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第12回 ホクセイプロダクツ株式会社  

第12回 ホクセイプロダクツ株式会社
 アルミを超アルミ的に用途開発
 ビジネスチャンスが生まれて…
  
 「これをご覧ください。当社の高純度アルミが使われています」
 冨田昇太郎社長が、小さな袋を取り出した(写真右)。パッケージ見本であるため、本来の医薬品の代わりにグラニュー糖を入れてあるそうだが、読者の皆さんにはこの袋に使われているアルミが見えるだろうか。
 えっ、見えない!?……。
 でもご安心を。実は、この記事を書いている編集子自身にも見えません。しかしながら、何層かになっているパッケージの中間層全面には薄くアルミが張られ(専門的には「蒸着する」という)、普通なら水蒸気が入ってしばらくすると固まってしまうグラニュー糖が、さらさら状態を保っている、のである。不思議な話だ。金属の物性に詳しくない者にとっては、「透明なアルミってなに!?」と首をかしげたくなるところであろう。
 お湯状に溶かした高純度アルミを気化させたり高純度ケイ素を昇華させ、フイルムに蒸着させる時に酸素を吹き掛けると、アルミやケイ素が酸化して半透明になってしまう。しかもその厚さはオングストローム単位(1オングストローム=1cm/1億)。これだけ薄いと、半透明のアルミもケイ素も肉眼では透明に見えてしまうわけである。
 今回取材でうかがったのは、その高純度アルミを製造加工するホクセイプロダクツ。アルミ製品というと建材や機器の部材・部品、生活雑貨等が連想されやすいが、医薬品のパッケージなど意外なところに用途が広がっていた。
高純度アルミが、フイルムの内部全面に蒸着されたパッケージ見本。酸化されるためアルミは半透明になり、しかも極めて薄いため肉眼では透明に見えてしまう。

純度を落さずに加工する技術を確立

「アルミの用途開発をする時は、まずは頭をやわらかくしないといけない」と語る冨田昇太郎社長。
 もともと同社は、日本軽金属グループの一員として、アルミ製の建材や機器の部材・部品を生産してきた。一時は自動車に使われるアルミ製品も手がけていたものの、メーカーが部材調達ルートを海外にシフトするに及んで、その分野から撤退した経緯を持っている。
 従来の建材や機器の部材・部品、生活雑貨等だけでは、コスト競争に巻き込まれてしまう。そのため、ホクセイプロダクツではアルミの用途開発を進めていたのであった。
 「パッケージなどでの応用は、そのひとつです。スナック菓子の袋の内側、指で押すと錠剤やカプセルが出てくる薬のパッケージ、粉もしくは顆粒状の医薬品を入れる袋等々。従来とは違った用途でのアルミの使用が進み、当社の営業品目の柱のひとつに育ちつつあります」
 そして冨田社長は「もっと伸びるでしょう」と続けて、冒頭で紹介したパッケージ見本を手にとり、「今度は、中が見えることがセールスポイントになる」と強調。医薬品や食品メーカーなどに向けて積極的に営業展開している様子を明かしてくれた。
 ではこの、高純度アルミとは一体何か。
 建材などのアルミ製品の純度は、高くても99.7%。強度を保つために銅やマグネシウムを加えて合金にしたり、溶解加工の過程で釜や湯道で不純物が混入して、純度は低くなっている。一方、高純度アルミは不純物が取り除かれ、純度は99.9%以上。99.9%の高純度アルミはスリーナイン(3N)、99.99%はフォーナイン(4N)、99.999%はファイブナイン(5N)と呼ばれ、同社では純度を落さずに加工する技術を確立し、相手先企業が求める形での出荷も可能にしている。

高純度アルミのインゴット。純度を落さずにワイヤー状、粒状に加工する技術がポイント。小ロットでも対応できるのは、国内では同社のみ。


家電・IT業界が熱い視線を

 この高純度アルミを、前述のパッケージ関連以外の業界が注目し始めた。それはテレビや携帯電話等のディスプレイにかかわる家電・IT機器業界。例えばテレビは、近年は薄型の液晶ディスプレイが主流であるが、今後現れる有機ELのテレビになると(あるメーカーがこの冬に発売予定)、その厚みはミリ単位。液晶ディスプレイは、液晶自体が発光するわけではないので、発光装置を内蔵しなければいけないが、有機ELの場合は自発光機能を有しているので、極端な言い方をすればディスプレイを紙のように薄くし、しかも丸めたりすることも可能になってくる。
 ディスプレイが薄くなると、そこで使われる部品・部材も薄く・小さくすることが求められ、しかしながら性能を落してはいけない。そこで注目されたのが高純度アルミだ。普通のアルミでは大した効果が現れないものの、3N以上になると別な金属ではないかと思うほど威力を発揮するという。純度0.2%の差には、天地の開きがあるといっても過言ではない。
 「高純度アルミには、純度が高いほど電気抵抗が低い、反射率が高いなどの特性があります。またアルミは、金属資源が高騰している中では値上がり率が低く、リサイクル性も高い。これらを総合的に考慮して、各メーカーさんは従来の素材から高純度アルミに切り替えておられるのでしょう」
 冨田社長はそう分析するが、最近の金属資源の高騰は異常ともいえるほど。ここ1年に限ってみても、銅はトン当たり30万円から90万円を超えるまでに値上がりし、一方のアルミはトン当たり22万円から35万円前後にアップ。金属資源の中では、アルミがかぶってきた高騰の波は、他に比べると小さかった、といってよい。
 このため、高純度アルミへの代替化が進み、いち早く取り組んだのがディスプレイメーカーであった。特に日本、韓国、台湾の3カ国では、その薄型化にしのぎを削っており、有機EL の開発が進めば進ほど高純度アルミの必要性はますます高くなってくる。またハイブリッドカーや太陽光発電のシステム、リニアモーターカーなど、他の分野でも用途開発が進展。「宇宙関連の団体からもサンプル出荷を求められたことがある」というから、ロケットでの高純度アルミの使用が試みられているのかもしれない。
 


結晶模様をデザインとして……

高純度アルミの結晶を析出させた板。プロダクトデザイナーも関心を寄せ始めているというから、従来とは違ったスタイルで生活雑貨の中で生かされる可能性が出てきた。
 同社への問合せやサンプル出荷の依頼は、毎日のように舞い込む。取材中も数件、電話が入り「こういう形状での出荷は可能か」と打診があった。高純度アルミを扱う企業は国内では数社。小ロットの対応、相手先企業が望む形状への加工となると(もちろん純度を落さずに)、ホクセイプロダクツの独壇場のような感があり、今後の展開が期待されるところだ。
 「パッケージ、電気、自動車関係の他に、最近もうひとつ開拓したいと思っているのは、この高純度アルミをデザイン・装飾の世界で使えないかと思っています」
 冨田社長は、今度は A3判くらいの大きさのアルミの板を取り出した。高純度になるとアルミは反射率を高めるというが、結晶を析出させたその板はアルミとは思えないほどに輝き、新たな事業の希望の光のように思えた。




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