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第17回 株式会社初芝  

第17回 株式会社初芝
 “お荷物” な荷物を効率的に
 配送するナビシステムを開発
  
 一般家庭への小口宅配のビジネスが始まったのは、昭和51(1976)年1月20日のこと。関東地域限定でのスタートであったが、初日の取扱量は11個だった。それが今や年間で32億1166万個。この他に50億906万通のメール便もある。荷物に限ってみても、1日平均879万9000個が扱われているわけだ。(国土交通省資料 平成20年度実績(PDFファイル)
 宅配事業者にとっては、「荷物様々」といっていい状況であるが、事はそう単純でもないらしい。荷物が“お荷物”になることもあるようだ。

時間軸と位置・距離軸で考え、あとは勘でルート決定

 例えばここに、1人の配送ドライバーが扱う荷物が100個(100カ所分)あったとしよう。新人ドライバーならば、伝票整理とルート決定に2~3時間はかかってしまう(場合によっては、もっと)。午前配送の時間指定の荷物があった場合、その実行が極めて厳しいこともあり得る。また100個の荷物を、1日で配送完了にするのも極めて難しいといっていい(実際、新人ドライバーには無理といっていい)。
 ところが熟練のドライバーは、1時間もしないうちに伝票を整理し、ルートを決めてしまう。ルート決定には、時間指定はもちろんのこと、配送先の家人の在宅率の高い時間も加味されている。すなわち熟練ドライバーは、経験と勘から時間軸と位置・距離軸を総合してルートを決めているわけだ。
 その結果、熟練ドライバーが担当した場合は不在率が低くなり、また1日に扱う荷物量は増える。諸条件があるため一概にはいえないが、1日に100個(100カ所)の荷物を配送完了にするドライバーは、ベテランといえるだろう。
 冒頭でも紹介したように、宅配の荷物はますます増える傾向にある。荷物が増え、時間指定が増えれば増えるほど、各家庭への配送には一種のノウハウが求められるようになるが、なかなかマニュアル化できないのが現実だ。そこで宅配事業者の多くは、法人宛の荷物は自社配送するものの、各家庭への配送は地元の運送会社に委託するようになってきた。“お荷物”な荷物の配送は、外注するというわけだ。


経験と勘に頼ったルート決定をコンピュータ化

“お荷物”には、ビジネスチャンスありと判断し、荷物を運ぶシステムと荷物そのものを増やすことに余念のない羽岡立史社長。
  今回紹介する初芝は、その受託会社の一社だ。同社は、ある大手宅配事業者から個人宅宛ての荷物の配送を引き受けたのを皮切りに、複数の宅配事業者からも委託を受けるようになった。今や富山県内で1日に配送する荷物の量は、5,000~6,000個。同社の配送網抜きでは、県内の家庭への宅配が成り立たないといってもいい状況だ。
 「まったくの新人のドライバーで、1日30個前後。平均的には80個前後。ベテランになると1日100個前後の荷物が配送できるようになります。その差は、配達の積み重ねと、毎日の運行によって自分の配送エリアの人びとの在宅の可能性の高い時間を把握しているかどうかにある。言葉を変えると、ドライバーのカン(勘)ピュータに頼っているのが現実です。でもそれでは、いつまで経っても問題が解決しません。そこで、熟練ドライバーのカンピュータをコンピュータ化できないかと思ったのです」
 羽岡立史社長が、漠然と思い立ったのは平成18年のことだ。さっそく配送先の在・不在の実態のチェックに乗り出した。不在によって再訪した場合は、不在時間と配達完了時間を明確にし、過去数年分も含めてそのデータベース化を試みたのである。もちろん、毎日集まる5,000件以上の新規のデータも加えていった。
 


「目的地の近くです」ではなく、個別の建物(家)まで案内

車載用のGPS ・ナビゲーションシステム。最終的には住宅地図で個別の建物(家)まで表示する。携帯電話で配送センターとの通信もでき、ルート変更した場合は、演算し直して最適ルートのデータ通信も可能である。
 平成20年に入ってからのことである。まずは伝票整理のマニュアル化とルート検索のソフト開発の方向性が見えてきた。そして秋には、データベースの整備にメドがつき、同社ではさっそく、配送先の住所を入力すると、在宅率の高い時間と時間指定を加味しながら配送ルートを演算するソフトの開発に乗り出した。単なる最短距離のルートナビではなく、熟練ドライバーのカンピュータを、本格的にコンピュータ化しようというのだ。
 かつて大手のIT企業も、こうしたシステムの開発を目指したことがある。ただその時は、データベースの構築に限度があったのと、ユーザーニーズを絞り込めば絞り込むほど市場がニッチになるという難点があったため、その計画は途中で頓挫してしまった。
 ところが初芝の場合は、自社の車両の効率的な運用に迫られていたため、その必要性は極めて高かい。そして配送を確実にするために、システムには道路マップの他に住宅地図も搭載することにし、地図会社の協力も得たのであった。
 「efficie」(エフィシェ)と名づけられた宅配専用のナビゲーションシステムができ上がったのは暮も押し迫った昨年12月のことだ。初期の目標のとおり、荷物の時間指定も配送先の家人の在宅率も加味する。しかも個別の建物(家)まで案内するスグレモノだ。
今年2月に行われた「第4回とやまベンチャーマッチングフェア」での、同社の発表と展示コーナーの様子
  「普通のナビでは、『目的地の近くです』で終わってしまうでしょう。でもそれでは、その周辺の何軒かの家の中から、配送先を探さなければいけません。でも当社のefficieの場合は、住宅地図を搭載していますから、個別の家の玄関先までナビゲーションし、ここでも時間を節約することができるのです」
 1カ所30秒として、100カ所の配送先を持っていた場合は50分の合理化。1カ所1分の場合は、100分の時間の節約につながる。そのため、こう語る羽岡社長の表情は満足そのもの。そこで、このシステムを自社での運用だけでなく、配送を業務とする事業者向けにパッケージ化して、販売することも企画した。
 今年(平成21年)1月には、当機構の紹介で、「ベンチャーフェアJapan2009」(主催/中小企業基盤整備機構)に出展。また2月には、当機構主催の「とやまベンチャーマッチングフェア」でビジネスプランを発表したところ、地元富山と愛知県の企業から引き合いがあり、うち1件は成約、もう1件は商談継続中だ。

   

配送センターでは、各ドライバーの現在位置・運行状況の把握もできる。
  efficieをPRするようになってから、デモンストレーションやデモ機の貸出し依頼が多くなった。個別にカスタマイズすれば、事業者ごとに顧客の在・不在を演算してのルート検索も可能であるため、配達を業務とする事業者の間では注目度が高いようだ。
 また、このシステムを精密化しての、倉庫内ナビができないかという相談も寄せられた。倉庫の中にある数千点、数万点の部品(商品)の中から、目的のものを効率よく探し出し、生産ラインや発送作業に乗せることができないかというのだ。
 集荷・配送などで“お荷物なこと”がある限り、同社の荷物を扱うナビゲーションシステムには、他にもビジネスチャンスがあるようだ。ラーメンの出前まではいかないにしても、世の中には運ぶものがたくさんあるのである。



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作成日2009.08.03
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