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第36回 株式会社藤岡園(茶匠 藤岡園)  

第36回 株式会社藤岡園(茶匠 藤岡園)
お客様との関係を密にすると
売上げ増がついて来た!!

「1年ほど前から、ある店の店員が別な店へ掃除の手伝いにいく。これを全店で行っています。従業員同士のコミュニケーションが生まれ、感謝の念も湧く。こうすると会社などでは、1+1は2より大きく、3になる可能性もある」と語る藤岡啓一社長。
 「ディスカウント中心の店では、お客様の多くは目的の商品に真っ直ぐ向かう。そして商品を取ってレジヘ行き、お金を出す。この間無言で、時間も短い。レジの担当者も、やっと聞こえるような小さな声で、『ありがとうございました』という。そこには、お客様と店とのコミュニケーションは何もない。場合によっては“ウチは他店より安く売っている”という、ある種の恩着せがましい気持ちがあるかもしれない。これは極端な例ですが、ディスカウント中心の店は往々にして、お客様の心と離れてしまっている。そして仕舞いには…」
 藤岡啓一社長のこの言葉を引き取って続けると、“仕舞いには競合店との体力勝負になり、中小は大手にはかなわない。安売りにも限度があり、いずれ二進(にっち)も三進(さっち)も行かなくなって、お店を閉じざるを得なくなる”ということだろう。
 同社も一時、安売り競争に走り、そのワナにはまりそうになったことがある。その負のスパイラルから脱出できたのは、あるマーケティング手法に出合ったことが縁だった。本稿はそれを紹介することが目的ではないので詳細は割愛するが、お客様に“これなんだよ、これ。これが欲しかったんだ”と心の底からワクワクし、喜んで満足していただく商売の仕方が大切、という考え方を基本にしているものだ。
 それは一方では「顧客志向」とも表現され、それをさらに掘り下げると…、
 (1)お客様のことを考える(顧客志向)
 (2)お客様の考えていることを考える(顧客思考)
 (3)お客様が考えてもいなかったことを考え・行い、お客様に喜んでいただく(顧客感動)
に深化するという。
 言うは易いが行うは難しい。ただこれを、同社ではパートも含めて全社で意識するようになって、「お店が変わる気配を感じるようになった」(藤岡社長)のだそうだ。
 それは、来店されるお客様の雰囲気や売上げに端的に現れている様子。例えば同社ではお酒の小売店(お酒の藤岡園)で、ディスカウント中心から品ぞろえ、特に焼酎の品目を増やすようにしてからは、焼酎ファンから注目され、「珍しい焼酎は入っていないか」とお客様の方から声をかけられるようになったという。

メーカーも一目置く酒の小売店に

 “お茶の藤岡園”が酒屋を? と疑問に思われるだろうが、酒の販売が免許制であった終わり頃に(’03年から届出制に変更)、知人(酒蔵)の紹介で免許を取得。一時は旧大島町のショッピングセンターにテナントとして入っていた。しかし「ショッピングセンターで酒屋をやることに違和感を感じて」(藤岡社長)、近くの旧8号線沿いで路面店へと変身。また高岡でも、小さな共同市場のようなショッピングゾーンに暖簾(のれん)を出し、独立の機会をうかがっているところだ。
 「高岡のショッピングゾーンは、テナントの出入りの激しいところで、当店がテナントとして入ったスペースは、その直前までディスカウント中心の酒屋が店を構えていました。また今、100円ショップになっているところは、5、6年前までは肉屋、総菜屋、パン屋、テイクアウトの寿司屋…と小さな店が連なっていました。でも、櫛の歯が欠けるように撤退していかれた。大手のショッピングセンターと同じことをしても、上手くいかないでしょう」(藤岡社長)
 このショッピングゾーンは8号線沿いにあり、沿線には事業所・商業施設が建ち並ぶ。しかし一本裏に入ると、古くからの住宅が広がる、いわゆる住宅街だ。だからマーケットがないわけではないのだが、今日的に見るとショッピングゾーンとしての規模は小さく、テナントが互いに相乗効果を発揮していないようにも見受けられる。ちなみに現在ショッピングゾーンを構成するのは、ファーストフード2店、ラーメン店、宝くじ販売店、カラオケスナック、古本チェーン店、100円ショップ、花屋、理容店、エステサロン、そして酒屋(お酒の藤岡園)の各店だ。
 また一方で、計画的な土地・建物の利用になっていないため、利用しづらい面もある。そのいい例が駐車場の利用状況だ。「長く車を停められる方が多く、駐車場の回転率が悪い。前に調べたところ、稼働している駐車スペースは半分程度。お客様が車を停められないこともある」(藤岡社長)ようで、これらが相俟って売上げが伸び悩んでいるのではないかと思われる。
 ところがそのショッピングゾーンで、お酒の藤岡園は健闘しているという。前述のように焼酎の品ぞろえを豊富にしたところ、焼酎ファンが足しげく通うようになったのだ。
 「ディスカウント目当てで、ビールや発泡酒、日本酒を買っていただいていたお客様は失ったでしょうが、一方では、熱烈な焼酎ファンを得ました。例えば以前、ビール1ケースの粗利は何十円。それに比べて焼酎は何倍も粗利がある。要は考え方次第です。どこにでもあるものを売ろうとするから、なかなか売れないし、極端なディスカウントをしないと売れない。しかしニッチなものでも、取扱店が少なく余り売られていないものは、ファンに注目されて売れる。今の時代、お客様にワクワク喜んでいただく工夫をしないと、お店は支持されないでしょう」(藤岡社長)
 焼酎の市場規模は、ビールのそれに比べて小さいが、小さなマーケットでもシェアを高くし、ビールでは得られなかった果実を手にしたわけだ。お酒の藤岡園は、焼酎の売上げでは県内随一の酒販店になり、焼酎メーカーからも一目置かれる小売店になった。
お酒の藤岡園と店内。焼酎がこれだけ並ぶ店は県内では珍しいそうで…。


本業のお茶でも健闘

 では、本業のお茶の販売はどうか。
 お茶小売業界では、店舗数は昭和57(1982)年の15,069店をピークに減少を続け、販売額も平成9(1997)年に約3434億円を記録して以来右肩下がりが続く(データはいずれも経産省「商業統計」より)。購入先も、お茶の専門店よりはスーパーやコンビニエンスストアへのシフトが顕著のようだ。また、お茶(茶葉)の消費が伸び悩む背景には、お茶のペットボトル飲料が登場したこともあるだろう。
 「おーい…」でお馴染みの業界大手は、年商3100億円を超えるビジネスを展開しているが、元々の本業であるリーフ事業(茶葉の販売)の売り上げは、そのうち10%に満たない程度。それも年々小さくなっているという。代わって伸びているのがペットボトル飲料などだ。お茶は急須に入れて味わうより、ペットボトルあるいは缶入りを買って飲む時代になった、ということか。
 今年はそこに、原発事故による風評被害が追い討ちをかけた。仄聞(そくぶん)するところによると、業界の茶葉の販売は前年比1~2割減のお店(問屋・販売店)が多い様子。しかしここでも藤岡園は健闘していた。同社では本店の他に、大型ショッピングセンター5カ所にテナントを構えてお茶の販売を行っているが、藤岡社長の弁を借りると「前年比、ほぼ横ばい」だという。
 また、お茶の販売を側面から支援するカフェ「茶’fe茶LaLa」(ちゃふぇ・さらら/抹茶ドリンクと自家製スイーツが人気のお店)2店と、イタリアン・トマトにフランチャイズ加盟しているカフェジュニア3店(パスタ&コーヒー・ケーキショップ)は、飲食店業界が軒並み前年比70~80%という惨澹(さんたん)たる状況の中で売上げを伸ばし、飲食5店うち3店は前年比20~30%プラスで推移しているというから驚きだ。
ショッピングセンターにテナントとして入っている、同社のお茶の販売店(アピタ砺波店(上左)と本店)。専業のお茶小売店は全国的にも徐々に少なくなりつつある。下の写真は、総曲輪フェリオに入っている茶らら。


「壁だと思っていたけど、お茶屋さんだった…」

 「特別に何か策を労したのではく、顧客志向から顧客思考、そして顧客感動を、パートも含めて従業員全体が念頭に置いてお客様に接するよう心がけてきました。経営コンサルタントに評価していただくと、点数はまだ低いかもしれませんが、お客様が近く感じられるようになったという従業員も現れています。お客様との関係性をいかにつくるか。売上げはその後についてくるでしょう」と藤岡社長はいい、先の酒販店とは別のお店の顕著な例を紹介してくれた。
 それはお茶の藤岡園の中でも、道路に面したお店のこと。ある時、店長が交代した。前の店長は、店の前のドアを開けるよう心がけていたが、暑い日、寒い日、雨の日、雪の日、風の強い日は閉めた。そうすると、結果として年間300日近く閉めたという。ところが新店長は“余程のことがない限り開ける”ことにしたため、年間50日ほどしか閉めなかった。
 店長が代わってしばらくした、ある日のことだ。目の不自由な方が、お店に入って来た。話を聞くと、その方はよく店の前を通っていたが、「以前は、ここ(お店)を壁だと思っていた」という。ところが最近、お茶の香がするし、人の気配も感じられる。ここは壁ではなく、お店、それもお茶屋ではないかと思って入って来たのだという。
 このお店は、徐々に売上げを伸ばしていくが、藤岡社長に得意のマーケティングで解説していただくと…。
 新店長は、売上げを伸ばしたいという思いを秘めつつも、とにかく店の前を通る人に店に入ってもらいたかった。そのために玄関先をなるべく開けるようにしたのだが、逆に通りからも店の中が見えるようになり、また、お茶の香が通りを漂うように。そのお茶の香に誘われて、ワクワクしてお店に入って来られた方がお茶を買われた。そういう方が増えて、売上げが伸びた。前の店長も熱心だったが、新店長の試みによりお客様と店との距離がより近くなり、その結果、売上げアップにつながった、というのだ。
お客様との距離を縮めるために出している「茶・Tea・ちゃ通信」(左)。お茶のウンチクや社長、店長の日々の雑感なども記され、登録されている会員は約16000名、内半数にDMが送られる。お酒の藤岡園でも、焼酎を話題にした手づくり広報紙を発行。温もりのあるPR紙になっていて、お客様との距離を縮めるのに一役買っている。


「藤岡園のミッションは…」

公的支援を受けて開発された「きららか梨大福」。梨の旬でない時に、生の梨を使った大福が食せるとあって、人気の商品。品切れになることもある。
 以上のように同社の元気の源は、遠回りながらも近道であり、また会社にとって一番の資産である人づくりに主眼をおき、その人材が少しずつ育ってきていることにあるようだが、手前味噌ながら商品の魅力アップや販促のお手伝いに当機構も若干の支援をしている。そのひとつが、県の経営革新承認による自家製ケーキ・和菓子をつくる工場の建設支援(平成18年)と、農商工連携ファンド事業による新しいスイーツの開発支援(同21年)。新しいスイーツの開発は、初秋に収穫した梨を特殊な冷蔵方法で、その暮から年明けが食べごろになるよう熟成させた「きららか梨」を、その生産者の藤岡農園(農林漁業者)と藤岡園(商工業者)が連携して行うもので、22年秋から「きららか梨大福」が販売され始めた。
 ちなみにこのプロジェクトは、当初は藤岡園と藤岡農園の2社の連携であったが、これが起爆剤となって22年度には「地域資源∞全国展開プロジェクト」(日本商工会議所の事業)にも採択され、アイス・洋菓子・アルコール飲料などのメーカーも商品開発に加わり、きららか梨を使ったアイス、バームクーヘン、リキュールなどの開発が試みられることになった。
 同社ではまた、「新世紀ネットビジネス道場とやま」の受講(22年度)を機にホームページの充実を図り、専属スタッフ1名も置くように。下記のURLでご確認いただくとわかるが、富山の一お茶屋さんが、全国に向けてお茶(茶葉)やスイーツなどの販売に乗り出した。
 「これからの時代は、お茶屋、酒屋、ケーキ屋のようなカテゴリーは徐々になくなるでしょう。また売り方も変化する。100年続いている企業も、100年前と同じ商品を、同じように売っているわけではありません。まったく違った商品を販売していることの方が多い。ですから当社のミッションはお茶を売ることにあるのではなく…」
 お茶屋4代目・藤岡啓一社長の話を聞いていて、「うちは人をつくる会社であって、たまたま今○○製品をつくっている…」と語った、ある企業の創業者を思い出し、また2年前のベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社』も頭に浮かんだ。
 人が育てば、お店も会社も元気になる。これはいうまでもないことだ。
同社のホームページ。20代半ばのネット店長(女性)が、ホームページのことを一から勉強して立ち上げた。遠方のお客様からの注文も入るようになって、藤岡園として4番目の元気なお店に成長することが期待されている。

県の中小企業経営革新支援事業について
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1300/kj00000263.html

とやま農商工連携ファンド事業について
http://www.navi-toyama.jp

地域資源∞全国展開プロジェクト
http://feelnippon.jcci.or.jp/

ネットビジネス道場とやま等のセミナー・講座について
http://www.tonio.or.jp/joho/semi2011/20110715net.shtml


株式会社藤岡園(茶匠 藤岡園)
本  社/射水市黒河3235
(TEL0766-56-0338 FAX0766-56-7247)
事業内容/日本茶・コーヒー等小売り、酒類小売り、カフェ運営
法人化/1992(平成4)年
資本金 /1000万円
従業員 /70名(パート等含)
URL/http://www.fujiokaen.jp/
作成日2011.12.12
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