第6回 株式会社ETSジャパン |
|
フッ素対策の小さな連携が
モノづくり連携大賞を受賞するまでに |
|
平成15年のことだ。土壌汚染対策法が施行された。これにより、今回のキーワードである「フッ素」の地下水への溶出基準が0.8ppm/リットル以下に定められ、フッ素を扱っている工場をはじめ、産業廃棄物処理会社、土木工事会社なども、にわかに関心を持ち始めた。土壌改良固化材メーカーのETSジャパン(平成20年12月よりこの社名。旧社名は(株)アグロジャパン北陸)もその一社だった。
廃石膏を粉砕・加熱処理して、水を加えて練ると硬化する。この特性を利用して、廃石膏は土壌改良固化材としてリサイクルされており、建設汚泥や地盤のゆるい箇所に利用されてきた。
ただその際、石膏に含まれるフッ素化合物が、地下水に溶出する可能性がある。フッ素は、歯の表面に塗布して虫歯予防のために活用することがある半面、過剰な摂取を長期間続けると歯に斑点が現れる斑状歯になる、あるいは骨の硬化や成長異常になる可能性があるところから、前出の溶出基準が定められるようになったわけだ。
そこで土壌改良固化材をつくってきたETSジャパンでは、「フッ素対策に詳しい専門家を紹介してもらえないか」と県の環境政策課を訪問(平成17年8月)。その時、翌月に開催される「産業廃棄物排出事業者等に対する技術相談・アドバイザー事業の事業者ヒアリング」(県の委託を受けてNPO法人エコテクノロジー研究会が実施)を紹介され、その会場でアドバイザーとして出席していた富山高等専門学校(富山工業高等専門学校と富山商船高等専門学校が統合して平成21年10月よりこの校名)の袋布昌幹(たふ・まさもと)准教授(統合前は富山工業高等専門学校所属)と出会ったのであった。
|
|
|
大企業が注目した当機構の支援事業 |
袋布准教授はかつて、人工骨の研究をしていた。その関係で、フッ素がリン酸カルシウムと反応してフッ素アパタイトという極めて安定性の高い物質に変わることに着目。先にも紹介したように、虫歯予防にフッ素を塗布すると、歯の表面にフッ素アパタイトができて歯を保護するのはこの原理であるが、これを応用すれば、廃石膏に含まれるフッ素化合物をフッ素アパタイトに固定化して、水に溶出しないようにできるのではないかと考えたわけだ。
原理的にはそういうことである。研究室での実験でも、廃石膏にリン酸カルシウムの試薬を添加すると、石膏中のフッ素化合物はフッ素アパタイトになって、水に溶けないのが確認された。
「そこで私どもは袋布先生に、これを土壌でやって、土壌中のフッ素化合物の固定化、すなわち無害化を試してみましょうと提案しました。ただ試薬を使っての実験であるため、非常にコストがかかることが予想されます。そのため実験のテーマには土壌汚染対策法の基準値0.8ppm以下をクリアすることはもちろんのこと、内々には実用化を前提にコストダウンの方策を探ることも目標に加えました」
同社でこの実験に加わった小森剛さん(取締役環境開発部長)が振り返る。氏の言葉のように、試薬を用いて土壌中のフッ素化合物の固定化を試みると、1立米当たり数万円以上、場合によっては数十万円かかることが想定された。実験全体では、相当の費用がかさむことが予想され、同社としても若干、躊躇するところがあった。そこで袋布准教授の勧めで、当機構の新商品・新事業創出公募事業(平成18年度)に応募することにし、その採択を受けて実地試験に臨んだのである。
実地試験に入ると、フッ素化合物の固定化・無害化に関心のある企業が色めきたった。石膏ボードそのもののリサイクルに関心のある企業、水中のフッ素化合物の無害化に関心のある水処理会社、そして土壌中のフッ素化合物の処理に関心のある土木会社。いずれもその業界では日本を代表するような大企業だ。彼らはETSジャパンと袋布准教授の共同研究を見守るばかりでなく、氏を中心に各々の分野での研究のための連携も取り始めた。後にこの連携は、平成20年の「第3回モノづくり連携大賞」(日刊工業新聞社主催、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、中小企業基盤整備機構共催)の特別賞を受賞することになるが、試験開始当初に、この研究がそこまで発展すると予想した者はいなかった…というのが本当のところらしい。
「実際の土壌で試して、法律上の基準値の0.8ppm以下をクリアしました。新世紀産業機構に支援いただいた、フッ素汚染土壌の無害化技術の確立については成功したのです。ただ我々が、内に秘めたる課題として掲げていた、実用化を前提とした安い薬剤の開発については、その目星もつきませんでした」(小森部長)
|
|
|
同社の土壌改良の施工例。土壌改良材の「テクノソイルCM」と工法のスタビライザー工法(写真中)、リテラ工法(写真右) |
|
|