ここで、このスギが無花粉になる過程を簡単に述べておこう(スギの花粉崩壊過程参照)。
スギの花粉は前年の秋から発育が始まり、一核期と呼ばれる花粉形成過程の第2ステージで細胞が膨らみ始める。正常なスギの場合は10月上旬~中旬に第2ステージを迎え、10月下旬~11月上旬には成熟した花粉ができ上がる。
これに対して無花粉スギでは、花粉細胞の生育が半月~1カ月遅れて始まり、正常なスギ同様に一核期に花粉細胞を生長させるものの、膨らむと細胞壁がつぶれてしまって隣の細胞と融合してしまう。
通常、細胞は細胞壁という固い殻で覆われて、球形を維持している。ところが無花粉スギでは、殻を形成するスポロポレニンという成分がつくられないため、細胞は薄い膜で覆われたまま。「例えていうと、無花粉スギの花粉細胞は薄い膜だけの生卵のようなもので、少し圧力が加わるとつぶれてしまい、結果として花粉が形成されない」(斎藤氏)のである。
同試験場では、挿し木による育苗によって「はるよこい」の増産に取り組んでいるが、この方法では一定の期間が必要である。苗木として出荷できるのは2011(平成23)年からで、それも初めのうちは年間500本程度。短期間に、また効率よく苗木の生産ができるようにと、昨年からは組織培養の方法を用いての育苗にも着手した。
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