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第13回 世界をリードする環日本海経済交流
中国ビジネス成功のヒントを探る
貿易・投資セミナー事業の紹介
 
  
 100年に一度の世界的な不況に見舞われ、アメリカや日本、中国では緊急経済対策が打たれています。中でも中国は大規模な経済刺激策により、2009年4月~6月期のGDP成長率は8%程度を達成し、V字回復を図っています。本年度第1回目の「環日本海貿易・投資セミナー」では、伊藤忠商事の平石幸雄氏を講師に招き、商社マンの目から見た中国経済の現状と見通しについて講演いただきました。その一部を要約してお知らせします。
 
 中国でいま何が起こっているのか
  ~商社マンの目から見た今後のビジネスチャンス~
   伊藤忠商事株式会社海外市場部中国室長代行 平石 幸雄氏

内需を刺激する景気対策

講師の平石幸雄氏。滑川市出身で、セミナー後の懇談では、時々富山弁をのぞかせるなど、参加者と親しく話し合っていた。
 2009年3月の全国人民代表大会で、温家宝首相は2009年の目標について、GDP達成率は8%前後、失業率4.6%以内、財政赤字は9,500億元(前年の1,100億元から急増)、貿易総額は2008年の17.8%増から09年は8%増と示しました。また景気対策として4兆元(約60兆円)のインフラ投資、増値税の改革、自動車産業の育成、家電下郷、汽車下郷の5つを掲げました。
 1997年のアジア通貨危機の際、東南アジアで唯一自国通貨を切り下げなかった中国は、高速道路に毎年2,000億元(約3兆円)を投入し、自国経済の活性化を図ってきました。ところが今回のインフラ投資では、約7倍の1兆5,000億元(約18兆円)を、高速鉄道の整備に投入する予定です。これはまさに東海道・山陽・東北新幹線を整備してきた日本の高速鉄道の歴史を彷佛とさせるものです。
 家電下郷は、カラーテレビ、洗濯機、冷蔵庫などを買った農民には、13%の増値税相当分をキャッシュバックするものです。洗濯機ではパナソニックやサンヨー、携帯電話ではノキアやサムスンなどの外資企業の製品も対象となっています。家電大手のTCLは、2月の農村部の売上げを前年比250%増加させ、海外市場の落ち込み分を補いました。
 家電下郷については、その効果が大きいところから、上海や北京などの大都市にも広げられることが発表されています。また中国では、6億数千万台の携帯電話が普及していますが、これを農村部でも販売することが検討されており、新たなビジネスチャンスが生まれるのでは、と期待が高まってきました。
 汽車下郷も農村部を活性化させる施策です。古い農業用トラックを買い替えた時には、費用の一部を負担しようというもので、農村部でテストして、順次、都市部にも導入する予定です。
 また中国政府は増値税制度の改革も実行しました。日本の消費税にあたる増値税は、従来、機械設備を買うとそのまま税金も帳簿に載っていましたが、製品の売上げから控除できるようになったのです。例えば、購入したショベルカーで工事をする建設業者は、それを工事代金から差しい引いて税金を納入すればよく、建設機械を中心に機械設備の売れ行きが順調になってきました。


予想を上回る中国の自動車市場の伸び

  中国の景気対策の概要は以上ですが、今後注目すべき点についてお話しましょう。その第一は上海万博です。2010年の5月~11月に予定されている上海万博への直接投資予定額は30億ドル。入場者数は4,300万人~7,000万人と予想されています。
 7,000万人という数字は、大阪万博の入場者数6,800万人を超えて、世界一になりたいという意欲の表れでしょう。そこでのキーワードは「タイムマシン」だと思われます。その意味するところは、大阪万博が開催された1970年前後の日本の高度成長の活気が、今の上海にはあるということです。2000年からの6年間の上海滞在中にも、それを実感しました。
 乗用車の販売台数も注目すべきです。アメリカの乗用車販売台数は2007年からかなり減り、今年は1,000万台を割り込むのではないかと見られています。反対に今まで2位であった中国は1,000万台を超える勢いを見せ、今年1月~4月の月別販売台数は中国が1位でした。また今年の上海モーターショーでは、ほとんどすべての欧米メーカーは出展していましたが、次回予定されている東京モーターショーには出展しないメーカーもあるとか。それほど世界の自動車産業は上海市場に注目しているのです。
 中国の自動車市場の伸びには、予想外に大きいものがあります。2006年頃には、2008年~09年には500万~600万台の販売が見込まれ、ドイツ、日本を抜く程度と考えられていました。ところが実際はそれを上回る勢いを見せています。
 2008年の乗用車ベストセラー・ランキングを見てみましょう。第1位はジェッタ(フォルクスワーゲン)、2位サンタナ(同前)、3位エクセル(GM)、4位アコード(ホンダ)、5位カローラ(トヨタ)、6位カムリ(トヨタ)と日本車が続き、7位奇瑞QQ(奇瑞)、8位F3(比亜迪)と中国メーカーが後を追い、9位シャレード(ダイハツ)、10位エラントラ(ヒュンダイ)となっています。
 メーカー名を見ておわかりでしょうが、各国の自動車メーカーが中国の自動車市場に参入し、まさにオリンピック状態の市場。「オリンピックの市場」を第2のキーワードとして挙げておきます。


中国の深い戦略

 今年1月、中国国務院は「自動車産業振興計画」で8つの目標を掲げました。それは(1)生産・販売目標は1,000万台、(2)自動車消費環境改善のため購入制限・使用制限などの規定取り消し、(3)市場構成の健全化、(4)企業の合併・再編の推進、(5)自主ブランドの発展、(6)電気自動車生産規模引上げ、(7)研究開発レベルの引上げ、(8)重要自動車部品の自主化です。(5)では、自主ブランドのシェアを40%以上に引上げ、自主ブランド車の輸出を国産自動車販売の10%にすること。(6)では、電気自動車の生産規模を年50万台にするという、非常に野心的な目標を掲げています。
 先ほど、中国の自動車市場は「オリンピックの市場」といいましたが、第一汽車はトヨタとフォルクスワーゲン、東風汽車はホンダ、日産、プジョー、シトロエン、上海汽車はフォルクスワーゲンとGM、北京はヒュンダイと組んでいます。ここでもうひとつ重要なキーワードは「以市場換技術」(市場をもって技術と交換する)です。ここに注目すると、中国の深い戦略が見えてきます。
 富山県が作成した「環日本海諸国図」(いわゆる逆さ地図)を眺めると、日本と韓国、中国は「一衣帯水」の関係にあることがわかります。そこでは、国益と互恵関係を考えなければなりません。中国は2012年までに、日本を追い越すような原子力発電所増設計画を持ち、そのほとんどが沿岸部を予定しています。中国の大気汚染物質が蔵王の樹氷で確認されていますから、一衣帯水の関係にある日本が、安全性や環境対策をサポートしていく必要があるように思われてなりません。


中国でのビジネス成功のために

 中国でのビジネス成功のキーワードをまとめると、
  • 中国はオリンピックの市場である。
  • 変化を予測し、十分な準備をする。
  • 国益を守り、互恵関係を発展させる。
  • タイムマシンの経営。
  • 自分自身が変わること、発想の転換。
  • 一衣帯水、技術立国、環境立国。
 が挙げられます。
 メディアは「未曾有の世界的な経済危機」とあおっていますが、実際に現場で商売をしていると、いつ世界経済が回復するかはわからないのが現状です。今後、中国やインドなど、中間所得層が大幅に増加している国の内需を取り込んで、経済危機を乗り越える原動力にすべきであると考えます。日系企業も、それぞれの国でビジネスチャンスを掘り起すことに真剣に取り組んでいく必要があり、逆風のときこそ変化を予測し、明日を予見し、新しい産業と新しい市場を作り上げていくことに、努力しなければならないということを提案したいと思います。

   

質疑応答のコーナーでは、ここで紹介したQ&Aの他にも多数の質問、意見が寄せられた。

【質疑応答】

Q 中国政府は、今年、来年と4兆元の投資をしていますが、2011年以降、景気が回復しないと経済成長を続けることができないのではないか。長期的に見てどうなのか。

A 「世界の工場」である中国の本当の経済の復活は、欧米の市場がよくならないと達成できるものではありません。欧米がよくなるのは、来年の夏ころでしょう。それまでは社会不安を起こさないためにも、中国はなりふり構わず対策を打っていると思われます。ただ、中国は1人っ子政策の影響で、急速に老齢人口が増えてきますから、従来通りの成長を続けるとは思えませんが、ここ5~10年はかなりの高成長が続くと期待しています。



Q 中国にはEMS(電子機器の受託生産)に堪え得る製造業は相当あるのでしょうか。

A フォックスコンなどEMSの大手メーカーは皆、上海、蘇州、昆山に進出しています。素材、組み立て、アフターサービスのうち、一番儲らない組み立てをしているわけで、例えば1号工場では東芝のパソコン、2号工場ではソニーのVAIOをつくるというメーカーがたくさんあります。金型も射出成型も自社でし、材料も自分で調達するが、クライアント指定の材料を買います。

【環日本海貿易・投資セミナーについて】
 環日本海経済交流センターでは、中国をはじめとする北東アジア地域に関する貿易・投資セミナーを開催しています。今回のTonio News では、平成21年度の第1回め(5/27開催)を紹介しました。参加者は64名。会場は富山国際会議場でした。講師の平石氏は滑川市出身ということもあり、来場者とは気軽に声をかけ合い、有意義なセミナーとなりました。
 アンケートをみると、セミナー参加の動機は「最近の中国経済についての情報収集」(60.7%)、「対中国ビジネスを行うための情報収集」(35.7%)と、事業との関連で参加されていることがうかがわれます。それは「今度は医薬品について動向を話してほしい」「ファッションや流通について知りたい」とフリーアンサーに熱心に書き込んでいただいている点からも想像できます。
 この貿易・投資セミナーは年6回開催しています(NEAR開催年は年2回)。本年度第3回めは、9月11日(金)に開催します。詳細は当センターのホームページをご覧ください。

○問合せ先
[(財)富山県新世紀産業機構 環日本海経済交流センター]
 所在地 富山市高田527 情報ビル2F  TEL 076-432-1321  FAX 076-432-1326
 当センターURL http://www.near21.jp/

作成日2009.08.21

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