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[第19回]五万石グループ  

[第19回]五万石グループ
外食産業は変化する時代
中食(なかしょく)市場を取り込んで新しい柱を

「外食産業はね、あと数年で大きな曲がり角を迎えると思う。料亭のようなところも、レストラン・居酒屋チェーンも、みんな厳しい経営を迎えるでしょう。家で料理をつくらないことが増えているから、本当いうと外食産業は伸びなければいけないんだけど・・・」
  店を構えてから35年になる、五万石の安井恒夫社長は意味深なことから語り始めた。「今まで資金繰りに苦労したことがない」という安井氏であるが、先の言葉のようにここ数年は店の売上げが減少傾向にあり、危機感を覚えているという。

外食市場は減り続ける一方

安井氏の弁を裏づけるような統計がある。それは(財)外食産業総合調査研究センターが調べたもので、外食産業の市場規模は、平成9(’97)年の29兆1,000億円をピークに年々減少。平成16(’04)年には、24兆5,000億円まで落ち込み、下げ止まる気配もない。
  半面、好調なのは中食産業である。先の調査では、ここ10年ほどは毎年1,000億円ほどずつ市場規模を大きくし、平成16年には6兆2,000億円にまで成長。右肩下がりを続ける外食産業とは好対照に、じりじりと拡大する勢いを見せている。
  「食べ物屋の難しいところは、おいしい料理を出し続けないといけない。どこの板前さんもコックさんも、自信を持って料理を出していると思うけど、おいしさの基準は時代とともに変わる。だから、誇りは持たなければいけませんが、うぬぼれてはいけない。また料理を召し上がっていただく店の雰囲気、店員の接客姿勢、そしてそれらを勘案しての料金。これらがうまくかみ合ってはじめて、お店がはやる。中食が増えて外食が減るというのは、時代の変化の他にお客さんのニーズを把握していない点もあるのではないか」
  五万石にはグループも含めて13の飲食店があるが、その一つひとつの店を改めて評価するように、安井社長は語った。

アンテナショップを東京に

個別にみると、売上げを落としている店もあるようだ。しかし、平均してみると、従業員1人/1カ月当たりの売上高は、126万7,000円。料亭業界の平均117万1,000円(平成16年度の統計)より、10万円弱高い。
  さては五万石には山内一豊の妻「ちよ」のような店員さんがたくさんいて、お客さんに上手にもう一品進めているのではないか・・・と思ってうかがうと、ひとしきり笑った後で安井社長が答えてくれた。
  「当社の場合、接待需要はもちろんありますが、一般のお客様からのご支持が多い。中でも数店は、圧倒的なご支持をいただいて、冬の間は予約でいっぱい。こういう店が全体を支えているのです」と。 特に人気が高いのは、本店と東京店らしい。東京店はJR千駄ヶ谷駅の近くに平成13年秋にオープン。商業地としては一等地とはいえない立地であるが、毎年11月下旬から3月末まではフル稼働で、予約の申し込みを断るケースも多々あるという。
青息吐息の飲食店にとっては、垂涎の的のような店といえるだろうが、この店の出店には、ある狙いがあった。それは、富山の食材が東京でどう受け入れられるかを探る、いわばアンテナショップの役割。同社には「五万石食品」という富山の食材を使って通販事業を展開するグループ企業があり、また五万石本店を中心に後に「冷凍おせち事業」に取り組む予定があり、そのための拠点づくり、情報発信基地として東京に新たに店を出したのであった。

生と変わらない冷凍おせち

冷凍おせち「健康快膳」2段重21,600円。にんじんと銀杏は多少食感が変化するそうだが、他は生と変わらない。個人宅への直送の場合は12月30日の午前中に冷凍状態で宅配。その後は冷蔵庫で解凍すると、元旦の朝に食べごろになる。
冷凍のおせち料理?!と読者の大半は首をかしげるだろう。でも、ここがポイント。“最近の正月はかつてのようにおせち料理をつくる家庭が少なく、さりとて全くなしでは寂しいと感じている人も多い。当社の普通のおせちは相当人気を博してきたから、食感さえ損わなければ冷凍おせちでも相当いけるのではないか…”。そう考えた安井社長は富山医科薬科大学(現・富山大学)と富山県食品研究所を訪問。医薬大の教授からはおせち料理に漢方を生かすことの指導を受けた。また食品研究所には、食感を損わない冷凍方法の開発を依頼し、2年余りの試行錯誤の末に“生”と変わらない冷凍おせちの開発に成功。平成16年11月から予約を取り始めたのであった。
  味、食感は、老舗の百貨店のバイヤーが折り紙をつけるほど。今年放送されたおせち料理ビジネスをレポートした番組では、「五万石」の社名こそ出なかったものの、“生”と食べ比べてもどちらが“冷凍もの”かわからない、と同社の冷凍おせちは喝采を浴びていた。
ではどれくらい、売れたのか。安井社長は明言を避けられたので、ここからは編集子が同氏のコメントを総合して推測するのだが…、当初の目標は、山内一豊が近江長浜城の城主になった時の石高数を目指し(ちなみに安井社長は滋賀県長浜市出身)、それは先の商戦でほぼ達成。今度の正月は掛川の石高数を目指し、生産や冷凍保管の体制さえ整えば、土佐はおろかそれ以上も可能になる、というもの。ここまでくると、新しいビジネスといっていいだろう。

中食市場を取り込む

大人気の刺身昆布じめセット(刺身5種類)の製造風景。取材時には、カジキ鮪の仕込み中で、前日に仕込んだものを試食させていただいたが、刺身の余分な水分が抜け、また昆布の旨味が刺身に移っていて、旨かった!
でも実際、一豊が戦国の世を駆け上がっていくように、冷凍おせちの数は伸びていくのだろうか。編集子が取材中にそう考えているところに、安井社長のもとに長距離電話が入り、しばらく話した後で受話器を置いて一言もらした。
  「今の電話、冷凍おせちを海外で販売できないかという打診ですわ」
  聞くところによると、百貨店等バイヤーへのおせち売込み商戦は、2月から6月にヒートアップ。取材にうかがった当時はその渦中で、“海外で…”という打診はこの時がはじめてらしいが、冷凍だからこそ海外への輸出も可能なのである。
  「冷凍にすると市場が飛躍的に拡大します。当社では、富山の味覚をセットした鍋料理(生)などをホームページ上で紹介し、冷凍おせちはそこでも販売していますが、ネット経由でいただく注文もすごく多い。ある意味、外食産業が中食の市場を取り込む構図といえるでしょう」
冒頭に、「外食産業は曲り角を迎えるのでは…」という安井社長の弁を紹介したが、店を支える新たな柱ができつつあるため元気なのだろうか。石高が増える気配は、まだあるようだ。



安井恒夫 五万石グループ代表者
本  社/富山市桜町1-6-4
事業内容/(有)五万石、(株)ごんべい舎、(株)五万石食品、(有)ヤスイからなる飲食店グループ。主に割烹料理、居酒屋、仕出し、食品加工など。
設  立/1971年4月 資本金/1億808万円 従業員/163名

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