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第43回 泰平アルミ有限会社

口コミ、ホームページが相乗効果を発揮
売り上げアップが期待されて…

25年4月に新装オープンになった歌舞伎座。垂木や高欄の手摺などに泰平アルミのアルミの曲げ技術が使われている。

 昨年の4月、装いも新たにオープンした歌舞伎座。新聞やテレビなどで数多く報道され、新歌舞伎座誕生のニュースは日本中を駆け巡った。その華やかな報道合戦をご記憶の方も多いだろう。こけら落としの公演前には、歌舞伎役者が勢ぞろい。舞台の、隅から隅まで、ず、ず、ずいと並んでファンに挨拶した光景は、テレビを通したものでも圧巻だった。
 この新しい歌舞伎座。前年の東京駅駅舎の復元工事と並んで、富山ならではの技術が生かされいるのをご存じだろうか。駅舎の方は大手企業によるものだったが、今回は従業員5名の、キラリと光る技術をもつ泰平アルミ。当TONIO Newsの、「中小企業ルネサンス」や「オーダーメイドの支援事例」ではなく、「元気印のTOYAMAのお店」で取り上げるのには、わけがある。それは、今どきの売り方、すなわちホームページを活用して実績を出し始めているからだ。
 では歌舞伎座のどこに、富山ならではの技術が生かされているのか。
 答えは、軒先の垂木や唐破風の茨垂木、高欄の手摺などなど。かつては「宮大工」と呼ばれた寺社専門の職人が材木を削って優美な曲線を描いたが、同社ではそれをアルミ建材で表現。あるお寺からの相談が縁で商品化を試み、初めのうちは「鳴かず飛ばず」の日々もあったものの、今では日本全国、隅から隅…のお寺や神社が注目するようになった次第だ。

大手ゼネコンから受注

大手ゼネコンから受注した紀三井寺。高所のため足場を組むのも大変
だったという。

 もともと福澤健一社長は、N系の自動車会社でメカニックをしていたが、友人とともにアルミ建材の曲げ加工を本業とする会社を興し、さらには1989(平成元)年にそこから独立。建材メーカーとしては後発組だが、いわゆる機械いじりが好きで手先も器用なため、前の会社以上に曲げ加工を得意とする会社として知られるように。同業者ならびにゼネコンなどからも一目おかれる企業になりつつあった。
 独立から9年が経過した、1998(平成10)年のことだ。関西のある設計事務所から、「寺院の軒先の垂木、通常は木が使われ、少しカーブを描いたように削り出されているが、あれをアルミでつくれないか」と打診があった。どうやら施主は、阪神淡路大震災で損害を受けたお寺の住職で、再建にあたって、垂木をアルミにすると屋根の負担を軽くすることができると判断されたようだ。
 アルミの曲げ加工を得意としてきた同社にとっては、近代的なビル用も伝統的な寺社向けも基本的にはあまり変わらない。課題があるとすれば、寺社独特の建築様式からくる形状で、細部にわたってそれをどう把握し、設計図に起こして製造ラインに乗せるかであった。
 ただそこにひとつの幸運が…。設計事務所からのリクエストを従業員に明かすと、「自分は宮大工をしていた経験がある。設計・製造はたぶん大丈夫だ」と声を上げる者があり、彼の指導の下で垂木の設計や製造に取り組むことができたのだ。

紀三井寺も歌舞伎座もコンクリート製の垂木に決まっていたのを、
果敢な営業でアルミ製へと換えた福澤健一社長。

 「最初のお問い合わせから開発まで、半年ほどかかりました。お寺の再建はそれからで、めでたく竣工したのは平成10年10月のことです。その後、同じ設計事務所から1~2年おきに2つのお寺の件でお声をかけていただき、これはひょっとしたらビジネスとして確立させることができるのではないか、と期待するようになりました」(福澤社長)
 同社ではこの過程で培ったノウハウをもとに、アルミ製耐震軒先枠組立工法で特許を取得。寺社関係の建築物で実績を掲げている設計事務所や建設会社などにDMを送り、泰平アルミの独自技術をPRするようになった。
 ただ、DMから受注に結びつく例はほとんどなかった。目の前に寺社建設の物件が控えておれば、検討の余地もあるのだろうが、案件のないところにDMを送っても、引き合いがないのは当然といえば当然だった。
 そうした時だ。最初にアルミ製の垂木を打診してきた設計事務所から耳寄りな情報が…。大手ゼネコンが、和歌山市の名刹・紀三井寺の仏殿建立計画に携わっているという。福澤社長はさっそく、そのゼネコンの大阪支社へ。紀三井寺の設計担当者にアプローチして、「軽くて丈夫、そして意匠性がいい」とアルミ製の垂木を紹介し、サンプルも手渡した。その結果、垂木については泰平アルミの枠組立工法に変更になったのだ。

専務の福澤泰樹氏は実践塾に通い、同社のホームページの充実を
図っている。

 専務の福澤泰樹さんが語る。
 「これは後からわかったのですが、当社がアプローチした時点では設計は相当進み、垂木はコンクリート製で決まり、図面も描かれていたそうです。しかし設計担当者は、軽くて丈夫で美しさが保てることをお寺サイドに伝えて相談すると、ご住職はアルミの垂木がいいと判断されたようです。一部の図面は描き直しになり、設計担当者はたいへんだったようですが、われわれとしては、業界大手の方々に認められて自信になりました」
 この工事(2002(平成14)年4月竣工)をきっかけに、同社では再びDMに力を入れるように。地道にPRを続けるしかないと割り切ったのだ。
 これが功を奏したのか、翌年には栃木県で2件続けて受注。全国への口火を切る形になり、「自信が確信に変わっていくきっかけ」(福澤社長)になった。

実践塾の成果を生かすと問い合わせが…

 同社が、ホームページに関心を持ったのは、2004(平成16)年に入ってからだ。すでに多くの企業がホームページを作成し、受注増の成功事例も数多く報告されていた。同社でも、いきなり多くの受注に結びつくとまで思ってはいなかったものの、年に1~2件の受注に結びつけば…と淡い期待は持っていたのである。
 「パソコンを買い替えたのを機に、ホームページ作成のマニュアル本などを参考にしながら、簡単なものを自分でつくりアップしました。反応は…、残念ながらまったくありませんでした」(福澤専務)
 問い合わせや資料請求などもなく、淡い期待もどこへやら。そのうちホームページからの受注も、半ば諦めそうになってしまった。
 そうした時、当機構からのDMが…。中には2006(平成18)年度の支援事業や講演会の案内パンフ、セミナー紹介のチラシ等々。「今までも何度か案内をいただいている…」(専務)と思いながらパンフやチラシを見ていくと「ネットビジネス実践塾」のタイトルに目が止まり、告知文を追いかけていくと「商品を売るためのコンテンツづくりを、受講生の会社を例に実践的に取り組んでもらう」と記されていた。それをみた福澤専務、「これを機会にまったく反応のない自社のホームページを作り替えたらいいのでは…」と思い、さっそく申し込んだのだ。
 実践塾は6月に開講され、月1回(1回あたり5~6時間)のペースで半年間実施。受講生は自社の商品を前にして、お客は何を基準に商品を選ぶかを徹底して掘り下げ、そこからホームページのコンテンツを考える手法が取り入れられた。また、受講者の業種に合わせての個別指導も実施された。
 「ホームページのつくり方といっても、技術的な指導ではなく、その中身をどうしたらいいかというものでした。講師は『お客様から選ばれる理由を表現しなさい』と徹底していわれましたが、そのことの意味がわかってきたのは、アップしてしばらくしてからでした」
 福澤専務がいうように、アップして数カ月すると効果が現われ始めたのだ。「ホームページを見たのだが詳しい資料が欲しい」という電話がチラホラ入るようになり、施工例を逐次増やしていくと、問い合わせは月5~6件に増えてきた。おまけにその問い合わせの中から成約に至る例も出始め、平成20年頃からは年2~3件、ホームページをご縁に受注するようになったのだ。

大谷美術館賞を受賞

歌舞伎座の垂木は優美なデザインが評価されて大谷美術館賞を
受賞。授賞式には社長が臨んだ。

 口コミでも同社のアルミ製の垂木が知られるようになった。先のゼネコンの他の支社、また他のゼネコンや設計事務所からも依頼されるようになり、寺社からの直接の問い合わせも増えてきた。
 冒頭に紹介した歌舞伎座の案件が浮上したのはそんな時だ。さっそく福澤社長は営業に歩き、建設を受注したのが紀三井寺を建てたゼネコンとわかると、その東京本社にアプローチ。偶然にも、あの時の担当者が東京に異動になり、歌舞伎座を担当していたのだが、福澤社長が訪ねた時点で設計は相当進んでおり、コンクリート製の垂木が使われることに決まっていたという。
 「でも私は可能性はゼロではないだろうと思い、担当者に資料やサンプルを改めてお渡ししてきました」
 “二匹目のドジョウ”を期待していた福澤社長であるが、前の歌舞伎座もコンクリート製の垂木であったため、そのまま踏襲されるのではないかと思われた次第。ところが実施設計に入っていくと、コンクリートでは難しい点があったらしく、いったん白紙に戻って、改めてアルミ製の垂木に決まったそうだ。
 歌舞伎座の実施設計は2011(平成23)年に始まり、それに合わせて泰平アルミでも垂木1本ずつの設計を起こしていった。寸法精度や意匠性に対する要求は従来にも増して高いものが要求され、その一つひとつに答えて5代目の歌舞伎座ができ上がったわけだ。
 その施工例写真を、竣工の半月ほど前、すなわち2013(平成25)年3月の半ば頃にホームページにアップすると問い合わせの件数は一気に増え、受注も倍増の勢いを示したのだ。
 新聞や雑誌の記事、あるいはホームページ上のリポートなどに、基本設計を担当された隈研吾氏がコメントを寄せ、例えば「屋根には垂木という部材があって、屋根には反りがあるので、垂木はどれひとつとして同じ形がない。昔は木を削っていたけど、今は耐久性の問題から木は使えない。そこでアルミを曲げてつくることにしました。ひとつひとつ微妙な反りを手で曲げるには、ものすごい職人技が必要で、それは富山の職人に頼りました」(PRESIDENT Online プロフェッショナルに学ぶ)などと語ったものだから、社名は出ていなくても、ネット上で検索して、泰平アルミのホームページにたどり着いているようだ。
 こうして多くのメディアで取り上げられると、引き合いや問い合わせも増えるように。同社ではこれを、成約に結びつけるようフォローの営業に努めている次第。売り上げ増が期待されているところだ。
 ちなみに「第5期歌舞伎座 屋根の垂木」は、平成25年度の大谷美術館賞を受賞することになり、福澤健一社長は、建物所有者、設計会社、施工会社などとともに表彰されたのであった。

泰平アルミ有限会社
射水市赤井166-1
TEL0766-52-5125 FAX0766-52-5355
事業内容/ビル用アルミ建材の製造販売、寺社向けアルミ建材の製造販売
従業員/5名(パート等含)
URL  http://www.taihei-al.com/

作成日  2014/3/14

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