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第18回富山大学芸術文化学部木質構造研究室  

第18回富山大学芸術文化学部木質構造研究室
安全で安心して長く住める木造住宅を解明
センターでは、地域のキャンパス化を図りたい
富山大学地域づくり・文化支援センター

10月1日、県内の3つの国立大学(富山大、富山医薬大、高岡短大)が統合し、新しい富山大学が誕生した。地域との交流促進を図ってそれぞれの大学で以前からオープンキャンパス等を実施してきたが、統合を期にその所管部局もひとつになり、「地域づくり・文化支援センター」が開設された。初代のセンター長には芸術文化学部の秦正 教授が就任。教授が専門の木質構造の研究と合わせて、新しく産声を上げた地域づくり・文化支援センターの運営の抱負をうかがった。
  「われわれの研究分野は、以前は研究者の数が少なく、学会を開いても20~30件の研究発表がある程度でした。ところが '95年以降は急に増えて、今年の学会では270件あまり。発表件数は10倍に増えていますが、共同研究のケースが多いですから研究者の数は数十倍、ひょっとしたら100倍近いかもしれません」
  秦教授がそう語る研究は、木造構造物の強度や構造設計などの分野。研究者が急に増え始めたきっかけは、'95年1月17日の早朝に発生した阪神・淡路大震災である。地震が多いわが国にあっては、研究者や研究体制がもっと充実していたら…、と思うのは後知恵にすぎないが、今後の備えのために研究が盛んになることは歓迎すべきことであろう。


富山は木造構造物の強度研究が盛ん

秦教授の研究生活のスタートは京都で、広島県立工芸試験場を経て’87年に高岡短大の教員として着任。構造設計や材料力学などの講義を担当してきた。木造構造物の強度研究といっても、家具に力点を置く場合と住宅をメインする場合に別れるが、教授の主な関心は住宅の方で、富山県林業技術センターなどの協力を得ながら研究を進めてきた。
  「全国的に見て、木造家屋の強度や構造設計の研究が盛んなのは、富山の他には北海道、秋田、宮崎など。富山の場合は積雪に対応した家づくりという観点とシベリア産の木材が大量に入ってきますから、その性質や安全性の確認のために研究が盛んになったのでしょう」と本県の木造家屋研究の背景を語る。
  秦教授は、さっそく県内の住宅の調査を始めた。統計では富山の家は広いといわれるが、それはあくまでも平均値のこと。郡部の、大工さんが建てた昔ながらの家は確かに広い。しかし新興住宅地の規格化住宅や市街地の町家などは、全国と比較してもあまり変わるものではない。特に耐震性の面では、不安な要素を抱える住宅も多いという。
「狭小間口の町家では、桁行き方向の耐震性を確保するのがとても難しい。阪神・淡路大震災では、この形状の家が最も倒壊しましたので、木造家屋のラーメン構造(※)の設計開発が待たれるのではないか」と秦教授は指摘し、「郡部にある、大工さんが建てた家は伝統工芸のようなもので、棟梁の智恵や技術が残っている」と続けられた。


骨太の家を工学的に解明したい

1/3モデルのはしご型梁を使った実験。荷重約80KN(約8t)で接合部近辺にズレが生じた様子であるが、目視では確認できなかった。荷重をさらに増やすと、接合部付近の節の周辺から亀裂が走った。
ところが大工の棟梁の技術は、経験則では丈夫な家といえても、工学的な構造評価が進んでいない部分が多いため建築基準法の安全性を満たしているとはいいがたい。その結果、規格化された木造住宅には昔ながらの大工さんの技術が活かせないという問題があるのである。秦教授らの研究は、棟梁の技術を工学的に解明し、強度等を数値で表わして現代の木造建築物に取り入れていこうというものである。
  教授に、林業技術センターでの最近の実験を紹介していただいた(写真参照)。はしご型梁の3分の1モデルを用いたこの実験では、雪など上からの荷重の際、中央部分のたわみ、接合部分の回転や引抜け、支持点のめり込み、軸のひずみなどが、どのように発生・変化するかを調べ、合わせて各所の荷重も測定している。
  積雪が1.5mある場合の1平方メートルあたりにかかる荷重は約450kg。大雪の時は、家1軒で数十t、大きな家では100tを越える雪を支えているため、こうした構造評価は大変重要なものとなっている。
  「昔ながらの大工さんが建てた家、これを私は”骨太の家”といい、工学的な解明が進んでいないとはいえ、経験則ではしっかりした家といえます。ただ、すべての人がこういう家に住むわけではありません。大手のハウスメーカーや地域ビルダーの建てた家も工学的な安全性を満たしておれば、安心できる家です。でも骨太の家は丈夫で長持ちしますし、木材利用の循環ができて里山が生き返りますから、工学的な解明を進めて皆さんに勧められるようにしたい」と秦教授は強調する。



地域づくり・文化支援センター発足 地域とのネットワークを広げたい

家の柱のミニチュアモデルの上にCDのケースを置いて揺すると、地震の再現になる。斜めに柱が通されている面や壁がある面では揺れが小さい。「最近は実物大の家をつくって揺すりますが、最初はこうした簡単なモデルから始める」という。
冒頭に、3大学の統合を機に、従来の大学開放センターの役割をさらに進めていくために「地域づくり・文化支援センター」が開設されたことを述べた。事務局は高岡キャンパス(旧高岡短大)に置かれるが、この組織は全学横断的なもの。初代センター長に就任した秦教授に、センター運営の抱負をうかがうと、「地域のキャンパス化を図りたい」と答が返ってきた。
  氏が述べるところを要約すると、以下のような構想を持っておられるようだ。
  専門的な知識や技術・技能を持った人は、地域社会の中にはたくさんいる。そういう専門家と大学が連携して、共同研究や公開講座、大学教員や学生との交流など、教育研究を大学の中にだけとどめておくのではなく、市井の専門家の指導を仰ぐ機会があってもいいのではないか。経験に根ざした専門的な技術や技能を持っている人びとに刺激を受けて、大学の教育研究も進み、あるいは幅を広げることができる。これからの大学は、地域にいかに密着し、地元の人びとにどう愛着をもってみられるかが課題になる。地域の人びとと連携することによって、授業のあり方も充実したものになるのではないか、というのである。
  「例えば公開講座という言葉にするとそれに限定されますが、大学と地域のネットワークを広げるという意味でご理解いただけたらと思います。そのひとつに公開講座や共同研究があるわけで、接点はいろいろ広げていきます」と抱負を語られた。そして「例えば小中学生のうちに、高度な技術が用いられている伝統工芸を、身近に見たり触れたりすることができる機会をつくることはどうでしょうか。400年かけて培われた高岡の銅器や漆器の技術を、教育資源として活かさない手はないと思います」と試案を示された。
  「地域づくり・文化支援センター」の具体的な活動はこれからであるが、地域に愛される富山大学の牽引役となることを期待したい。

[地域づくり・文化支援センター概要] 
○スタッフ…秦正 センター長ほか9名
○センターの業務内容
地域との連携の中から、芸術文化の振興、まちの賑わいを醸成する仕掛けづくり、
伝統工芸の継承・発展等を目指す
○沿革′05年10月1日3大学の統合を機に発足

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