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[第24回]有限会社ファームこばやし  

[第24回]有限会社ファームこばやし 畑のキッチンこめっこ
 お店は、田んぼの中の一軒家
 農業法人の小さなお店が元気なわけは……

米粉が入ったパンの一例。食感は普通のパンとあまり変わらないが、少しもっちりした感じがあり、結構腹持ちがいい。
川岸由佳さん
 「お店を開いた最初の頃は、毎朝2時半ころからパンを焼いていました。1人でやっていたのと、慣れないのが重なってもう大変。こんなこと続けたら体がもたない…と思いました」
 「畑のキッチンこめっこ」で、米粉入りパンを焼く川岸由佳さんは、2年前を振り返った。
 当時、由佳さんは20歳。米粉を使ったパンが珍しいこともあって注目を集め、お店のオープン初日には地元の放送局が中継し、また新聞等も紹介。氷見市内はもちろんのこと、高岡や射水方面、また隣県の羽咋・七尾市からもドライブがてらお客さんがやってきたものだった。

まずは福井へ修業の旅

同店で販売しているミソ、お米。食品スーパー向けには餅や赤飯もつくり販売している。
 ファームこばやしは、平成8年に設立された農業法人である。稲作(作業受託含む)や大豆等の栽培・販売、干し柿・ミソの製造・販売が主な業務で、県内の農業法人のほとんどがそうであるように、直売所などに卸して商品の販売を行ってきた。同社にとっては、ベーカリー部門を立ち上げ、自前の店を持つことはある意味で挑戦的なことであったが、同社の社長(由佳さんの父親)はその夢を由佳さんに託したともいえるだろう。夢の実現のために由佳さんはまず、福井での修業から始めたのであった。
 「そこは民宿を営んでいるところで、そのかたわらパン焼きや農作業を宿泊者や子どもたちに体験させていました。山深いところにある民宿でしたが、“田舎の民宿”をうまく営業に利用していて、夏休みなどには都市部の大学生や家族連れが押し寄せ、自分たちでとった野菜を調理したり加工品をつくったりと、大変な人気でした」(由佳さん)
 いわゆるグリーンツーリズムの考え方を、民宿のオーナーは取り入れていたわけだ。
 彼女は研修生として、半年ほど働いた。宿泊客への対応から、農作業の手伝い、農産物の加工品をつくる作業など、時には宿泊客にも体験させながら、将来、自分が持つ店で何を売っていくかを模索。米(餅や赤飯などの加工品含)や干し柿、ミソの販売だけでは限界があることは、若いとはいえ理解していたのである。
 「まずやろうと思ったのは、パンでした。私自身パンが好きで、それもせっかくお父さんがおいしい米をつくっているので、米粉を使ったパンを焼きたい、と。また、ただパンを焼くのではなく、農業を基盤としてパン屋をやっていくことを考えていましたので、参考になる例はないかと福井県内のパン屋さんに見学にもいきました」
 見学を許してくれるパン屋には足しげく通った由佳さん。花屋を本業とし米粉入りのパンを焼いていたある農業法人には2週間ほど通って、参考になるものはないかと探すほどの熱の入れようだった。 


「売りたい…」と申し出る店が次々と

「将来は、子ども向けにパン焼きの体験工房のようなこともしたい」と夢を語るあたりは、福井での経験が影響している様子。
 福井での研修はこうして終わり、平成17年4月、氷見に帰った。そして店がオープンするまでの4カ月間はパンの試作に明け暮れたのである。米粉入りパンといっても、米の比率が高くなるとモッチリ感が出過ぎたり、またスコーンのようになってしまう。「パンとしておいしく食べられる量を目安とした」というが、最終的には米粉の量は原料の30%ほどに落着き、パンの種類も30種ほどに増やしたのであった。
 平成17年8月、満を辞して店をオープンしたものの、現実は厳しい。冒頭に紹介したように、当初は毎朝2時半には店に入り、パンを焼いたのである。また地元のマスコミなどに紹介されたとはいえ、1日に焼くパンの数は300個前後。事業として軌道にのるには1年近くかかった。
 地元のスーパーや直売所が、「ウチの店でも売ってみたい」と打診してきて、自店の他に6カ所の店で販売。毎日最低でも、700個のパンを焼くようになったのである。
 「お米を使ったパンが珍しいのと、地産地消という今の時代にマッチしたところがあるからでしょう。スーパーなどでも注目されるようになりました。今でも時々、『ウチでも売りたい』と打診してくださるお店があるのですが、配達に限界があるため、お断りするケースも結構多いのです」
 何ともったいない話。配送は、時には他の社員(家族)も手伝うものの、基本的には由佳さんの担当であるため、納品に時間をかけ過ぎると次の日の仕込みがおろそかになってしまうという事情があったのである。


相乗効果が出てきた!

郊外型というより、田舎の田んぼの中に1軒ぽつんと建つお店。取材時には稲刈りは終わっていたが、少し前までは稲穂の絨毯が店を取り囲んでいた。
 お店をオープンしてから2年が過ぎた。慣れてきたため最近は毎朝4時からパンを焼き始めているというが、地元の主婦らが6時には店にくるようになった。
 ベーカーリー部門を事業部と見て、その採算性を判断した場合は、「ギリギリやっていける状態」らしいが、相乗効果も出てきた。お店にくるお客さんが、パンの他にミソやお米も買い求めるようになったのである。
 お店は、氷見市余川(よかわ)の田んぼの中の一軒家。旧余川小学校より鹿島方向に300mほど行ったところを右折するとあるが、土地勘のある人しかわからないような、いわゆる店舗には向かないところにある。にもかかわらず、噂を聞き付けてパンを買いに来るお客さんが、後を絶たないというから驚きだ。
 商店街ではシャッターを下ろした店舗が目立ち、「貸店舗」のはり紙が風にゆれている。小売業では、大型化や多店舗化ばかりが注目されがちだが、農業法人が立ち上げた小さなお店は、そんな状況に一石を投じたといっても過言ではないだろう。二十歳で店を始めた由佳さんの挑戦はまだまだ続く。


川岸由佳さん 有限会社ファームこばやし パン工房担当
店舗所在地/氷見市余川821-2
事業内容/稲作(受託作業含)、大豆等の栽培、ミソ、干し柿、パンの製造販売
資本金/800万円
従業員/4名

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