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第24回 株式会社サンセイ  

第24回 株式会社サンセイ
ロケットの断熱用に開発された塗料
塗り方を工夫して効果up、売上げup
  
 「いやー、あの人たちのネットワークはすごい。大きな会社でも、担当部署に電話を入れ、我々にプレゼンテーションの機会をつくってくれる。富山の一中小企業が、上場企業の担当部長、担当役員の前で自社の商品・技術をPRできるなんて夢みたいな話だ」
 そう興奮気味に語るのは、ダクト施工が主な業務である、サンセイの川口義春社長。このコメントは、当機構の中小企業販路開拓マッチングコーディネート事業による支援を受けて、複数の上場企業の担当者を紹介され、その工場の屋根に同社が扱う遮熱・断熱塗料「ガイナ」を用いての、省エネ提案を行った時のことを思い出して発したものだ。
 ガイナは、JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)がH-2ロケット用に開発した技術を民生化したもの。サンセイはJAXAが契約した商社よりその塗料を提供されている1社であるが、塗装の仕方を独自に工夫して、その効果を一層高めたため一躍注目を集めるようになった。
 しかし、ここまでの道のりは、平坦ではなかった。
遮熱・断熱塗料が塗装された工場の屋根の例。日射エネルギーを反射し、建物全体の熱負荷を低減する。

施工のみでなくメンテを、そして…

経営の新しい柱を見つけ、積極的に販促に乗り出している川口義春社長。
 もともと同社はダクトの施工が主な会社であるが、事業を取り巻く環境に明るい材料は少ないようだ。工法の技術革新はあまりなく、近年では金属板の切り出しが機械化されたり、フランジ(配管など継手のつば状になった部分)の固定箇所が少なくなった程度。素材も、万一火災になった場合、ダクトは排煙の役割もするため可燃性のものは適さず、亜鉛メッキされた鉄板、ガルバリウム鋼板、ステンレス鋼板、塩ビコーティングの鉄板など、金属を主体とした素材で落ち着いた感がある。
 ダクトの市場環境は厳しい。ビルや工場の新築は、平成に入って伸び悩んでいるのは周知のとおり。その結果、同業者間のディスカウント競争は激化する一方で、ぎりぎりの状態での受注が続いているという。
 そのメンテナンスの市況もほぼ同じだ。平成14(’02)年にビル管理法が改正され、「建築物空気調和ダクト清掃業」が追加された。それを追い風に、同社もダクトの清掃・メンテナンスを受注するようになったものの、ここでも同業者間での値引き合戦があとを絶たないのだという。
 「ただ、そうはいっても、ビルや工場の新築は急には増えませんので、社内にダクトメンテナンスの部署を立ち上げて積極的に受注するようにし、また空調事業の一環として脱臭機の販売にも乗り出しました」と川口社長は振り返るが、これは平成15(’03)年のことである。
 脱臭機の販売は、一見、ダクトから脇道に逸れるように見えるものの、そうではない。病院や飲食店など特有の匂いのある事業所、あるいは業種の異なる複数の事業所が入居する大きなビルでは他社の匂いは気になるものだ。そこでダクトの清掃・メンテナンスを行う際に、脱臭機をダクトの中に入れての一体的な空調もビジネスにしようというわけだ。


独自に遮熱シートを開発

 冒頭に触れた遮熱・断熱塗料との出合いも、そもそもはダクト事業との関連でのことだった。当時(平成15年)同社では、ダクトの保温方法を探していたのだが、NASA(アメリカ航空宇宙局)がスペースシャトル用に開発した遮熱塗料が民生化されているという情報を得た。さっそく日本でその塗料を扱っている企業に連絡をとって効果を試してみると、確かに遮熱・断熱効果はあるもののダクトに使うには高価すぎて、ビジネスになりそうもなかったのである。
 他に用途はないかと、いろいろ試してもみた。油を使いながら金属を削っている工場で検証させてもらうと、通常はダクト内にたまったほこりが油を吸って垂れてくるのだが、この塗料をダクト内に塗ると油が垂れなくなる効果が得られた。ただその工場でも、結局は価格の問題で、採用には至らなかった。
 サンセイではこの塗料の用途開発に3年ほど取り組んだ。そして平成18(’06)年に入って今度は、ガイナに出合ったわけだ
 「同じように遮熱・断熱性能がありますが、価格がまったく違う。屋根に塗った場合で比較すると、半分以下の価格になることが判明し、今度はいけると判断し、積極的に取り組み始めました」(川口社長)
 すでに多くの企業が、ガイナの取扱店に名を連ねていた。ただ同社の場合は、NASA の塗料で用途開発を試みた経緯があったため、塗料の塗り方ひとつで遮熱・断熱効果が違うことが分かっており、試行錯誤の末にガイナの効果的な塗り方を突き止めたのである。またガイナを元に、同社が独自に開発した遮熱シート(特許出願中)を高炉の外側に張ると、熱を炉内に反射するため燃料の節約になると同時に、作業環境の改善につながる効果も確認された。
高炉に遮熱シートを張った例。シートの開発については、6年近く用途開発に取り組んだ賜物ともいえる。


売上げがロケット並に急上昇

ガイナ塗装の様子。塗り方のコツを把握できれば誰でも塗装できるそうだが、そのミソになるところは内緒だそうで…。
 「塗り方ひとつで本当に、遮熱・断熱効果が違うのです。その答をいってしまうと、『なーんだ。そうか』となりますが、コロンブスの卵みたいなもので、それが分かるまで3年かかりました。NASA の塗料を試行錯誤した時から数えると6年。やっと本格的に売り出すことができるようになったのです」(川口社長)
 「石の上にも3年」という。川口社長はそれを2回経験し、満を持して販売に乗り出したわけだ。
 ところが客先の開拓が、なかなか進まない。
 “自分たちが開発したノウハウを、自分たちで売り込むことができないのでは、宝の持ち腐れだ。なんとかして、自社で客先の開拓をしたい”
 そうした思いをもっていた川口社長。平成23年度に入って間もなく、富山南商工会議所の旧知の相談員にそれを語ると、「では今から新世紀産業機構に行こう」と誘われた。そしてとんとん拍子に話が進んで、販路開拓マッチングコーディネート事業による支援を受けることに。この事業は冒頭にも紹介したように、ノウハウや人脈をもっている大企業等のOBに、販路開拓をコーディネートしてもらうもので、ケースによっては商談候補先企業の担当者へのアポ取りも協力してもらえるという。つまり中小企業にとっては、大変にありがたい制度で、サンセイはこの支援により、いくつもの上場企業の工場でガイナの検証が行われ、次年以降の採用が検討されているところだ。
 「前年度の売上げは、ダクト関連が約7割で、遮熱・断熱関係が残り3割。これを数年のうちに5対5に持っていく計画を立てていますが、ダクトは落とさずに、遮熱・断熱を伸ばしていく。その目星はついています」
 ガイナの売上げが、ロケット並に急上昇する気配があるため、川口社長が意気軒昴になるのも無理からぬところか…。


 連絡先/株式会社サンセイ
 〒939-2741富山県富山市婦中町中名1714-8
 TEL 076-465-4200 FAX 076-465-4256
 URL http://knei.jp/~sansei/
 

作成日2012.01.19
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