ニュースページトップへ戻る TONIOトップへ戻る
立山マシン株式会社  

第9回 立山マシン株式会社
連携が生んだ新プラズマエッチング装置
ニッチな市場ながらも、先行することに

ラインの幅2μm、間隔5μm、高さ20μm。
 まずは右の写真をごらんいただきたい。ポリカーボネートに施された微細な加工。関連する業界の方なら、一目見てその加工法がわかるだろう。プラズマエッチング装置による微細加工だ。
 業界の方には「釈迦に説法」のようで恐縮であるが、詳しくない方も多いので、おおづかみにプラズマエッチングについて説明しよう。
 プラズマエッチングとは、半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems/微小電気機械システム=集積回路技術を発展させたマイクロマシニングという微細加工技術により、回路、センサ、アクチュエーターなどを一体化させたもの)の製造工程において、シリコンなどの高精度微細加工に広く用いられる技術。加工しない箇所にマスキングを施した基板を装置内の試料ステージに設置。反応性ガスを導入後に高周波等の電力を印加すると、イオンやラジカルを含んだプラズマが生成される。この時、ステージに生じる負の電圧によってプラズマ中のイオンが加速されて、基板に衝突。またラジカルは基板材料と結合して、蒸気圧の高い化合物となって蒸発する。このイオン衝撃とラジカル反応のバランスを最適化して、垂直方向への微細加工を可能にしたものがプラズマエッチング。極めて平たくいうと、プラズマ中のイオンとラジカルが基板の表面を垂直方向にのみ削っていくのだ。

小型機の1/2の大きさ、1/3の価格

卓上型の開発で中心的な役割を果たした人母さん。
 立山マシンがプラズマエッチング装置の開発に乗り出したのは平成13(2001)年のこと。当時、同社や富山県ではMEMSに関心を寄せ、同社開発部門のスタッフや富山県工業技術センターの職員が東北大学での研修を重ねた。またその一環として、国の支援を受けながら、プラズマエッチング装置の開発に乗り出した。
 ただ装置の開発といっても、半導体工場などに導入される装置は大がかりで、かつ高額なため、客先は限られてくる。また仮に大型の装置の開発に乗り出して成功したとしても、先発メーカーによる顧客の取り込みは既に終わっており、新規参入は極めて難しいことが予想された。
 そこで、中堅企業や大学の研究室への導入を想定し、一定の性能を保ちつつも、小型で安価なプラズマエッチング装置の開発に乗り出したわけだ。
 「当社が開発した小型エッチング装置・TEP-01は、性能的には他社の同クラスの装置と同レベルの加工ができ、かつ価格的には20%近くのコストダウンできました」
 同社技術本部のエンジニア・人母岳(ひとぼ・たけし)さんが当時を振り返るが、「何人もの研究者から、性能を落とさず、もっと小型で安価な装置ができないか」と打診されたそうだ。
 そこで、そうしたニーズを受けて開発に取り組んだのが、今回の「卓上型プラズマエッチング装置の開発」。かつて東北大学で研修した時の縁を生かし、後に東北大学から新潟大学に転任した安部隆教授や富山県工業技術センターとチームを組み、さらには当機構の新商品・新事業創出公募事業(平成22年度)の支援を受けて、小型化とコストダウンに取り組んだ。
 エッチングの性能を落とさずに、さらなる小型化・コストダウンを図るというのだから、開発にあたってのハードルは、高かったようだ。TEP-01の装置本体部の大きさは550W×600D×1150H。さらなる小型化では、開発テーマにあるように“卓上サイズ”を目指し(小型機の1/2)、また装置の価格も1/3程度にすることを目標にした。

平成13年に開発したプラズマエッチング装置、TEP-01とアクリル、石英の加工例。


でも性能はダウンさせない

部品一つひとつのダウンサイジングを図って小型化した卓上型プラズマ微細加工装置。
 これは簡単にできるものではない。高周波電源の容量を1/3にし、自動マッチング方式から手動マッチング方式に変えた。またポンプの排気量もおよそ1/6に。エッチング加工に多少手間ひまがかかっても、加工の性能を落とさない範囲で、構成部品の一つひとつについてダウンサイジングを図ったわけだ。
 「卓上型の開発にあたっては、ある意味、先に大きさありき、値段ありきという状況でした。大学などの研究費の予算をうかがうと、多くの研究室では非常に苦労をされていて、先生方の要望になんとか応えたいと思ったのです」
 人母さんらエンジニアにとっては腕の見せ所であった。ただ、いかに小型化、コストダウンができたとしても、性能もダウンしたのでは用をなさなくなってしまう。
共同研究に加わった富山県工業技術センターの鍋澤浩文さん。装置の性能評価などに携わった。
 「卓上型のプラズマエッチング装置は、他からも出始めてはいました。ただそれらは、価格や大きさを押さえた分、性能まで犠牲にしているところがありました。それではエッチング装置とは名ばかりです。私たちは性能を落とさないことを共通の認識として、開発を進めてきました」
 これは共同開発のメンバーである、富山県工業技術センターの鍋澤浩文さんの言葉であるが、同センターや安部教授はプロセスの最適化や装置の性能の検証などで立山マシンをサポートしてきたのであった。


卓上型が学会で表彰された

平成23年9月に行われた電気学会で、同社の卓上型機は最優秀技術展示賞を受賞した。
 卓上型の開発には、経営の健全化に資するという目的もある。その点から考えると、シリコン微細加工を中心とした半導体向けのプラズマエッチング装置の市場はすでに成熟しているため、別なマーケットを想定する必要があった。そこで圧電材料やプラスチック材料の微細加工に特化したエッチング装置についてみてみると、MEMS業界からは水晶をはじめとした圧電材料(ニオブ酸リチウム、PZTなど)やプラスチック基板への微細加工の要望が強く出されていたにもかかわらず、十分な装置が供給されていないことがわかった。
 それを踏まえ、卓上型の開発にあたっては、圧電材料、特に水晶をターゲットとすることに。そして一日も早い装置の開発を目指し、なるべく早く商品化して市場に投入することにした。
 平成23年3月、装置は一応の完成をみた。性能はほとんど落とさず、大きさはほぼ半分にした(550W×540D×570H)。コストダウンについては、今一歩というところまで近づき、さらなる部品・部材のシェイプアップが求められているところだ。
 この卓上型プラズマエッチング装置を平成23年9月の電気学会で展示したところ、「最優秀技術展示賞」を受賞。24年春からの販売に向けて背中を押されるような形になった。
 「おかげさまで学会でも注目され、導入を検討していただいている研究室がいくつもあります。もう少しコストダウンできれば、年間10台くらいの販売は可能ではないかとみているのですが…」(人母さん)
 実際の販売では営業マンが全国を飛び回ることになるのだろうが、エンジニアといえども売れ行きには関心のあるところだ。
 前述のように、すでにいくつものメーカーが「卓上型」を出している。ただエッチングの参考例を見ると、MEMS製造に要求される高精度の「微細加工」には遠く、市場での立山マシンの卓上型プラズマ微細加工装置の健闘が十分に予想されるところだ。

 新商品・新事業創出公募事業
 http://www.tonio.or.jp/gijutsu/sinsyouhin.html

[立山マシン株式会社] 
  ○所在地 本社 富山県富山市下番30 TEL 076-483-4123 FAX 076-483-4150
   URL http://www.tateyama.jp

作成日2012.03.30
Copyright 2005-2013 Toyama New Industry Organization All Rights Reserved.