秦教授の研究生活のスタートは京都で、広島県立工芸試験場を経て’87年に高岡短大の教員として着任。構造設計や材料力学などの講義を担当してきた。木造構造物の強度研究といっても、家具に力点を置く場合と住宅をメインする場合に別れるが、教授の主な関心は住宅の方で、富山県林業技術センターなどの協力を得ながら研究を進めてきた。
「全国的に見て、木造家屋の強度や構造設計の研究が盛んなのは、富山の他には北海道、秋田、宮崎など。富山の場合は積雪に対応した家づくりという観点とシベリア産の木材が大量に入ってきますから、その性質や安全性の確認のために研究が盛んになったのでしょう」と本県の木造家屋研究の背景を語る。
秦教授は、さっそく県内の住宅の調査を始めた。統計では富山の家は広いといわれるが、それはあくまでも平均値のこと。郡部の、大工さんが建てた昔ながらの家は確かに広い。しかし新興住宅地の規格化住宅や市街地の町家などは、全国と比較してもあまり変わるものではない。特に耐震性の面では、不安な要素を抱える住宅も多いという。
「狭小間口の町家では、桁行き方向の耐震性を確保するのがとても難しい。阪神・淡路大震災では、この形状の家が最も倒壊しましたので、木造家屋のラーメン構造(※)の設計開発が待たれるのではないか」と秦教授は指摘し、「郡部にある、大工さんが建てた家は伝統工芸のようなもので、棟梁の智恵や技術が残っている」と続けられた。
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