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第14回 富士化学工業株式会社  

第14回 富士化学工業株式会社
 起死回生を図ったアスタキサンチンで
 会社の生理活性も高めた
  
 “このまま行くと、会社に未来はないかもしれない”
 少し大げさな言い方であるが、13年前、西田光德社長が社長に就任した時はそんな状況であった。およそ15年、100億円近くかけた新薬開発が暗礁に乗り上げた後だ。大手製薬メーカーからの医薬品製造の受託事業も、台頭する中国やインドの企業に押されて、時には再契約に至らないこともあった。
 「お先真っ暗」とはこのこと。平成7(’95)年は、西田新社長にとっては忘れられない年になってしまった。

生理活性の高い天然ものを!

「苦節8年……」とアスタキサンチン事業化を振り返る
西田光德社長。
 「もう必死でした。社内で会議をしたところ、本業の医薬品事業に力を入れようという意見の他に、ミネラルウォータやジェネリック薬品、ドリンク剤の製造販売など、当社にとっての新規事業を起そうという提案など、議論百出の状態でした」
 西田社長は苦渋に満ちた当時を思い出すが、同社が選択したのはライフサイエンスの分野への進出。「医薬品で培った技術・ノウハウを、病気の予防や健康増進の分野で生かせるのではないか」(西田社長)という思いからの新たな船出であった。
 では、素材として何を扱うか。単に医薬品の延長ならば、化合物になってしまう。同社が注目したのは天然ものであった。生理活性の高い天然ものを、サプリメントなどの形で利用できないかと考えたのである。
 候補に上がったのは、雪藻(ゆきも)に含まれる高度不飽和脂肪酸、パーム油やはい芽などに含まれるビタミンEの約10倍の生理活性があるトコトリエノール、そしてエビやカニなどの甲殻類、サケなどに含まれるアスタキサンチン(カロテノイドの一種)。いろいろ検討の結果、最終的に絞られたのはアスタキサンチンであった。
 「アスタキサンチンには極めて高い抗酸化作用があり、老化や病気の進展を防ぐことが知られていましたので、当社の新規事業にはピッタリだと思ったのです」(同前)
 しかしながら、平成8、9(’96、’97)年頃の天然もの(主にオキアミ由来)のアスタキサンチンはキロ当たり3,000万円程度。天然ものを使うと製品価格に跳ね返るため、当時は合成のアスタキサンチンが市場の大半を占めていた。


「ドン・キホーテのようだった」が…

ハワイ・マウイ島のバイオドーム(左)と世界初の屋内培養方式であるバイオフォトリアクター(スウェーデン)でヘマットコッカス藻を培養。アスタキサンチンの抽出は富山の自社工場で行っている。
 それでも同社では、天然ものにこだわった。そして、ヘマトコッカス藻というアスタキサンチン含有量の多い微細藻類に着目。これを大量培養して、アスタキサンチンを工業的に抽出することにした。コストはオキアミの10分の1程度になり、サプリメント等への利用の道が開けたのである。
 ところがこの藻。安定的に培養するためには年間を通して豊富な太陽光(特に紫外線)と冷却用の水が必要となり、培養地探しが課題になった。
 ハワイ、アリゾナ、カリフォルニアなど、晴天が多い地へ飛んだ。ヘリコプターで空から候補地を探したりもして、天候が良く、水の確保ができるハワイ・マウイ島に決めた(平成11(’99)年末)。またスウェーデンでアスタキサンチンを生産していたバイオベンチャー企業を傘下に入れ、生産体制の充実も図った。
 「こうして準備を着々と進めていっても、新薬開発の二の舞いになるのではないか、と冷めた目で見られたことがある」と西田社長は当時を振り返るが、当の本人は必死だった。大手製薬会社や食品メーカーなどに果敢に営業をかけ、その様はまさに「ドン・キホーテのようだった」という。
 


市場が拡大、シェアもアップ

アスタキサンチンを使用した同社のサプリメント「アスタビータ」(上)と化粧品「アスタキュア」シリーズ。いずれもHPなどで直販している。
http://www.natureal.co.jp/
 物語の中のドン・キホーテは風車に跳ね返されるばかりであったが、西田社長は違った。食品メーカー等が、健康補助食品の素材として同社のアスタキサンチンを採用し始め、今では原料ベース(バルク)での富士化学のアスタキサンチンのシェアは約7割。市場に出ているアスタキサンチンを含む商品の大半が同社のバルク(商品名:アスタリール)を使っているのではないかと推測されるまでになった。また同社自身でも、サプリメントを商品化し、平成14(’02)年から販売。60億円前後であった同社の年間売上げ(主に医薬品事業)は、新規事業が加わって10億プラスの70億円に成長し、サプリメント関連だけでも2億円近くを売り上げるまでになった。
 「培養に失敗して、藻を全滅させたこともあります。事業として軌道に乗り始めたのは3、4年前からですが、8年かけてここまで来ました。バルクで30億円、商品で20億円、合わせて50億円の事業に育てるのが夢です」
 西田社長は至って意気軒昂だが、そのための布石を着々と打っている。そのひとつがナチュリル陸上部の支援。トップアスリートの支援を通じて、アスタキサンチンを使った同社のサプリメント「アスタビータ」の素晴らしさを知ってもらおうという狙いで始めたところ、創部2年目で日本実業団大会女子の部で総合優勝を果たしたのであった。
ナチュリルアスリートクラブの皆さん。各種の大会で好成績を残し、今後のオリンピックや世界陸上が楽しみです。(木田真有さん、丹野麻美さんの北京五輪出場が決まりました)
http://www.natureal.co.jp/nac/

 「大学等に依頼して、アスタキサンチンの生理活性を調べています。またその一方で、トップアスリートに使っていただいて、「アスタビータ」を評価していただく。一種のブランド化です。これからは単にモノを売る時代ではなく、社会貢献やお客様に感動や共感を覚えてもらうような企業活動が必要ではないか」とアスタキサンチンを生かしたビジネスの夢を語った後で、「本業の医薬品事業でも新たな展開を図りたい」と西田社長は続けた。
 


製剤技術を高め、便利な薬を

同社のスプレードライ装置。医薬品業界では同社のスプレードライは定評があり、薬に付加価値をつける上で重要な技術の1つとなっている。
 その新展開とは…。
 西田社長の言葉を要約すると、薬の吸収効率を高める、薬の利便性を高める、などの製剤技術を高度化し、製薬業務の受注拡大を図ろうというもの。既に同社では、水なしで服用できる薬を製品化しているが、こうした便利な薬を開発して医薬品事業でも太い経営の柱を持とうというのだ。
 同社は、新商品とともに新事業開発の経験をいくつも持っている。ベンチャー精神にあふれる一方で、前回と同じ轍を踏むのではないかと、慎重になった時もあった。そこには数々のドラマがあったはずだ。苦い酒を飲んだこともあれば、復興の美酒に酔いしれたこともあった。アスタキサンチンは、抗酸化の生理活性を通じて健康増進に寄与するものであるが、その開発・生産・販売をとおして富士化学自身も生理活性を高めたようだ。

連絡先/ 富士化学工業株式会社
〒930-0397富山県中新川郡上市町横法音寺55
TEL 076-472-2323 FAX 076-472-2330
URL http://www.fujichemical.co.jp/
 

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