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第16回 セト電子工業株式会社  

第16回 セト電子工業株式会社
 愚直なまでに技術一筋
 利益は社会貢献に付いてくる
  

  「このままいったら、会社が潰れてしまう。夜逃げでも…」
 大手精密機器メーカーから有志が集まって独立し、昭和59年の創業から1年半ほどが過ぎた時のこと。計測機器や検査装置の設計で、地元のメーカーからも徐々に信頼されるようになり、月平均200万円ほどの売上げが確保できるようになりつつあった時だけに、新製品の開発・販売にからんで、取引先企業が倒産して5,000万円の焦げ付きが発生したのは痛かった。協力工場や材料を仕入れた取引先への支払に窮し、「夜逃げ」が頭をよぎったのも無理はなかった。
 しかし「それではあまりにも不誠実だ」と判断したメンバーは、お詫び行脚で債権者を回ることになる。その一方で、山のような部品や材料等を抱えて途方に暮れながらも、それらを生かす道はないかと模索したのであった。

「プールを生産ラインに見立て…」

「儲け第一に走ると、事業の将来を見間違う可能性が高くなる」と語る南雲弘之社長。根っからの技術屋です。
 「焦げ付きの原因となったのは、競泳プールに設置されている、タイムを計るタッチパネルと計測器、その表示システムでした。開発を終え、すでに初期営業分として120セットも取引先に納めていたのですが、そこが倒産したのです。仕入れた材料と生産ラインを何とか生かせないかと考えた結果できたのが、工場の進捗管理板でした。プールには8コースありますが、その一つひとつを工場の生産ラインに見立てて、ソフトの書き換えを行い、LEDによるラップタイムの表示板を生産数量の表示板に変えました」
 南雲弘之社長は、今でこそ穏やかに語るが、当時は「夜逃げ」も考えたほどであるから、針のムシロに座っているような毎日であった。
 ところが、せっかく開発した進捗管理板もなかなか売れない。日中は本業の設計業務を行い、夕方から見本のシステムを積んで関東・関西方面へ出張。途中、サービスエリアで仮眠をとって、翌朝は工場への飛び込み営業にまわった。
 「こんな表示板1枚で生産性が上がるわけがない」
 どの工場も反応は同じであった。生産性を1%上げるために、工場の責任者は乾いた雑巾を絞るように職場改善に取り組んできた経験を持っているだけに、表示板の効果に思いが及ばなかった。今でこそ「見える化」は当たり前のように認識されているが、当時はそういう言葉も、考え方もなかったのである。だからまったく売れなかった。


一緒に営業に回ってくれた工場長

 そんな中、ある工場長が呼び止め、「試しに1ラインで使ってみようか」といってくれたのである。「富山から何度も足を運んで、可哀想だ。あるいは、しつこいから1ラインだけ入れてやろう、とでも思われたのではないか」と南雲社長は振り返るが、上場企業の大きな工場が採用することになった。
 そして導入から1カ月して工場長から電話があった。
 「あんなもの、ぶら下げただけで生産性が十数%上がった。あんなもの…」と繰り返し、「すぐに工場に来て欲しい」と付け加えたのだ。さっそく工場へと車を駆ると、工場長は合点がいかないという面持ちで「なんで、あんなものが生産性を上げるのか」とまた尋ねてきた。
 南雲社長はIE(生産管理)の観点から「1日が終わって日報で報告する場合は、今日は達成できなかった、明日は頑張ろうとなるけど、掛け声だけで終わる可能性が高い。しかし進捗状況をリアルタイムに把握すると、遅れが出た場合は取りかえそうと努力する。表示板はその意識を高めるツールになった」と話すと、納得した様子の工場長は他のラインにも設置を進めるとともに、協力工場にシステムを紹介するために南雲社長と一緒に回ったのであった。
 
LEDによる表示機器の設置例。最初に進捗管理板を採用された工場長は、後に海外の工場責任者になったそうだが、そこでもセト電子工業の進捗管理板を取り付けたという。


高度な技術でも、役に立って生きる

 LEDを使った進捗管理板は、徐々に広がっていく。また後続メーカーも参入して、金融機関や病院、役所の窓口、駅や空港の案内表示、屋外の広告・ディスプレイなど、用途も拡大。セト電子工業が表示板を始めて10年くらいした時には、計測・検査機器の設計の売上げとLED事業の売上げが肩を並べるようになり、さらに数年するとLED事業が80%を超えるようになった。
 技術的には計測・検査機器の設計の方が難しい。しかし、そちらにこだわると伸びつつあるLED事業にエンジニアが回せなくなる。そのジレンマの中で、LED事業への1本化を決断した。
 「当社が設計した計測・検査装置は、技術的には大手のものと比較しても遜色がありません。しかし、なかなか採用されない。計測・検査装置は、ある意味、システムの心臓部に使われるものですが、採用担当者は、最後はブランドで選ぶことがわかりました。そこでどれだけ努力しても、無名な中小企業は土俵にも上がれないことがわかり、LED専業でいくことを決断したのです」
 南雲社長のこの弁の通り、同社は開発の資源をLED事業に注ぎ込むことになる。その結果、業界ではいち早くLEDによる10億色の表現を可能にし(一般的には256色)、また1秒間に100コマの切り替えを可能にした(一般的には10コマの切り替え)。
 同社のそういう技術を見て、日本を代表する電気メーカーからOEM(相手先ブランドによる生産)の打診があった。切り替えが10倍も速いLEDは、アニメーションなどの細かい動きも表現でき、屋外広告用の商品としてその電気メーカーが販売していこうというのだ。チャンス到来。さっそく、OEMによる供給が始まった。
LEDで10億色の再現を可能にしたシステム。「これも最終的にはブランドで選ばれる製品」(南雲社長)らしい。同社にとっては、こういう技術も持っています、とPRする材料になっている。
  ところがである。供給が始まって2年ほどした、ある出張からの帰りのこと。南雲社長が車を走らせているとLEDの広告の光が目に入り、その点滅を不快に感じた。よく見ると、同社が供給している製品ではないか。
 「他にも、不快に感じた人がいるかもしれません。自分が嫌だと感じたものを、お客様に販売するのはおかしい。技術は人の役に立ってはじめて生きるもので、高度な技術があっても人を不快にさせたなら、技術者の自己満足でしかない」
 そう感じた南雲社長は供給先を訪ねて、取引中止を打診した。供給先は「うちからの注文を断るなんて、おかしいのではないか」と再考をうながしたが、社長の意思は変わらない。とにかく、供給先には頭を下げ続け、取引中止が合意に達すると、南雲社長は同製品の生産中止を決めたのである。
 「社員はみな納得してくれました。確かに会社をやっていくには利益が必要ですが、優先順位でいうとお金は1番ではない。いい技術を開発する、お客様に喜んでいただく、社会の役に立つ。これが優先順位の1、2、3です。これをやっていくと、お金はついて回ってくるものです」(南雲社長)
 同社の経営は、この言葉の通りだ。技術者の自己満足に終わる製品開発ではなく、社会の役に立つ技術を目指してきた。その結果、お金が後を追いかけてきて、黒字経営を続けている。
 


LEDで農業にも明るい未来を

同社の生産現場の様子。チャンバーについては実験中で、早期の製品化を目指しているところ。
 そのセト電子工業が新たな商品開発に乗り出した。社長自身が富山県立大学の聴講生になって生物工学の基礎を勉強。修了したあとは専門書を読み続けてきた。LEDを植物の栽培・育成に生かそうというのだ。
 「今、開発を目指しているのは、植物育成用のチャンバーです。LEDは消費電力が低く、熱を出しませんから温度管理がしやすい。また当社は計測・検査装置の技術を持っていますから、光の強弱や色、温度・湿度、空気中の酸素や二酸化炭素の濃度、気圧など、植物が生長するための環境の制御もできます。従来のチャンバーは細かい生育条件の管理ができないと聞き、ビジネスチャンスがあるのではないかと思ったのです」
 南雲社長が20歳前後の学生に混じって、生物工学を学んだのはこのためだ。それと同時に、県立大学の生物工学科や椎茸栽培企業と連携して、チャンバーの運用試験や生育条件による生長の違いを把握する実験も行っている。
 ちなみにこの開発事業は、地域の産業資源を生かして新事業を起こすことを支援する「とやま発新事業チャレンジ支援事業」に採択された案件。将来の農業生産に、光明をもたらす可能性があるだけに、関係者からの期待も大きいところだ。


連絡先/ セト電子工業株式会社
〒939-0351富山県射水市戸破8-10
TEL 0766-56-9555 FAX 0766-56-9333
URL http://www.npsec.com/(同社の販売関係の別会社・日本セック(株)のHP)
 

作成日2009.02.20
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