置の仕方がいいか…などを実験し、データをとらないといけない」と長橋さんに提案し、鉄道総研の協力も得て、実際に電車が走っている環境を想定した荷重試験も実施することにしたのである。


機構(県)の支援、国の支援で弾みが

アラミド繊維を入れたコンクリートブロック(破壊状態)。
 また、ブロック自体の強度を上げることも検討した。最初の実験で使ったブロックは普通のコンクリート製であったが、バラストに入れてしまうとそのブロックも、石のひとつになってしまう。ブロックが石より先に摩耗したのでは、かえって危険なことも想定されるので、高強度をもたらすセメントでの試作が繰り返された。
 「ピアノ線のような細い鉄線を入れると、強度が格段に上がりました。でもそういうブロックをバラストの中に入れると、電車の計器や制御装置に誤作動をもたらす可能性があると鉄道総研から指摘を受け、他の方策を探ることにしたのです」と九曜さんは振り返るが、結局は、アラミド繊維をコンクリートブロックに交ぜることにした。
 実験は、徐々に大がかりなものとなり、費用負担も楽ではなかった。東洋道路興業の梶谷公美社長は「せかしたら、せっかくの実験がムダになる」と黙って支援し続けた。しかし長橋さんにしてみれば心苦しい。そこで九曜さんに相談すると、当機構の「新商品・新事業創出公募事業」(平成19年度)を紹介され、支援を受けながら実験を続けることができた。また翌年秋には、JST(科学技術振興機構)の「2008年度重点地域研究開発推進プログラム」に採択されて、本年度(平成21年度)の研究開発の支援も受けることができた。




無借金経営を続ける梶谷公美社長。「一アスファルト会社でも、商品開発は大事」と長橋さんらの試みを支援している。
  永年にわたって実験をサポートしてきた九曜さんが、取材を締め括るように語る。
 「実験は今、鉄道のバラストを前提にしています。データを積み重ねてその有効性が実証できた場合、他の国の鉄道にも広げることができます。またこれは土木建築の分野に応用できるかもしれませんので、極めて興味ある実験のひとつです」
 ちなみに東洋道路興業は、この不景気な御時世でも無借金経営をしているアスファルト専業の土木工事会社。研究の芽が出るのをじっと待っている梶谷社長には頭が下がるばかりだ。  

[東洋道路興業株式会社] 
  ○所在地 930-0866 本社 南砺市上川崎1650 TEL0763-22-4610 FAX0763-22-7147
   URL http://www.toyodoro.co.jp/

作成日2009.08.11
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