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[第25回](株)ウィスタ 暮らし工房WISTA  

[第25回]株式会社ウィスタ 暮らし工房WISTA
 お客様の“わがまま”を叶えるために
 こんなお店のスタイルをとってみました。

 前々から気になるお店があった。
 富山市・天正寺の交差点から東(立山町方向)に600~700mほどのところの右側。県道6号線(富山立山公園線)に面しながらも、お店は道路に背を向けている。お店が建ってから、やがて2年になるだろうか。
 1階の窓は大きい。しかし、植栽をブラインド代わりにうまく活用しながらも、中の様子が少しうかがえるようにしてある。30台ほど置ける駐車場で、主婦連れや若い女性たちが談笑しているのを何度も見た。だからますます気になる。お店の入り口には「暮らし工房 WISTA」の看板があった。 “どんな商売をしているのか”“いったい、何を売っているお店か…”。お店の名前からは、生活雑貨を扱っている店、あるいはリフォーム店が連想されるが、当機構でサービス業の振興を担当している立場としては、見過ごすわけにはいかない。下見してみた。そして「変わった商売の仕方…」と感心して、今回の取材となったのである。

抵抗感なく入れるところがミソ

江村克也社長
 「そうですね。ここが何の店かわからず入ってこられるお客様も時々おいでになります。さっと見学されただけでは、個々のコーナーはわかるでしょうが、お店のコンセプトはご理解いただけないかもしれません」
 江村克也社長は、“それが狙いでもあった”と含むように、にこやかに話し始めた。
 店内を歩くと、玄関を入って右側に喫茶店、左手にはシステムキッチン1台を置いたオープンスペース。2階に上がるとデザイン表札をつくる「翔Design」、カラーセラピーをする「JEWEL COLORS」(ジュエル・カラーズ)、セミナールームと、奥には「暮らし工房WISTA」の事務所。喫茶店や2階のフリースペースでは、地元アーティストの作品が展示(一部即売)されている。
 ここまでのヒントで、このお店が何を売っているのか、おわかりだろうか。
 答えは「家」。平たくいうと同社は、住宅会社(ビルダー)である。市中にある○○工務店、△△ホームなどと同じであるが、主婦連れや若い女性が気軽に訪れることができるところがミソのようだ。
 ではなぜ、このような営業スタイルをとっているのか。メインストリートや住宅展示場などで本社・営業所を構えるビルダーは、さも“家を売っています”“家を建てませんか”と構えているが、「暮らし工房」でその匂いが直接するのは、システムキッチンのあるオープンスペースのみで、リフォームの相談コーナーを匂わす程度だ。
1階の喫茶室の内部。中央の展示テーブルや壁際には作家による作品が展示され、月毎に作品が入れ代わる。喫茶室を運営する女性は「建築学科」卒だそうです。
 「従来のビルダーは、規格化してコストダウンした住宅を販売し、多店舗展開してきました。ところがお客様の要望が多様化し、画一的な住宅では満足されない方も出始めています。そういうお客様は、暮らし方に合わせた家を求めているのですが、ご自分ではその答えがなかなか出せない。そのお手伝いをするのが『暮らし工房』なのです」(江村社長)
 実は江村社長、この会社を起こす前は、ある住宅会社に二十数年勤めた経験の持ち主。住宅販売のベテラン営業マンであったが、お客様の“わがまま”を叶えられるような家を建てたくて、独立してこの店を構えたのであった。
 続けて語る。
 「当社では規格住宅をアレンジしたようなご提案はしません。お客様が家でどんな生活をされたいのか。家庭でどのように趣味を楽しみたいのか。例えば陶芸が趣味の方がおいでになったとしましょう。ご自宅でもつくりたいのでしたら、土間も必要でしょうし、資材を置く場所も考えないといけない。つくるのではなく飾りたいと思う人には、そのためのスペースを確保する。床の間やサイドボードの上に飾るのではなく、ちょっとした展示の空間をご提案する。これが必要だと思うのです」


家を建てる前に店に通うシステム

取材当日行われていたセミナー「シャドーBOX教室」の様子。印刷された5枚の同じ絵を重ねて立体的に見せる技法らしい(ちなみにセミナールームを管理する女性は1級建築士で、浴室・洗面所の賢い使い方などのセミナーの講師も担当する)。
 ここまで読まれた方は、“「暮らし工房」で家を建てると、さぞかし高くなるのではないか”と思われるかもしれないが、どうやらそうでもない様子。坪単価ん十万円と安さを強調している住宅会社との比較は別として、一般的な規格住宅と注文住宅の間くらいらしい。お客様の“わがまま”を聞きながらも安く提供できるその秘密は、「暮らし工房」というお店にあるのであるが、その具体的な運営を紹介しよう。
 前述のように、このお店では家を売ること(建てること)を前面に押し出すのではなく、暮らしを充実させるためのアイデアやサービスを提供してきた。その一例が、セミナールームで開催してきた各種のセミナー。地元の専門家が部屋を借りて行うこのセミナーでは、インテリアコーディネートやフラワーアレンジメント、アロマテラピーなど生活を楽しむ内容のもの(毎月約20種)が、ほぼ毎日2回開催されてきた(午前、午後で別々の内容。部屋のレンタル料は半日で2,000円。受講料はセミナーによって異なるが、1,000~3,000円の実費程度)。
「オーラソーマ」はイギリスのヴィッキー・ウォールによって始められたカラーセラピー。上下2層に分かれた100本以上のカラーボトルから好きな4本を選ぶことで、才能や可能性、潜在意識などを掘り下げるもの。浜野珠恵さんは英国オーラソーマ社認定の指導員です。
  またテナントとして入っている「翔Design」(代表者・山田利恵子さん)は、オリジナル表札の制作のほか、インテリアコーディネート、テーブルコーディネートなどを業務とし、「JEWEL COLORS」(代表者・浜野珠恵さん)はオーラソーマ(カラーセラピーの一種)によって、相談者の魅力や才能を引き出すカウンセリングを行い、生活の中での色づかいのアドバイスなどをしてきた。
  喫茶店や2階のフリースペースで展示されるアーティストの作品(クラフトやガラス・金属工芸の生活アイテム、絵など)も、生活を楽しむ素材として提案されている。作品は月単位で入れ代わり、愛好家や作家のファンを「暮らし工房」に誘うのに一役買っているわけだ。
 いますぐ家を建てる(リフォームする)計画がない人でも、気軽に通えるシステムをつくったところが「暮らし工房」の特徴である。そこで、同店では来店されるお客様で、同意をいただいた方を「WISTAクラブ」(会費無料)の会員として登録。セミナーの予告や家のワンポイントアドバイスなどを載せた会報を発行し、毎月、会員に届けている。会員数は取材日時点で約1500名。毎月少しずつ増えているという。


宣伝費をかけずに宣伝

 「このお店は、ある意味、宣伝媒体なのです。テレビや新聞、折込みチラシは“直球で家を建てませんか”と訴えますが、この店では“生活を楽しみましょう”に始まって、“生活を楽しみやすい家をつくりましょう”と訴えかけをしています。遠回りですが、マス媒体を使った宣伝費を考えたら安いものです」(江村社長)
 前年度、同店は新築4棟、大小増改築工事約30件を受注。今年度は新築7棟が目標。いずれのお客様も「暮らし工房」の考え方を口コミで知り、依頼されてきた様子。江村社長が投げた変化球は、お客様のストライクゾーンに入っているようだ。
 「新しい試みですから、5年をメドにこのビジネスモデルを確立したいと思います。そしてスタッフを育てながら、県内にこういう店を2、3店持ちたい」(江村社長)
 家に合わせて暮らすより、暮らしに合わせて家を建てたいと思う人が増えつつある昨今。こんなお店ホントはもっと前に欲しかった…と思うのは編集子だけではないだろう。


江村克也 株式会社ウィスタ 代表者
          (店名「暮らし工房WISTA」)
本社/富山市町村2-4
事業内容/住宅の新築・増改築工事、住環境に関する家具等の販売、
       暮らしを豊かにする講習会の開催、カフェ等の飲食業の運営
創業/2006(平成18)年1月(店舗開設06年5月)
資本金/2,000万円
従業員/5名
URL http://www.kurasi-kobo.co.jp/

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