第38回 しあわせ創庫(株式会社バル) |
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貸衣装ビジネスに、式のプロデュースをプラス。 さらにはネットも加えて、ホップ、ステップ… |
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西谷巌(いわお)社長はUターン前に、大手スーパーで経営企画、イベント販促企画、新規出店、売り場責任者などを経験してきたが、「しあわせ創庫」ではその時の経験が生かされているようだ。 |
「最初に、貸衣装のネットビジネスをやってみないかと誘われたのは、平成18年のことでした。ウワサでは、それで業績を伸ばしている貸衣装店があると聞いていましたが、にわかには信じられませんでした。逐次パソコンを見て申し込みを確認し、オーダー内容の衣装をセット・梱包して客先に送り、返ってきたらクリーニングして次に備える。そんな手間ひまのかかることをしなくても、地域の需要で十分に商売ができましたので…」
西谷巌社長はまだ若干、景気がよかった頃を振り返る。平成18年、西暦でいうと2006年。この時はその誘いを断った。風向きが変わったのは、2年後の秋である。100年に一度の経済危機といわれたリーマンショックに襲われ、ネットビジネスへの関心が芽生えた。
「製造業には、その影響はすぐに現れたのでしょうが、結納や式・披露宴など、結婚にまつわる行事は半年あるいは1年ほど前から予定しますから、私どもの業界に不景気の荒波が押し寄せたのは、21年の夏からでした。予約が入らなくなったのです」(西谷社長、以下同)
貸衣装業界に訪れた氷河期。少ないパイをめぐって業者間の競争は厳しくなる一方だった。
ただ結婚式にまつわる価値観は、時代(文化や流行)とともに変わり、貸衣装店もその荒波に何度ももまれてきたため、過去同様、今回も乗り越えられるのでは…、と西谷社長には期するところがあった。
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「ビジネスチャンスがある…」と手応えを |
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十数年前まで使っていた同店のリーフレット。雑誌「Marry me」と比べると落ち着いた内容となっている。 |
もともと実家は、旧大門町で貸衣装店を経営。家業を継ぐために氏がUターンしたのは昭和62年で、それからの8年は家族とともに店の切り盛りをしていた。
時が流れ、平成7年のこと。高岡にもお店を出そうと話がまとまった。店の名を「しあわせ創庫」(法人名は株式会社バル)として駅南の京田で創業。西谷氏が社長に就いた。そして友人知人や披露宴・引き出物にまつわる業者などから、「どこそこのお宅の息子さんが今度式を挙げるらしい」「あそこの娘さん、結納あったらしいよ」という情報を得て、貸衣装の営業に回るようにしたのだ。
「そういう情報が結構多く入ってきて、20軒ほどのお宅を回ると、2~3軒からご予約をいただくようになりました。ところが、創業後1年も経つと、1日中、営業で外回りをしていると、お店に訪ねて来られるお客様への対応がおろそかになってきたのです。これでは何のために店を構えているかわかりません。そこで外回りは止め、広告でお客様を掘り起こすようにして、私自身はなるべく店に詰めるようにしました」
西谷社長がまず広告を打ったのは、式場や衣装などの情報誌だ。地元のタウン誌にも出した。また年に数回、新聞折込みのチラシでお店や貸衣装の宣伝も行い、お客様の確保に努めてきた。
来店客が増え始めて、西谷社長はあることに気づいた。お客様からの衣装選びの相談の中で、式場選びや式の挙げ方・進め方、引き出物の内容についての問い掛けが多いのだ。またその前段階の「結納について相談する人がいなくて困った」と打ち明けられることもしばしば。大門では月に1件か2件ある程度だったこうした相談が、「高岡では月に10件は下らなかった」のだ。西谷社長はひらめいた。“ひょっとしたらこれは、ビジネスチャンスではないか”と。
「そこで結婚式のプロデュースも営業品目に加え、式のプランニングや会場の手配、当日の進行、式当日に流すサプライズビデオの制作、式を記録・編集して写真や動画で残すサービスなども徐々に加えていったのです」
「しあわせ創庫」はこうして、当初は比較的順調に滑り出したのである。
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お客様が戻ってきた… |
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アップ初日からオーダーが入る |
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同店のホームページの1例。他にもサイトがあり、「その位置づけなどが今後の課題」(西谷社長)とか。 |
冒頭に、平成18年に貸衣装のネットビジネスを勧められたと記した。同社のホームページではそれ以前からも貸衣装の紹介はしていたが、それはあくまでも地元のユーザーを念頭に置いたもので、実際の申し込みは店頭で行われていた。
ところが、この時に勧められた貸衣装のネットビジネスとは、高岡市に本拠地を置きながら、北海道や九州も含め、富山県以外にお住まいの方からネットを通じて貸衣装のオーダーを受けようというもの。西谷社長は、「それが商売になるとは信じられなかった」というが、リーマンショックにショックを受けて「可能性があるのなら試してみよう」と腰を上げたわけだ。
そして半信半疑ながら、先行する貸衣装店を視察すると、あるお店ではネットビジネスで月平均1,000万円の売り上げを確保しており、他にもそういうお店が何店もあると聞いて驚きを隠せなかったという。
「視察したお店では、週平均300着の衣装が出荷され、一方で週平均300着の衣装が、レンタルが終わって返ってくる。出し入れ併せて1週間に600着。返ってきた衣装はクリーニングに出して、次のレンタルに備えなければいけない。当社では1,000万円はできないにしても、月100万円くらいは可能ではないかと思ったのです」
そして平成21年秋、しあわせ創庫では、貸衣装のネットビジネスを始めた。そのサイトをアップした当日、九州のある町にお住まいの方からオーダーが…。あまりにも幸先が良かったため、社長ばかりでなくスタッフ全員が驚いた。念のためお客様がお住まいの町に貸衣装店があるかどうかを調べてみると、その存在は確認されず、一同はネットビジネスに可能性を感じたという。
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「ネットのお店、実際のお店、これは車の両輪」 |
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