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第22回 株式会社植物工場  

第22回 株式会社植物工場
 半導体メーカーが野菜工場で新展開
 その可能性やいかに…!?
  
 ここ数年、野菜工場についての報道を、よく見かけるようになった。工場のような施設で、生育条件を人工的に管理して計画的に農産物を生産しようというもの。大都市のレストランの中にはそれを内装の一部に取り入れ、新鮮な無農薬野菜をサラダ等に使っていることをPRしているお店もある。また国も、平成23年度までに同様の工場を全国で150カ所程度に増やす施策を打ち出しており、にわかに関心が高まってきているのも事実だ。
 富山県内でも、野菜工場についてはいくつかの企業で取り組まれている。今回取材で訪問した(株)植物工場も、早くからこれに取り組んだ1社で、同社は富山高槻電器工業(株)の100%出資子会社。新規事業として野菜工場を立ち上げた経緯や取り組みの様子、また今後の展開、可能性などをうかがった。

8年前から新規事業を模索

工場での野菜生産の可能性を語る辻野正樹社長。同社の場合、「付加価値の高い野菜をメインに」とアイスプラントに的を…。
 同社の親会社にあたる富山高槻電器工業は、もともとは半導体を中心とした電子部品の製造加工を行ってきた会社。昭和59(1984)年に設立され、その年末に工場の操業が始まり、家電・電機メーカー等に製品を納めてきた。以来、数年おきに工場を増設し、平成15(2003)年には第5工場が完成。さらなる右肩上がり、を期待していたところであった。
 一方で、家電・電機メーカー等は、バブルが弾けてからは、コストダウンを狙って工場を海外に移すことを模索し始め、半導体などの精密部品を含む機器については、現地での受け入れ態勢が不十分なこともあって少し遅れてはいたものの、韓国・台湾などの企業が実力をつけるにつれ、安閑としておれない状況になってきた。
 「当社が主につくってきた製品との絡みで申し上げると、当社の第5工場ができた後あたりから、メーカーの海外生産が一部で始まり、リーマンショックと円高はそれを急加速させました。これらを予測していたわけではありませんが、いずれメーカーの海外生産は本格的になるだろうから、今のうちに新しい事業の種まきをしようと、平成15年から社内でチームをつくって模索し始めたのです」
 植物工場の社長であり、また富山高槻電器工業の社長でもある辻野正樹氏が8年前を振り返る。
 アイデアはいくつも出た。そして事業化したものもあれば、企画段階で終わったものもある。ある大学の協力を得て、福祉機器の開発・製造・販売を試みた例では、期待したほど商品は売れず、やむなく中止してしまった。
 今も続いている新規事業は、高級アンプに使う真空管の復刻版の製造・販売、ネットde倉庫の事業、そして野菜工場の3つ。高級真空管は、グループ企業の高槻電器工業(本社:京都府)、鹿児島高槻電器工業との共同事業で生産・販売が行われて、マニアの間では高い評価とともに受け入れられている。
 またネットde倉庫は、生活空間に余裕のない都市部の人びとの、当座必要のない生活用品・ホビー用品を月単位で預かろうという事業。荷物の出し入れの申し込みはネット経由で行い、実際の荷物の集荷・配送は宅配便を使うという、利用客にとっては手軽で便利な荷物預かりのシステムだ。もちろんこのご時世を反映して、携帯電話からの利用も可能になっている。


電気代のジレンマ

同社の栽培の現場(ガラス越しに撮影)。以前は半導体をつくる工場で、クリーン工場の機能を最大限に生かしている。
 もうひとつの、野菜工場の件だ。この新規事業では、同社の場合は半導体をつくる工場、すなわちクリーン工場をそのまま利用することができるため、大がかりなものとしては水耕栽培の設備を準備するだけである。温度・湿度・光量などの制御に関してはお手のもの。ないのは野菜を育てるノウハウとつくった野菜を販売するためのルートの確保であったが、その前にまず、生産・販売する野菜を決めなければならなかった。
 これまで栽培を試みた野菜は、新種のアイスプラントの他にリーフレタス類のフリルアイス、アメリカンサラダ3種だ。いずれも葉もの野菜で、平成19年より試験的に栽培してきて、同社では「アイスプラントに絞ろうか」というところまできている。
 「工場で栽培された野菜が、スーパーに出始めています。レタスなどの小売価格は1袋150~160円前後。ハウスや路地栽培のレタスは、普通に生産されている時で100円前後。電気代がかかる分、値段で勝負といわれると負けてしまいます」と辻野社長は語り、「この150~160円という小売価格から想定される工場からの出荷額も、ひょっとしたら原価を割っているのではないかと推測される…」と続けた。
 工場での野菜栽培は、始まって年数が浅い。そのノウハウはまだ確立されていないため断言することはできないが、事情通の企業の話を総合していうと、工場で電気を使ってレタスを栽培した場合、1株あたり最低でも120円程度で出荷しなければならないのではないかという。ところが、150~160円の小売価格から推測される1株あたりの出荷額は70~80円程度で、赤字がふくらむという現実があるようだ。実際、日量10000株以上のレタス・サラダの提供を可能にしていたある野菜工場が、しばらく続けた後であっさりと撤退した背景には、以上のような事情があるともいわれている。
 辻野社長がまずはアイスプラントに的を絞ろうと考えるには、こうした生産・流通の事情と、自社での栽培実験から得られた結論があるのであろう。


薄い塩味のするアイスプラント

同社で栽培しているアイスプラントとそのパッケージ。1個の小売価格は198円。1月現在で、日量200個を出荷(県内8割、東京向け2割)。
 ではその、新顔のアイスプラントとはどのような野菜なのか。
 左の写真でご覧いただくように、葉・茎の緑は濃い。試食させていただいたところ、食感はサクサク・シャキシャキしていて、塩を振りかけたわけでもないのに、薄い塩味を感じる。例えるならば、枝豆の塩味というところか。無農薬で栽培しているため、洗わずにそのままビールのつまみにできるし、サラダとしてはドレッシングなしで食することもできる。
 「ここまでくるのに3年かかりました。温度、湿度、照明、肥料の栄養分の内容など、栽培条件が違うと、育ち方がまったく違う。別の植物ではないかと思うほどに、生長したこともありました。また、同じ栽培条件にしていても、50株栽培の時と100株栽培の時でも育ち方が違ってくるのです。おまけに栽培条件が違うと、味も変わってくる。他でつくられたアイスプラントを食べたことがありますが、それには苦味がありました」(辻野社長)
 アイスプラントはもともと、ミネラルなどの栄養素の吸収能力が高く、その苦味は、土中(水耕栽培の場合は、その液中)の栄養素に主に由来し、温度や光量などの影響も受ける。路地栽培では相当、苦味が強くなることもあるようだが、同社では苦味がほとんど感じられない味にこだわったのである。
 この3年間は、トライ&エラーの繰り返しであった。ある栽培条件でアイスプラントを育て、その結果が出るまでに60日。そこで条件を修正して、再び栽培して大きさ、色、食感、味を調べる。この繰り返しの結果、現状の日量200株の出荷ができるまでにノウハウを蓄積してきたわけだ。ただ日量200株の出荷では、とても採算ベースにはのらない。業界では「1日1000株出荷して採算ベースにのる」といわれているが、それが可能になるまでに、解決しなければいけない課題がまだあるのかもしれない。


「日量1000株出荷が採算ライン」といわれているが…

半導体の営業から、工場で生産する野菜・アイスプラントの営業に異動になった高島浩さん。精密機器の営業とは勝手が違うようで…。
 また問題は売ることだ。アイスプラントといってもまだ新顔の野菜で、認知度は低い。また親会社はもともとは、半導体等の電子部品の製造加工をメインとしてきて、野菜の販売などまったく経験したこともない。同社にとっては販売チャネルを一からつくらなければならなかった。
 「暗中模索という言葉の意味がわかりました」というのは、植物工場で営業課長を務める高島浩さんの言葉。高島さんはそれ以前は、富山高槻電器工業で生産や管理、営業等を担当してきたが、新規事業の立ち上げと同時に植物工場での営業に移り、「同じ営業でも電子部品と食品とではこんなにも違うのか」という戸惑いの中で、徐々に販路の開拓をしてきたわけだ。
 (株)植物工場が設立されたのは昨年の7月。9月よりサンプル出荷を始め、今年1月上旬には生産の限度枠いっぱいの日量200株を食品問屋に卸すまでにこぎつけた。
 前述のように、一般的には1000株が採算ラインといわれているものの、先のレタスのような例ではとてもではないがビジネスにはならない。同社では次の段階として、日量400株の生産・出荷を目標としているが、栽培条件は同じでも株数を増やすと生長に変化が生じる可能性もあるため慎重に取り組み、またコストダウンの方策も探っているところだ。
 「採算ラインの目安を1000株におくのが正しいとして、当社の場合、今の方法で日量1000株を出荷した場合を想定してみると、どうも採算ベースにはのらないようです。そうすると原価を落す工夫をしないといけないのですが…」
 新しい規格の電子部品をつくるのとは訳が違って、試行錯誤も多い。辻野社長は「日量200株の栽培も実験、日量400株も1000株も同じく実験で、我々にとっては当分、実験が続きそうです」と言葉を継いだが、この実験には“売って、採算ラインにのせる”ことも含まれるわけで、その意味では植物工場ならびに富山高槻電器工業の取り組みは、まだ道半ばといったところか。

 連絡先/株式会社植物工場
 〒937-0022富山県魚津市小川寺470番
 TEL 0765-31-6177 FAX 0765-31-7257
 URL http://syokubutsu.toyataka.co.jp/
 

作成日2011.02.24
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