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第37回 米工房Jasmine(ジャスミン)  

第37回 米工房Jasmine(ジャスミン)
珍しい米粉100%パンには支援者が多く
移動販売から市街地にお店を持つまでに

仕事と子育ての両立を図りながら米工房ジャスミンを運営する小林由紀子さん。後ろに米粉100%の食パンがあるが、こんなにふっくら焼き上げるには独自の技術があるそうで…。
 魚津市島尻、片貝川の上流にある集落。川下方向にわずかに山の切れ目があるだけの緑深い山里だ。
 平成19(2007)年、その山里にパンを焼くおいしい煙がのぼり始めた。煙の主は小林由紀子さん。後に米工房ジャスミンというパン屋のオーナーになるが、その時は子どもや家族のおやつ用にパンを焼いていたのだ。
 おいしい煙は山里の集落に立ちこめ、たちまち評判に。パンとカステラの違いはあるものの、絵本『グリとグラ』のように地元の人々が「おいしい匂いだ」と訪ねてくるようになった。
 もともと料理が好きで、パンは以前から焼いていた。ただ今回焼き始めたパンは、強力粉を一切使わない、米粉100%のパン(米はコシヒカリ)。米粉の調理法については当時まだ研究途上であったため、普通のパン生地に米粉を何割か混ぜて焼くだけでも至難の技であったにもかかわらず、小林さんは当初から米粉だけのパンにこだわった。
 「実家は米の専業農家で、いわゆる『ふるい下の米』がたくさんありました。これをなんとか利用できないかと思い、おやつのパンを焼きながら、米粉パンの焼き方を研究し始めたのです」(小林さん)
 試作品の米粉パンの記録画像を見せてもらった。米粉のひき方、生地をつくる際の水の量・温度、焼く際の釜の温度、これらの条件設定を少しずつ変えてパンを焼き、どの時においしい米粉パンができるかを、克明に記録した資料だ。同じ米粉を使っても、他の条件の一部が若干違うだけでパンにならない場合があれば、他の条件は同じで、製粉業者が違うだけでパンにならない場合もある。米粉パンはそれほど焼くのが難しいパンなのだ。

最初は移動販売、そして山里にお店を

200を超えるパンのレシピを持っているそうで、各種野菜を利用したものの他、魚津漁協が取り組んでいる寒ハギのブランド化に協力して、寒ハギパンも出している。
 最初は子どもや家族用に焼いていたパンも、近所の方にお裾分けするようになると「旨い」と評判に。「商売として本格的に販売してみたら…」と勧めてくれる人も出始めた。
 ただ、事業としてやるからには資格が必要であるし、設備を整え、営業許可証を取るなどの手続きも必要だ。小林さんは平成20(2008)年に入ってその準備を徐々に進め、自宅を一部改装してパンを焼くための工房を設け、21(2009)年2月よりパンの販売を始めた。
 「私がパン屋を始めると聞いて、『だったらウチへ売りにこないか』と誘ってくれる人がいて、農協や市役所などに出かけて売りました」と小林さんは3年前を振り返る。その姿はまさに、某腸整飲料の販売員だった。焼き立てのパンを持ってオフィスの間を回ると、小林さんを子どもの頃から知っている人、あるいは小林さんの両親を知っている人などが、昼食用に、おやつ用に買ってくれたのだ。
 「中には、『米粉100%のパンは珍しいから…』と友人・知人にプレゼントするために買ってくれた方々もたくさんいて、その方々からは今も応援していただき本当にありがたい」と小林さんは謝意を表わし「これが大きな宣伝になって、山深い島尻まで訪ねてきてくれる人が増えたのです」と続けた。
 また、米粉100%のパンを焼いている小林さんのことが全国の農協や米の生産者、あるいは農業行政にかかわる人々の間に口コミで伝わると、関連するセミナーや研修会で事例として紹介されるようになった。またそれらの会に、本人が講師として呼ばれて話す機会も増え、それが新聞やテレビで報道されるなどして小林さんの米粉パンは地元以外でも知られるようになり、県外のお客さんも島尻の工房に訪ねてくるようになったのだった。
 こうして人気が高まり、移動販売を始めて8カ月後の21年10月、工房の近くに小さなお店を構えたのである。


「町にお店を出したら」と誘われて

 近所の方々、友人・知人に支えられて、パンは売れ始めた。遠くは大阪からも「米粉パンを買いに来た」というお客さんが現れ、ファンは全国に広がりつつあった。
 そんな折、「パンを焼く技術をもっと高めたい」と思った小林さん。月に何度も東京で開催された講習会に通うようになった。講習会の講師は、今はまだ北陸にはないが全国数十カ所にパン工房を展開するM店の草創期を築いた人。編集子も二十数年前からその創業の店・麻布十番店でそのパンを買っていたが、当時新興のそのパン工房の評判は口コミで伝わり、創業間もない頃から食パンの通販を展開。また食パンをお中元・お歳暮用にも勧めていた珍しいお店である。
友道のお店の外観。
 そのパン職人から直々に手ほどきを受けたわけだ。だから小林さんの焼くパンはますます旨くなり、評判になった。そして「そんな山の中でパンを焼いていないで、魚津の町に出ておいでよ」と商工会議所の方から声をかけられた。
 「いずれは町に出てお店を持ちたいという希望は持っていましたが、こんなに早く出店の話が出るとは思ってもみませんでした。『まだ早すぎる』『いい機会だ』と周りからはいろいろいわれました。でも、応援してくれる方がいてはじめてビジネスはうまくいくものですから、このタイミングを生かすことに決めたのです」(小林さん)
 ジャスミン2号店が魚津市友道にオープンしたのは平成23(2011)年3月。周りには梨園があって初夏ともなれば白い梨の花がほのかに香る地に店を構えた。
 パンのレパートリーは200以上になった。中には地元でとれる小松菜、かぼちゃなどの野菜を使ったシーズン限定のパンもあり、6人のスタッフと交代でパンを焼いている。
 取材でうかがったのは雪がまだ残る2月下旬の木曜日の午後。取材中も三々五々とお客さんが来店し、ほとんど途切れることがなく、工房では売れ行きの状態を確認しながら追加のパンを焼いていた。


様々な展開を模索中

レジをこなしながらも、お客さんと会話を楽しむ。
 お店や事業の将来については、いろいろ考えているようだ。また米粉をパスタなど、他の食品に応用することも検討しており、場合によってはその事業を独立させることも視野に入れているという。
 ちなみに米工房ジャスミンは、小林さんの父親が運営するMK農産と連携を組み(平成22年度とやま農商工連携ファンド事業採択)、MK農産が生産する高アミロース米の米粉を使った商品開発に取り組んでおり、24年度にはその成果が出るのではないかと期待されているところだ。
 「今はまず、お店を軌道にのせることが先決です。幸い、たくさんの方に応援していただいて、お店の運営も回るようになってきました。新しい事業を展開するにしても、可能性はいろいろあると思いますが、順番に一つひとつ取り組んでいきたい」
 若きオーナーは極めて意欲的で、つぶらな瞳を輝かせた。
 ちなみにジャスミン友道店は、旧8号線「友道」交差点を海方向に300~400mほど行ったところにある。伝説の職人に指導を受けた米粉パンを、ぜひともお試しあれ。特に米粉100%の食パンは、うまかった。

(注釈1)本文中「米粉100%のパン」という表記が出ているが、これはベーカリーベースのことで、原料ベースでは米粉80数%、グルテン10数%となる。

(注釈2)米に含まれるデンプンには、グルコースが鎖状につながったアミロースと、枝分かれした構造を持つアミロペクチンがあり、アミロース含量の低い米は軟らかく粘りが強い。モチ米はアミロース含量ゼロ。日本で栽培されているウルチ米のアミロース含量は5~20%程度で、コシヒカリやミルキークイーンはアミロース含量が低い。高アミロース米はインディカ米と同じような性質があり、冷めると硬くなり、リゾットやドライカレー向きの米。日本では「越のかおり」など数種が開発され、一部栽培されている。高アミロース米は硬くて吸収されにくいので、食後の血糖値上昇を抑える効果があるところから、糖尿病の食事療法に生かすことができるのではないかと期待されている。


とやま農商工連携ファンド事業について
http://www.navi-toyama.jp


米工房Jasmine(ジャスミン)
友道店/魚津市友道1469 (TEL&FAX 0765-23-0277)
島尻店/魚津市島尻1687 (TEL&FAX 0765-32-8485)
事業内容/米粉パンの製造・販売
従業員 /6名(パート等含)
作成日2012.03.21
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